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『天保十二年のシェイクスピア』浦井健治インタビュー

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浦井健治 (撮影:荒川潤)

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シェイクスピア37作品と江戸末期の人気講談「天保水滸伝」を見事に掛け合わせた井上ひさしの傑作戯曲に、浦井健治が再び挑もうとしている。前回公演(2020年)と同様、藤田俊太郎の演出、宮川彬良の音楽で立ち上がる絢爛豪華な祝祭音楽劇で、浦井は新たに“佐渡の三世次”となって熱風吹き荒れる群像劇を牽引。役を替えての稀有な挑戦、その思いを語った。

――2020年の公演では“きじるしの王次”役で出演された本作に、今回は“佐渡の三世次”に扮して再び挑みます。前回を振り返り、さまざまな思いが巡ったのではないでしょうか。

そうですね。まず2020年はコロナ禍で東京公演の千穐楽目前で公演がストップし、大阪は全公演中止となってしまいました。演劇の、エンターテインメントの意義とは何だろう、そうした問いに直面した瞬間でしたね。その悔しさを抱え、またこのメンバーで集まれたら…という強い気持ちを持ったカンパニーだったと思います。でも時を経て、自分が別の役でまた参加させていただくことになるとは思いもしなかったです。最初に「佐渡の三世次役で」とお話をいただいた時は、思わず聞き返すくらいの衝撃を受けました。少し考えさせてほしいとも思いましたし。でも、前回の舞台に携わった人間が受け継いでいくことの重要性を、演出の藤田さんを始め製作の方々は感じていらっしゃるのだなと。「浦井でいきたい」と思ってもらえたことは役者冥利に尽きます。大変な役であることは重々承知しているので、心して挑みたいです。

――天保の世を背景に、シェイクスピア37作品のニュアンスを巧みに盛り込んだ傑作群像劇です。戯曲の持つ力についてはどのように感じていらっしゃいますか。

井上ひさしさんの作家としての情熱、シェイクスピアへのリスペクトを感じる戯曲で、作るうえではやっぱり一筋縄ではいかない、大変な大作ですよね。人間の業や欲、劣等感、権利とは、支配とは……といった、どの時代にも通じる普遍的な問いが込められていて。僕らが感じている疑問や、どう生きるかを考えることに直結したテーマだなと思います。前回僕が演じたきじるしの王次にしても今回の三世次にしても、境遇や他人からの見え方によって変わる部分もあるし、変わらないものもある。人間はいかに愛おしく、愚かなのか、そうした人間味を戯曲から感じました。

――その大作に、違う役で再び向き合えるのはとても稀な、貴重な機会ですね。

そうですよね。初演へのリスペクトを込めてまたゼロから作りたいですし、藤田さんたちの熱意に応えていきたいです。浦井バージョンの三世次とは何なのか、戯曲ととことん向き合って見出していけたら、また新しい景色が見られるんじゃないかなと。僕は新国立劇場で、シェイクスピアの薔薇戦争を描いた歴史劇シリーズに参加させていただき、赤薔薇派であるランカスター家のヘンリー四世、五世、六世、七世を演じさせていただきました。それと対峙するのは白薔薇派のヨーク家、リチャードです。三世次というのはリチャード三世だから、僕は初めて白薔薇の側を演じることになるんですね。リチャードがどういう人間かは見て来て分かっているし、こう見えたほうがいいんだなという感覚もあるので、それが役に立つのではないかなと考えています。

――前回の稽古場で、演出の藤田さんや共演の方々との作品づくりで印象に残っていることは?

新しいものを生み出そうとしている藤田さんとともに、皆で作っていく感じでしたね。僕が初めて藤田さんに会ったのは蜷川幸雄さんの稽古場で、すべてを吸収してやる!というような鋭い眼差しをよく覚えています。今は素晴らしい演出家となって、とてもクレバーに自分の表現を生み出そうとなさっている。僕にもシンパシーを感じてくださっていて、「浦井のやりたいことはこうなんだな、それもありかもしれない」と汲み取ってくれて、一緒にその道を模索しようともがいてくださるんです。でも、その道は遠回りになるんじゃないか……と感じた瞬間に、木場勝己さんという唯一無二の魅力を持った大先輩が、藤田さんや僕に「それは違うんじゃないか」とはっきり言ってくださる。そういう恵まれた環境でトライしていけたのは、とても大きな経験だったなと思います。

――木場さんは2005年の蜷川演出による『天保十二年のシェイクスピア』にも前回、今回と同じ“隊長”役で出演されていますね。この時に藤田さんが演出助手として入られたと伺いました。

唐沢寿明さんが三世次を演じていらした舞台ですよね。その前のいのうえひでのりさん演出では、上川隆也さんが三世次を演じられてましたが、三世次という役は役者を魅力的に見せる役だなと思うんですね。先日のビジュアル撮影で和装して、特殊メイクをしていただいた時に、もうそれだけで表現として強いし、人を惹きつける異様さがあるなと感じて。三世次にはそうした異様、異質なフィルターがあるからこそ、純粋さや貪欲に求める気持ちが真っ直ぐに伝わってくるのだろうなと。その満たされない思いを、役者がどれだけ真実味を持って爆発させることが出来るか。これほどやり甲斐のある役はなかなかないぞ!と、唐沢さんや上川さん、前回の高橋一生さんの表現を見ていて感じました。

――浦井三世次はどんな爆発を見せるのか、楽しみです。

『ファンレター』という作品で小説家の役を演じたのですが、その稽古場で演出の栗山民也さんから「ペン一本に自分の命をかける、その凄まじさは井上ひさしさんと通ずるものがある」といったお話を伺ったんですね。ただ書くことのみに賭けた、その凄さと素晴らしさ。この『天保十二年のシェイクスピア』からは、人間にとって本当に必要なものは?といった問いが紡ぎ出されるような気がします。泥臭く生きていくことがどれだけ尊く、価値があるか、そうした信念を井上ひさしさんは筆に乗せたのかなと。それが今のお客様に届く時、この多様化した、そしてちょっと多感になっている社会において、一つの気づきとなるのではないかなと思うんです。

今回のメインビジュアルは前回のラストシーン、三世次の“散り際”の高揚感を表現していて、前回から繋いでスタートする、その心構えで臨もうとしています。三世次はすべてを利用してのし上がった強烈な、極上の悪なので、その散り際はある意味、妖艶な色気があるんじゃないかなと。もしかしたら見終わった後にドヨンと重い気持ちになるかもしれないけど(笑)、じゃあ明日をどう生きていこうかと前を向く気持ちにもなる、そんな散り際を演じられたら。ぜひとも絢爛豪華な音楽劇をご堪能いただければと思います。

取材・文:上野紀子 撮影:荒川潤

<公演情報>
『天保十二年のシェイクスピア』

2024年12月9日(月)~12月29日(日) 東京・日生劇場
2025年1月5日(日)~1月7日(火) 大阪・梅田芸術劇場
2025年1月11日(土)~1月13日(月・祝) 福岡・博多座
2025年1月18日(土)~1月19日(日) 富山・オーバード・ホール 大ホール
2025年1月25日(土)~1月26日(日) 愛知・愛知県芸術劇場大ホール

『天保十二年のシェイクスピア』ビジュアル

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/tempo/

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