樋口麻美&吉沢梨絵 ダブル主演でおくる感動の新作ミュージカル
『You Know Me~あなたとの旅~』特集
『アンドレ・デジール 最後の作品』『フィスト・オブ・ノーススター ~北斗の拳〜』などの脚本を手がけ、訳詞家としても数多くの作品に携わる高橋亜子書き下ろしの新作ミュージカル『You Know Me 〜あなたとの旅〜』が、11月19日(火)~24日(日)に東京・シアター代官山で上演される。性格は正反対だがお互いを理解し支えあったふたりの女性の、高校時代から晩年までを描き出す。ダブル主演を務めるのは、共に劇団四季の主演俳優として活躍し、さらに劇団ひまわり出身という共通点をもつ樋口麻美と吉沢梨絵。音楽に福井小百合、演出は横山清崇と、日本ミュージカル界の才能が集結した本作の魅力を、主演ふたりのインタビューから紐解きます。
ミュージカル初共演の“戦友”ふたりが語る
樋口麻美&吉沢梨絵インタビュー
── まずおふたりの関係性からお伺いしたいです。樋口さんと吉沢さんと言えば劇団四季で大活躍、『マンマ・ミーア!』のソフィ、『夢から醒めた夢』のピコなど共通する役も多いですが、それ以前に劇団ひまわり出身という共通点もあります。
樋口 そうなんです。ふたりとも劇団ひまわり出身。
吉沢 私は5歳の時から入っていて。
樋口 私が小学2年生で入団した時には、りえちん(吉沢)はすでに超売れっ子。俳優名鑑の巻頭に載っているようなスターでした。映画やドラマにひっぱりだこ、多分レッスンにはもう来ていなかったんじゃないかな。だから子役時代は残念ながらほぼ接点はなく、雲の上の憧れの先輩でした。その後、『マンマ・ミーア!』のオーディションで再会したのですが。
吉沢 逆に劇団四季では麻美ちゃんの方が先輩で、私の方こそ四季で多くの主要な役をバンバンやっている「劇団四季の麻美ちゃん」というイメージでした。あとから同じひまわり出身と聞いて「えー! そうなんだ!!」とびっくりしました。
── 『マンマ・ミーア!』日本初演(2002年)は劇団外にも門戸を開いたオープンオーディションで、吉沢さんは劇団外から受け、おふたりがソフィ役候補として合格したんですよね。
樋口 ソフィを受けた子たちはオーディション会場で仲良くなっちゃって、控室でわーわー話してたんです(笑)。その時に「私も劇団ひまわり出身で、吉沢さんのことをよく拝見していました!」と告白した覚えがあります。
── 同じ時期にご活躍されていましたが、劇団時代に共演は?
樋口 ないんです。……あ、ちょっとだけある! 『マンマ・ミーア!』初演ではふたりがソフィにキャスティングされたのですが、私がひと足先に出演させてもらい、そろそろ吉沢梨絵もソフィとして出すぞ、という時に、作品に慣れるために少しだけアンサンブルをやったんだよね。
吉沢 そうだった! 1・2週間、アンサンブルとして出た。その時に共演したね。
樋口 ガッツリ共演はないけど、ほのかには共演してた(笑)。
吉沢 退団してからも共演はなかったんだけど、去年麻美ちゃんが「ザ、ヒグチアサミショー」というリーディング公演を企画して、そこに呼んでくださった。そこで初めてちゃんとご一緒しました。
樋口 ミュージカルでの共演は、今回が初です!
── おふたりの関係性を言葉にすると? ライバル? 同志?
吉沢 “戦友”かな。同じ役を演じてきたから、同じ苦しみを一番分かち合えている。私にとっては、麻美ちゃんが一番同じ役を演じることの多かった人なんです。麻美ちゃんは私より多くの作品をやっているから「同じ役を演じた女優さん」はもっといるかもしれないけど。
樋口 私たちの時代の主演女優の横の繋がりはすごく強かったよね。私は『夢から醒めた夢』を保坂知寿さんという偉大な大先輩から受け継いだ時、四季の主演女優の魂も受け継いだ気持ちになった。その魂を共有している“仲間”だと思っています。ライバルというような意識はまったくないな。
吉沢 四季という劇団は特殊で、ロングラン公演はずっと走り続けているから、ダブルキャスト、トリプルキャストの繋がりは外部の作品とは全然違うんだよね。もちろん「比べられるのでは」というようなプレッシャーがまったくないわけではないけれど、同じ役を演じる相手はもし私が倒れたら代わりにやってくれる大切な存在。だから支え合うし。私は『マンマ・ミーア!』が初めてのミュージカルだったのですが、その後の『夢から醒めた夢』で初めて舞台の真ん中に立つという経験をしました。この時に得体のしれないプレッシャーを勝手に感じていて(笑)、特に麻美ちゃんにそんなことを相談したわけじゃないんだけど、麻美ちゃんが「自分を信じて、役を信じて演じれば大丈夫だよ」みたいなメッセージをくれたんです。その時に「吉沢梨絵が試されている」という感覚がすっと消え、素直にピコという役と向き合えた。同じ重責を担ってきた人の言葉だな、ここまで理解し合えている人はいないな、と思えた。
樋口 リスペクトしあっているんだよね。私はずっとりえちんのことを尊敬しているんです。同じ役をやっているからこそ「このシーンをこう演じるんだ」「こう歌うんだ」と、素敵なところにより深く気付く。そういう関係性です。
登場人物たちの絆と私たちの絆は共通するものがある
── そんなおふたりがミュージカルとしては初めてガッツリ共演する『You Know Me』。これは樋口さんの所属事務所の製作で、同じ事務所所属の脚本家・高橋亜子さんのオリジナル脚本ですが、樋口さんはどの段階から関わっていらっしゃるのですか?
樋口 私が「こういうお芝居をやりたいんだよね」と事務所に投げかけたら、亜子さんと引き合わせてくれて。亜子さんが温めているお話をいくつかあげてくださって、その最後に「実はこれは私の母の話なんだけど」と教えてくださったのが、この物語です。お聞きしながらその場で涙が止まらなくなり「ぜひこのお話をやらせていただきたいです」というところから動き出しました。
── じゃあ、ほぼ企画段階から関わっていらっしゃるんですね。
樋口 はい。亜子さんといえば近作でも『ビリー・エリオット』『tick, tick...BOOM!』『ファンレター』『トッツィー』『カム フロム アウェイ』等、数々のミュージカルの訳詞を手掛ける大人気の訳詞家で、脚本家としても『アンドレ・デジール 最後の作品』『フィスト・オブ・ノーススター ~北斗の拳~』など人気作を手掛けていらっしゃる。亜子さんの作品なら……と音楽には福井小百合さん来てくださり、演出の横山清崇さん、振付の青木美保さんなど、各セクションのトップランナーの皆さまが集まってくださって「こんな大ごとになるとは!」と驚いています(笑)。
── しかも共催が劇団ひまわりさん。
樋口 そうなんです。私は小学4年生くらいの時に、ひまわりの前代表の砂岡不二夫さんに子役仲間と一緒に劇団四季の『オペラ座の怪人』に連れていってもらい、ミュージカルの道を目指そうと思いました。そんな人生の転機をくれた劇団ひまわりに恩返しもしたいし、純粋にいいミュージカルをやりたいという思いが繋がり、『You Know Me』に結びついています。そして、この女性ふたりの物語でもうひとりを演じるのは梨絵しか考えられなかった。
吉沢 そう言ってもらえて嬉しい(笑)。私の方も、以前から「何か一緒にやりたいよね」と話していたし、この企画がここまでしっかりとした形になる以前から麻美ちゃんからお話を聞いていました。でも蓋をあけたらなんか……本当にすごい豪華な皆さんが集っていて、びっくり! でも、麻美ちゃんと私の歴史をこんなに活かせる話はないと思うし、登場人物たちの絆と私たちの絆は共通するものがある。これを一緒にやれるのは、私にとっても麻美ちゃんしかいないな、と素直に思います。
実話をもとにした、“旅行”が繋ぐふたりの女性の友情物語
── 物語は、高校の同級生である菜々子(樋口)と百合絵(吉沢)の、10代から60代までの友情を描くもの。物語の魅力は。
吉沢 自分にないものを補い合ったり、支え合ったり、励まし合ったりできる女性同士の友情。しかもこれが実話であるというのがすごく素敵だし、説得力があります。こういう出会いがあったら誰もが大切にしたいと思ってもらえるだろうなという、素敵な友情の話です。
樋口 学生時代に友だちだったふたりが、人生の壁にぶち当たった時に再会する。お互い、人生をひっくり返すような直接的な変化は与えられないけれど、「救えないけれど一緒にいてくれる友情」というのがいいですよね。共に悲しみ、共に喜ぶことが支えになり励みになる。この、苦しいけれど這いつくばって生きていく感じが何とも言えない。
吉沢 奥行きがありますよね。さらに菜々子と百合絵を繋ぐ鍵として「旅行」があるのですが、旅がふたりの精神的苦痛を和らげているのもいいよね。新しい場所に行くと自分の新しい面に気付くというようなことは、実際にあることだし。ふたりの関係性と旅がうまくリンクするよう、稽古の中でしっかり作っていきたいな。
樋口 彼女たちは生き辛さをそうやって乗り越えてきたんだよね。ほかにも見る人によっても刺さるところが違うんじゃないかな。男性が見ても刺さるところはあると思うし。
吉沢 亜子さんのお母さまの話だから昭和時代がメインになるんだけど、社会や家庭での女性の立場の大変さも描かれている。その男女の差異みたいなものも、実は現代でもまだなくなってはいないし。でもこの二組の夫婦はちゃんと歩み寄るから、いいですよね。物語の中で、夫も一緒に旅に来てくれるシーンがあるんです。女友達ふたりが恒例にしていた旅に「一緒に来てくれる」って、今だと大したことないように感じますが、昭和の関係性の夫婦にとってはすごいこと。その特別感はきちんと伝わるように大切にしたいな。
── 演じる役についてももう少し教えてください。樋口さんの演じる菜々子さんは大人しい女性。
樋口 菜々子は自分の言いたいこともはっきり口に出せず、生まれた時から自己肯定感がまったくない。(『ウィキッド』の)エルファバも同じく誰からも愛されず育った人ですが、彼女はそれを跳ね返す強さがあった。菜々子はその力すら得られなかった昭和の女性だというのが、演じる上で難しいです。
── この役柄、樋口さんにしてはちょっと珍しいなと思いました。
樋口 たしかに、私は今まで強い女性を演じることが多かったので(笑)、一歩引いているような女性はかなり珍しい。でも梨絵といると、私は菜々子でいられるんです。梨絵は本当に百合絵そのもので、パワフルにぐいぐい引っ張ってくれる人。例えばふたりでどこかに行くとしたら、私は方向音痴なんですが、りえちんがグーグルマップを見ながら「こっちだよ」と言ってくれる。すごくしっかりしているし、私より2・3歩先に行っているから、私も安心できちゃうんです。
── 吉沢さんの演じる百合絵は快活な人ですね。
吉沢 百合絵の考え方や行動原理は私とすごく似ています。例えば私は何か問題が起きた時に、パパっと解決法を考えるタイプなのですが、「実はみんなは解決法を求めているわけじゃなかった」というようなことがある(笑)。先走っちゃうし、エネルギーが強すぎるところが百合絵にも私にもある。また百合絵は勝ち気で、基本的にひとりでも生きていける人だと思うのですが、こういうタイプの人間にとって、菜々子のような存在はすごく嬉しいんですよ。私や百合絵は「こうしてみたら? ああしてみようよ!」と色々言うのですが、それを目を輝かせて聞いてくれるのが菜々子。しかもそれだけでなく、すごく遠慮しているけれどちゃんと掘り下げるときちんと深いところまで受け止めて、愛を持って自分と接してくれているのがわかる。すべてが愛おしい。菜々子はまわりの人と上手く付き合えなかったりしますが、こちらもそこまで人付き合いが上手いわけではない(笑)。プラスとマイナスだけど、どちらがプラスでどちらがマイナスということではなく、時にはこちらがプラスで、時にはあちらがプラスになる。そういう関係性が本当に素敵だなと思います。
── 今、それぞれの役についてお聞きしたのですが、おふたりともご自分のことよりも相手の役の説明に費やす言葉数の方が多いのが素敵だなと思いました。
吉沢 ああ、そうかも(笑)。
樋口 菜々子がいるから百合絵がいる、百合絵がいるから菜々子がいる、みたいな感じですよね! ふたりにとってお互いの存在は切り離せない。私も菜々子を演じるにあたり、百合絵が与えてくれるものがすごく多いと思っていますし、そこが大切だなと思っているんです。
こだわりの豪華なオーケストレーションも注目
── せっかくのオリジナルミュージカルですので、音楽についても教えてください。
吉沢 最高だよね!
樋口 ね! 難しいけど、全部の曲がキャッチーだし、意味があって面白い。福井さんが台本を細かく読み込んで、登場人物たちの心理をすべて楽譜に落とし込んでくれています。 「笑顔で」という歌詞だけどピアニッシモにすることで菜々子の気持ちがわかる、とか。歌だけでなくアンダースコア、インスト、全部細かく作りこんでくださっている。しかもオーケストレーションが豪華!
吉沢 生演奏じゃないけれど、生音っぽさに本当にこだわって作ってくださっているので、かなりびっくりしていただける音になっていると思う。福井さんが、ありえないくらい(音楽)データが重い、って言ってましたね(笑)。
── 楽しみです! 最後に、読者へメッセージをお願いします。
吉沢 本当に各セクションの才能が集まって情熱を注いで作りこんでくださっています。これ、一度きりの上演じゃ終わらせちゃダメじゃない?
樋口 私たち、10代から60代まで演じるし。李香蘭を演じる野村玲子さんを目指し、還暦まで続けていかない!? ずっと大切にしていきたい作品になりそうだよね。
吉沢 オリジナルミュージカルの初演ということで、前情報がない状態でお客さまにはチケットをご購入いただく形になってしまいますが、スタッフの名前や役者の名前、何かひとつでもこのチームに期待していただけるのでしたら、その期待を裏切らないクオリティのものには絶対になっています。振付も、キャスト6人とは思えない最高にいいものになっています! 今お話した女同士の友情、旅、昭和時代……といったキーワードに引っ掛かるものを感じたら、ぜひ劇場にいらしてください。すごいスタッフとキャストが愛を持って作ってくれているので、ぜひ劇場でこの作品を味わっていただけると嬉しいです。
樋口 キャストは6人ですが、ほかの4人の個性も炸裂しているので、細部まで見逃せないはず。期待してください!
取材・文:平野祥恵 撮影:藤田亜弓
★ミュージカル『You Know Me 〜あなたとの旅〜』の招待券を抽選で3組6名様にプレゼント!
詳細は下記ページよりご確認ください。
https://lp.p.pia.jp/article/news/405343/index.html
〈公演情報〉
ミュージカル『You Know Me 〜あなたとの旅〜』
脚本:高橋亜子
音楽:福井小百合
演出:横山清崇
出演:樋口麻美、吉沢梨絵、谷口あかり、小多桜子、吉田純也、東山光明
2024年11月19日(火)~11月24日(日)
会場:東京・シアター代官山
公式サイト
https://www.youknowme.jp