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「地下芸人をやってたけど 寄席演芸に答えがあった」鈴々舎馬るこインタビュー

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鈴々舎馬るこ 撮影:源賀津己

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お笑い好きで、上京した当初はコンビを組んで『M-1グランプリ』に出場するが、伝統芸能、寄席演芸に可能性を感じて落語家となった鈴々舎馬るこ。古典落語、新作落語という枠にとらわれず、独自のアレンジで大爆笑をかっさらうスタイルは唯一無二。落語家として初めて『FUJI ROCK FESTIVAL』に登壇したり、プロレスのリングアナウンサーを務めるなど、多才ぶりを発揮する馬るこ師匠のインタビューをお届けします。

──落語を職業に選ばれたきっかけを教えて下さい。

1980年生まれなのでダウンタウン世代で。我々の世代でお笑い好きはダウンタウンみたいな芸人になりたいとみんな思っていた時代。上京して、大学生という身分を手に入れて、新聞奨学生になって住居と幾ばくかの給料が出るので、土日を使って、今で言う“地下芸人”をやってました。当時は養成所も学費が高くて。第1回の『M-1グランプリ』に出たけど1回もウケなかった。「これはダメだ」と思ってコンビ解散して、伝統芸能とか寄席演芸の世界に答えがあるんじゃないかと。ネタうんぬんよりも実力をつけなきゃと、図書館に行って落語のCD聴くとか寄席に行くとかを始めました。

──鈴々舎馬風師匠に弟子入りしたのは。

新聞配達していたのが練馬の石神井公園で、自分の配達区域で落語会があって。そこには立川流の人が来てて、その繋がりで快楽亭ブラック師匠とか、(立川)談志師匠は2回くらい生で観たり、立川流に傾倒していったんです。ブラック師匠が自分にとっては凄い存在で弟子入りしようかとも考えたんですけど、下ネタばかりやっていては飯は食えないという冷静な判断が働きまして(笑)。寄席に出なきゃいけないなと、それで馬風師匠の芸を観たんです。

そのときの高座で、前座時代のトークで、当時内弟子だった馬風が財布を盗んだと疑いをかけられ、最終的に濡れ衣だったとわかり、前座のうちは酒禁止だったのに(柳家)小さん師匠が「母ちゃんには内緒だよ」ってウイスキーくれて、おかみさんは「父ちゃんには内緒だよ」って日本酒くれて、交互に酒がきたという、なんてことないエピソードですけど、客席の空気がすごいあったかい感じになったんですよね。いつもの師匠の高座だと漫談で爆笑させるんですけど、こういう戦い方もあるのかと。

そこで馬風という落語家を意識しました。追いかけて観るようになって、師匠の美空ひばりメドレーで高齢者の方がバカ受けしてて、ここには何か答えがあるに違いないと。(馬風一門の)綾小路きみまろさんが当時大ブレイクしていて、今一番売れてる人を間近に観れるのは財産だと思いました。高齢者の視点でものがみれるようになると思い馬風一門に行こうと決めました。

──弟子入りを許されて、実際の師匠はどんな方でしたか。

滲み出る人格ってあるじゃないですか。瞬間湯沸かし器みたいに怒るんですよ。それはすごく怖かったですけど、ネチネチ怒るようなことはしなかったですね。例えば、建付けが悪くてテーブルに手をついて立ち上がろうとしてガタンとなったら「てめえ、この野郎!」みたいな(笑)。免許取り立てで夜の首都高とか運転させられるんですけど、こちらは集中して事故起こさないようにしてても急に後ろから「おい、昨日巨人戦でよぉ、思いもよらねえ奴がリリーフに出てきたんだよ。誰だと思う?」と急に馬風クイズが始まって、自分は野球詳しくないので「桑田ですか?」と答えたら「引退したよ、馬鹿野郎!」とか(笑)。わかりやすい怖さはあったんですけど後に引かないんで。

──「ぴあ落語ざんまい」でもご覧いただける、馬るこ師匠の演目『平成楽屋伝』でも語られていますよね。

あれ全部ホントですからね(笑)。寄席の番組10日間に起こったことを全部まとめたらあんな感じなんです。全部実話です。

──キャリアを重ねるなかで、ご自分ではどんな落語をやっていこうと思われましたか。

当時は漫談で行こうかなと思ってたんです。受けているのがきみまろであり、馬風であり、(三代目三遊亭)圓歌師匠が当時全盛期でした。古典落語をやっても見返りが少ない時期で。袖で観てて「なんでこんなに古典落語が上手くてもお客さん来ないんだろう」と思ってた。それからNHKの『にほんごであそぼ』で『寿限無』ブームが来て、その次の年にドラマ『タイガー&ドラゴン』。そこで客層がガラッと変わった。

その後、古典原理主義者みたいなおじいちゃんたちがどんどんいなくなり始めたんです、年齢的な問題で。その当時、TBSの『落語研究会』とか年間通しチケットで買って、帰りの電車の中で「(三遊亭)圓生はどうだった。(古今亭)志ん生はどうだった。それに比べて今の若手は……」みたいな会話が聞こえるような古典原理主義者たちが幅を利かせてる時代だったのが、ガラッと入れ替わったんですね。若い人が落語に押し寄せるようになって。

広瀬(和生)さんの本『この落語家を聴け!』の影響で「今、観るべきは(柳家)喬太郎だ。(立川)志の輔だ」など、客層が変わった。オリジナリティのある落語、現代の人間に向けられた落語をやってくれというニーズが高まるようになったんですね。そっちにシフトチェンジしなきゃいけないなと。それで「ぴあ落語ざんまい」にも出している演目『鴻池の犬』は、二ツ目なりたてくらいの時に演出を自分なりにやりました。オリジナリティのある演出をつけた落語は先陣がいたんですよね。(立川)志らく師匠が目立ってたと思うんですけど、(桃月庵)白酒師匠、(春風亭)一之輔師匠、(柳家)喬太郎師匠、(三遊亭)兼好師匠など。そういう先陣たちが居てお手本があったのはありがたかったです。

──とは言え、馬るこ師匠のオリジナリティに満ちた落語は本当に面白くて、そこに行き着くまでにご苦労もあったのではと思います。

ある程度の時期から先輩たちの芸を観るのを辞めようと思いました。影響されちゃうので。だからマクラも漫談も小噺も演出も、全部オリジナルでやろうと思ったので、誰かを観ちゃうと吸収しちゃうんですよね。二ツ目の時期から完全に観るのを辞めて、自分が好きな漫画を読んだり、映画観たり、その中の根底に流れているような面白さを取り入れてみたりしてやってますね。

本当は古典落語という言い方もしたくないんです。落語は現代の観客に向けて話すものなので、昔のものでも江戸弁がわからないから現代語に直したりとか。言葉自体も、例えば『牛ほめ』に「普請(ふしん)」という言葉が出てきますがわからないので「建て直し」に言い換えたり。言葉がわからないことで思考を止めたくない。現代の人が聴いても面白いのが落語。だから古典落語って言いたくないんですよね。古典落語であるならばその当時の言葉で話すべきなので。ということであるならばもっといろいろ付け加えてもいいだろうと。逆に新しくし過ぎて思考を止めたくないというのもあるし。それが落語の違和感のなさに繋がるんですよ。

──野外音楽フェス『FUJI ROCK FESTIVAL』に登壇されていたそうですね。

(主催の)SMASH代表だった日高さんが「20周年だから落語だな」って急に言い出して(笑)。「土砂降りの中でも投げ銭でやってくれる落語家を探してこい」という命令がスタッフに下って、放送作家経由で人づてに「馬るこならやるんじゃないですか」と伝わったらしくて。「面白そうだからやってみましょうか」と引き受けたのが始まりですね。1回30分、1日5~7ステージを3日間、それを3年やって(笑)。気がつくとフジロック最長出演時間アーティストになってました。

──今後やってみたいことをお聞かせいただけますか。

順調にネタも増やしてもっともっと寄席の世界に貢献したいですね。折り畳み式高座を自宅に持っていて、成人男性ふたりいれば運べるヤツなんです。フットワーク軽くこれを使って学校を回って子供たちに落語に触れて欲しい。ボランティアもしたいですね。

こないだ金沢の1.5次避難所に行きました。能登の公民館なんかが1次避難所。ただ、能登は水道も止まってしまったので、自衛隊の人が高齢者を中心に金沢の体育館に連れてくる。ここが1.5次避難所。そこからビジネスホテルやなんかが2次避難所となるのですが、要介護の高齢者はビジネスホテルのお風呂ですら入浴がつらいので、介助してくれる人がいる体育館から離れられずに、ずっと住んでいる人たちがけっこういるんですね。食事等のお知らせの館内放送はあるけど、音楽なんかは一切流れてないし、共用のテレビが食事をする所に一台あるだけ。だから場内に入るとシーンとしていて。東京から行ってるボランティアの方が「このままじゃダメだ。娯楽が圧倒的に足りていない。心が死んでしまう」と言ってたのを人づてに聞いて、落語をやったんです。普段出てこない高齢者の方々がたくさん出てきて楽しんでくれた。いずれ能登にも行かなきゃなと思っています。

取材:文=浅野保志(ぴあ)
撮影=源賀津己

<プロフィール>
鈴々舎馬るこ(れいれいしゃ・まるこ)

1980年8月4日生まれ、山口県防府市出身。2003年、鈴々舎馬風に入門。2002年、前座となる。前座名「馬るこ」。2006年5月、二ツ目昇進。2017年3月、真打昇進。

 

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