上野水香、ベジャール作品『ルナ』への挑戦も 休館を控えた神奈川県民ホールでバレエ・ガラ『Jewels from MIZUKA 2025』開催
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左から)黒岩祐治神奈川県知事、上野水香 (c)平舘平
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すべて見る来年1月に開館50周年を迎える神奈川県民ホール。老朽化により、2025年3月いっぱいをもって休館となることが発表されているが、休館前の1カ月間は「ありがとう神奈川県民ホール」としてさまざまな記念公演やイベントを開催する。そのメイン公演に位置付けられているのが、2025年3月8日(土) に大ホールにて上演される『Jewels from MIZUKA 2025ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025』。鎌倉市出身で、東京バレエ団ゲスト・プリンシパルとして活躍を続け、かながわ観光親善大使でもある上野水香のプロデュース・主演による、華やかなガラ公演だ。11月11日に同ホールで実施された、黒岩祐治神奈川県知事、上野水香の合同記者会見の模様をレポートする。
思い出の地で手作り感のある舞台を
冒頭の挨拶にて、公演の概要について説明した黒岩知事。「上野さんは、20世紀を代表する世界的振付家、故モーリス・ベジャールから直接『ボレロ』の指導を受けた最後のダンサー。私も神奈川県民ホールで上野さんの『ボレロ』を観劇しましたが、本当に圧巻でした。また『白鳥の湖』、『くるみ割り人形』、『ジゼル』などに主演していただいているほか、年末の風物詩となっている〈ファンタスティック・ガラコンサート〉に2008年から毎年出演され、ご自身のプロデュース公演〈Jewels from MIZUKA〉(2014年、2018)でも成功をおさめられていらっしゃいます」と、神奈川県民ホールでの彼女の活躍を紹介した。
これを受けて上野は、公演実現への感謝の思いを述べるとともに、「神奈川県民ホールは、家から一番近い大劇場。子供の頃から、海外カンパニーの来日公演や日本を代表するバレエ団の公演を観に来るのはいつもここでした。プロになってからも大切に踊らせていただいてきました。〈ファンタスティック・ガラコンサート〉は、これがないと年が越せないくらいで、本当に大切にしてきた舞台です」と振り返る。
〈Jewels from MIZUKA〉は今回が3度目の開催。東京バレエ団での活動とはまた違った“ものづくり”の場として、上野が大切に取り組んできた公演だ。
「ずっとやってみたかったプロデュース公演。夢が叶い、本当に嬉しく思いました。東京バレエ団の仲間たちの、皆の素に近い、普段の舞台とは違った一面を見せてもらいたいと思ってつくりました。私がダンサーたちにアドバイスやコーチングする初めての機会で緊張もありましたが、こうしたらどうかな、と提示することで何かが引き出されていくことはとても嬉しく、違う世界が見えたような気がしています。
今回も、皆の生き生きとした表情が見える舞台にしたい。東京バレエ団では〈上野水香オン・ステージ〉を上演していますが、バレエ団によるオーガナイズの行き届いた舞台とはまたちょっと違った味わいの、温かみある、手作り感のある舞台になると思います」(上野)
続いて上野は、今回上演する演目について説明。古典の中でもひときわ明るく楽しいバレエ『ドン・キホーテ』からの抜粋を仲間たちとともに上演するほか、東京バレエ団の岡崎隼也による新作、元東京バレエ団のブラウリオ・アルバレスによる『パリのアメリカ人』、またゲストの中村祥子、厚地康雄による金森穣振付『Andante』、元東京バレエ団の吉岡美佳がベジャールのソロ作品を踊るという。上野自身は、『ドン・キホーテ』、『パリのアメリカ人』に加えてもうひとつ、新たな挑戦に取り組むことも明かした。「モーリス・ベジャールの『ルナ』という作品を踊ります。バッハの音楽で、月の光を表現するソロですが、憧れのシルヴィ・ギエムさんが踊っていらしたベジャールの代表作のひとつです。今回、ベジャール作品の指導のために、(元モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督の)ジル・ロマンさんが来てくださるのですが、指導だけでなく出演もしてくださることに。吉岡美佳さんとベジャールのパ・ド・ドゥ作品を踊っていただきます」。
県内の劇場と連携しながら舞台芸術を継承
その後の質疑応答では、黒岩知事に劇場の休館について質問が寄せられた。上野にある東京文化会館も、大規模改修のため2026年5月から2028年度中まで休館することが発表され、首都圏でオペラやバレエを上演できる劇場が不足することが問題視されている。
「県民ホールは皆さまに愛していただきましたが、50年が経って老朽化し、大規模修繕の繰り返しで、まさに限界がきています。来年3月で幕を閉じることにしましたが、その後については横浜市の都市再開発とあわせながら決めていきたい。大規模な劇場がなくなることは非常に重大な問題。舞台芸術をどのように継承していくか、裏方で支える方たちの技術をどう継承していくかという問題もある。神奈川県には鎌倉芸術館や横須賀芸術劇場もありますから、うまく連携しながら、技術の継承、場の提供の継承をしていきたい。また昨日、リニア中央新幹線神奈川県駅(仮称)の工事現場内で〈さがみはらリニアフェスタ〉というイベントを開催しました。地下30メートルの広大なスペースを、エンターテインメントの拠点にしようという構想です。普通の劇場ではありませんが、そういったものもいろんな形で活用しながら、しっかりと継承していきたい」(黒岩県知事)
県民ホールの休館については、上野も「本当に寂しい」と嘆く。「夢の詰まった舞台をくれたのがこの神奈川県民ホール。〈Jewels from MIZUKA〉は感謝の気持ちをもって、より思いを込めた舞台にしたい」と語った。
思い入れの深い舞台での新たな挑戦に、ファンの期待は高まる。幼い頃から憧れていたギエムが踊った『ルナ』では、きっと新たな表情で観客を魅了するはず。
「ベジャール作品にはそれぞれにいろんな味わいがありますが、中でも『ルナ』には強くポエジーを感じます。この会場での最後の舞台、エモーショナルな、寂しいとか悲しいという気持ちをこめやすい作品だと思います。ジルさんが持ってきてくださったのは初演ダンサーが踊られている映像で、ギエムさんとは振りが違い驚きましたが、とても音楽的。バッハの音楽に寄り添った振付です。私もこの作品を踊ることで音楽になれたら。長いソロですので大変ではありますが、一つひとつのパにいろんな思いをこめられたら、と思っています」(上野)
取材・文:加藤智子
<公演情報>
「Jewels from MIZUKA 2025 ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025」
プロデュース・出演:上野水香(東京バレエ団ゲスト・プリンシパル)
出演:中村祥子 吉岡美佳
厚地康雄 秋元康臣 ブラウリオ・アルバレス
柄本弾、沖香菜子、宮川新大、池本祥真 ほか、東京バレエ団より出演
2025年3月8日(土)15:00開演
会場:神奈川・神奈川県民ホール 大ホール
「ありがとう神奈川県民ホール」概要
(1) Jewels from MIZUKA 2025 ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025
神奈川県出身、「かながわ観光親善大使」の上野水香をプロデューサーに迎えた国内外の第一線で活躍するダンサーによるバレエ・ガラ公演
(2) 神奈川県吹奏楽フェスティバル
長年吹奏楽コンクール等の会場として親しまれてきた神奈川県民ホールで行われる休館前最後の吹奏楽イベントとして、県内各地から様々な年代の方が参加する吹奏楽フェスティバルを実施
(3) 共生共創フェスティバル
「年齢や障がいなどにかかわらず、すべての人が舞台芸術に参加し楽しめる」をコンセプトに「横須賀シニア劇団」や「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー(シニアダンス)」の公演、多文化の魅力を発信する展示・ワークショップ等、共生共創事業の企画に関連したプログラムを実施
(4)「とびだせ!マグカル開放区 in 県民ホール」
音楽やダンス、大道芸などのパフォーマンスを自由に発表できる場である「とびだせ!マグカル開放区」を大ホールで実施
(5) フィナーレコンサート「ありがとう神奈川県民ホール」
神奈川フィルハーモニー管弦楽団と混声合唱による演奏会等により、グランドフィナーレを盛り上げる
(6) オープンデー
小ホールでのパイプオルガン体験やホワイエ等で過去の公演ポスター展示等を実施
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