トロント国際映画祭:レイチェル・ハウスの長編監督デビュー作『The Mountain』
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『The Mountain』 Courtesy of TIFF
今年のトロント国際映画祭では、女性監督の作品が非常に増えたことに気づく。見たい作品を選んでいたら、たまたま女性のものばかりだったというような状況は、7、8年には考えられなかった。それらの女性たちは、それぞれの作品を通じて自分を表現している。レイチェル・ハウスの長編監督デビュー作『The Mountain』も、そのひとつだ。
ニュージーランド人女優のハウスは、『モアナと伝説の海』でおばあちゃんの声を務めたほか、『マイティ・ソー バトルロイヤル』『ネクスト・ゴール・ウインズ』などタイカ・ワイティティの作品、今年公開の『ゴジラxコング 新たなる帝国』などに出演してきた。舞台の演出や短編映画の監督は経験があるが、長編映画は初めて。
主人公は、ガンを患った少女サム。タラナキ山に行きたいと願う彼女は、ある日こっそり病院を抜け出す。彼女の旅には、ブロンコ、マロリーというふたりの少年も加わった。彼らもまた悲しみを抱えている。目的地を目指して自然の中を歩いていきながら、3人は、アイデンティティと友情を見つけていくのだ。
最初、ハウスに手渡された脚本に書かれていた3人の子供は、全員男の子。また、山には名前がついていなかった。この山をタラナキにすると決めたことが、ハウスにとってのとっかかりとなる。
「私たちマオリの文化において山がいかに大切なのかを世界に伝える、すばらしい機会だと思ったの。マオリの文化にはユーモアがたっぷりあるということも語れると思った。マオリの人たちは、悲しみに笑いで対応する。お葬式も、3日間かけてやるけれど、亡くなった人の話をしながら、みんなで泣いて、笑うのよ。最初の脚本を書いたトム・ファーネスは、そういった私の希望をオープンに受け入れてくれたわ」。
3人を演じる子役は、数百人が応募したオーディションで選ばれた。
「長年の仕事、特にタイカとの仕事で学んだひとつは、子役をキャスティングする上では、もともとの性格がキャラクターに近い子を選ぶべきだということ。そのキャラクターを自然に理解できることが大事。最初のオーディションでは、自己紹介をする動画を送ってもらった。それだけでもその子のパーソナリティがかなりわかるから」
山は大きく、昔からあり、これからもずっとある。それに比べると、人ひとりの命は、とても短い。ストーリーはシンプルだが、観た人に多くのことを感じさせる。
「人は、生まれ、死んでいく。それは、愛のサイクル。大事な人を失う経験をした人はたくさんいるでしょう。私も、この映画の撮影開始前に母を亡くした。母の死が迫った時、人生とはいかに短くはかないのか、私は強く思い知らされたわ。だから、どの瞬間も大事に生きなければならないのだと」。
長編映画を監督するのは「簡単ではなかったけれども、思ったほどには難しくなかった」と振り返るハウスは、次にオーストラリアのテレビシリーズを監督する予定だ。その前に、この秋には『モアナと伝説の海2』の公開も控える。
「ディズニーがポリネシアの文化についての映画を作るなんて、それまで思ってもいなかった。多くの喜びをもたらしたあの作品を、私は心から誇りに思っているわ」。
文=猿渡由紀
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