「演劇をやっている者に与えられるギフト」 高田夏帆×戸田恵子にインタビュー! 舞台『裸足で散歩』が全国17箇所で上演へ
ステージ
インタビュー
左から)戸田恵子、高田夏帆 (撮影:源賀津己)
続きを読むフォトギャラリー(7件)
すべて見るニール・サイモンによる傑作コメディ舞台『裸足で散歩』が2024年9月27日(金) から大阪・サンケイホールブリーゼで開幕し、東京・銀座博品館劇場(11月8日〜19日)の公演もあわせて、全国17箇所で上演される。
舞台は、2月のニューヨーク。真面目な新米弁護士のポール(加藤和樹)と、明るく自由奔放な妻のコリー(高田夏帆)は新婚旅行を満喫し、新居のアパートへと帰る。しかしそのアパートに住む住人は少し風変わり。なかなか馴染めないポールとその生活を楽しむコリーの間で心のすれ違いが生じて――。本作は、喜劇作家ニール・サイモンによるラブコメディで、1963年にブロードウェイで初演。67年には映画も公開されている。
今回は、2022年公演に出演した加藤和樹、高田夏帆、松尾貴史、戸田恵子らが続投し、新たに福本伸一を迎えた“再演”となる。高田夏帆と戸田恵子に本作に懸ける思いを聞いた。
――前回の2022年公演はコロナ禍だったので、マスクをしての稽古だったり、普段の交流も制限されたりしていたと思いますが、前回公演について今、どんなことが思い出されますか?
戸田恵子(以下、戸田) そうですね。今、質問されて、そういえばマスクをしながら稽古をしていたなと思い出すぐらい、自分にとっては遠い記憶になりつつあるんですが……少人数のコメディ作品だから、みんなで密に楽しくやれたのではないかなと思っています。特に主演のおふたりが大変なお芝居なので、おふたりは稽古もたくさんあって、大変だったと思いますが、私たちは周りでふらふら楽しくやれました(笑)。
個人的には思い出がたくさんある作品なので、またこの作品をできることは、嬉しいな、有難いなと思っています。
――実は約40年前にコリーを演じられた経験がある戸田さん。当時のことは思い出されますか?
戸田 私はずっとミュージカルをやっている劇団にいて、外部公演として『裸足で散歩』に出演したんです。だから、当時はストレートプレイに呼ばれたことが不思議でした。「私にそんな芝居力はあるのだろうか?」と自分でも不可解な感じで始めたんですよね。演出が文学座の方で、周りの出演者も重鎮の方たちだったので、おどおどしながら稽古をしていたことを覚えています。
あまりにセリフ量が多いし、当時は辟易としていたというか、「もうストレートプレイは2度とやりたくない」と思うぐらい、大変でした。作品は素晴らしいと思っていたし、もっとうまく自分がやれたら楽しかったんだろうなとも思うんですけど、当時の自分には大きすぎる作品で……。
だから、前回『裸足で散歩』のお話をいただいたときに、「まさかあの役をやるの?」と思ったんですけど(笑)、コリーのお母さんのバンクス夫人役と聞いて、ああ、私もお母さん役をやれる年齢になったんだと思ってね。演劇を長くやっている者に与えられるギフトのように感じられて、嬉しかったですね。
――今回は2年前の楽しい気持ちのまま、稽古や本番に臨めそうですね?
戸田 そうですね。ただ、私自身は再演はそんなに好きではなくて、どちらかというと新しいものを常にやっていきたいタイプなんです。
だけど長くやる中で、“再演の醍醐味”も分かってはいるのです。やはり初演の勢いは素晴らしくて、そのパワーに打ち勝つほどの何かを作るのは大変なことなんですけど、再演は再演で、頑張った先にはまた新しい景色が見られることもあってね。だから、そんな気持ちで今回も頑張っていきたいなと思います。
――高田さんは、前回が初舞台でしたね。
高田夏帆(以下、高田) はい。挑戦の連続でした。正直、もう走りきれないと思いました。本当に大変で、いくつもの壁にぶち当たって、泣きながら戦っていました。
――でも無事に乗り越えられた。手応えもあったのではないですか。
高田 そうですね。「『裸足で散歩』が終わったら、もう私なんでもできる!」と思うくらいの達成感がありました(笑)。
なので、作品の再演が決まって、とても嬉しかったです。あのときのコリーを多少なりとも評価してもらっているんだなと思って。……と同時に、今回は絶対に成長や進化を見せないといけないと思うので、すでにプレッシャーを感じています。
――コロナ禍での稽古ということで、そういう点でも大変だったのでは?
高田 確かにそうですね。稽古場はアクリル板で仕切られ、みんながマスクをしていました。舞台稽古で初めてマスクをとった状態で芝居をしたので「こんな顔で喋っていたんだ!」と驚いてしまって、「もういっぱいいっぱいだから、頭にこれ以上新しいことを入れないで!」という状態でした。
――コロナ禍が明けた今回はどっぷりお芝居ができるのでは?
高田 そうですね。戸田さんや加藤(和樹)さんが出演されている舞台を観させてもらって、いろいろと観てきた2年間ではあるので、何らかの形で活かして、前回を超えていきたいなと思います。
――おふたりは親子の役ということで、ぜひお互いの印象を伺いたいです。
高田 まず、台本を読んで「ママ、これをやったの?すごすぎ!」と思いました(笑)。コリーは、膨大なセリフ量があって、あちらこちらをかき回す役柄なので、本当にすごいなぁと。
でも時期が時期だったので、あんまりお話をする機会がなくて。淡々と稽古をして、たまに更衣室で言葉を交わすぐらいでしたよね?
戸田 そうでしたね。みんなでどこかに出かけることもなく、稽古に取り組む日々でした。
高田 だからあまりコリーのことを戸田さんに聞くことはできなかったのですが……以前、別のインタビューで戸田さんが「夏帆コリーは根性がある」と言ってくださったんです。その言葉を大切に、気持ちだけは強くいこうと思いながら、ずっと演じていました。
戸田 いや、まず初舞台でこの『裸足で散歩』をやるのは、ものすごいタフなチャレンジなんですよ。だから、稽古以外で話をするなんていう余裕もなかったと思うし、毎日、彼女が戦っていることは誰もが分かっていました。
で、無事に舞台の幕が開いて、千秋楽まで頑張れたことは、彼女にとって大きな力になったと思います。きっと毎回本番をやる度にいろいろな発見があったと思うし、これを前回1回だけで終わらせずに、また再演ができるというのは、夏帆ちゃんにとって素晴らしいことだと思う。
私がコリーを演じた経験者だから言うわけではないですけど、本当にメンタルもフィジカルもすべてにおいてタフでないと乗り切れないんですよ。それを1回乗り越えたという経験は大きいし、その上で、今回はいろいろと目標もできてくるでしょうからね。楽しみに思っています。
――今回の加藤さんと松尾(貴史)さんも引き続きの続投。前回の印象や、今回楽しみにされていることを教えてください。
高田 私が徐々に自我を出せたのが、初日を迎えてからで。加藤さんが「緊張している?大丈夫だよ!」と本番前に軽く声をかけてくれるのが日課になり、癒しになって、緊張がほぐれました。「あ、こういうことも喋っていいのか」と分かったんですよね。
前回は右も左も分からない状態だったので、今回はほんのちょっとだけステップアップしたところから稽古が始められるのかなと思います。
戸田 おふたりともベテランですからね。加藤さんはセリフ量も多いし、初演だったから大変だったと思うんですけれど、その中でも夏帆ちゃんのケアをして、いろいろなことを教えてあげていた印象があります。
松尾さんは……あんな感じですから(笑)。特に問題なく、楽しくお芝居をやらせていただきましたけど、お芝居においては慣れてきすぎてもいけないところもあるから。毎日新鮮にやれたらいいなと思っています。
新しく今回出演する福ちゃん(※福本伸一)は、舞台での共演は初めてですが、ドラマではよくお会いしている。十分に力がある方ですから、また新たに引っ張ってもらえるのではないかなと期待しています。
――高田さんは福本さんとはご面識はあるのですか?
高田 初めてですね。 『裸足の散歩』の最初のシーンは、私と福本さんふたりだけのシーンなので、福本さんにいろいろ勉強させてもらいつつ、「笑っていいんだよ」とお客さんを和らげる役割を担っていきたいです。早くお稽古したいです!
――ニール・サイモンの魅力はどんなところにあると思いますか?また、コメディ作品において心がけていることを教えてください。
高田 台本をひたすら読んで、稽古をする毎日の中で、私は正直どこが“笑いどころ”なのか、あまり掴めていなかったんです。でも、初日を迎えて、公演を重ねていくと、お客様が同じところで笑ってくださって、“笑いどころ”がだんだんと分かっていって。そこからブラッシュアップをしていったんですね。だから、ニール・サイモンの作品は、本番になって、実際に演じてみないと分からないところが面白いところなのかなと思いました。
コメディに関しては……稽古中の戸田さんがすごく面白くて。いろいろと技を盗もうと思って、全く同じことを真似したりしていました(笑)。
戸田 この作品は、ニール・サイモンの初期の作品なので、とても若々しい作品ですよね。私は何本かニール・サイモン作品を経験していますけれども、『裸足で散歩』は、新婚のふたりと、ニール・サイモンの初々しさとが重なって面白いなと思いますし、やはり会話の妙といいますか、みんなで交わしていく会話のテンポ感が面白い。
新婚夫婦が喧嘩をして、互いにいろいろなことを出し切って、ステップアップしていく。そんなごく普通の他愛もない日常を描いているんだけれども、それをコメディとして見てもらうわけですよ。狙いすぎず、奇を衒わずに。上質なコメディにしていきたいなと思うんです。
登場人物の誰も完璧な人がいなくて、最終的にみんなが少しだけ成長する。新婚とは対照的なおじさん・おばさんも少しは成長できるというところも面白いですよね。
――改めて、舞台作品の面白さや魅力を教えてください。
高田 セリフや動きは同じですが、毎回違うコリーになっていることがすごく面白いです。点と点は同じだけど、描かれる線はいろいろな形をしている感じ。
前回、私の母が初日と、折り返しぐらいの日、千秋楽と3回観に来てくれたんですけど、「喧嘩の仕方やみんなとの交わり方が全然違った」、「序盤は緊張していたけれど、終盤はユーモラスだったよ」といった感想をくれたんですが、演じる私たちの気持ちが違えば、観ているお客様の受け取り方も全然違うんですよね。毎日の変化が面白いなぁと思います。
戸田 舞台は観客がいることで初めて成立しますよね。というか、お客様がいなかったら、もう誰のためにやっているか分からない。特にコメディはお客様が笑ってくださる箇所がいくつもあって、そこが一つのバロメーターになるんですよね。まぁ笑いが取れればすべてOKというものでもないかもしれないけれど、笑いがあれば演者のテンションは上がりますし、お客様と一緒に作っていく感じがありますから。
たとえ悲劇であっても、ぐぐぐとこちらに引き付けられているお客様の反応は分かります。で、その反応がわかることが舞台の恐ろしいところでもあって。感触が生で感じられるのは映像にない魅力だと思います。
映像はカメラワークや編集によって、俳優の顔がアップになったり、そのとき裏で何が行われているのかは分からなかったりするけれど、舞台は総合芸術なので、全部を見られているんですよね。私がセリフを喋っていても、他の人が横で何しているのかをじっくり観るのも観客の自由。すべてを見ていただくのは、俳優にとっては厳しいことでもあるんだけど、お客様にとってはそれが楽しいですよね。全部を生で見られる。それが舞台の魅力です。
取材・文:五月女菜穂
撮影:源賀津己
<戸田恵子>
ヘアメイク:相場広美(マービィ)
スタイリスト:江島モモ
<高田夏帆>
ヘアメイク:河井清子
スタイリスト:前 璃子(JOE TOKYO)
衣装クレジット
タンクトップ/AOIWANAKA ☎03-6876-6855
ジャケット・ワンピース/Knuth Marf ✉knuthmarf@intokyo.co.jp
その他スタイリスト私物
<公演情報>
『裸足で散歩』
東京プレビュー公演:
【曳舟】2024年10月10日(木)曳舟文化センター
【西東京】2024年10月13日(日) タクトホームこもれびGRAFAREホール
東京公演:2024年11月8日(金)~11月19日(火) 銀座 博品館劇場
他、大阪、茨城、神奈川、静岡、北海道(幕別、士別、中標津、札幌、大空)、宮崎、大分、宮城、愛知、香川公演あり。
フォトギャラリー(7件)
すべて見る