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『コーヒーが冷めないうちに』塚原あゆ子が語る、有村架純ら役者に対する“監督”としての努め

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リアルサウンド

 川口俊和の同名ベストセラー小説を映画化した『コーヒーが冷めないうちに』のBlu-ray&DVDが3月8日に発売された。有村架純が主演を務めた本作は、“ある席”に座ると、望んだとおりの時間に戻ることができる喫茶店を舞台に、会いたかった人との再会を望むさまざまな人々の人生が紡ぎ出されていく。

参考:有村架純のコーヒーを淹れる姿が神々しい 『コーヒーが冷めないうちに』で見せた緻密な表現力

 喫茶店で働く主人公・時田数を有村架純が演じたほか、伊藤健太郎、波瑠、林遣都、深水元基、松本若菜、薬師丸ひろ子、吉田羊、松重豊、石田ゆり子ら日本を代表する俳優陣が集結した。

 リアルサウンド映画部では、本作の監督を務めた塚原あゆ子にインタビュー。『アンナチュラル』『中学聖日記』(ともにTBS系)など、ヒットドラマの演出を手がけている塚原監督が、映画という舞台にどう挑んだのか。映画・ドラマと現場を共にする有村架純、伊藤健太郎らの裏側から、その演出術までじっくりと話を聞いた。(編集部)

ーー昨年9月に映画『コーヒーが冷めないうちに』が公開されてから、およそ半年が経ちました。改めて初の監督作を振り返られていかがですか?

塚原あゆ子(以下、塚原):以前も「映画とドラマはどう違いますか?」とインタビューされて、そのときはまだ公開前だったので、「現場は映画もドラマもそんなに変わらない」と答えました。でも、今聞かれたら、映画はドラマとは違うなと感じます。ドラマは毎週放送があり、現在はSNSを通してリアルタイムでリアクションがこちらにも届いてきます。でも、映画を観るタイミングは人によって当然違います。「誰といつ観に行ったか」「映画を観た日がどんな日だったのか」。映画の感想と一緒に、鑑賞者のその日の思い出がセットになっている。ドラマにもそういった要素はあると思いますが、映画はより“思い出になるコンテンツ”なんだなと感じました。

ーー映画館に出向くという行為も丸ごと思い出になる感覚ですね。

塚原:テレビドラマはすぐに飲み込むけれど、映画は噛んで飲んでいくという感じで、観た人の心に、ゆっくり沁み込むのかなと思います。

ーー『コーヒーが冷めないうちに』を撮った後、有村架純さんや吉田羊さんとはドラマ『中学聖日記』でもご一緒されています。映画で共有したものが、役に立ったというお話も聞きました。

塚原:この人にはこういう伝え方をしたら、より伝わるなということがお互いに共有できている部分が大きいのかなと。「ここは楽しくやりましょう」という場面があったとして、その人がものすごく楽しくやりすぎちゃう人だとわかっていれば、「ちょっと楽しい雰囲気でやりましょう」と言えばいいとか。そういった距離感の測り方が、1回目よりも2回目の方が楽にわかるので。

ーードラマ、映画でご一緒して、有村さんはどういう女優だと思われましたか?

塚原:役を自分に引っ張る人と、自分で役になりきる人の2種類が役者さんにはいます。架純ちゃんはその真ん中にいる感じかな。どんな役でも架純ちゃんらしさがすごくあるんです。憂いがあるというか、色気があるというか。役によって、いろんなカードを出してくるんだけど、まったくの別人になるわけではなく、彼女の良さはそこなわずに持っている感じで。服を着替えるようなイメージですね。見たことのない顔は見せるんだけど、その芯には架純ちゃんがちゃんと残ってる。「芯が強い」というのはこういうことかと思いました。

ーー吉田さんに関してはいかがですか?

塚原:吉田さんはカメレオン系ですね。「こんな風にふりきるか」という役を作れる方なので、いろいろ提案もしてくれますし、セッションの楽しい女優さんです。『中学聖日記』のときの本読みのときにも驚きました。漫画原作があるので、キャラクターは作ってくるとは思ったんですけど、「そこまで羊さんがふりきるとは!」と。『コーヒーが冷めないうちに』のときは、ナチュラルなお芝居で、リアリティに落とす感じだったんですけど、『中学聖日記』のときはまったく違う作り方でした。そうやっていろんな役で違う顔を出してくる人なんだなと。だから、素の吉田羊さんらしさというのは、もっと別のもので、演技をするときは、その外側で役を演じている気がします。

ーー塚原さんは、これまでの作品で“新人”の方を起用している印象があります。『中学聖日記』の岡田健史さんは、本当にデビューでの大抜擢で、我々も強い印象を持ちました。

塚原:いろんな勉強をして俳優になるというルートがあるのはもちろんいいことなんですけど、自然にお芝居を始める人がいてもいい。いろんな出自の人がいて、いろんなお芝居のリズムがあっていいと思うので、ある日突然抜擢枠があるのも素敵なことかなと思いました。もちろん、やることになったら、私も必死でやるんですけど、岡田くんの場合は、それまでにやった稽古や経験の量では測れないものがあるなと思いました。

ーー最初は、岡田さんが大人っぽいという声もありましたが、最後になるにつれて、そういう声も少なくなって、「晶はこの人だ」と多くの人が感じたように思います。

塚原:最終的にスーツを着るまでということが決まっていたので、リアルな中学生というよりは……というのがあったんです。作品で本当に伝えたいことを伝えるために、全力でやったほうがいいと思うので、『中学聖日記』では、人が成長して、人が人を思い続けるということはなんぞや、というテーマをもとに考えました。そのことを伝えるためにベストな布陣はどういうことなのかと考えてキャスティングすることがいいと思っています。

ーー岡田さんに会って、ここがいいなと思ったところは?

塚原:普通なところがいいと思いました。岡田くん本人と役がリンクしそうだなと。みなさん才能を持っているので、本当はすべての人の才能が生かせたらいいんですけど、私が生かせるかどうかという意味での距離感が見えたというか。

ーーその意味では『コーヒーが冷めないうちに』にも、この作品なりのキャスティングがあったということでしょうか?

塚原:『コーヒーが冷めないうちに』は、広く多くの方に引っかかるポイントのある物語にしたかったので、老若男女のキャストを揃えることが重要だと思いました。いろんな年代の人を窓にして、その人たちも、ヒーローという感じではなく、どこにでもありそうな喫茶店にいる、どこにでもいそうな人、庶民的な感覚のある人を選びました。

ーーすでに人気のある俳優さんだけをキャスティングする場合もあれば、逆に、まったく知名度がなかった人が、ドラマや映画を通じて人気者になっていくということもあると思います。

塚原:急に名優は生まれるわけではないので、これから長い間演じ続ける俳優部の方を大事に育てられる場所を用意するのが監督の努めだなと思います。私自身もそんなにたくさんの人とご一緒できるとは思っていません。でも、例えば、伊藤健太郎くんが、おじいちゃん……って言っても私のほうが先に年を取りますけど(笑)、けっこうな年齢になったときに、一緒に歳を取っている監督になれたらいいなと思います。映画でよくある「〇〇組」みたいな、長く一緒にできる俳優さんが生まれる土俵が作れればいいなと思っています。人気のある役者さんを集めたからといって、いい作品が出来上がるわけではありませんし、観客にとっても、いろんな役者さんを観ることができた方がいいと思います。

ーー伊藤さんは、『コーヒーが冷めないうちに』の中ではアドリブが多かったと聞きました。

塚原:伊藤くんとは、ドラマ『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』で初めて一緒にお仕事をしました。その作品では、回想シーンでの演技だったんですが、そのときもほぼアドリブで。その立ち居振る舞いを見て、役をちゃんと飲み込めているなと思い、『コーヒーが冷めないうちに』にも出てもらったのですが、今回も期待以上でした。

ーー昨年は主演を務めたドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)もあり、伊藤健太郎さんの人気が右肩上がりです。次世代を担うスターになると期待しています。

塚原:そうなると思います。それに、伊藤くんにしても岡田くんにしても、作品を撮ったときと同じ演技、表情は数年後には絶対にできないので、1本1本が、メモリアルなものになるのかなと。特にラブストーリーは如実ですよね。伊藤くんが、『コーヒーが冷めないうちに』の中で、架純ちゃん演じる数と距離をはかりかねている顔とか、数がコーヒーを入れている姿を見て可愛いなと思ってる顔とか、あのときしかできないものだと思います。「可愛いと思ってる顔なんてできないよ」っていう自分の中のジレンマもあってのあの顔なんですけど、そういう顔が残るのがいいですよね。

ーーそういった瞬間も詰まっていると思うと、またBlu-ray&DVDで『コーヒーが冷めないうちに』を観る楽しみも増えそうですね。

塚原:ソフト化が決まったとき、また10年後に見返したら違う気持ちになるかもしれないなというのが、最初に思ったことでした。私自身も中学時代に観た映像はすごく覚えています。この映画も、10代で観て、また人生のステージが変わったときに観たら、違った視点で違うキャラクターにぐっときたり、自分の見方が変わったと思うきっかけになったり、そういう楽しみ方をしてもらえるんじゃないかなと。それがパッケージとして残ることの良さだと思います。

ーーちなみに、学生時代に観て印象に残っている作品って何ですか?

塚原:『死霊のはらわた』や『セブン』、ジャパニーズホラーの『リング』『らせん』などです。今でもときどき映像がフラッシュバックみたいによみがえるんで、影響力は大きいと思います。

ーーなるほど。塚原さんの手がけている作品、最近では『アンナチュラル』にも、ときどきそういった“ホラー”要素がありました。

塚原:ナイフを引き抜くときの血しぶきの上がり方にこだわったり……。

ーー(笑)。ホラーもいつか撮りたいと。

塚原:10年言い続けてるんですが、まだ実現していません(笑)。

ーー楽しみにしてます。塚原さんは、サスペンスから社会派なもの、ラブストーリーなど、さまざまなジャンルを手がけられていますが、ご自身の色というのをどう捉えていますか?

塚原:私が撮った作品がすべて別々のものになってるとは思わないんですけど、できれば違う作品にしたいんです。『アンナチュラル』は『アンナチュラル』、『コーヒーが冷めないうちに』は『コーヒーが冷めないうちに』、『中学聖日記』は『中学聖日記』、『グッドワイフ』は『グッドワイフ』という風に、作風をそれぞれ使い分けて、その作品の色にできたらと思っています。代表作は常に新しいものに更新していきたいです。(取材・文=西森路代)