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ケラリーノ・サンドロヴィッチ KERA meets CHEKHOV最終章『桜の園』は非常に“真っ当”な作品に

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ケラリーノ・サンドロヴィッチ

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ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)とシス・カンパニーによるチェーホフ四大戯曲上演シリーズ「KERA meets CHEKHOV」。その最終章となる『桜の園』が12月、ついにその幕を開ける。19世紀末のロシアを舞台に、ある貴族の栄華の最後のひとしずくを描いた傑作。これまで『かもめ』『三人姉妹』『ワーニャ伯父さん』と真っ向からチェーホフと対峙してきたKERAが、遺作である『桜の園』をいかにして舞台上に上げるのか。稽古開始から数日のある日、KERAに現在の構想をたっぷりと聞かせてもらった。

チェーホフは人物を相対的に描き出す、非常に革新的な作家

――チェーホフの四大戯曲上演シリーズ「KERA meets CHEKHOV」もついに最終章です。KERAさんがこれほどチェーホフ作品に惹かれる理由とは?

一本目は恐々でしたよ。100年以上前に書かれたものなのでもう古典と言っていいと思いますが、そんなものを自分が演出できるのだろうかと。でも、考えてみると、古典でこんなにも人物を相対的に書いている作品ってほかにない。例えばシェイクスピアなら、その人がなにを考えているのか台詞を聞けばわかりますよね。ところがチェーホフの場合、言っていることと考えていることの間には大きな乖離がある。そういう意味ですごく革新的な作家だと思いますし、普段自分の書くものに近いんです。独特の情感があるというのもチェーホフならではだと思います。

――中でも『桜の園』という作品にはどんな魅力を感じますか?

やっぱり遺作ですからね。自分自身の死期を悟っていたからなのか、これまでの三作(チェーホフの発表順に『かもめ』『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』)に比べると、明確なゴールが設けられていると思うんです。桜の園が競売にかけられる、8月22日に向かって物語が進んでいきますから。そこが『桜の園』の特別なところかなと。あと『三人姉妹』あたりから、この人のボードヴィル性を感じるんですよね。『三人姉妹』でフリーキーな奇人たちがポツポツと出没し始め、『桜の園』ではもう奇人ぞろい(笑)。そこは演出する上で少し難しいところでもあると思います。

「チェーホフなのに」ではなく「チェーホフだから」に

――演出だけでなく上演台本もKERAさんが手がけられていますが、執筆に当たって意識したこと、心がけたことは?

僕が戯曲を読んで面白いと思ったことを、そのままやりたいと思っています。近年のチェーホフ上演って「いかに壊すか」みたいなものが多いように感じますけど、あくまで僕はオーソドックスに。だから壊そうとも、引き寄せようともせず、なるべくチェーホフと握手が出来るようなものを書いたつもり。ある意味、新劇的と言ってもいいかもしれませんね。自分の上演歴の中にあっては非常に真っ当というか、ザ・演劇みたいなものにはなると思います。岸田國士の戯曲をやった時もそうですが、「岸田國士なのに」みたいなことはあまり考えない。それよりも「岸田國士だから」、「チェーホフだから」といった考え方。

――『桜の園』についてチェーホフは“喜劇”と謳っています。その喜劇性についてKERAさんはどう考えていますか?

KERA meets CHEKHOV『桜の園』ビジュアル

チェーホフは、ことさら悲劇的に上演されることを回避したくて、予防線を張っただけなんじゃないかと思うんですけどね。どうなんでしょうね。一方で、必死に笑わそうと腐心している上演を観ると、ちょっと辛いなと思うんです。だってクスクス以上の、爆笑に次ぐ爆笑みたいなものにはなり得ない戯曲ですよこれは。そういう意味で言えば喜劇ではないのかなと。ただ構造だけ見ると、「このままじゃ桜の園が売れちゃうよ」と散々言われつつも、聞く耳を持たないラネーフスカヤと兄のガーエフが、結局なんの策も練らないままに桜の園が売られてしまうって話。その極端な愚かさは、これまで僕が書いてきたナンセンスに極めて近いものがあって。そういう点では喜劇的な構造だなと思います。

完全無欠な天海祐希に、極めてダメな人を演じてもらう面白さ

――現在、どんなことを意識して稽古を進められていますか?

先ほども言ったように、チェーホフの台詞は字面通りの意味ではほとんど捉えられないですから、「状態」や「そこに漂う空気」を探るために、本読みにはいつもより時間をかけるようにしています。チェーホフをやる時はいつもそうですね。今回で言えば三日半本読みをやって立ち稽古に入り、一幕から固めていって、最後までいったら急ぎ足でなんとかもう一周して通し、みたいな感じ。みんなで考えながら作っています。そういえば昨日山中(崇)が、宇野重吉さんの「チェーホフの『桜の園』について」という、『桜の園』をやる人間にとってはバイブルみたいな本を持っていたんです。そうしたら半分ぐらいの人が持っていて。その日に代役で呼ばれていた人まで読んでいた。僕も2020年の公演(※緊急事態宣言により全公演中止)の時はもっと勉強していて、同じ本を持ち歩いていました。でも中止のショックでもう見たくないと思って片づけたら、どこに置いたのかわからなくなってしまって(笑)。だからってわけでもないですが、今回は過去のデータを探ったり、ほかの人の解釈を参考にしたり、そういった根掘り葉掘りみたいなことはあまりせずに稽古を進めようと思っています。

――桜の園の女主人・ラネーフスカヤを演じるのが、今お話に挙がった天海さんですね。

天海さんは隙のない、完全無欠に近い人を演じることが多いと思うんです。ところが今回演じてもらうラネーフスカヤは極めてダメな人で(笑)、弱くて悠長で、うまく生きられない人間を天海さんにやってもらう面白さはあると思います。本読み初日に話したのは、声のトーンについて。もともと低音でしゃべることが多い方ですから、肝心な台詞とかは、そういう発声のほうが気持ちは乗せやすいと思うんです。でもそこをあえて低音ばかりでやらず、高音も駆使してもらいたいなと。なるべく広い声域を使って台詞を発して欲しいと伝えました。

KERA meets CHEKHOV『桜の園』キャスト。上段左から)天海祐希(ラネーフスカヤ役)、井上芳雄(トロフィーモフ役) 大原櫻子(アーニャ役)、緒川たまき(シャルロッタ役)、峯村リエ(ワーリャ役)、池谷のぶえ(ドゥニャーシャ役)
下段左から)荒川良々(ロパーヒン役)、鈴木浩介(ヤーシャ役)、山中崇(エピホードフ役)、藤田秀世(ピーシチク役)、山崎一(ガーエフ役)、浅野和之(フィールス役)

――ほかにも豪華なキャストが集う注目作です。公演を楽しみにされている方々に、改めてメッセージをお願いします。

かなり面白い芝居だと思うんですよね。ただディズニーランドのような、ボォッとしててもいろんなものを与えてくれるような面白さではなく、舞台を覗き見て、そこで能動的に感じていただくことによって生まれる面白さ。かといって難解ではなく、クスクス笑えるし、きっと共感もできるはずです。そこで生きているのは我々と同じ、浅はかで、隙だらけの、ダメな人間ばかり(笑)。そんな人たちが右往左往するさまを、楽しんで見てもらえたらと思います。

取材・文:野上瑠美子

<公演情報>
KERA meets CHEKHOV Vol.4/4
『桜の園』

作:アントン・チェーホフ
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

キャスト:天海祐希 井上芳雄 大原櫻子 荒川良々 池谷のぶえ 峯村リエ 藤田秀世 山中崇 鈴木浩介 緒川たまき 山崎一 浅野和之 ほか

【東京公演】
2024年12月8日(日)~12月27日(金)
会場:世田谷パブリックシアター

【大阪公演】
2025年1月6日(月)~1月13日(月・祝)
会場:SkyシアターMBS

【福岡公演】
2025年1月18日(土)~1月26日(日)
会場:キャナルシティ劇場

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/sissakura2024/

公式サイト:
https://www.siscompany.com/sissakura2024/

【シリーズ上演記録】

KERA meets CHEKHOV vol.1/4
『かもめ』

2013年9月4日(水)〜9月28日(土)東京:Bunkamuraシアターコクーン
2013年10月4日(金)〜10月9日(水)大阪:シアターBRAVA!

出演:生田斗真・蒼井優・野村萬斎・大竹しのぶ
山崎一・梅沢昌代・中山祐一朗・西尾まり・浅野和之・小野武彦
山森大輔・中川浩行・長友郁真・頼経明子

KERA meets CHEKHOV vol.2/4
『三人姉妹』

2015年2月7日(土)〜3月1日(日)東京:Bunkamuraシアターコクーン
2015年3月5日(木)〜3月15日(日)大阪:シアターBRAVA!

出演:余貴美子・宮沢りえ・蒼井優・山崎一・神野三鈴・段田安則・堤真一
今井朋彦・近藤公園・遠山俊也・猪俣三四郎・塚本幸男・福井裕子・赤堀雅秋

KERA meets CHEKHOV vol.3/4
『ワーニャ伯父さん』

2017年8月27日(日)〜9月26日(火)東京:新国立劇場小劇場

出演:段田安則・宮沢りえ・黒木華・山崎一
横田栄司・水野あや・遠山俊也・立石涼子・小野武彦
<ギター演奏>伏見蛍

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