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「北アルプス国際芸術祭2024」11月4日まで開催中 10月12日からは「マームとジプシー」の野外公演「equal」の上演も

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ヨウ・ウェンフー〈游文富〉《竹の波》

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長野県の北西部に位置する大町市を舞台に2017年より開催されている「北アルプス国際芸術祭」。第3回目となる「北アルプス国際芸術祭2024」が9月13日(金)に開幕。11月4日(月・祝)まで開催されている。

長野県大町市は、西側に3000m級の山々をのぞみ、北アルプスを源とする豊かな水や、昔ながらの原風景を残す農村部なども点在する風光明媚な場所。平安末期から戦国時代には豪族、仁科氏によって市場町が築かれ、江戸時代は、日本海側から太平洋側へ、塩や海の物を運ぶための交易路だった千国街道、通称「塩の道」の宿場町として栄えたという歴史をもつ。

今年は国内外から約35組のアーティストが参加し、そんな大町固有の歴史や風土に触発され、「市街地エリア」「ダムエリア」「源流エリア」「仁科三湖エリア」「東山エリア」と5つの特徴的なエリアを舞台にサイトスペシフィックな作品を展開している。ここでは、各エリアの新作を中心に作品をピックアップして紹介する。

■市街地エリア

かつて千国街道の宿場町として発展した歴史をもち、高度成長期に栄えた商店街が昭和の風情をのこす大町市の中心街。通りから少し路地を入ると、今なお床下に水路が通る家屋がならび、流れる水の音が聞こえてくる。

エカテリーナ・ムロムツェワ《山のくちぶえ》
(左)床下に水路がある風情ある町屋の2階で作品を展示 (右)エカテリーナ・ムロムツェワ 

今は空き家となった風情ある町屋で作品を発表しているのは、ロシアにルーツをもつエカテリーナ・ムロムツェワ。家屋の下を流れる水の音にインスピレーションを得たというムロムツェワは、水の重なりを抽象的な水彩で表現。薄い紙に描かれた作品が、床下を流れる水音に呼応するかのようにゆらぐ様子が心地よい。ムロムツェワは、東山エリアの佐々屋幾神社でも日本の民話からインスピレーションを得た映像作品を発表している。

山本基《時に宿る》
塩の道ちょうじゃ

江戸時代に塩問屋を営んでいた平林家の居宅だった建物で国の登録有形文化財にも指定されている「塩の道ちょうじゃ」の塩蔵では、北アルプスとその麓に広がる土地にも見える山本基のインスタレーション《時に宿る》が展示されている。七夕の日に織姫と彦星の出逢いを助ける「川越し」人形を飾るという伝統に興味を持ったという山本は、古くから残る塩蔵で、「川越し」人形のように隔たれた思いを繋ぐ架け橋になることを願い塩で描いた。

鈴木理策《風の道 水の音》

市街地の裏路地に残る古い土蔵で《風の道 水の音》と題した作品を展開しているのは写真家の鈴木理策。季節が移ろうたびに大町を訪れ、同じ場所を同じアングルで撮影した写真が整然と並べられた展示空間から、北アルプスの雄大な自然のなかに流れる時間を感じることができる。

ムルヤナ《居酒屋MOGUS》

信濃大町駅近くの飲み屋街にある元はスナックだった店舗を活用し展示しているのは、インドネシア出身のムルヤナだ。観客は、店内のカウンターにズラリと並んだカラフルな毛糸から好みの“食材”を選び「フードモンスター」を制作する。これは作家がコロナ渦に孤独を感じ、支給された弁当の食材から想像上のモンスターを作り出し、毛糸を素材にリメイクしたという経験から生まれた作品だという。

(左)さまざまな食材から創り出された「フードモンスター」たち (右)展示会場となっている元スナックは、かつて大町で働く人たちの憩いの場だった

2016年に廃校となった旧大町北高等学校の校舎では、4名のアーティストによる作品が展示されている。

旧大町北高等学校

コロンビア生まれのマリア・フェルナンダ・カルドーゾは、かつて図書室として使用されていた場所で展示。杉の若木の芯に心臓の形を見出し、4000ピースもの多様な木の“心臓”が命の鼓動を感じさせるインスタレーションを展開している。視聴覚教室で、仁科三湖に伝わる巨人「ダイダラボッチ」の伝説を題材としたフェイクドキュメンタリーを上映しているのは小鷹拓郎。大町市の職員や市民、専門家などの「証言」を盛り込み、虚構と現実を行き来しながら、「伝説の巨人」がこの地にもたらしたものを浮かび上がらせていく。

マリア・フェルナンダ・カルドーゾ《Library of Wooden Hearts》
小鷹拓郎《ダイダラボッチを追いかけて》

ヨーロッパを中心に活動し、世界のライトアートを牽引する千田泰広は、かつて教室だった場所を暗室にし、網膜や脳を介することで無数の光の波を体感させるインスタレーション展開。原倫太郎+原游は、カフェと遊び場とが一体となった憩いの場をプロデュース。大町をテーマとした立体すごろくが縦断するカラフルな空間では、軽食やドリンクなどを楽しむこともできる。

千田泰広《アフタリアル2》
原倫太郎+原游《大町北高双六カフェ》 photo:Hirabayashi Takeshi

■東山エリア

大町の市街地の東側、豊かな里山が広がり、この地に暮らす人々の日々の営みを体感することができる東山エリア。身近な自然や気候に思いを寄せ、主に保存や記録が可能なガラスを使った作品を制作している佐々木類は、かつて麻の産地として栄えた美麻地区にある1698年築の茅葺き屋根の民家「旧中村家住宅」で、麻を使ったインスタレーションを展開。上質な麻を使ったカーテンをくぐった先にある厩では、かつて麻畑だった場所で採取した植物を焼成しガラスのなかに閉じ込めた、美しいタイムカプセルのような作品を設置。この土地の記憶を掘り起こし、そして留めることを試みている。

佐々木類《記憶の眠り》 ガラスは、発電所の建設事務所として使用されていた建物の窓ガラスを使用している
(左)国の重要文化財にも指定されている旧中村家住宅 (右)かつて麻の加工作業をしていた土間には、麻のカーテンに当時の麻栽培の様子などを捉えたモノクロ写真が写しだされている

韓国出身のアーティスト、ソ・ミンジョンは、美麻・二重地区にある屋内ゲートボール場で木を使った巨大なインスタレーションを展開。真っ白な発砲スチロールの雪原に、炭化した黒い巨木が倒れ生々しい跡をのこしているかのような光景は、地球温暖化や山火事の脅威のメタファーであり、自然と人間との関係を改めて問いかけている。

ソ・ミンジョン《黒い跡》

かつて大町をおさめていた仁科氏によって祀られた仁科神明宮。日本最古の神明造様式の建物として、本殿、中門などが国宝にも指定されている神社に隣接する森を進んでいくと、木々の隙間から2点の巨大なモノクロームの絵画作品が現れる。こちらは、イギリスのアーティスト、イアン・ケアによる《相阿弥プロジェクト モノクロームー大町》と題した作品。水墨画を想起させる高さ20メートルもの巨大な絵画が風にたなびき、森の木々や差し込む光とともに荘厳な光景を創り出している。

イアン・ケア《相阿弥プロジェクト モノクロームー大町》

かつて大町市と八坂村をつなぐ最重要ルートとして開削された旧相川トンネル。南アフリカのアーティスト、ルデル・モーは、今は使われていない古いトンネルのなかに2体の魚のような形をしたレリーフを設置した。廃墟となったトンネル内を浮遊しているかのような2体の魚はこの土地の土や竹で作られており、自然にさらされ、やがて土へと還っていく。「非永続性」をテーマに作品を制作しているモーが、トンネル内に創り出した夢と現実の狭間のような空間だ。

ルデル・モー《Folding》
(左)魚のような生き物をモチーフとしたレリーフ (左)ルデル・モー ※写真右

地域の人々が集う八坂公民館を、竹を編み込んだ造形でぐるりと一周囲うというダイナミックなインスタレーションを展開しているのは、台湾のアーティスト、ヨウ・ウェンフー〈游文富〉。竹が波をうっているようなデコボコとした囲いの形状は「風のかたち」を表しており、目には見えない「風」がそこに吹き抜けていることを可視化している。取材時は公民館の手前にある田んぼの稲が風で倒されており、その風景も含めて北アルプスを吹き抜ける風の存在を視覚的に感じさせていた。

ヨウ・ウェンフー〈游文富〉《竹の波》

北アルプスを一望する高台にある大町公園では、船川翔司が《AWHOB-O – ある天気と此性の観察局 – 大町-》と題した作品を設置。北アルプス上空の気象データを取り込み、それに呼応してLEDが光るなど作品に変化がもたらされる。会期中は不定期で作家によるパフォーマンス等も行われる。

船川翔司《AWHOB-O – ある天気と此性の観察局 – 大町-》

■仁科三湖エリア

青木湖、中綱湖、木崎湖と趣の異なる3つの湖を擁する仁科三湖エリア。カナダのアーティスト・ユニット、ケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレットが青木湖畔にたたずむ仁科神社の森のなかで展開しているのは、14000個もの不要となったメガネの度付きレンズを使ったインスタレーション。レインシャワーのようにも見える作品は、森に差し込む光を反射してキラキラと輝き、さらにひとつひとつ度数の異なるレンズのなかに周囲の景色を多角的に取り込む。作品の中央には円形のベンチが設置され、無数のレンズによって変化する湖畔の景観を楽しむことができる。

ケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレット《ささやきは嵐の目のなかに》
湖畔の風景がひとつひとつのレンズに取り込まれ、再構築されている

中綱湖の湖畔に位置し、芸術祭ではカフェ&レストランとして使用されている「ふるさと創造館ラーバン中綱」で作品を展示しているのは、2017年の第1回から「北アルプス国際芸術祭」に参加し、地域を巻き込んだプロジェクトを展開しているコタケマンだ。今回は、山の主(ぬし)が宿る場所を探し出し、その土地の土を使って人々が踊りながら巨大な絵を描くまつりを3回開催。そこで描かれた巨大な作品を分割し、展示している。制作途中で何度も雨に降られ、そのたびに書き直したという。作家は「山の神にやり直せと言われたよう。自分がコントロールして描いているのに、コントロールされているようだった」と語った。

コタケマン《やまのえまつり》

「ラーバン中綱」で展開する「カフェ&レストランYAMANBA」で作品を展開しているのは種や実などの小さなものを集め、やがて土に還るような作品を展開しているアーティスト蠣崎誓(かきざきちかい)。種籾(たねもみ)、草木染め籾殻(もみがら)、白樺、花豆、小松菜種など、253種もの自然の素材を整然と並べ、「泉小太郎伝説」など大町に伝わるさまざまな民話やこの地の暮らしをモチーフに美しいレリーフで表現した。素材は半分以上が地元の人から提供を受けたもので、展示終了後、希望者に種を配布する予定だという。

蠣崎誓《種の民話 ーたねのみんわー》
レリーフに使用された素材そのものも展示されている

■ダムエリア

大町市は黒部ダムへの玄関口としても知られ、さらに北アルプスの麓に大町、七倉、高瀬という3つのダムを擁する。磯辺行久は2021年に続き、石や岩石を積み上げたロックフィルダムとして知られる七倉ダムでインスタレーションを展開。《北北西に進路を取れ》と題した今回の作品は、綿密なリサーチによりダムができる前の高瀬川の流れを吹き流しを並べて表現。さらに円形に積み上げた石でコンパスを描き、軸としての北北西の方角を示した。自然や地形、水の流れの変化が、七倉ダムのダイナミックな景観にオーバーラップする壮大なランド・アートだ。

磯辺行久《北北西に進路を取れ》

■源流エリア

北アルプスの豊富な雪解け水をたたえる鹿島川流域。のどかな田園風景のなかに浮かび上がるように現れる鎮守の森に佇む須沼神明社の神楽殿では、イタリアと日本を拠点に活動している宮山香里の《空の根っこ -Le Radici Del Cielo―》が展示されている。「空」と「大地」など反対の概念にあるものの関係やつながりをテーマに作品を制作している宮山。神と人間との接点ともいえる神楽殿で、絹に木版で描いた羽衣のような布がたなびく様子は、空に流れる雲のようでもあり、大地に根差した根っこのようでもある。「空」と「大地」が溶け合うような空間を表した神秘的な作品だ。

宮山香里《空の根っこ ― Le Radici Del Cielo ―》

既存の作品も含め、上記に紹介した以外にも多くの作品が5つのエリアに点在している。オフィシャルツアーやアートバスなども上手に利用し、なるべく多くの作品を効率よく鑑賞しよう。

なお、10月12日(土)・13日(日)・14日(月)の3日間は、爺ガ岳スキー場の野外特設舞台にて、藤田貴大が作・演出を務めるカンパニー「マームとジプシー」による公演「equal」が上演される。こちらも合わせてチェックしてほしい。

マームとジプシー「equal」 photo:Hosono Shinji

<開催情報>
「北アルプス国際芸術祭2024」

2024年9月13日(金)~11月4日(月・祝)、長野県大町市(5つのエリア|市街地、ダム、源流、仁科三湖、東山)で開催
※水曜定休

公式HP:
https://shinano-omachi.jp/

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2407643

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