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ヴァイオリンに思いを込めて半世紀─大谷康子が記念公演を華々しく

クラシック

インタビュー

ぴあ

(c)Kano Hayasaka

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長くコンサートマスターを務めた東京交響楽団を2016年に退団して以降も、ソロに室内楽に、また教育にテレビ番組の進行役にと、旺盛な活動を続けるヴァイオリニストの大谷康子。デビュー50周年を迎え、記念のコンサートを開く。

曲目は、

ラヴェル:ツィガーヌ
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番
R.シュトラウス:メタモルフォーゼン
 *
ユリウス・クレンゲル:ヒムニス(讃歌)*ヴァイオリン合奏版
萩森英明:未来への讃歌(委嘱初演)

「民族・言語・思想の壁を超えて未来に向かう音楽会」というコンサート・タイトルともども、周年の記念コンサートとしてはやや異色とも言える骨太のプログラムだが、この曲目自体に、彼女の音楽家としての生きざまが集約されている。

「覚悟して聴いていただかないとならないかもしれませんね(笑)。でも50年間、私が何を思って行動してきたかを皆さんにお伝えできるように、愚直に言い続けてきた自分の思いを込めました。

よく“音楽の力”と言いますが、では何ができるのか。私は8歳の時にスズキ・メソード(才能教育)の全米ツアーのメンバー10人に選ばれて、国連本部で演奏させてもらいました。まだ子供でしたが、身体の大きな、髪の色も目の色も違う外国の方が、みんな立ち上がってすごい拍手をしてくれる。ああ、ヴァイオリンを弾けば、言葉や国が違ってもみんな聴いてくれるのだと感じる体験でした。音楽なら何かができる。それをずっと信じてきました。

今も世界でいろいろな問題が起こっています。簡単でないことは重々わかっていますが、それを乗り越えるようなことが、音楽にだって少しはできる。それを皆さんと一緒にもう一回考えましょうというのが前半。そしてその壁を乗り越えて、明るい未来に向かって力を合わせていこうよというのが後半のプログラムです。

音楽は、人の心に入った時に、ものすごく大きな力になる。大好きなヴァイオリンを通じて、できることはなんでもやろうと思って活動してきました」

多彩な構成のプログラム。幅広い活動歴を象徴するようにさまざまな編成の作品が並ぶのは、彼女の50周年を祝うためにたくさんの仲間たちが馳せ参じて共演するから。

信頼する仲間たちと、変化に富んだ多彩なプログラム

(c)Kano Hayasaka

コンサートはラヴェルの《ツィガーヌ》で始まる。ピアノは藤井一興。

「私の音色は特徴的で、ちょっと聴いただけで私の音だとわかると言ってくださるので、それを聴いていただきたくて、最初が無伴奏で始まるこの曲を持ってきました」

そしてショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番を、2005年に結成した弦楽四重奏団「クァトロ・ピアチェーリ」で弾く。第1ヴァイオリン:大谷康子、第2ヴァイオリン:齋藤真知亜、ヴィオラ:百武由紀、チェロ:苅田雅治。2010年にはショスタコーヴィチ演奏の成果を評価されて芸術祭賞大賞を獲得しているアンサンブル。

「チェロの苅田さんの先生の井上頼豊先生が戦後、抑留されていたシベリアから帰国される時に、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏全曲のスコアを持ち帰られたのだそうです。それを苅田さんに、『これをやりなさい』と託した。それを苅田さんが私とやりたいと誘ってくれたのです。でもその頃、私はものすごく忙しくて。そうしたら5年も待ってくださいました。

どんな本番でもルンルンで行く私が、クァトロ・ピアチェーリのショスタコーヴィチの時だけは、あんなに辛い思いの内容を表現しなければならないかと、いつも気持ちが重くて……。第8番は戦争の犠牲者に捧げられた曲ですので、今の状況を考えるにはふさわしいと思います」

R.シュトラウスの《メタモルフォーゼン》は23の独奏弦楽器のための作品。山田和樹指揮の「大谷康子50周年記念祝祭管弦楽団」の演奏で。今回彼女のために集まったこの特別編成のオーケストラは、ヴァイオリンは全員が大谷の門下生で、現在ソリストやオーケストラ・プレーヤーとして第一線で活躍している人たち。おなじみのメンバーが何人もいるはずだ。

「学生時代に東京芸大の附属高校で教え始めて、東京音楽大学と東京芸大、今は東京芸大ジュニア・アカデミーでも教えています。長年教えてきたので、生徒さんたちがいっぱいいます。一緒にやれたらいいなと思ってちょっと話したら、あっという間に話が広がって、一人ひとりに声をかける間もなく大勢集まってくれました。

R.シュトラウスはブラームスと並んで最も好きな作曲家です。この曲は第二次世界大戦中に書かれた作品ですから、今の状況をみなさんと共有するという思いで選びました」

そして明るい未来に向かう後半。クレンゲルの《ヒムニス》はもとは12本のチェロのための作品だ。

「これは指揮者なしで、生徒さんたちと演奏します。1パートを2人ずつ弾けば、生徒がもっとたくさん出られるので、たぶん24人で。もしかしたら36人になるかもしれません(笑)」

世界の民族楽器と共演する新作協奏曲の初演

(c)Kano Hayasaka

最大の聴きどころは、このコンサートのための委嘱作品《未来への讃歌》の世界初演だ。作曲者の萩森英明は大谷が進行役を務めるBSテレ東『おんがく交差点』の編曲も担当している作曲家。『おんがく交差点』はジャンルを超えたさまざまな音楽家をゲストに招く音楽版『徹子の部屋』のような番組で、そこで出会った世界各地の4つの民族楽器が大谷のヴァイオリンとともに独奏楽器として登場する。ヴァイオリンとバンドネオン(三浦一馬)、バスクラリネット(梅津和時)、ンゴマ(大西匡哉)、ドゥタール(駒﨑万集)の独奏による、いわば五重協奏曲だ。

「民族・言語・思想の壁を超えて世界中が仲良くできることを、世界の民族楽器と一緒に演奏することで表現したいと思います。南米のバンドネオン、梅津さんは東欧系のユダヤの音楽クレズマーの奏者です。そしてアフリカの太鼓ンゴマ、ウズベキスタンの撥弦楽器ドゥタール。

萩森さんはオーケストラ曲も書いていますし、番組の中でもそういう楽器と私のコラボのコーナーをやってくださっているので、私の意図をしっかり共有していただけます。

いろいろな地域のいろいろな楽器が出てくるので、変化に富んで、びっくりすると思いますよ。できれば最後、会場が一体となって、音楽で世界に平和をもたらせると確信できるような感じに持っていきたいと思います」

「得意な曲を並べるよりも、自分にしかできないオンリーワンを!」というように、大谷康子ならではの音楽と祈りが溢れるコンサートになりそうだ。

ちなみに、少女の頃からさまざまなステージを経験しているので「デビュー」を正確に定義するのは難しそうだが、1975年に森正指揮の名古屋フィルとメンデルスゾーンを弾いたコンサートを起点にして50年だ。

「でもその時の年齢は秘密です(笑)。合計34年間も務めたコンサートマスターを退いてから、ありがたいことに、オーケストラにいる時には忙しくてできなかったことも、いろいろできるようになりました。私にとってはそこからがまた青春なんです」

と、じつにうれしそうな、あどけない笑顔。視線はつねに未来に向かっているのだなと感じた。だから50周年もまた次の一歩ということ。50周年、おめでとうございます。

取材・文:宮本明

大谷康子 デビュー50周年記念特別コンサート

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2453965

2025年1月10日(金) 18:30開演
サントリーホール 大ホール

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