EXILE 橘ケンチが語る、日本酒の魅力を伝える意義 「各地域を応援することに繋がる」
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EXILE/EXILE THE SECONDの橘ケンチが、「HASHIWATASHI プロジェクト」事務局が主催する、昨年7月の西日本豪雨の被災地域の復興を目的とした『未来の日本酒プロジェクト』のプロデューサーに起用され、2月21日にhotel koe Tokyoにて開催された『未来の日本酒プロジェクト事業発表会』に登壇した。
参考:橘ケンチ『Discover Japan』イベントで手造り日本酒振る舞う 「日本酒の魅力を伝える語り部に」
橘ケンチは、約2年半前に日本酒の魅力に目覚め、以来、“日本の魅力を再発見”を掲げる雑誌『Discover Japan』にて、日本各地の酒蔵巡りに加えて日本酒にまつわる文化を紹介する連載「今宵のSAKE」に尽力。昨年12月14日には、日本酒界の革新的なひと蔵として名高い新政酒造とコラボレーションし、日本酒「亜麻猫橘」をリリースするなど、活動の幅を広げてきた。
一体なぜ、橘ケンチは日本酒を魅力を伝えることに情熱を注いでいるのか。橘ケンチ本人に行ったインタビューとともに、イベントの模様を紹介したい。
橘ケンチが日本酒にのめり込むきっかけとなったのは、知人に連れて行ってもらった日本酒バーだったという。そこで飲んだ日本酒の美味しさに感銘を受けた橘ケンチは、全国各地の酒蔵を巡る企画を思いついたそうだ。
「ちょうど僕が所属するLDHが世界展開を掲げた時期で、僕はLDH ASIAの担当となって海外に行く機会が増えたのですが、海外に行って向こうの方々とコミュニケーションを取れば取るほど、自分が生まれ育った日本という国について何も知らないことを痛感しました。海外の方々は、『自分の国にはこういう歴史があって、こういうものが特産になっている』と、自信を持って自国のことを紹介しているのに、僕はEXILEの活動についてしか話すことができない。世界で活動するには、改めて日本の文化を勉強する必要があると思いましたし、その入り口として日本酒はうってつけでした」
実際、「今宵のSAKE」で全国各地の酒蔵を巡ると、日本酒の魅力を伝えるのはEXILE/EXILE THE SECONDの活動にも通じるものがあると、橘ケンチは気付いたという。
「僕たちは東日本大震災以降、『日本を元気に!』をスローガンに掲げて、復興支援曲『Rising Sun』のリリースや、被災地の子どもたちと一緒に同曲を踊る『Rising Sun Project』などで、エンタテインメント企業だからこそできる復興支援に力を注いできました。日本酒は、各地域の歴史や食文化のシンボルとなっていることが多くて、地元の酒蔵で造られたお酒が地元の飲食店に卸されて、飲食店には地元の名産品となる食材が集まって、観光客をもてなしたり、その土地の人々の交流の場になっていたりします。日本酒は、地域を印象的にしてくれるもので、その魅力を伝えることは、地域を応援することにも繋がると思いました。それに、EXILEやEXILE THE SECONDのライブでは、全国の都市圏しか周ることができませんが、酒蔵はもっと小さな町や村にあるので、より細やかに全国津々浦々を周って、まだ会ったことの人たちと交流を持つことができます。日本酒を巡る旅をすることで、蔵人さんはもちろんのこと、料理人や第一次産業の方など、本当にたくさんの出会いに恵まれました。2年あまりの活動を通じて、自分が求めていたのはこれだと思うようになりましたし、いずれは日本文化を世界に発信するアイコンになっていきたいと考えるようになりました」
橘ケンチは、日本酒について学ぶために、一から日本酒造りも経験。新政酒造の佐藤祐輔氏とともに造り上げた「亜麻猫橘」は、現在LDH kitchenの一部店舗で供されている。
「何事も自ら飛び込んで、実際に自分で経験してみないことにはわからないタイプなんです。ただお酒に自分の名前を付けて『プロデュースしました』というのではなく、お酒造りの苦労を身を以て体験してこそ、出来上がった時の喜びを噛みしめることができましたし、よりいっそう、日本酒の魅力を伝えることに情熱を注ぐことができるようになったと思います」
その日本酒に対する真摯な姿勢は、地元の蔵人たちからも厚い信頼を得ている。今回のイベントでともに登壇した、純米酒の先駆けとして知られる広島県・賀茂泉酒造の前垣壽宏氏は、「ケンチさんには強い発信力がある。若い女性にもケンチさんが『酒サムライ』(前垣氏が会長を務める日本酒造青年協議会が、例年、日本酒文化を広く発信することに貢献した人を各界から選出)に就任していることを知っている方が多く、幅広い方々に日本酒の魅力を伝えるのに適任」と称え、米から一貫してオーガニックな酒造りをしている岡山県・丸本酒造株式会社の丸本仁一郎氏は、その人柄について、「初めてお会いしたときには雷に打たれたようなショックを受けた。日本人ならではの香るようなオーラがあって、人間力も素晴らしい」と絶賛した。また、『Discover Japan』の編集長であり、岡山出身の高橋俊宏氏も「ケンチさんは人柄がすごく良くて真面目なので、初めて行く酒蔵でも職人の方に気に入ってもらい、色々と教えてもらうことができる。そこに大きな可能性を感じる」と、改めて橘ケンチの姿勢を評した。一方の橘ケンチは、「まだまだ日本酒については素人。日本酒の造り手は世界で闘ってきた方々なので、礼儀正しく、靴を揃えて入らなければいけないと考えている」と、職人たちへのリスペクトを示した。
今回の『未来の日本酒プロジェクト』が、昨年7月の西日本豪雨の被災地域の復興を目的していることについて、前垣壽宏氏は「広島は地震や雨が少ない地域なので、危機感覚が鈍っていたかもしれない。まさか土砂災害が自分たちの近くで起こるとは思わなかった。酒造りを存続できないかもしれないほどの被害に見舞われた仲間もいたが、みんなが力を貸したことで、復活した蔵もある」と、力を合わせて復興することの意義を強調。丸本仁一郎氏は、「西日本豪雨によって、人生を突きつけられた。被災の現実からどうやって這い上がるか、どうやって心の処理をするか、どれだけ被災地に寄り添えるかは大事なこと。実際、ひとつの町から人口にして1万人が消えている。取り壊しとなった建物は3000軒にも及ぶ。岡山はあまりにも広大な地域がダメージを受けている。物理的にも精神的にも皆さんで支えていきたい」と訴えた。
それぞれの蔵のおすすめの一本について話が及ぶと、前垣壽宏氏は「朱泉本仕込」を紹介。祖父の代に、伝統的な米だけでの酒造りを復活させた銘柄で、その味わいを「飲んでいるうちにどんどん旨くなって、気付いたら一升瓶を空けてしまうようなお酒。相手に寄り添って優しく支えてくれる力強さとしなやかさがある。瀬戸内海の白味魚はそっと下支えして、お肉と合わせれば脂っこさを抑えてくれる」と説明した。一方の丸本仁一郎氏は、「竹林」を紹介。「米作りから一貫して造った軽やかなお酒で、和食に合うようにできている。食材に合わせて様々な味わいのお酒を作っていて、中にはローストビーフやブルーチーズに合う酒もある。『竹林』は燗で飲むのもおすすめ」と魅力を語った。
プロジェクトの今後について聞かれると、橘ケンチは「日本酒の世界に足を踏み入れてまだ日は浅いけれど、自分にできることを全力でやっていきたい。ただ日本酒を作って終わりではなく、長期的なプロジェクトとして、その土地の方々と仲良くなって、一緒にどんなことができるかを考えていきたい」と意欲を見せ、さらに「日本酒造りの背後にあるストーリーや、その土地で働く人々のことを伝えていきたい。それが人の心を打ち、復興の輪も広がっていくと思う。例えば、前垣さんの酒蔵がある西条市では、年に一度『酒まつり』というイベントをやっていて、2日間で25万人の方々が集まるのですが、その中心にいるのが前垣さんなんです。一方で、丸本さんは音楽が好きで、蔵の横の建物内には映画館並みの爆音で音楽が楽しめる音響部屋がある。そんな方が作っていると考えると、お酒にも愛着が湧くし、長い間、人の心にも残るはず」と語った。
最後に、最近のおすすめの飲み方について聞いてみると、橘ケンチは、「僕はトマトが好きで毎朝食べているので、トマトと合わせて飲めるお酒はないかなと、色々と試してみたところ、デザートワイン的な甘口の日本酒と意外に合うことを発見しました。糖度が高くてトロリとした味わいの貴醸酒は、酸味のある野菜やフルーツとの相性が良いです」と回答。改めて日本酒の懐の広さを伝えた。(松田広宣)