パリ五輪で注目の「愛の讃歌」も! クミコ×松村雄基が語る日本語で歌う“ニッポン・シャンソン”の魅力
音楽
インタビュー
左から)松村雄基、クミコ (撮影:黒豆直樹)
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すべて見る2024年は、日本を代表するシャンソン歌手・越路吹雪の生誕100周年。先日のパリ五輪の開幕式でセリーヌ・ディオンが熱唱したことでも注目を浴びた名曲「愛の讃歌」を越路が初めて録音してから70年という節目の年でもある。これを記念し、多彩なアーティストを集めた「ニッポン・シャンソン・フェスティバル2024」が10月23日(水) に東京国際フォーラムにて開催される。
もともと、BS民放で初めて「日本のシャンソン」に特化した特番「ニッポン・シャンソン~越路吹雪・銀巴里…歌い継がれる愛の讃歌~」がBS朝日にて6月30日に放送され、その番組内で開催が発表された。日本のシャンソン界の第一線で活躍し、同番組で「愛の讃歌」や「愛しかない時」を披露したクミコと50代を過ぎてシャンソンと出会い、番組では「マイウェイ」、「そして今は」を歌った松村雄基がコンサートに向けた思いを語ってくれた。
――おふたりの他に松田美由紀さん、安蘭けいさん、日野真一郎さん(LE VELVETS)など、多方面で活躍する方たちが出演されますが、今回、テレビ番組から生のコンサートになることで、楽しみにされていることを教えてください。
クミコ 番組がかなりいい形でできたと感じていて、そこにみんなでのコラボレーションを入れたり、曲数を増やしたりして、さらに膨らませることができるんじゃないかと思っています。シャンソン初心者の方にも楽しんでいただけるコンサートになるんじゃないかと思っています。
松村 生の舞台ならではの、テレビの収録の時とは違う、様々な楽しい“事故”が起こるんじゃないかと楽しみにしています(笑)。収録の時はひとりだけでしたし、共演者のみなさんも、僕にシャンソンを歌うことを勧めてくれたソワレ以外は、みなさん「はじめまして」なので、お会いできるのもすごく楽しみです。
――番組が「かなりいい形でできた」とおっしゃっていましたが、具体的にどういう部分に手応えを感じられたんでしょうか?
クミコ 私は普段、自分の番組を見るということがあまりないんですね。それが今回、見てみたら、すごく感動してしまって「これならまだこれからもやれるな」という自分の中での手応えを感じたんですよね。
みなさん、どなたもシャンソン歌手ではなくて、女優さんであったり、俳優さんであったり、歌い手さんだったとしても全然違うジャンルの方ばかりで、シャンソンにどっぷりという方はいらっしゃらなかったんですよね。悪い意味での“シャンソンくささ”みたいなものがなくて、思いも寄らぬ人選によって得たものがすごく大きかったなと思います。
――“ニッポン・シャンソン”と銘打たれていますが、日本語で歌うニッポン・シャンソンならではの魅力、日本で長くシャンソンが愛されてきた理由というのはどういう部分にあると思いますか?
松村 フランス語で聴いても、どうしても理解しきれない部分があって、やはり歌詞ってすごく大切だなと思うんですよね。どんな名曲でも、歌い手の人生や背負っている物語が投影されて初めて観客は感動するものだと思います。
日本でやるからには、日本のお客様にわかってもらいたいし、そうなると日本語の歌詞がいい。でも、この訳詞というのも簡単なものではなく、直訳ではなく意訳の部分もありますし、その中で洗練されてきたものなんですよね。僕自身、どちらかと言うとシャンソンの歌詞にガーンと影響を受けた人間でして、むしろ日本人としてガーンとくる曲がたまたまシャンソンだったという感じなんですよね。だからこそ、言葉を大切に歌いたいです。
ただ、僕のようなド素人の意見ですけど、シャンソンの魅力は自由さや懐の広さだと思っていて、どんな極悪人の話だろうと、どん底の恋愛であっても、ハッピーな面白おかしい話であっても「人生は歌なんだから歌っちゃいなよ!」と言われているような気がするんですよね。その心意気は、フランスからもらったもので、でもそれを表現する言葉としては日本語で日本人の心に刺さるものにするというのが良いんじゃないかと思います。そこにまた、ちょっとフランスとは違う“湿気”が入るんですよね(笑)。それが良いとこだと思います。
クミコ 雄基さんのおっしゃる通りだと思います。私もときどき「フランス発のシャンソンがなんで日本でこんなに……?」と考えるんですけど、やっぱり情緒みたいな部分が日本とフランスで近いものがあるのかなぁ? と思います。フランスでできたメロディラインのどこかに投影できる感性が日本人の中にたまたまあったんじゃないかなと。
さっき“湿度”とおっしゃいましたけど、フランスはたしかに日本のように湿度は高くないんですけど、実はシャンソンの中にある湿度を日本人が感じ取ってしまうのかもしれませんね。本当はものすごく湿度があるのに、彼ら(フランス人)はそこに気づいていなくて、日本人はわかっちゃうのかもしれないなと思います。
松村 日本人にはパリに対する憧れがありますよね。オリンピックを観ていても「やっぱり、日本で開催されるのとは違うな」という部分があるじゃないですか? 日本人にはできない部分もありますし……そこを変換するツールとして、日本語というのはすごく良いんだと思います。
クミコ シャンソンが戦後まもなく日本に入ってきた時、それに触発されて武満徹さんが曲をつくりはじめたり、いろんな人がシャンソンに「ウゥッ……」となって、そこから日本の音楽が動き始めたところがありましたけど、日本人にとってシャンソンというのは特別な意味を持つ存在なのかもしれないですね。敗戦国の人間が歌詞の意味もわからないフランス語の歌にそれだけの影響を与えられ、急に歌心を思い出すってただならぬことですよね。そこに大きな憧れや、自由への気持ちとか、人間としての“全て”があるように感じられる音楽だったんでしょうね。不思議な音楽ですよね。自分でやっててもわかんないですもん(笑)。
――今回のコンサートでも歌われる「愛しかない時」はクミコさんご自身で訳詞をつけられていますが、どのような思いで言葉を紡がれたんでしょうか?
クミコ もうずいぶん昔のこと……20代の頃ですからね。銀巴里(※かつて銀座にあったシャンソン喫茶)で歌いはじめたけど、あんまり自分で歌える曲がない中で「これは私に合っている気がする」って思ったんですよね。
たまたまポーランドの歌手の方が日本に来た時にコンサートでこの曲を歌ったんですけど、それまで私が知っている歌手の人たちと全く違って、革ジャンにGパンという姿で、叫ぶように、世界を切り裂くように歌っていたんです。もうそれを見て「かっけーーー!!!」って思って(笑)。カッコいいし、こういうふうに時代に切り込んでいくような歌が歌いたいって思ったんです。愛や恋だけじゃなく、その向こう側の世界のこと――平和や戦争のことを入れ込みたいなと。その気持ちはいまでもあるんですけど、その時、急に自分で言葉をつけようと思ってしまったんです。
そのポーランドの歌手はアンナ・プリュクナル(※反体制派としてポーランドを追放された)という方なんですけど、ポーランドはナチスに蹂躙された国ですが、叫ぶように歌う姿を見て「私も叫ぶように歌いたい!」とあの詞を書きました。
――40年以上前に書かれた訳詞が、いまなお生々しく、時代に問いかけるような強いメッセージを持っているのを感じます。
クミコ 本当にその通りで、むしろいまだからこそと感じます。もしかして、いまでも私がシャンソンを歌っている理由のひとつは、歌の中に世界が見えているからなのかもしれません。いまなお、世界各地で起きている不条理なことを歌の中に歌い込めるのがシャンソンなんですよね。
なんでこんな不条理なことが世の中に起きるのか? もっと言うと、なんで人は生きて、死んでいかなくちゃいけないのか? 全てが「わからない」中で、シャンソンを歌うことで、そこにほんの少しだけ答えを見つけられるような気がしてしまうんですよね。シャンソンを歌うって、自分と、そして世界と対話するような気持ちになったり、自分がこの世に存在することの意味を見出せるような気になるんですよね。世の中に対し、傍観者ではなく“参戦”していく自分を感じることができるんです。いまの世界を生きている人間のひとりとして、私は歌を武器にしているんだと。
――松村さんは、50代になってからシャンソンの魅力に目覚め、ご自身で歌うようになったそうですが、改めてシャンソンだから伝えられるものというのはどんなことだとお感じですか?
松村 いまのクミコさんのお話を伺って、本当にその通りだなと思ったんですけど、歌うことによって人生を生きるヒントがあるような気がしますし、歌うことによって僕は誰かに生きるヒントを感じていただきたいんです。
なんで人はこうやって生きて死んでいくのか? つらいことばかりで、100のうち99は修行みたいなものですよ(苦笑)。「それでも、人生は捨てたもんじゃないよね?」という人生讃歌がお芝居なんだと僕は教わってきました。
まさに歌もそうで、生きるヒントが歌の中に散りばめられていると思うんですが、中でも歌詞とメロディ、リズムで迫ってくるような魅力がシャンソンにはあると思うんですよね。
僕は「そして今は」という曲が好きなんですけど、ボレロの延々と繰り返されるリズムとメロディの中で歌われる曲で、歌詞は絶望のどん底なんですよ(苦笑)。好きな人に捨てられて死にたい。僕はもう抜け殻だ……と歌っているんですけど、リズムはボレロ――つまり終わらないんです。人生って何があってもこのまま進むんだと。「そして今は」というタイトルの通り、いまは死にそうだけど、これから生きていかなくちゃいけないんだということを感じさせてくれるんです。それは僕の勝手な解釈なのかもしれないけど、そうやって「人生、捨てたもんじゃない」って思わせてくれる曲が多いんですよ、シャンソンには。
クミコさんともお話ししたんですけど、僕は50前後で出会ったからこそ、シャンソンの魅力がわかったのかもしれません。20代のヤンチャな役ばかり演じていた頃だったら、気づいていなかったでしょうね(笑)。曲がりなりにも50年以上を生きてきて、いろんなことを経験したからこそなのかな。
――クミコさんから見て、松村さんの歌声はいかがですか?
クミコ 収録で初めてお聴きしたんですけど、「マイウェイ」と「そして今は」というどちらも大作ですよね。それが両方とも本当に素晴らしくて……。真っすぐな歌い方で真っすぐに歌を届けられている姿を見て、歌い手として初心に帰るような気持ちにさせていただきました。
その真摯な姿勢というのは歌を歌う者に絶対に必要なものですし、それに加えて、さらに力強く絶対にあきらめない、光を見ながら歩いていくんだという思い――絶望の中から立ち上がる励ましをもらえるようなところがあって、雄基さんの「そして今は」は、本当に最高峰のものだと思います。いろんな方が歌っていますけど、正直、こんなに素晴らしい「そして今は」を聴いたことはないですね。力強くて真っすぐで清潔なんです。「あぁ、そうだよね。この曲はこうやって歌うものなんだ」と気づかされるような歌声でした。
すごく難しい曲で、私自身は若い頃に1度くらいしか歌ったことがなかったですし、他の方が歌っているのを聴いても、どこかで「いや、そんなことないでしょ」という思いが見え隠れするようなところがあったんですけど、雄基さんの歌は「絶対にこの光を逃さないから! この絶望の沼から這い上がるから!」という真っすぐな背中が見えてきて、この曲自体を見直すきっかけになりました。かなり感動しました。今回、本当に必見必聴です!
松村 いや、嬉しい限りです。精一杯、いまの自分を素敵なシャンソンの力を借りてお届けしたいと思います。
クミコ シャンソンに縁のない方でも、このメンツですから絶対に楽しめると思います。絶対に損はさせないし、どれか必ず、心のどこかに引っかかり、永遠のお友達になってくれる曲があると思いますので、ぜひ試しに来てみてください。
取材・文・撮影:黒豆直樹
<公演情報>
ニッポン・シャンソン・フェスティバル2024
公演日程:2024年10月23日(水)
会場:東京国際フォーラム ホールC
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