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トロント国際映画祭:イタリアの不法移民を描く感動作『Anywhere, Anytime』

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左から)イブラヒマ・サンブー、ミラド・タングシャー監督 (撮影:猿渡由紀)

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今年のアカデミー賞で国際長編部門に候補入りしたイタリア映画『Io Capitano』(マッテオ・ガローン監督)は、イタリアに渡ろうとするセネガルの青年が、船に乗るまでにアフリカで多くの困難に直面する状況を描いた。だが、望み通りイタリアにたどりつけたとして、その後はどうなのか。

今年のトロント国際映画祭で上映された、ミラド・タングシャー監督によるイタリア映画『Anywhere, Anytime』は、イタリアにたどりついたセネガルの不法移民の物語。主人公イッサは市場で働いていたが、取り締まりを恐れる雇い主から、ある日突然解雇される。途方に暮れていると、移民仲間のマルコは、彼の名前で登録してあるアカウントを使ってフードデリバリーの配達人として働くよう勧めてくれ、中古の自転車まで買ってくれた。親切なマルコのおかげで救われたと思うや否や、仕事を始めてまもなく、イッサの自転車が盗まれてしまうのだ。

イラン出身、イタリア在住で、過去にドキュメンタリー映画を監督したタングシャーがこの映画の構想を抱き始めたのは、自転車でフードを配達する人たちが目立ち始めた2018年。イタリア人にとっては需要があり、移民にとってはありがたい働き口であるフードデリバリーのビジネスは、急速に成長した。

「その夏、僕は、その仕事をするセネガル人の青年にくっついて、レストランから配達先まで、あちこちを回った。そんな中で、自転車は、ある人たちにとって、まだ非常に重要な存在なんだと気づいた。とは言え、『自転車泥棒』のリメイクをするつもりはなかったよ。それは恐れ多すぎる。あの映画から75年経っても、自転車がサバイバルを左右するのだということを、現代の移民の視点で語りたいと、僕は思ったのさ」(タングシャー)。

それからタングシャーは、移民のためのプログラムや施設を訪ね、多くの人の話を聞いて、リサーチを積み重ねていった。イッサ役に抜擢されたのは、演技とは何の縁もなかったセネガルからの移民、イブラヒマ・サンブー。

「僕が“イタリアのママ”と呼んでいる人が、『知り合いが映画を作ろうとしていて、あなたと会いたいと言っている』と電話をしてきたんだよ。映画なんてやったことないよと言ったんだけど、会ってみてと。それでコーヒーを飲みながら話すことになったんだ」(サンブー)。

Courtesey of TIFF

演技の経験がないサンブーは、ほぼすべてのシーンに出演する。しかも、映画の撮影は、脚本の流れ通りには行われない。助監督の提案で、映画の後半に起きる重要なことの前と後は混ぜないスケジュールにするよう工夫されたのは、非常に大きかった。いつまでも心に残るラストシーンが撮影されたのも、最終日だ。

「あのラストシーンまでに、彼は5週間をあのキャラクターとして生きてきたんだからね。僕らはそれをとらえたかったんだ。イブラヒマは本当にすばらしい仕事をしてくれたよ」(タングシャー)。

シンプルながらとてもパワフルなこの映画を通じてタングシャーが伝えたいのは、日常生活で無視されがちな人たちにも関心を持つこと。

「西洋社会は、一部の人たちを目に見えないよう管理してきた。だが、実際には、駅であれ、道端であれ、移民はどこにでもいる。数秒でいいから、その人たちがどんなことに直面しているのか、考えてみてくれれば。それはイタリアだけでなく、世界のいろいろなところで起きていることなのだしね」(タングシャー)。

文=猿渡由紀

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