ジャン=ミッシェル・フォロンの大回顧展をレポート 詩情あふれる作品に込められた社会への静かな抗議
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すべて見る淡く、幻想的な水彩画やポスター、彫刻で人々を魅了し続けたベルギーを代表するアーティスト、ジャン=ミッシェル・フォロン。生誕90年を迎える本年、彼の回顧展が東京ステーションギャラリーで9月23日(月)まで開催されている。
ジャン=ミッシェル・フォロン(1934〜2005)は、ベルギーのブリュッセル生まれ。色彩豊かで繊細、詩情にあふれつつ、ときには鋭く社会を批評するメッセージ性の高い作品で知られている。
同展は、日本では30年ぶりとなるフォロンの回顧展。展覧会のタイトル「空想旅行案内人」は、フォロンの名刺に刻まれていた「FOLON : AGENCE DE VOYAGES IMAGINARES(フォロン:空想旅行エージェンシー)」というフレーズに由来したものだ。
展覧会のプロローグは、フォロンの初期のドローイングなどを展示する。壁に映し出されている映像はかつてフランスの公共放送「Anntenne2」で放送終了時に放映されていたもの。フォロンの幻想的な世界は、フランスでは日常生活の一部に組み込まれていたことがわかる。
展覧会は3章で構成される。第1章「あっち・こっち・どっち?」はフォロンが描き続けていた様々な「矢印」に焦点を当てる。フォロンはドローイングや彫刻、写真などさまざまな形で矢印をモチーフにした作品を制作した。
なお、同展では、随所に小さな帽子を被った男「リトル・ハット・マン」が登場する。
フォロンはドローイングや彫刻などメディアを問わず、ときには巨大に、ときには小さく、ときには複数、作品内にリトル・ハット・マンを登場させた。彼はフォロンの分身であり、また鑑賞者自身に重ねることもできる、なんにでもなれる開かれた存在だ。
第2章「なにが聴こえる?」では、戦争や暴力、自然破壊や気候変動、人権問題など避けて通ることができないシビアな現実を題材にした作品を取り上げる。フォロンはその社会問題が遠方のできごとであったとしても、自分たちと直結している問題であると作品を通して訴え続けた。
そのなかでもフォロンは環境や社会問題に特に強い関心を抱き、水彩やカラーインクで人々の心に強い印象を与える作品を制作し続けた。また、戦争についても皮肉やちゃかしを交えることなく、優しさや未来への展望も交えてその不毛さを訴えつづけている。
第3章「なにを話そう?」では、フォロンが生涯にわたって製作し続けた雑誌の表紙や、ポスター、600種類以上のポスターやその原画を紹介する。アップル社やオリベッティ社など、国際的な企業のための仕事やLIFEなど有名な雑誌の表紙を飾り、世界的に人気のあったフォロンは、著名な企業だけではなく、「みんな話題にするけれど、だれも読まない」人権宣言の挿絵なども引き受けている点が興味深い。
そして、エピローグ「つぎはどこへ行こう?」は、フォロンの晩年の作品や、家族や友人たちへ送った手紙類を紹介する。フォロンは見渡す限り地平線や水平線が広がる世界を好み、住まいも郊外に定めていた。そして、水平線や地平線が広がる理想の世界を描き続けた。
淡く、繊細な作品でありながらも、力強いメッセージを私たちに送り続けるフォロン。彼は現実世界をつぶさに観察し、空想世界を作り上げた。この展覧会で、その空想世界をゆっくりと旅してみよう。
取材・文・撮影:浦島茂世
<開催情報>
『空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン』
2024年7月13日(土)~9月23日(月)、東京ステーションギャラリーにて開催
公式サイト:
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202407_folon.html
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