国立西洋美術館にて開催中の『ル・コルビュジエ』展。20世紀建築の巨匠の原点に迫る
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国立近代美術館 外観
20世紀を代表する建築家、ル・コルビュジエ。彼の建築作品で世界文化遺産でもある国立西洋美術館(本館)で、ル・コルビュジエの絵画とそのルーツに迫る展覧会『ル・コルビュジエ 絵画から建築へ—ピュリスムの時代』が開催されている。
ル・コルビュジエ(1887〜1965)と言えば建築や家具の設計で名を知られているが、もともと画家志望だった彼は本名のシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ名義で多数の絵画作品を発表している。
同展は、スイス出身の若き画家がパリで新たな芸術運動「ピュリスム」を追求しながら、「ル・コルビュジエ」として大成するまでの10年間に焦点を当てたもの。
「ピュリスムの誕生」「キュビスムとの対峙」「ピュリスムの頂点と終幕」「ピュリスム以降のル・コルビュジエ」の4章構成で、彼の原点でもあるピュリスム運動の流れ、そしてル・コルビュジエが理想とした普遍的な美の姿が、抽象的な絵画や建築に具体的に展開されていく過程を辿っていく。
1918年に出会った画家アメデ・オザンファンとル・コルビュジエは、当時革新的な芸術として隆盛していたキュビスムに代わる新しい芸術を立ち上げようと模索。「比例」と「幾何学」に基づいた秩序と調和を実現する芸術としてピュリスム(純粋主義)を掲げた。

第1章「ピュリスムの誕生」では、オザンファンと共同編集していた月刊誌『エスプリ・ヌーヴォー』での論考や数々の習作・スケッチ、絵画の展示を通してピュリスムが展開していく様子を紹介する。
続く第2章「キュビスムとの対峙」では、ル・コルビュジエが当初批判しながらも後にその業績を認めたキュビスム作品を展覧。ピカソやブラック、フェルナン・レジェ、フアン・グリスらによる絵画や、ジャック・リプシッツ、アンリ・ローランスの彫刻が並ぶ。

第3章の「ピュリスムの頂点と終幕」では、次第に異なる道を歩み出すオザンファンとル・コルビュジエの絵画の対比に注目したい。また、1925年のパリ国際装飾芸術博覧会のパヴィリオンとして建設・公開された「エスプリ・ヌーヴォー館」の設計図や完成写真から、アール・デコの集大成ともいえる博覧会で装飾芸術を否定し、「住むための機械」としての住宅を具体的な形で提示したことがうかがえる。
そして、オザンファンが『エスプリ・ヌーヴォー』から手を引く形で終焉したピュリスムの時代を経て、第4章ではル・コルビュジエが新たなテーマとした「人間と自然との調和」を実現化するべく、絵画から建築、都市計画、インテリア・デザインまで、広範囲にわたっての活動を紹介する。
今回の展覧会では、展示品とともにル・コルビュジエが設計を手がけた会場にも注目したい。1階の19世紀ホールでは、高い吹き抜けの天井から柔らかな自然光が空間を満たし、建物を支える太い円柱やスロープ、三角形のトップライトなどの幾何学的な形が見事に調和している。そしてスロープを上った2階フロアは19世紀ホールを取り囲むように配置され、高低差のある天井や中3階へと続く階段、採光のための窓がリズミカルな空間を作り上げている。
建物全体がひとつの作品として、同時代に新しい芸術を切り開いた絵画や彫刻と豊かに響きあう。19世紀以降の技術と芸術の発展を経て、調和の時代の20世紀へ。ル・コルビュジエが目指した「近代の精神」を体感できる展覧会になっている。
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