舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』より
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すべて見る2022年7月からTBS赤坂ACTシアターでロングラン上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。小説『ハリー・ポッター』シリーズの作者であるJ.K.ローリングと共に、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーンの3人が舞台のために書き下ろした物語で、小説の最終巻の19年後を描いた作品だ。
3年目を迎える本作で、ハリー・ポッター役としてデビューを果たした平方元基(吉沢 悠とWキャスト)に、作品に懸ける思いを聞いた。
ーーハリー役のデビューから1カ月が経ちましたが、お客様の反応はいかがですか?
平方元基(以下、平方) ありがたいことに連日たくさんのお客様に来ていただいています。夏休み期間ということもあって、今はお子さんを連れて家族で観てくださる方が多いですね。
日本だと観劇中になかなか笑い声や感嘆詞が客席から出てこないんですけど、まるでブロードウェイやウエストエンドにいるのかと錯覚するぐらいお客様の反応があったり、僕たちが言うセリフにお子さんが答えてしまう日もあったり、生の反応がとても新鮮に感じます。お客様の反応によって、その日その日の公演の色合いが変わっていくので、そこが面白いですよね。
毎日キャストが全然違うので、新鮮さは失われてないです。また先日、アルバス役として福山康平くんがカムバックした公演がありましたが、今アルバス役を演じているふたりとはまた違ったアルバスだったので、いい刺激になりました。
僕らは僕らで3年目キャストとしてしっかり稽古を積んできたので、どういう球が飛んできても、ちゃんと受け止められると思いましたし、1公演1公演ちゃんと前に進めているという実感が得られました。
ーー平方さんは舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が日本で開幕する前に、イギリスのウエストエンドで本作をご覧になっているそうですね。
平方 はい。舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』がウエストエンドでオープンする年に、たまたま旅行でイギリスに行っていたので、観ることができました。そのときは「『ハリー・ポッター』の世界が舞台になるんだな、すごいな」とは思っていましたが、これを日本で上演するなんて、しかも自分がハリー役をやるなんて思ってもいませんでしたからね(笑)
でもその後、日本人キャストで舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が上演されると知って……世界で上演されている作品が同じように日本でも上演できるんだと、日本の演劇の底力みたいなものを見せつけられた気がしました。まぁ、そのときも自分が出演するとは全く思っていませんでしたけど(笑)
ーー「出演するとは全く思っていなかった」と話す平方さんですが、ハリー役に決まったときはどんなお気持ちでしたか?
平方 そもそもなぜハリー役を受けたのかというと、海外の演出家の方がオーディションを見てくださると知ったから。僕のことを知らない人とゼロからものを作っていくなんて、すごくいい経験になるなと思って、挑戦しようと思ったんですね。
結果、ハリーに決まったときは、もちろん嬉しかったですけど、同時にまずいことになったなと思いました(笑)。歴代のハリー役の先輩方と話す機会もあるのですが、やはりかなり大変なことをやる舞台なんです。ひとつでも何かを間違えると、怪我をしてしまったりするから。だから、改めてとてつもないことをやるんだなと思いました。
ーー稽古を経て、観客としてご覧になったときと作品の印象は変わりましたか?
平方 稽古が始まる前に台本をいただいて、例えば「あ、これぐらいのト書きしかないんだ」と思っても、いざ舞台作品として立ち上げると、魔法がたくさんあって、人間ドラマが濃密に描かれていることに気づかされましたね。
稽古場では毎日毎日ディスカッションを重ねていたんですけど、そのディスカッションを通して、背負っている役が3次元化されていく。役者の体にセリフが入って、吐かれているセリフが温度を持ち出していく。そうして立ち上がったものを見ると、観客として観ていたときよりも、ぐっと大人な作品だなという印象を受けました。
ーーそもそも平方さんとハリー・ポッターシリーズとの出会いは?
平方 高校の英語の授業で、僕があまりにもつまらなさそうにしているので、カナダ人の先生が授業でハリー・ポッターシリーズを取りあげてくれたんですよね。
最初は「こんな子どもじみたもの嫌だよ!」と思っていたんですけど、小説も読んだし、映画も見たし、ちゃんとハマりました(笑)。とても緻密に人間関係が描かれているし、魔法界の話ではありますけど、ちゃんとリアリズムがあることも魅力的ですよね。
ーー平方さんと同じく、3年目でハリー役としてデビューされた吉沢悠さん。日々一緒にお稽古されていたと思いますが、どんなやりとりをされていたのですか?
平方 誰よりもずっと一緒にいたし、彼がいないと、僕は多分ハリー・ポッター役として存在することもできなかった。彼がいたから、自分の演技のプランと言いますか、「こういうハリー・ポッターでいいんだ」と思えることがたくさんあったんです。
「吉沢さんがああやっているから、自分はこうやろう」みたいな対抗意識は全くなくて、お互いにちゃんと演出家が求めているハリー・ポッター像を目指して、同じ方向を向きながら歩けたんです。ライバル意識が一度も生まれなかったことが、自分としては不思議な経験でしたね。
何なら本番が始まっている今も毎日連絡を取り合っていますね(笑)。
「今日は2回公演だね!」とか「今日はここのシーンが大変だと思うけど、頑張ってね」とか、そういうメッセージのやり取りを毎日していることからも、僕らの信頼関係が見て取れるかなと思います。
ーーご自身では、平方さんハリーと、吉沢さんハリーとの違いは何だと思いますか?
平方 よく聞かれるので、(吉沢)悠くんともよく話すんですけど、結局はお客様がどう観てくれるかなので、僕たちはその答えが分からなくて。「1年目とも2年目とも違って新しかった」という声は届くのですが、何が新しいのかは分からないんですよ。劇場って、その日そのときにしか起きないことばかりが起こる場所ですからね。
……まぁ、それでも敢えて言うなら悠くんの方が、イギリス紳士っぽいというか、ちょっとクレバーな印象があるかな(笑)。でも詳しくは他の人に聞いたり、ご自身で見比べたりしてみてほしいです。
ーー小説や映画と違い、舞台ではハリー・ポッターは37歳で、父親になっていますが、本作でのハリー像について教えてください。
平方 小説と映画と舞台と3つを並べられることが多いですけど、基本的に小説から始まって映画になっていますし、小説から始まって舞台になっているんですよね。つまり、帰り着くのは小説なんです。
映画版だと画力が強くて、視覚的な要素が入ってきて、それはそれで楽しいんですが、小説は文字だけなので、余計に読む側の想像力で物語が膨らんでいく。改めて小説を読み返すと、ハリー・ポッターというキャラクター自体、こじらせてるところがたくさんあるし、想像よりもダークで大人も十分楽しめる文学だなと思うんです。
舞台はその小説の19年後を描いていますが、小さなヒーローの男の子が頑張って悪を倒す……という部分ではない人間ドラマが色濃く描かれている点がポイントかなと思いますね。
ーー2024年8月9日に、総観客数100万人を突破しました。それほどの人がこの作品を観るのはなぜでしょう? どんなところに惹かれているのでしょう?
平方 答えが出ない舞台だからかな。
だいたいどんな演劇作品でも、1番最後のシーンで「結末」が見えるじゃないですか。でもこの舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』にはそれがない。「これで息子とうまくやっていけるんだろうか?いけないんだろうか?」ともやもやする人もいると思うんですけど、こちらとしては答えを出していないし、そこがこの作品のいいところだと思います。
さまざまな賞をとっている作品ですけど、技術面で言うと、照明がすごいんですよ。普通「何かを見せる」ために照明を当てると思うんですけど、この舞台には「何かを消す」ため、「何かを見せない」ための照明がたくさんあるんです。
この作品は、上演中に出されるキュー(舞台進行のきっかけ)が2000個ぐらいあるんですよ。キュー・コーラー(キューを伝える人)が舞台袖でキューを出して物語が進んでいくんですけど、それが止まるとこの作品は何もできないくらい緻密に作られていて。
だから俳優としては自分たちが自由に演じられるところと、絶対に守らなくてはいけないところとがあって、そこはものすごく難しいところなんですけど……でも世界で認められた作品なので、そこは安心して、みんなで信じてやっていけるかなと思います。
ーー平方さんの本番前のルーティーンを教えてください。
平方 公演がある日は、朝7時ぐらいに起きて、30〜40分散歩にいきます。昼公演も夜公演も出演するとなると、1日のうちで風を感じたり、太陽を浴びたりする時間がほぼないんですよ。そういう期間が長くなればなるほど、心身的な影響が出てくると思うので、朝に散歩をするようにしています。俳優というより、人間として必要な習慣かもしれません。
それから食事面では、お腹いっぱいになってしまうと意識が朦朧としてしまうので、フルーツを朝食としてよく食べています。これまであまりスーパーでフルーツを買うこともなかったんですけど、いちじく、プラム、もも、ぶどうと、この年にして旬の果物のおいしさに気がつきましたね(笑)
ーーもしタイムターナー(逆転時計)があったとしたら?
平方 僕は1回も過去に帰りたいと思ったことはないんですよ。そういうと「素敵ですね!」なんて言われるんですけど、みなさんも帰りたいですか?ポンコツな逆転時計なら5分しか持たないですよ?(笑)
……僕が今ハリーを演じているから思うことなのかもしれないけど、僕が生まれたときに、両親がどういう顔をしてたのかは知りたいかもしれません。生まれてすぐだから記憶はもちろんないですし、ちょっと見てみたいです。
ーー最後に、俳優としての夢や目標を教えてください。
平方 僕、今すぐ俳優やれなくなったとしても、別に後悔もないんですよね。見えない未来に期待するよりも、今、目の前の環境を楽しんで、感謝して、充実させていきたいんです。そのためにも、まずはこの『ハリー・ポッターと呪いの子』を必死に頑張ります!
取材・文:五月女菜穂
<公演情報>
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』
ロングラン上演中
会場:TBS赤坂ACTシアター
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