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「イッセー尾形の右往沙翁劇場・すぺしゃる2024 in 有楽町」インタビュー

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イッセー尾形 (撮影:黒豆直樹)

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40年以上にわたって一人芝居を続け、先駆者としてこのジャンルを切り拓いてきたイッセー尾形による公演「イッセー尾形の右往沙翁劇場・すぺしゃる2024 in 有楽町」が有楽町朝日ホールにて12月6日(金) より3日間にわたって行われる。ひとりで8人の市井の人々に扮し、笑いを届ける本作。今年の4月に新作として発表し、その後、全国各地を巡ってきたが「育ちっぷりはいままで一番かもしれない」と手応えを明かす。

イッセー尾形 4月に新作を下ろして、1年をかけて、また書き直したりしながら育ててきました。徐々に人物を膨らませていくという作業を毎年やっているんですけど、今回は特に一人ひとりが「ここまできたか!」という思い入れ、充足感がありますね。

瞬発力ではなくて、持続してるんですよね。1年、母親が子を育てるように、この8人を育ててきました。

――公演を重ねることで「育っていく」という感じなのでしょうか?

イッセー尾形 公演を重ねて、部屋に戻ってきて、もう一度、台本と対面して手直しをして、公演に行き、また帰ってくるんですね。発表する前はどうしても机での作業が多いんですけど、発表後はお客さんとのやり取りで膨らんで大きくなっていくんですね。生の空間で育っていく感じですね。

――この8人の人物はどういうキャラクターでどのように生み出されていったんでしょうか?

イッセー尾形 言ってみれば弱い連中なんですよ。いまの時代は、自分第一の“エゴ”の時代と言うのかな……? 笑うに笑えない、笑いづらい時代ですよね。でも、この8人はみんな弱者で、いなくなっても誰も気に留めないかもしれない……そういうのが唯一、笑える人たちなんじゃないか? そこに私は突破口を見出そうとしています。そんな弱者が時代に立ち向かえるはずもなく、当然、ヘマをするんです。そのやりきれなさを笑い飛ばす力が、まだ人間には残っているんじゃないかと。「笑っちゃおうよ、こんなことは」という感じですね。それを共有する――笑いというのはひとりで笑うんじゃなくて共有するものだと思います。

(8人の)出どころはいろいろあります(笑)。8人の出自が芋づる式につながっているわけではないです。でも、この時代を受けているとは思いますね。時代が生んだというべきか……先日、亡くなられた山藤章二さんが、私が若い頃に「イッセーさんの芸は不公平な芸であると同時に、時代を映す歪んだ鏡だ」とおっしゃられたことがありました。つくっている最中はそんなことは忘れますけど、大きな言葉だなぁと思います。

――先ほど「笑いづらい時代」という言葉がありましたが、40年以上も一人芝居をやられてきてお客さんの変化を感じますか?

イッセー尾形 最近の傾向ですけど、アンケート用紙にみなさん、いっぱい感想を書いてくださるんですよね。昔、見たことがあるという人で、10年ぶり、20年ぶり、30年ぶりに戻ってきて見に来てくださったという方も多いです。時代はひと巡りしているのかもしれないし、そのぶん、言葉が豊かになって出てきているのかもしれません。「笑いづらい時代」と言いましたけど、だからこそ底流には「笑いたい」という気持ちがあるんじゃないかと思います。それが通奏低音のように噴き出す――そうあってほしいなと思います。こないだは札幌で12年ぶりに公演をしたんですが「12年、待ってました」というお客さんもいらっしゃいました。

――ライフワークと言えるほど、これだけ長く一人芝居をやってこられて、飽きることはないんでしょうか?

イッセー尾形 一人芝居というのは「ひとりでやる」というところと「誰をやるか」という部分がありますよね。その「誰」というのがなくならない限り、一人芝居はなくならないと僕は思ってるんです。「こんなひとをやりたい」というのは常に湧いてくるんです。一人芝居をやるということで、それなりに技術というものがありますけど、人物を演じるという点は、いつだって新鮮な出会いがあるんです。

――それはやはり時代なんでしょうか?

イッセー尾形 それ以外にないと思います。江戸時代の人物をやりたいとは思わないですし、やっぱり現代人ですね。12年前にフリーになった後、時代が見えなくなった時期があったんです。「誰を演じたらいいかわからない」と。その時、夏目漱石まで戻ったんです。ちょうど漱石さんの没後100年で、朝日新聞から「漱石で一人芝居をやりませんか?」という依頼がありまして(「妄ソーセキ劇場」)。

「それから」とか「こころ」とか「坊ちゃん」とかの主人公は有名ですから、脇役に焦点を当てて、想像でやってみたんです。漱石さんはやっぱりすごいなぁと思ったんですけど、脇役も豊かに描いているんですよ。それをやっているうちに「これは現代人に通じる話だな」と思ったんです。それでまた現代に乗り込めたんです。漱石さんという“奥行き”が僕の中にあることを実感しました。

――こうやって一人芝居を続けていくモチベーションの源はどこにあるんでしょうか?

イッセー尾形 役者というのは人間と直結する仕事ですけど、人間の解釈ですよね。「人間とはこういうものである」という。それを僕は僕なりにやっています。キャラクターや顔かたち、しゃべり方、しゃべる内容、リズム……いろんな要素があるんですよね、人間って。そうすると、自分の人生じゃ(全ての人間を表現するのに)足りないかもしれない。だからまあ「途中でもいいや」って思うんですけど、「これでもう人間を描きつくした」となることはないんですよね。それが延々と続いてきた理由だと思います。

――演じるキャラクターが発する言葉の選び方に関して、意識していること、気をつけていることなどはありますか?

イッセー尾形 とっさに出る言葉を重視していますね。書き言葉であって口から出る言葉じゃないだろうという言葉もあるんですよね。それはいつもチェックしています。「それじゃ、お客さんに届かないだろう」と。

――そろそろ年の瀬ですが、この1年をふり返って、どんな1年でしたか?

イッセー尾形 いろんなことがありましたね。こないだ、どうしても不可解なことがありまして。普通、現場に行ったら「おはようございます」って言うでしょ? でも「おはようございます」と返さないスタッフがいてね。どうしてなのかわからないけど、その若いスタッフは頑として(返事を)返さないの。「おはようございます」と言うのが損になるんだろうか? とかいろいろ考えちゃうんですね。これが時代の最先端だったら恐ろしいなと思いました。それが蔓延して、誰も「おはようございます」と言わない世界になったらどうなるんだろうと。それは怖かったですね。それが今年の(心に残った出来事の)筆頭かな。

「こっちだって言うもんか」と思うんだけど、それはそれで気分が悪いんですよ(苦笑)。「おはよう」も言わない自分になってしまうことが。そのスタッフは、最後まで言わなかったなぁ……。でも打ち上げでは監督さんと仲良くしゃべっててね。それを見たら腹が立ってきましたね(笑)。

腹の立つ時代ですよ。スマホを見ながら道の真ん中を歩いてたり……(苦笑)。時代は「自分対 自分」の時代なんですね。電車でもいまは、みんなスマホをのぞいてるでしょ? 昔のようにつり革につかまってポケーっとする時間がなくなったんだよね。せめて劇場くらいはポケーっと芝居を観てほしいですね。

――「自分 対 自分」の時代とありましたが、一人芝居はイッセーさんが“誰か”を演じ、お客さんはイッセーさんのことだけでなく、イッセーさんが演じる誰かが舞台上で向き合い、対話している別の誰かのことも想像しながら見ることになります。いまの時代に抗う気持ちがあるんでしょうか?

イッセー尾形 「抗う」というよりも、人間というのはいつの世も、そうやっていろんな想像をするものだということ、それを共有したいですね。その共有がないと一人芝居は成立しませんから。その再確認をしているのかな? 笑いに昇華させながら。特にこういう時代だからこそ。

取材・文・撮影:黒豆直樹
ヘアメイク:久保マリ子
スタイリスト:宮本茉莉
衣装クレジット:KHONOROGICA・CITERA

<公演情報>
『イッセー尾形の右往沙翁劇場・すぺしゃる2024 in 有楽町』

公演日程:2024年12月6日(金)・7日(土)・8日(日)
会場:有楽町朝日ホール

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/issey-ogata/

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