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『翔んで埼玉』まさかの大ヒットスタート その背景にあるのはGACKTと魔夜峰央と東映の縁?

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リアルサウンド

 驚きの結果と言っていいだろう。先週末の映画動員ランキングで初登場1位を飾ったのは、土日2日間で動員19万1000人、興収2億5900万円をあげた『翔んで埼玉』。初日から3日間の累計では動員24万8000人、興収3億3100万円という成績。2位に初登場したのはジェームズ・キャメロン肝いりの企画(監督はロバート・ロドリゲス)の『アリータ:バトル・エンジェル』。3日間の累計興収ではわずかに『翔んで埼玉』を上回ったものの、今週のウィークデイに入ってから、その勢いの差は広がるばかり。『翔んで埼玉』、まさかの大ヒット・スタートである。

参考:興収2週連続1位の『アクアマン』 その空前の大ヒットがDC映画に与える影響は?

 「まさかの」というのも失礼な話だが、東映の実写作品が週末動員ランキングで1位を獲ったのは『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』以来1年2か月ぶり、子ども向けの作品を除くと『相棒-劇場版IV- 首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断』以来2年ぶり、シリーズ作品を除くと2014年10月公開の『ふしぎな岬の物語』以来実に4年4か月ぶりのことである。これまで恋愛系ティーンムービーを積極的に製作してこなかったこともあり、10代、20代の観客層の獲得に遅れをとっていた東映にとっては、まさに「まさかの」逆転劇である。

 既に各所で報じられているように、本作の興行を牽引したのは、ナンセンスなコメディでありながらも作中で屈辱的な扱いを受けている「埼玉」県の観客。県内のスクリーン数は全体の約7%に過ぎないにもかかわらず、都道府県興行収入シェアで東京都を抑え全国1位を獲得。また、劇場別でもMOVIXさいたまが全国で動員数1位となっている。

 文化庁の文化芸術振興費補助金を目当てに、日本の各自治体でチマチマと作られてきたいわゆる「ご当地映画」とは一線も二線も画す今回の企画。「自虐ネタならば我が県も……」と色めき立つ声も出てきそうだが、本作の原作は魔夜峰央が1982~1983年に少女マンガ誌『花とゆめ』別冊に3回にわたって掲載した作品。東京と隣接していて、なおかつ県として絶妙な立場である埼玉県が題材でないと成り立たないのに加えて、原作も今回の映画化で基本的には消化しているのですぐに続編製作というわけにもいかないはず(これだけ大ヒットしているので、この先どんな展開があるかはまだわからないが)。ちなみに原作者の魔夜峰央が原作の続きを描かなかったのは、ちょうど本作の掲載中に埼玉から東京に引っ越して、東京在住の立場だと自虐ではなくなってしまうからとのことだから、その律儀さには恐れ入る。

 東映と魔夜峰央というと、思い出すのは1983年の『パタリロ! スターダスト計画』。同時上映はシブがき隊主演の『ヘッドフォン・ララバイ』で、一部では「東宝の『ドラえもん』、東映の『パタリロ!』」となることも期待されていたとのことだが、劇場公開作品としてはこの48分の中編一本で途絶えてしまった。もっとも、『パタリロ!』は少女マンガ・ファンのあいだで根強い人気を維持し続け、その耽美的な作品世界やキャラクターのコスチュームが、80年代後半以降に台頭することとなったヴィジュアル系のバンドとの親和性を指摘されることもあった。ちなみに、X JAPANのPATAの名前の由来も『パタリロ!』からきている。

 そう考えると、本作の主演をヴィジュアル系バンド出身のGACKTが務めていることも、そしてその衣装やメイクがMALICE MIZER時代のGACKTを思わせるものであることも、さらには作中で千葉県館山出身のYOSHIKIがネタとして登場するのも、すべて必然であると言えるのかもしれない。また、GACKTが東映の作品に出演するのは2009年の『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』以来約10年ぶりのことだが、同作品も公開週に初登場1位を記録。また、累計興収19億円という成績は、今なお破られていない劇場版『仮面ライダー』史上最高記録でもある。つまり、これでGACKTと東映のタッグは負け知らずの2戦全勝ということになる。(宇野維正)