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ぴあ 総合TOP > 第1回:白衛軍とは? ブルガーコフとは?

20世紀ロシアを代表するウクライナ出身作家
ブルガーコフの代表作が日本初演!

新国立劇場『白衛軍 The White Guard』特集

第1回:白衛軍とは? ブルガーコフとは?

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2022年2月のロシア軍による侵攻以降、いまなお混迷した情勢が続くウクライナ。ちょうど100年前に、この地を舞台にキーウ(帝政ロシア、ソビエト政権下ではキエフ)出身の作家ミハイル・ブルガーコフの手によって書かれた小説、および戯曲を元にした舞台『白衛軍 The White Guard』が東京・初台の新国立劇場にて12月3日(火)より上演される。

ロシア革命の勃発と帝政ロシア崩壊という激動の歴史の中で翻弄され、敗れ去っていく人々の姿を描いたこの物語をいま、日本で上演する意味とは――? 当時の時代背景や作家ブルガーコフの生涯を解説しつつ、その魅力を紹介します!

白衛軍とは?

タイトルの白衛軍(別名:白軍)とは、ロシア革命における反革命軍のこと。ソビエト政権の“赤軍”に対し、革命に反対する勢力がそう呼ばれた。物語の舞台となる1918年当時のキエフは白衛軍と赤軍に加え、義勇軍であるウクライナ人民共和国軍「ペトリューラ軍」の三つ巴の状況にあり、1917年3月の二月革命から1920年の赤軍による完全支配が確立するまで、実に14度の権力交替があった。『白衛軍』では1918年12月に白衛軍を支援してきたドイツ軍の傀儡政権がドイツに逃亡して、ペトリューラ軍による占領が始まる直前から1919年2月に赤軍がキエフを占領するまでの約3か月間が扱われており、物語の中心となるトゥルビン一家と、その住まいに出入りする将校たちが戦いに巻き込まれていくさまが描かれる。

『白衛軍 The White Guard』宣伝ビジュアル

Who is ブルガーコフ?

ブルガーコフは1891年にキエフに生まれ、1916年にキエフ大学医学部を卒業。医師として働き始めるが1917年にロシア革命が勃発。1918年にはキエフで開業医を始めるが、革命後の内戦では白軍に軍医として従軍し、その後、赤軍、ペトリューラ軍にも動員された。

ミハイル・ブルガーコフ(1891-1940)

その後、作家として生きることを決意してモスクワに上京。1924年には小説「白衛軍」の第1部を発表した。1926年には小説「白衛軍」を自ら戯曲化した『トゥルビン家の日々』がモスクワ芸術座で初演され、「第2の『かもめ』」と称賛される。だが、ソビエト政権の敵である白衛軍を同情的に描いていることで批判が激化し、1929年にはブルガーコフの全ての戯曲が上演禁止となる。

後に上演禁止は解かれるが、不遇のまま1940年に腎臓硬化症により48歳でこの世を去った。死後、1966年~67年に長編小説「巨匠とマルガリータ」がロシアで発表され、たちまち世界各国の言葉に翻訳されたことで世界的にその名が知られるようになった。

「白衛軍」はブルガーコフの自伝的小説だが、作中でウクライナの民族的英雄であるペトリューラや彼が率いた人民共和国軍を辛辣に描いていることもあって、2022年のウクライナ侵攻以降、ウクライナ国内ではブルガーコフを「帝国主義者」とし、「ウクライナ文化を軽蔑していたウクライナ嫌いの作家」と批判的に見る向きがあるという。ロシア文学者で「ブルガーコフは『ウクライナ嫌い』の作家か」という論文も発表している千葉大学大学院准教授の大森雅子氏は、「白軍、赤軍どちらかを悪く書こうとしたわけではなく、冷静な態度で書こうとした」というブルガーコフの言葉を紹介。この俯瞰的な視点こそ本作の魅力のひとつであるとし、作家本人と劇中の登場人物の言説や思想を短絡的にリンクさせる見方に疑義を示しており、演出を担当する上村聡史も「時代のうねりの中を生きる人々を実直に見つめている」と語る。

10月に開催されたスペシャルトークイベントより、左から本作演出の上村聡史、千葉大学大学院准教授・大森雅子氏

激動の時代に非常に複雑な立場にあった作家の作品だからこそ、いまの時代に改めて見直すべき作品といえるかもしれない。

いまだからこそ! 日本で上演すべき『白衛軍』

以前、英国で本作を鑑賞し衝撃を受けたという演出の上村は、2022年のロシア軍のウクライナ侵攻の報に接し、当初予定されていた作品を差し替えて本作を上演したいと小川絵梨子芸術監督に直訴したと明かしており「遠い国で起きている戦争に僕らが全く関与していないということはなく、どこかで繋がっている」と語る。

なお、上演にあたってロシア語の戯曲ではなく、2010年に英国ナショナル・シアターで上演された際の、アンドリュー・アプトンによりリライトされた英語台本(日本語訳:小田島創志)が使用される。上村は「100年前に起きたことが、現代と地続きになっているということを狙って見せたく、台本の段階でそうした意図がより組み込まれているアプトン版を使うことを決めた」とその意図を説明している。

舞台上で展開される、100年前の物語、敗れ去っていく者たちの姿は、いまを生きる私たちに何を問いかけるのか――?

『白衛軍 The White Guard』メイキング映像

『白衛軍 The White Guard』あらすじ

革命によりロシア帝政が崩壊した翌年──1918年、ウクライナの首都キーウ。革命に抗う「白衛軍」、キーウでのソヴィエト政権樹立を目指す「ボリシェヴィキ」、そしてウクライナ独立を宣言したウクライナ人民共和国勢力「ペトリューラ軍」の三つ巴の戦いの場となっていた。
白衛軍側のトゥルビン家には、友人の将校らが集い、時に歌ったり、酒を酌み交わしたり...…この崩れゆく世界の中でも日常を保とうとしていた。しかし、白衛軍を支援していたドイツ軍によるウクライナ傀儡政権の元首ゲトマンがドイツに逃亡し、白衛軍は危機的状況に陥る。トゥルビン家の人々の運命は歴史の大きなうねりにのみ込まれていく......。

〈公演情報〉

『白衛軍 The White Guard』

作:ミハイル・ブルガーコフ
英語台本:アンドリュー・アプトン
翻訳:小田島創志
演出:上村聡史

出演:村井良大、前田亜季、上山竜治、大場泰正、大鷹明良/池岡亮介、石橋徹郎、内田健介、前田一世、小林大介/今國雅彦、山森大輔、西原やすあき、釆澤靖起、駒井健介/武田知久、草彅智文、笹原翔太、松尾諒

2024年12月3日(火)~12月22日(日)
会場:東京・新国立劇場 中劇場

公式サイト:

https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-white-guard/