自身の経験を役の糧に。田代万里生が三度目の“ラブネバ”へ

――今回で3度目の出演ということで、『ラブ・ネバー・ダイ』のことは知り尽くしているかと思います。そんな田代さんから見た“ラブネバ”の魅力とは？

日本初演が2014年で、今回の再々演が25年。これだけ長い期間同じ作品に携われるというのは、役者にとってとても貴重なことだと思います。しかもそれがミュージカル史に残る名作『オペラ座の怪人』を継承した、非常に人間味の色濃い作品で。そしてなにより一番の肝は、アンドリュー・ロイド＝ウェバーさんご自身が作曲はもちろん、脚本まで手がけられているという点ですよね。初演の時はヘリコプターで日比谷に降り立ち、日生劇場に着くなりオーケストラピットへ直行。僕の目の前でオケスコアを書き直されていました。しかも僕は出演回が2日目からだったので、ロイド＝ウェバーさんと同じ列で初日の舞台を観ることが出来て！　本当に今生きている作品だと感じますし、どのミュージカルとも違う、唯一無二の作品だと思います。

――田代さんがラウルを演じられるのも、今回で3度目です。どういった人物として捉えていますか？

「ラブネバのラウルはクズだよね」と言われがちですが（笑）、僕はまったくそう思いません。もちろんダメなところはありますが、葛藤がある中でも、ある意味『オペラ座の怪人』の時からラウルは変わっていなくて。後半のあるシーンでは、若き日のラウルを彷彿とさせる一瞬のきらめきがあります。ただクリスティーヌとの結婚生活の中で、ある違和感をずっと拭えずにいる。そのフラストレーションが、ラウルのなにかを狂わせてしまったんだと思います。

――ご自身が年齢を重ねられたことで、ラウルという役はどのように熟成されていったと思いますか？

初めて父親役をやったのが、ラブネバの初演だったんです。そこから再演で役を深め、再々演では実生活でも子供が生まれました。今までとは息子・グスタフへの愛情、見え方もまったく違うと思いますし、いきなりグスタフを連れ去ったファントムへの怒りはきっと倍増するだろうなと。初演の時、ファントム役の市村（正親）さんにこう言われたんです。「実生活での経験はどんどん役に投影出来る。自分も毎回感情が変わっていくし、万里生もいつかそうなるかな」と。そして今、あの時の市村さんの言葉を実感出来ているのが、なんだかとても嬉しいです。

――今回Wキャストでラウルを演じるのは、ラブネバ初参加となる加藤和樹さんです。

すごく楽しみです！　和樹くんとは以前『マタ・ハリ』（21年）という作品でWキャストをやったことがあるんですが、それぞれまったく違う人物像が浮かび上がってきて非常に刺激的でした。役について詳しく話し合うというよりも、稽古中、とにかくお互いの芝居をよく見ていました。その上でそれぞれが自分に合ったチョイスをしていった感じで。きっと今回もまた違ったラウル像が作り上げられていくと思いますし、たくさんインスピレーションをもらうと思いますし、単純に仲良しなのでふたり楽屋が楽しみです（笑）。

――冒頭のお話にもありましたが、改めてロイド＝ウェバーさんの楽曲について、その魅力を教えてください。

特にこの作品に関しては、ダーティな曲が多いですよね。イメージ的には8割不協和音と言ってもいいくらい（笑）。だけど残りの2割に、究極に美しい、無駄のない、透明感のある曲がきらめきを見せている。そこにこの作品の力が集約されているんじゃないかなと。そしてメロディも大事ですが、やっぱり曲はアレンジが命なんですよね。ロイド＝ウェバーさんの場合は編成も大きいですし、そのオーケストレーションによって役の背景や心情がまったく違って見えてくる。その技術と感性が、ロイド＝ウェバーさんは飛び抜けていると思います。

――劇場に来られるお客様には、どんな時間、どんな体験をお届けしたいと思いますか？

やっぱりこの作品を生で観た時のあの感動というのは、絶対に劇場でしか体験出来ないものだと思います。劇場に足を運ぶ意味、というのを必ず感じていただける、それくらいパワーを持った作品です。しかも上演時間は休憩込みで2時間25分と、この規模の作品としては短め。これを観て面白くない人っているんだろうか？というくらいものは確かなので、あとは演じる僕ら次第ですね！

取材・文：野上瑠美子

＜公演情報＞
ミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』

公演期間：2025年1月17日(金)～2月24日(月･休)
会場：日生劇場

チケット情報：
https://w.pia.jp/t/lnd2025/