『ハケン占い師アタル』杉咲花の豹変ぶりが好評 主役としての力強さを備え、さらなる進化
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現在放送中の連続ドラマ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)。本作で、派遣社員としてイベント会社に勤務する女性・アタルを演じているのが女優の杉咲花だ。実力派若手女優として、すでに高い評価を受けている杉咲だが、本作でまた新たな一面を見せ、さらなる進化を感じさせてくれる。
以前、杉咲について「瞬発力のある感度の高い女優」と評したことがあった。その例として、ドラマ『夜行観覧車』(13年、TBS系)で見せた、複雑な感情を母親に爆発させる少女・彩花や、映画『トイレのピエタ』(15年)で、余命宣告された青年の感情をえぐり、自身の痛みと共有することで“命”を灯す高校生・真衣、さらには『湯を沸かすほどの熱い愛』(16年)では、宮沢りえ演じる母親とがっぷり四つに対峙する娘・安澄を挙げたが、どの役柄も、相手との関係性のなかで、心の流れが破綻することなく、一気に感情の沸点を持っていく瞬発力は目を見張るものがあった。
感情を爆発させる演技は、ややもするとその場面のみが物語のなかで突出し、シーン全体としてのバランスが崩れることがある。しかし杉咲は、ただ感情的になるのではなく、対峙する相手の次に続く思いを引き出す起爆剤のような役割も果たしていた。
本作で演じるアタルは、派遣社員としてニコニコ穏やかに業務をこなしつつ、特殊能力で板谷由夏や小澤征悦、志田未来、間宮祥太朗、志尊淳、野波麻帆ら制作Dチームの心情や原風景を垣間見る。そして、それぞれが抱える問題に対して、一歩踏み込む際、スイッチが入り、豹変するという役柄だ。丁寧な言葉遣いだったアタルが、徐々に目の色が変わり、腕を組み、足を組み、そして強い言葉で相手を叱咤するふり幅は、大きな反響を呼んでいる。
前述したように、劇中で感情を爆発させ、平時との大きな変化を見せる役は、過去にも経験している杉咲だが、本作はこれまでの役柄と大きな違いがあるように感じられる。それは自らが主体となって、この爆発する瞬間を作り出しているという点だ。『夜行観覧車』では母親役の鈴木京香、『トイレのピエタ』では余命宣告された青年役の野田洋次郎、そして『湯を沸かすほどの熱い愛』でも母親の宮沢りえという俳優(野田はアーティストだが)たちが大きな存在としているなか、受動的に感情を爆発させていくが、今回は自身から仕掛け、相手を引き込んでから、主導権を持ったままスイッチを入れる。ある意味、大きな感情の変化を自己完結させなければならないのだ。
そんな難易度の高いシチュエーションも、違和感なく、物語を成立させる演技力は「感度の高さ」にプラスして、自分から物語の流れを作れる力強さも増しているように感じられる。
ここ最近は『花のち晴れ~花男 Next Season~』(18年、TBS系)で学園もののラブストーリー、映画『パーフェクトワールド 君といる奇跡』(18年)ではストレートな恋愛映画でヒロインを演じた。当時筆者が担当したインタビューで本人は「こういう作品に縁がないと思っていた」と語っていたように、新しいキャラクターへの挑戦が垣間見えた。さらに昨年末は『ダウンタウンのガキの使い!大晦日年越しSP!絶対に笑ってはいけないトレジャーハンター24時』(日本テレビ系)で、バラエティ番組というシチュエーションのなか、振り切った演技で大いなる瞬発力を見せつけ、コメディエンヌとしての可能性を示した。
これまでは、自分自身で「“こういう作品だけでいいかな”という決めつけがあった」と語っていた杉咲だが、ラブストーリーやコミカルな演技に挑戦することで、自分でも予想できない自分との出会いがあったという。「まずは一回挑戦してみよう」という気持ちでスタートした20代。今後、女優としてさらなる広がりを見せていきそうな杉咲からは目が離せない。
(磯部正和)