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ナタリードラマ倶楽部 2024年夏クールを語り尽くす(後編)

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左から明日菜子、綿貫大介。ポーズは連続ドラマW-30「磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~」4話のエピソード<拙者のアゴヒジ観で候>をイメージしたもの。

放送・配信中のドラマについて取り上げる連載「ナタリードラマ倶楽部」。Vol. 10となる今回も、本連載でおなじみのドラマウォッチャー・明日菜子と綿貫大介が、2024年夏クールのドラマについて語る座談会をセッティングした。

後編にあたる本記事は、7月8日以降にスタートした作品が対象。“マニアが語りたくなるクール”だという今期のドラマには家族ものの作品が多く、明日菜子と綿貫は“家族とは何か”を考えることに。さらに、女優・松本若菜のラブコメ主演への衝撃や、“ファンタジーヤンキー”への愛あふれるトークもお届けする。

取材・文 / 脇菜々香・尾崎南 題字イラスト / トモマツユキ

「西園寺さんは家事をしない」で女優・松本若菜の分岐点に立ち会っている!(明日菜子)

──後編では、7月8日以降にスタートした夏ドラマを対象に語っていただきたいと思います。今期は前編で取り上げた「海のはじまり」に加え、「西園寺さんは家事をしない」「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」「南くんが恋人!?」など家族ものが多い印象です。

明日菜子 春ドラマは記憶喪失系の作品がたくさんありましたけど、夏ドラマは週初めに家族ものが集まっていますね。考察ものやミステリーなど物騒なドラマが多い今期、明るい家族ものである「西園寺さんは家事をしない」は台風の目じゃないですか?

綿貫大介 松本若菜さんがラブコメをやるっていうイメージがあまりなかったので、最初はびっくりしたんですよ。「やんごとなき一族」の“松本劇場”後はキャラが強い方向に行くのかと思いきや、政府職員や刑事、医者など意外と堅実な役が多かったじゃないですか。そこからの火10ラブコメ主演! 40代でラブコメの主演ができるのって深キョン(深田恭子)だけだと思っていたんですけど、できる人がいた……! これまでのキャリアで培った実力をまざまざと証明してくれている。もはや松本さんを見たくてこのドラマを観ています。

明日菜子 助演のイメージが強い方が主演に上がると、物足りないなと思うことも正直ありますが、松本さんはすごくパワフルなオーラがあって、これ以降の出演作品がめちゃくちゃ変わると思います。まさに我々は今、女優・松本若菜の分岐点に立ち会っている!

綿貫 そして、ここにきてBUMP OF CHICKENが主題歌を担当していることにもびっくり。日曜劇場とかじゃなくて、火曜22時のラブコメでやるんだ!と。ただ、“偽家族”っていうものにはまだイマイチぴんときていない。

※編集部注:西園寺一妃(松本若菜)の同僚としてアプリ制作会社で働く楠見俊直(松村北斗)は、1人娘のルカ(倉田瑛茉)を育てるシングルファーザー。西園寺は、火事で家を失った楠見親子を自宅の賃貸スペースに住まわせることにし、気を使わない関係になるため彼らと“偽家族”になることを思い付く。

明日菜子 西園寺さんが楠見くんの家事育児に対して「家族じゃないから手伝えない」「じゃあ“偽家族”っていうチームになればいいじゃん」と結託するのはすごくいいんですけど、実際は独身である西園寺さんの負担が増えちゃうし、彼女が生粋の“ギバー”だからどうしてもオーバーワークになっちゃうんですよね。しかも西園寺さんは楠見くんに恋心を抱き始めている状態だから、これは結局「逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)」で言う“好きの搾取”なのではないかという気持ちに……。家族の固定概念を壊してほしいと思って観始めたんですけど、これは家族になっちゃったほうがいいのでは?と考えている自分がいて、どうやって着地するのか気になります。偽家族って、ドラマの題材としてはいいなと思っていたけど、実際にやってみるとこんなに難しいんですね。

綿貫 この偽家族、今のところ契約結婚もののようにそのまま本当の家族になっていくストーリーしか思い描けないんですよね。偽家族ってキャッチーで可能性のあるものなんですけど、結局恋愛結婚に結びつくだけならもったいない。もちろんラブコメは大好きだからそうなってくれてもいいんですけどね。あとこの歌って踊る料理系YouTuber(津田健次郎演じる横井和人)が(劇中で)子供にウケている理由が謎(笑)。

明日菜子 「恋の花咲く六本木~♪」ね(笑)。横井さんと西園寺さんの恋展開がありそうだけど、結ばれたとしても根本的な問題の解決にならないような気がするので難しい……。キャストは皆さん役に合っていて素晴らしいんですけど、特に瑛茉ちゃん、末恐ろしくないですか? あの一挙一動が全部ト書きにあるとしたらおっかない!

綿貫 西園寺さんが母親的ポジションになることに対して、ルカちゃんは亡くなったお母さんを思い浮かべて「パパのこと好きにならないで」と不安を口にしていましたよね。でも、西園寺さんはいったいどうすればいいんだろう。楠見くんの気持ちもまだちゃんと表現されてないし。

明日菜子 西園寺さんに対してラブになっていくのかな? 松村さんは、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の好青年のイメージが世間的には強いかもしれませんが、楠見くんみたいにちょっとクセがあって現代人特有の複雑さを持っているキャラクターがすごくハマるんですよね。あとは藤井隆さんなど、脇を固めるキャストもいいですよね。松本さん世代だからこその友人役・野呂佳代さん、塚本高史さんとの3ショットも大好きです。

「かぞかぞ」車椅子の母の悔しさを共有する主人公にグッとくる(綿貫)

──一方で「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」は本当の家族ですが、病気や障害などいろいろなものを抱えています。どうご覧になっていますか?

綿貫 2023年にNHK BSプレミアムで放送されていたのはもちろん知っていたんですけど、地上波での放送を待っていました。河合優実さんの知名度がぐっと上がっているこのタイミングなのもいいし、ドラマは大絶賛でしかないです。

明日菜子 私はNHKオンデマンドで去年全話観ているんですけど、数年に一度の超傑作だと思います。今回また観直しているんですけど、1話から惹きつけられるものがありませんか?

綿貫 ありました! この作品の肝は、障がいを感動ポルノ的な描き方にしないこと。健常者ポジションを担っている岸本七実(河合)が、1話の最後にナレーションで「家族の死、障がい、不治の病。どれか1つでもあれば、どこぞの映画監督が泣かせてくれそうなもの。それ全部、うちの家に起きてますけど」と言っていて。難しい境遇をどれだけ明るく描けるかみたいなことをすごく意識しているし、七実の弟である草太役にダウン症の俳優・吉田葵さんを起用するなど、NHKが培ってきた精神がちゃんと息付いていて、安心して観られる。ただそこで気になっちゃうのが、やっぱりフィクションって実話に勝てないのかな?ということ。岸田奈美さんの実話(エッセイ本)を映像化しているわけで、その事実の強さが立っている気がします。まっさらな状態からこの脚本ができるとは思えないし、できたらできたで「やりすぎだ」とか言われちゃう気がします。

明日菜子 確かに!

綿貫 だからこそ、これが実話であるということがめちゃめちゃ重要な作品なんだろうなと思いました。岸田さん自体の明るさもあるでしょうけど。

明日菜子 私はこの作品が、家族というのはグループだけど、個人の集合体にすぎないということを描いているように感じました。それを体現しているのが、福地桃子さんが演じているドラマオリジナルキャラクターのマルチ(天ヶ瀬環)だと思うんです。

綿貫 オリジナルキャラなんだ! マルチ、めっちゃ好きです。

明日菜子 お母さんがマルチ商法にハマっているため、マルチは“サクセスウォーター”という高額の水を常に持ち歩かされているんですけど、彼女自体は母親の思想に染まっていないんですよね。家族は一番近い存在だけど、あくまでも"個人"だということを強調して、わかり合いたくてもわかり合えないこともあると描いている。そのテーマが、マルチというキャラクターによってより鮮明になったように感じます。そこはフィクションの妙だなと。

綿貫 一方で、家族という共同体が強すぎるとも思っていました。もっと福祉に頼れるということを描いてもいいんじゃないかと。ダウン症の弟や車椅子ユーザーである母の世話も、家族だけでやらなきゃいけないっていう見え方になってしまうと、余計にしんどく思う人も出てきちゃうかなという気がする。血のつながりは悪い方向に働く場合もあるから、七実の明るさで堂々と福祉に頼って、家族主義になりすぎないといいなとも思います。ただ、タイトルで「愛したのが家族だった」=“愛したのが先だ”と言ってくれているので大丈夫かな。

明日菜子 あとは演技のよさで忘れがちなんですけど、皆さんの関西弁がめちゃくちゃうまいんですよね。メインキャストでいうと、関西出身なのは亡くなった父・耕助役の錦戸亮さんだけでほかはノンネイティブなのに。また錦戸さんは、去年のBSでの放送と同時期ぐらいにNetflixシリーズ「離婚しようよ」の配信もあったけど、数年ぶりの連ドラなのにあの存在感はすごいなと思いました。

綿貫 これまでのキャリアを知ってるから、安心感もありますよね。家族写真のビジュアルもめちゃめちゃよかったもん。

明日菜子 悲しい場面とうれしい場面の塩梅が絶妙で、演出の大九明子さんの画面作りがすごく効いている。大九さんの作品ってライティングがうまいなと思っていて、悲しい場面も鮮やかに映して重々しくさせないから、切ないシーンでより一層胸を打ちますね。

綿貫 入院中のお母さん(坂井真紀演じる岸本ひとみ)の外出許可が出て、七実が車椅子のお母さんを外に連れ出すシーンは印象的です。七実はお母さんが過ごしやすいよう気を使っているんですけど、お母さん的には七実が一瞬お店に入って道にひとりぼっちにされたり、車椅子を押しながら街の人に「ごめんなさい、通ります」と言いながら移動する七実を見て「私って邪魔なのかな?」と思ってしまったりする。食事をするお店に向かう道中に、お互いの気持ちがすれ違うところを描いていると思ったら、席に着いた七実が「もう悔しい、今日1日ほんま腹立った」と言って泣くんですよね。「お母さんの悔しさを共有できてたのか」とぐっときて、家族なんだなって思った。

明日菜子 誰のシーンをとっても最優秀俳優賞レベルですが、特に印象的だったのは、父と娘の関係性。朝ドラとかで"ヒロインに迷惑をかけるお父さん"はよく登場しますが、「かぞかぞ」では七実がずっとお父さんに対して言ってしまった一言を後悔しているんですね。その描写もすごく新鮮に感じました。錦戸さんもこのあと出番がどんどん増えますよ。

「南くんが恋人!?」脚本・岡田惠和が描く“血縁でつながらない共同体”(綿貫)

──家族ものとしては、「南くんが恋人!?」も放送中です。内田春菊さんによるマンガ「南くんの恋人」の実写化は5回目、テレビ朝日では3回目で、これまでも細かい設定など時代によって変化がありますが、今回一番違うのは、男女逆転バージョンだということです。

綿貫 タイトルからして違いますもんね。今回の脚本を岡田惠和さんが担当するのは最適解だったと思う。連続ドラマ版第1作(1994年放送の高橋由美子・武田真治版)を手がけた岡田さんが現代版をやる意気込みを感じるし、ファンタジーが上手な方なので。

明日菜子 今回、南くん(八木勇征)が小さくなることによって、男らしさの欠如につながるのは新しい発見でした。女の子が小さくなった場合、「お人形さんみたいでかわいい」とプラスに評価されていましたが、南くんは小さくなった自分にすごくコンプレックスを抱いてる。でもちよみ(飯沼愛)はみんなの憧れである南くんと付き合ってることにもともと引け目を感じていたから、むしろ彼が小さくなったことで、初めて対等になれた気がすると思っているんですよね。

綿貫 セリフの中で南くんがちよみに「めっちゃくちゃ強くなってる」と言っていますよね。体のサイズが変わったことで関係性に変化があるのが男女逆転ならでは。また、小さくなると毎回定番としてマグカップお風呂が出てくるんですけど、この時代に女の子が入るのは受け付けられない。今回はそこも逆転でしたが、でもそれで言うと、男の子だったらいいんだっけ?とも思います。

明日菜子 この時代に「南くんの恋人」をやるなら、設定を男女逆転にするのはわかるんですけど、女の子でやっちゃダメなことは男の子でもやっちゃダメですもんね。あとは、令和版のエンディングで岡田さんが改めてどんな答えを出すのか気になります。

──お二人は過去の実写化は観たことがありますか?

明日菜子 私は直近の中川大志・山本舞香版「南くんの恋人~my little lover」を観ました。2人は幼なじみだけど険悪な関係になってしまっていて、ちよみが「南くんと仲がよかった小さい頃に戻りたい」と願ったことで体が小さくなっちゃったっていう始まりなんです。そのときはちよみがインターネット小説を書いてるっていう設定で、時代を感じた……!

綿貫 過去作も観ているはずなんですけど、エンディングの記憶がスパンと抜けていて……。令和版で印象が変わったのは、複雑な家族の設定を入れたところ。岡田さんは、意図的に血縁でつながらない、自分たちで選んだ共同体を描きたかったとラジオで話していましたが、1990年代から疑似家族的なものを手がけてきた方だから、その辺がうまい。

──武田真治さん演じる堀切信太郎とちよみも、血がつながっていない父娘ですもんね。

綿貫 そんな家族だからこそ、“お城”のくだり(※)を明るく話せるんですかね。

※編集部注:ちよみの地元にある城のようなデザインのラブホテルのこと。南くんから“お城”に誘われたちよみが、そのことを家族の前で口をすべらせるシーンがあるが、気まずくならないオープンな家族として描かれている。

綿貫 江ノ島が舞台だから江ノ電も出てくるし、夏にこのカップルが見れるのはいい! 八木さんは、「美しい彼」のキャラもちょっと捻くれているし、意外とここまで王道のさわやかな役ってなかったなと。だから普通に大きいままで恋愛しているのも見たいな。あと岡田さん脚本のドラマ「君の手がささやいている」で武田さんの母親を演じた加賀まりこさんも出ているし、室井滋さんまで見れて豪華ですよね。

明日菜子 武田真治さんは「凪のお暇」のスナックのママ役のイメージがついて、似たような役が続いたから、ここで等身大の年齢の男性を演じたことって大きいんじゃないかなと思いました。

綿貫 そして主題歌。ゆずが歌ってくれるのは本当に「ありがとう」だし、手芸部の教室にゆず太郎のマスコットとかが置いてあったから「面白いことやってる!」と思ったけど、そんなゆずに「伏線回収」という曲を作らせてしまった……。

──作らせてしまったとは?

綿貫 楽曲自体はいいんですけど、ゆずは「伏線回収」なんて言葉を知らなくていいです!

一同 (笑)。

綿貫 ゆずは何も回収しなくていいんですよ! まっすぐ歌ってほしい。近年の、ドラマが伏線を回収しなくちゃいけない流れがあることがゆずにまで届いてしまっている。これは、それを止められなかった私たちの責任でもある。

明日菜子 こんな話になると思ってなかった(笑)。視聴者が伏線回収を求めがちな風潮、断固反対ですね!

「伝説の頭 翔」で仮面ライダーや戦隊ヒーローの“不良の面”を楽しむ(明日菜子)

──マンガ原作ものでいうと、高橋文哉さんが1人2役で主演を務める「伝説の頭(ヘッド) 翔」も放送中です。

明日菜子 ファンタジーのヤンキーものってみんな大好きなんですよ! 関水渚さんが演じるヤンキーキャラのアイドル・藤谷彩が、実は本当に元ヤンだったということが発覚したり、3話では、ヤンキーだらけのアマチュア総合格闘技大会「BAD ENDLESS」を運営するミラクル昼家(小久保寿人)が登場したりと、ファンタジーヤンキー好きのツボをいちいち突いてくる。

綿貫 ミラクル昼家が「日本人はヤンキー好きなんですよ」「エンタメとしては最高のコンテンツですから」とメタ的に私たちに言うんですよね。週末にNetflixシリーズ「地面師たち」を一気観したんですけど、リアルにヤバい人たちの作品を観ると、この「伝説の頭 翔」のヤンキーたちの喧嘩はかわいいもんだなと思った(笑)。とはいえ私たちは子どもの頃からヤンキーエンタメで育っちゃってるから、このふざけた感じとか好きなんですよ……。少女マンガでは、雨の中濡れている子犬に傘を差すヤンキーが必要だし。

明日菜子 キャスティング的には高橋さんをはじめ、かつて仮面ライダーや戦隊モノでヒーローを演じていた俳優たち(※)の不良の面が見れるというよさもありますよね。

※編集部注:井桁弘恵、中川大輔、駒木根葵汰、田中偉登、簡秀吉、志田こはくがレギュラー出演することに加え、各話ゲストに犬飼貴丈、池田匡志らも登場している。

──本作では、不良たちの頂点に立つカリスマヤンキー・伊集院翔と、スクールカースト最底辺のいじめられっ子・山田達人が、容姿がそっくりだったためにある日人生を交換することになります。このなりすましの設定もエンタメという感じですよね。

明日菜子 古来から語り継がれてきたヤンキーと優等生の物語。

綿貫 高橋さんはいじめられっ子のほうに少し違和感が出ちゃいますよね。「山田、あんたバレてるよ? かっこいいの」って(笑)。

明日菜子 でも、そこも楽しみたい(笑)。砦は飯島直子さんですよね。元ヤンのスナックのママっていう設定、飯島さんのいいところ全部出てる。

綿貫 それと、つんく♂さんがプロデュースしている街スケ(藤谷が所属するアイドルグループ・古くさい街角のスケ番ズ)の楽曲「バッキャロー!LOVE」がめちゃくちゃよくて、配信もされているので、ハロプロ好きはみんな聴くべき。

「錦糸町パラダイス」センシティブなテーマをさらっとやっていることに拍手(綿貫)

──テレビ東京のドラマ24では「錦糸町パラダイス~渋谷から一本~」が放送中で、この作品では企画・原案を俳優の柄本時生さんと今井隆文さんが手がけています。

明日菜子 オダギリジョーさんが手がけた「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」や、松田翔太さんが企画・主演した「THE TRUTH」など、最近増えている俳優さんのプロデュース作品のいいところは、キャスティングが本当にうまいこと。演者同士だからこそわかる“役のフィット具合”がすごく効いているんですけど、一方で難解な作品も多い。その中で「錦糸町パラダイス」はけっこうキャッチーで観やすいなと思いました。夏っぽいドラマというとエネルギッシュな作品やゾクゾクするミステリー系を想像するんですけど、これは夏の終わりを感じるような風情がある。ただ、3話ぐらいからイメージが変わって……。

綿貫 わかります。

明日菜子 最初は賀来賢人さん、柄本さん、落合モトキさん扮する掃除屋たちの友情物語みたいな感じかと思ってたんです。裕ちゃん(柄本)が車椅子生活になったのは事故がきっかけで、その瞬間にいた大助(賀来)が抱える後悔が描かれていくのかなと思ったら、途中から不法滞在の外国人が登場したりして、けっこう骨太なテーマをやろうとしてるのかなと感じ始めました。

綿貫 掃除屋のメンバー3人中1人が車椅子ユーザーだから、車椅子の人がどういうふうに仕事をするのかとか、みんなとどう接するのかっていう描写が当たり前のように入ってくること、またもう1人別のマイノリティとして、フィリピンルーツの在日外国人・山岸ミカ(矢野あゆみ)を登場させるのはすごい。日本で働いているのに透明化されてしまう外国人をエンタメで描いてくれるのは意義があることだと思います。4話では入管の遠田(森岡龍)が「ある人にとってはいいことだけど、多くの人にとっては生活を奪うことをしていますから。でも疲れちゃったな、だから仕事辞めてまた海外に飛び込もうかなって」とバックパッカーに出る流れにしていて。適切な在留資格を持たない人を取り締まる立場でありながらも、最終的には人道的な言動を見せて、排外主義になっていない。現実に外国人への差別、ヘイトスピーチが横行している中でこのエピソードに踏み込んでいるのは、信頼のおける脚本!って感じ。

──夏クールには「新宿野戦病院」もありますが、新宿・歌舞伎町に比べて錦糸町のイメージってそこまで皆さんはっきり持っていない気がするのですが、どうなんでしょう。

明日菜子 地方生まれの私からすると錦糸町は都会だと思うんですけど、強いて言うなら“雑多感”? アングラさもありつつしゃれたイメージがあります。だから「新宿野戦病院」で歌舞伎町の社会問題に切り込むのとはまた違った、“流れ着いたものを受け止めている街、錦糸町”みたいな感じかな。

綿貫 この街の特性っていうより、日本がちゃんと向き合わなきゃいけない課題がちゃんと入っていて、それこそ外国人労働者が多い群馬の工業地域など、どの街でも本当はありえるんですよという話が描かれている。日本で生まれ育ったものの、親とともに強制送還の対象となる外国人の子供の側面はなかなか描かれないし、センシティブなテーマをさらっとやっていることに拍手したい。一方で、濱田マリさんと光石研さんが担うラジオブースのシーンはかなり下世話。すごくバランスがよくて、人物の多様性を見せるのがうまいですよね。

明日菜子 連ドラですけど、最終回を迎えたら、改めて一気観したい。この先どうなるのかストーリーの軸が読めないから、全部終わって観返したら1本の軸に気付けるのかもしれないなと思いました。

「マル秘の密子さん」福原遥さんはヒール役もすごい似合う(明日菜子)

──韓国ドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」をリメイクした「スカイキャッスル」では、子供の受験と夫の出世にしのぎを削るセレブ妻たちの姿が描かれています。

綿貫 韓国って受験戦争が日本の比じゃないから、日本のお受験ものになるとそこまで緊迫感がないのが正直なところ。メインキャストの中に戸田菜穂さん、松下奈緒さん、比嘉愛未さんという朝ドラ主演女優が3人もいるのはすごいけど、お嬢様感が強くてバチバチ感が薄いかな……。そう思っていたときに現れたのが「マル秘の密子さん」。上流階級のバチバチドラマとしても相当観応えがあるのでお薦めです。小柳ルミ子さんが素晴らしいし、渡辺真起子さんは髪型から最高です。

明日菜子 渡辺さん演じる九条開発の取締役・九条美樹の娘役である志田彩良さんも嫌な役がうまいですよね。私はいつも朝ドラヒロインのセカンドキャリアを勝手に考えてしまうんですけど、NHKが清純派ヒロインを次々に誕生させる中で、主演の福原遥さんはここで一気に抜けた感じがします。ダークなヒール役もすごい似合っているし、新たなイメージをつかんでさらに活躍していくんじゃないかなと思いました。

綿貫 福原さんはまだ新人役ポジションが似合うけど、このドラマで演じるトータルコーディネーター・本宮密子は平気で人を気絶させたりして怖いシーンもこなしているから次の段階に行けそう。次期社長候補・今井夏(松雪泰子)の、密子のコーディネートによる変わりぶりもすごくよくて。夏が変身して九条開発に乗り込み、社長候補に名乗り出るシーンで全身白のジャケットパンツを着ていたんですけど、白って女性の政治参加を象徴する色なんですよね。「このコーディネーター本気だな」と思ったし、かき氷屋さんとかの空間作りもバッチリで、色味からなにからウェス・アンダーソンの世界みたいですよね。

明日菜子 画が本当におしゃれで、こだわりを感じますね。土曜じゃなくて、今はなき日テレ水曜22時枠だったらもっと話題になってたかも。

綿貫 土曜は出掛けている人も多いもんね。社会人は水曜なら家にいるから、観させてください、水曜日にドラマを!

「マウンテンドクター」「磯部磯兵衛物語」杉野遥亮が2024年夏の主役(明日菜子)

──今期は、杉野遥亮さん主演のドラマが「マウンテンドクター」と連続ドラマW-30「磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~」の2本放送されています。

明日菜子 はい、2024年夏ドラマの裏の主役は間違いなく杉野さんです。

綿貫 「マウンテンドクター」は山の映像がめちゃくちゃきれいなんですよ。

明日菜子 ただ単発ドラマだったら、山岳医療を専門とする救命医がいるんだ、となるけど、連ドラだから彼らの活躍を描くために毎週事故が起こる……。

綿貫 軽装で山に登ってしまう人が多い問題など、自然の中での危険やこういうドクターがいることを伝えるのは価値があるけど、熊に襲われるシーンとか怖かった(笑)。

明日菜子 杉野さん演じる宮本歩が山岳医になりたいと思ったのは、山登りが好きだったお兄ちゃんを事故で亡くしてしまったという経緯もある。イマジナリーお兄ちゃんが登場する演出(※)は謎だったけど、大自然に挑む杉野さんはすごく魅力的です。そして、「マウンテンドクター」と全然イメージの違う「磯部磯兵衛物語 ~浮世はつらいよ~」をセットで観るのがお勧め! 奇しくも「マウンテンドクター」で院長を演じている檀れいさんも出ています。

編集部注:第1話で、歩の兄・翔がベッドで眠っている姿で登場。しかし翔はすでに亡くなっていることが明らかになり、歩が山岳医となる決意を固めたのちにベッドから姿を消す

綿貫 杉野さんって、「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」みたいな抜けてるヤンキー役もよかったし、「磯部磯兵衛物語」のゆるいテンションも合いますよね。

明日菜子 「磯部磯兵衛物語」は学生時代に原作を読んでたんですけど、浮世絵タッチのギャグマンガなんですよね。なぜか杉野さんの高身長色白イケメン感が磯兵衛にハマっている(笑)。

綿貫 原作に似てるんですか?

明日菜子 浮世絵風の絵なので似るはずないんですけど、色白ですらっとした感じがマンガのイメージと合うのかも。杉野さんはこれまでにも「直ちゃんは小学三年生」「東京怪奇酒」などマニアックな作品にも出ていて、「ばらかもん」で一気に王道主役コースに乗ったと思いましたが、「磯部磯兵衛物語」のようなトリッキーなドラマにも変わらず出てくれるのはありがたい。

綿貫 WOWOWの作品だけどTVerで観れるのもいいですよね。WOWOWってザ・社会派!みたいな重厚な作品をずっとやってきていて、ターゲットも超大人なんですけど、配信ものではターゲットを若い子に振り切っている。いろんな女優さんがシンガーとして“女のうた”を歌っていく「FM999 999WOMEN'S SONGS」もめちゃくちゃ面白かったし、同じく長久允さんが作った「オレは死んじまったゼ!」とかもよかった。

明日菜子 WOWOWドラマのクオリティの高さには、毎回驚かされますよね。「磯部磯兵衛物語」も30分だからすぐ観れちゃうし、ドラマ化にまつわるメタっぽいくだりもあって面白い。オープニングの猫ミームみたいなキモ可愛い杉野さんにも注目です(笑)。

次の朝ドラ「おむすび」の主題歌は浜崎あゆみ?西野カナ?

──今年の夏ドラマは「素晴らしき哉、先生!」「Shrink―精神科医ヨワイ―」などまだ始まっていない作品もある不規則なクールでしたね。

明日菜子 「Shrink―精神科医ヨワイ―」は原作が大好きなので楽しみにしています。夏クールは豊作というか、マニアの語りたい欲がうずくクールでした。

綿貫 チャレンジングな題材やキャスティングがちゃんと面白くなっているから、夏は楽しく出掛けてほしいけど、「捨てドラマはないよ」って感じ。ちゃんとウォッチしていたほうが面白いです!

明日菜子 秋ドラマも発表され始めていますけど、神木隆之介さん×野木亜紀子さんの日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」など、情報解禁を見ては生きる活力が湧きます!

──次のクールから朝ドラも変わります。

明日菜子 ついに「おむすび」が始まる……!

綿貫 浜崎あゆみさんに主題歌やってほしい。

明日菜子 橋本環奈さんがギャル文化に出会うお話ですもんね。主題歌予想で言うと、復帰した西野カナさんもあるんじゃないかと期待してます!

明日菜子(アスナコ)プロフィール

毎クール20本以上のドラマを鑑賞しているドラマウォッチャー。2024年夏ドラマのお気に入り主題歌は「三ツ矢先生の計画的な餌付け。」の「フリト」(山崎まさよし)。

綿貫大介(ワタヌキダイスケ)プロフィール

エンタメを中心としたカルチャー分野で活動する編集者・ライター・テレビっ子。2024年夏ドラマのお気に入り主題歌は「西園寺さんは家事をしない」の「strawberry」(BUMP OF CHICKEN)。

記事に登場したドラマの放送日時はこちらから

火曜ドラマ「西園寺さんは家事をしない」

TBS系 毎週火曜 22:00~22:57

ドラマ10「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」

NHK総合 毎週火曜 22:00~22:45

「南くんが恋人!?」

テレビ朝日系 毎週火曜 21:00~21:54

ドラマ8「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」

テレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知、テレビせとうち、テレビ北海道、TVQ九州放送
毎週金曜 20:00~20:54

金曜ナイトドラマ「伝説の頭 翔」

テレビ朝日系 毎週金曜 23:15~24:15
※一部地域を除く

ドラマ24「錦糸町パラダイス~渋谷から一本~」

テレビ東京系 毎週金曜 24:12~24:42
出演:賀来賢人、柄本時生、落合モトキ / 岡田将生

木曜ドラマ「スカイキャッスル」

テレビ朝日系 毎週木曜 21:00~21:54

土ドラ10「マル秘の密子さん」

日本テレビ系 毎週土曜 22:00~22:54

「マウンテンドクター」

カンテレ・フジテレビ系 毎週月曜 22:00~22:54

連続ドラマW-30「磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~」

WOWOW 毎週金曜23:00~23:30
※全10話
※TVer、FODで最新話無料見逃し配信あり
※WOWOWオンデマンドで全10話一挙配信中