『憐れみの3章』
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すべて見る俳優のジェシー・プレモンスがヨルゴス・ランティモス監督の新作『憐れみの3章』に出演している。プレモンスはこれまでに数々の名監督と仕事をしてきた実力派だが、ランティモス監督からの出演オファーは即決だったという。
ジェシー・プレモンスは主演作が次々に公開される俳優ではないが、そのキャリアは華々しい。ポール・トーマス・アンダーソン監督作『ザ・マスター』、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ブリッジ・オブ・スパイ』『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』、ジェーン・カンピオン監督の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』などに出演し、マーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』では、レオナルド・ディカプリオ演じる主人公を追う捜査官を演じた。
名監督が信頼を寄せる男、それがジェシー・プレモンスだ。
「“ヨルゴス・ランティモス監督から話がきています”と言われて即決しましたよ(笑)。台本を受け取ると、むしゃぶりつくように読み、様々な感情が湧きあがったのですが、すべて読み終えると……あれ? どんな内容だっけ? でもこれは絶対に“アリ”だと。全力でぶつかってみようと思ったのです」
プレモンスがそう思ったのも無理はない。本作はタイトルのとおり3つの物語で構成されており、それぞれの章で描かれる物語、テーマが巧みに絡み合う作品だからだ。
「最初に台本を読んだときから、徐々に積みあがっていきました。読んだあと、どれくらい経って稽古に入ったのかはもう覚えていませんが、すぐに体に沁み込んできたことは覚えています。読み返すと、また少し違った風にも感じました。映画のテーマやムードは、かなり早い時点で体に入っていましたが、頭では何のことだか、さっぱり分かっていませんでした。この映画をどう捉えればいいのか、理性では分かっていないのに、体はすぐに反応していました。この不思議な感覚がしばらく続きました」
観客がスクリーンで起こる出来事を少しずつ解釈したり、掛け合わせるように、出演者たちも時間をかけて本作に取り組んだようだ。ラッキーなことに撮影は第1章から、2章……と順番に行われた。
「そうでなかったら、大混乱になっていたでしょうね(笑)。どんな映画にも始まりがあり、終わりがあります。この映画では、それを3度も味わうことになりました」
そんな状況でも俳優が安心して演技を続けられたのは、確かな監督がいたからだ。本作を手がけたヨルゴス・ランティモス監督は『籠の中の乙女』『女王陛下のお気に入り』『哀れなるものたち』などで知られる現代最高峰の映画作家のひとり。その作品世界はいつも複雑で、観客の度肝を抜く出来事が起こるが、その先には深淵なドラマ、哲学的な主題が広がっている。
「確固とした独自の演出をする名監督です。型にはまることを拒絶するその姿勢は、いまの時流とは正反対で、とても清々しかったです。神出鬼没で、曖昧で、真意を捉えにくいところもありますが、温情に溢れていて、心から寄り添ってくれていることが肌から伝わってきました。細やかな気配りをし、決して先入観を持ってものごとや人を見ません。誰もが自由に発想できるように取り計らいます。新境地が開ける素晴らしい仕事でした」
これでまたプレモンスの“名監督との仕事リスト”に新たな名前が加わった。高い演技力で観客や監督を魅了する名優でありながら、その姿勢はどこまでも控えめ。画面に映るとみんな好きになってしまう不思議なたたずまい。ジェシー・プレモンス、本当に愛すべき俳優である。
「新人であろうが、ベテランであろうが、常に刺激を受けるような方と仕事をすることが大事です。独自の味を持っていて、そこから学ぶことができるような方々です。そんな風に仕事を決めています。思えば、この人生の大半で、ずっとそんな考え方をしてきています。
役者の仕事は、いつも違うことをするところに面白みがあります。毎回、全く新しい体験をし、新しいことを学び、発見します。今までに身を置いたことのない領域に挑戦することが、この仕事に関わるものの重要な役目だと思います」
あなたが映画ファンならば、間違いなく彼の顔は見たことがあるはずだ。きっと「いい俳優だな」と思ったに違いない。ぜひ、『憐れみの3章』でもプレモンスの名演を見届けてほしい。
もしまだ名前を覚えていない方がいたとしたらこの機会にぜひ。彼の名前はジェシー・プレモンス。これだけ名作に出ているのに「冒険はこの稼業の掟であり、成功させなくてはなりません。普通の方々が経験できないような経験をさせてもらっていますから」と語る謙虚すぎる名優だ。
『憐れみの3章』
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