Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 『大地に耳をすます 気配と手ざわり』レポート 自然の声を聴き作品を制作する5名のアーティストたち

『大地に耳をすます 気配と手ざわり』レポート 自然の声を聴き作品を制作する5名のアーティストたち

アート

ニュース

ぴあ

ミロコマチコ 展示風景

続きを読む

フォトギャラリー(8件)

すべて見る

自然と深く関わりながら制作を続けるアーティストを紹介する『大地に耳をすます 気配と手ざわり』が、10月9日(水)まで東京都美術館で開催中だ。東日本大震災やコロナ禍などを経て、都市の脆弱性を感じる昨今。自然に分け入って生活しながら自然の動きを感じ取り、作品を制作する榎本裕一、川村喜一、倉科光子、ふるさかはるか、ミロコマチコの5人に焦点を当てる。

東京で生まれ育った川村喜一は2017年に北海道・知床に移住。アイヌ犬を家族に迎え、狩猟免許を取得し、生活者の視点で写真や立体作品などを制作している。「都会の暮らしでは素材の成り立ちさえわからず、動物や自然のことを深く知りたいと思い、移住しました。今は狩猟を通して生態系の中で生きる一員として、肌身で風土を感じながら表現していきたいと考えています」。狩猟採集の精神性や行為を写真表現と結び付け、制作のシステムも創造しながら展示している。知床での日常を撮影した写真を布に転写し、自ら搬入し、壁を立てずにアウトドア用のロープで吊るなど、創作活動が生きる連続性の中にある。

川村喜一 展示風景
川村喜一《2018.1121.1043》2018年 写真 作家蔵

大阪府生まれのふるさかはるかは、木を扱う木版画を自然と関わる手段と捉えている。今回は北欧の先住民サーミの人々と出会い、トナカイとの暮らしを取材したものなど、3つのシリーズを展示。トナカイの毛皮や骨などから衣服や道具をつくるなど、極寒の冬からも身を守ってきたサーミの人々。「自然からもらった素材を通して、その自然に答えるようにどう手を動かし思考してものをつくるか、危機に見舞われた時に自然をどう味方にして自分を守るかなど、自然の中で鍛えられた感性と行動力に学んだ」という。さらに「彼らが自然とともにつくるように、日本で自然とともに生きる人びとを取材して木版画をつくりたい」と思い、青森県を取材。自ら伐採に参加し、土を採集し、藍から絵具をつくり、無垢の木の形や木目を活かして版画をつくる。漆かき、鍛冶屋など山の命に直接関わる人々を取材した。土のひび割れ、藍が沈殿していく様子など会期中変化が見られる展示もある。

ふるさかはるか 展示風景
ふるさかはるか《織り》(部分)2014年 木版 土、紙 作家蔵

ミロコマチコは、2019年「生きることに軸を置きたい」と奄美大島に移住。今回は、展示室に合わせ、奄美大島をイメージしたインスタレーション《島》をつくりあげた。「島の人々は圧倒的な自然に合わせて生きていかなければならないので、自然を感じ取る能力が強い。私もそうした力を身につけたいと思い、生き物のようにうごめく様子を日々眺めています」。

神聖な森の中には無闇に入ってはいけないが、入り口にちょっとだけお邪魔させていただいて描いたという映像も上映されている。「すべてのことは影響し合っていて、風が吹けば波が立ってそのしぶきが打ち寄せる。そんなつながりを意識しながら即興的に制作し、私が島で見ているような世界が表現できました」。なお、車輪梅(シャリンバイ)=奄美の方言でテーチ木を煮出した液で布を染め、さらに泥田で潜らせた泥染を用いるなど、島の自然素材を制作にも取り入れている。

ミロコマチコ 展示風景
ミロコマチコ《木の記憶》2021年 アクリル、テーチ木染め、木製パネル 作家蔵 Photo: Yuichiro Tamura

倉科光子は青森県生まれ、東京在住。東日本大大震災の被災地(岩手県、福島県、宮城県)に足を運び、浜辺や津波の浸水域に生えた植物を描き続けている。「津波によって内陸から運ばれた植物が浜で根を下ろしたり、何十年も地中にあったタネが芽吹いたり、植物の時間のスケールを感じます」と倉科。いずれも作品名にはその場所の経度と緯度が記されている。さら地になった住宅街で白い藤の花が巻きつくものを探して横に根を張り続けて花を咲かせた珍しい状態を見つけ、白を生み出していく感覚で描いた作品も見どころだ。

倉科光子《39°42'03"N 141°58'15"E》2015-21年 透明水彩、水彩紙 作家蔵 

榎本裕一は東京生まれ、2018年から北海道・根室市にもアトリエを構え、今年から新潟県糸魚川市と3拠点を行き来しながら活動している。今回は、根室での冬の風景をモチーフにした作品を展示。《沼と木立》は、遠くから見ると抽象画のように見えるが、近づいて目を凝らすと木立が見えてくる。「誰もいない誰も来ない深い森の中で突然現れた風景に驚き、喜びと、恐怖も感じたことを覚えています」。《結氷》シリーズは、湖面に薄く降り積もり、風で散った白い雪を捉えている。5センチほどの厚さのアルミニウムパネルを氷の面に見立て、氷上に風がつくる造形がさまざまにある。また、小さな花をモチーフにした器型の作品が可憐で、春を待つ北の大地を想起させる。

榎本裕一《結氷》シリーズ展示風景

未開の地ではなく、人が自然と関係する里浜、里山で暮らし、感性を磨きながら制作する作家たち。気候変動に悩まされる現在だからこそ、ざわめく自然の声に耳を澄ませたい。

取材・文・撮影(展示風景):白坂由里

<公演情報>
『大地に耳をすます 気配と手ざわり』

2024年7月20日(土)~10月9日(水)、東京都美術館にて開催

公式サイト:
https://www.tobikan.jp/daichinimimi

フォトギャラリー(8件)

すべて見る