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天文学史に残る発見をした女性たちを描く『Silent Sky』日本初演

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unrato#12『Silent Sky』稽古場より (撮影:藤田亜弓)

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演出家・大河内直子が様々な出自の役者たちと舞台を創り上げるユニットunrato。その最新作は、1900年代前半に実在した米国の天文学者ヘンリエッタ・スワン・レヴィットの生涯をもとに、劇作家ローレン・ガンダーソンが戯曲化した『Silent Sky』(2011年)。ガンダーソンは科学と芸術を融合させた作品を多く発表しており、米国内で年間上演数No.1に3度選ばれた劇作家としても知られる。本作は日本初演ということで、その意味でも注目が集まりそうだ。

出演は、主人公のヘンリエッタに朝海ひかる、その妹で音楽を愛するマーガレットに高橋由美子。またヘンリエッタが勤めるハーヴァード大学天文台の、上司直属の部下ピーターに松島庄汰、膨大な数の恒星を分類してゆく頼もしい同僚アニー・キャノンには保坂知寿。さらに、家政婦から天文学者となった同僚ウィリアミーナ・フレミングには竹下景子と、本作を深く味わえるに違いない贅沢な顔合わせが実現した。

10月初旬という稽古たけなわの頃、緊張しつつスタジオに足を踏み入れると、意外にも演出家と出演者たちは和やかな雰囲気で雑談中。稽古スペースにはクラシカルな本棚にいくつものファイルが収められ、重厚な木のデスクと椅子が向かい合って配置されている。

この日の稽古は後半の2幕から。数年ぶりにハーヴァードに戻ってきたヘンリエッタ(朝海)は、ピーター(松島)と再会する。実家でも研究を続け、天文学史に残る発見を成し遂げたヘンリエッタに同僚のウィリアミーナ(竹下)は大喜びするが……というシーンだ。

朝海が繊細に表現するヘンリエッタに対峙して、松島扮するピーターも言葉に出来ない苦渋をにじませる。約100年前の物語だが、男性の下に位置付けられても研究に情熱を燃やし、家族への思いで揺れ動くヘンリエッタは、現在でもリアルな女性像だ。ウィリアミーナがヘンリエッタに掛ける言葉が示唆に富んで温かい。

ここで大河内がいったん止め、立ち位置や小道具の使い方などを細かく確認していくと同時に、役者にも役の気持ちから自然に出た動きなどを確認すると、竹下や松島から次々に提案が。じっくりと思案している朝海にも答えを急かさず、一緒に考える大河内。その後、確認したことを踏まえて同じ場面をさらうと、人物の心情と情景がグッと明確になったのが傍目にも分かった。

本作の翻訳を手掛けた広田敦郎も、あるセリフについて原作戯曲のニュアンスを大河内に伝え始める。短い言葉でもアクセントの違いで異なる意味にとられる可能性があることなど、全員で微細な調整が続く。スタッフとキャストみんなで丁寧に紡いでゆく舞台。unrato作品の創造の源はこんなところにもあると感じた。

休憩を挟んで稽古は進み、ヨーロッパから船で帰国したヘンリエッタが、妹のマーガレット(高橋)に出迎えられるシーンへ。ウィリアミーナとアニー(保坂)も出迎えにやってくる。アニーも実在の人物で、天文学に成果を残す一方、女性参政権運動家としても活動した人物だ。保坂の低く落ち着いた声がアニーのイメージにピッタリで、ますます本番が楽しみになった。

研究者であるヘンリエッタの人生を陰影豊かに描くストーリーはもちろん、ジェンダーギャップやライフワークバランスなど、今日的なテーマもちりばめられている本作。1982年生まれのガンダーソンの戯曲は、ヘンリエッタたちだけでなくピーターやマーガレットへの目配りも欠かさず、単純な二項対立にとどまらないのが魅力だ。そんな名戯曲の日本初演。これを見逃す手はないだろう。

取材・文:藤野さくら 撮影:藤田亜弓

<東京公演>
unrato#12『Silent Sky』

公演期間:2024年10月18日(金)~27日(日)
会場:俳優座劇場

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/silent-sky/

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