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『夏目アラタの結婚』黒島結菜の“品川ピエロ”が、コエーッ!【おとなの映画ガイド】

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『夏目アラタの結婚』 (C)乃木坂太郎/小学館 (C)2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会

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猟奇的な連続バラバラ殺人事件の女性死刑囚と獄中結婚──、かなりショッキングな題材の映画『夏目アラタの結婚』が、9月6日(金)、全国公開される。乃木坂太郎による同名ベストセラーコミックの実写映画化。逮捕時にピエロのメイクをしていたことから“品川ピエロ”と呼ばれているモンスターのような犯人・品川真珠役を演じたのは……黒島結菜! 彼女に結婚を申込み、翻弄されながらも命がけの駆け引きをするのが、タイトルにもなっている、柳楽優弥​​が扮した夏目アラタ。ともかく、イメージ一新の黒島がスゴイ。ひとことでいうと、コエーッ!

『夏目アラタの結婚』

『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』の小泉今日子以来の衝撃、とでもいいましょうか。かわいくってものすごく怖い、悪魔的なヒロインの登場だ。

小泉の場合は、歯列矯正装置をつけていて、それでもってニターッと笑うとぞぞっとしたものだが。今回の黒島の歯はあれ以上にインパクトがある。原作コミックでも印象的だった死刑囚・真珠の「ガタガタの歯並び」。どうやって撮ったのかな、CGか? それにしてもうまくできてるな、と映画を観ている間、ずっと気になるにちがいない。

実は、制作に5カ月かかった特注のマウスピースを使ったものだという。劇中、太ってみにくく血まみれの形相、というシーンもあるが、こちらは、3時間かけて特殊メイクをほどこした。この体を張った熱演もあって、驚きから始まり、どんどん“真珠”のブラックホールに吸い込まれていく感じがする。

彼女の被害者である男の首が、まだ発見されていない。元ヤンキーで児童相談所に勤務する夏目アラタ(柳楽優弥)は児童からのある頼みがきっかけとなって、東京拘置所に収監中の真珠と面会をすることになる。そして、その予想とは裏腹の容姿と応対に、動転する。直情型のアラタは、真珠に無視されそうになって、思わず「俺と結婚しようぜ」と切り出してしまう。

意外にも真珠は、本気かよ、という顔をしながらも反応してきた。この日から、許された面会時間は1日20分、ふたりの“交際”が始まった。そしてアラタは、2年間完全黙秘だった真珠からとんでもないことを聞くことになる。「ボク、誰も殺してないんだ」。

真実なのか嘘なのか、そこからドラマは劇的な展開をみせる。

原作は乃木坂太郎が「ビッグコミックスペリオール」で連載し、今年1月に完結した同名漫画。それを『SPEC』シリーズや『十二人の死にたい子どもたち』など、スタイリッシュなミステリー、犯罪ドラマでファンの多い堤幸彦監督が映画化した。

拘置所面会室でのアクリル板越しの息詰まるやりとり、控訴審の法廷劇、インサートされるおぞましい過去の事件など。堤監督の手腕で、映画はテンポよくスリリングに進んでいく。

アラタ・柳楽優弥と真珠・黒島結菜、このふたりを中心に物語は進行するのだが、脇を固める役者も個性的な顔ぶれ。

真珠の無実を信じる弁護士役に中川大志、アラタの暴走にハラハラする児童相談所の所長役に立川志らく、先輩役はこれが映画デビューとなる丸山礼、裁判長役が市村正親、検事役の福士誠治など。なかでも怪優ぶりを発揮し、印象的なのが佐藤二朗だ。

映画の中で、面会シーンだけでなく、待合室のシーンが出てくるのは珍しい気がする。初めて見る人も多いのではないだろうか。「面会から差し入れまで 東京拘置所完全ガイド」なんてサイトがあるので閲覧してみたが、待合室の様子までは紹介されていなかった。

アラタはこの待合室で不思議な人物と出会う。それが佐藤二朗扮する「死刑囚アイテムコレクター」という困った趣味のおじさん・藤田信吾。傑作キャラクターだ。

拘置所とか、裁判所の事情に異常に詳しくて、この品川ピエロ事件のことも、オタク目線で、いかにも嬉しそうに解説してくれる。

見せ場の法廷シーン。思いもよらない服装での真珠の登場は度肝をぬく。「こうきたか!」 ……アラタの隣で傍聴する藤田のリアクションは、まるで観ている観客の視点でもあり、とても面白い。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)乃木坂太郎/小学館 (C)2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会