『ケレン・ヘラー』國吉咲貴が描く、面白さと不謹慎の先にあるもの
ステージ
インタビュー
國吉咲貴 (撮影:中野あき)
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すべて見る「異常で、日常で、シュール」をテーマに掲げ、コメディタッチで社会の一面を描き出していく作風が注目を浴び、小劇場を中心に支持を集めている「くによし組」。2018年に初演され、面白さと不謹慎の境目を行き来する過激な女性芸人の姿を描き、大きな話題を呼んだ『ケレン・ヘラー』がシアタートラム・ネクストジェネレーションvol.16に選出され、12月19日(木) より上演される。6年前の初演時よりもさらに、ネットの誹謗中傷が問題化し、一方で社会の不寛容さも進んでいるいま、この物語はどのように受容されるのか? 作・演出の國吉咲貴に話を聞いた。
――戯曲を読んで、SNS上での過激な表現や炎上といった問題が6年前の時点でここまで顕在化していたのかと驚きがありました。2018年の初演時の周囲の反応はいかがでしたか?
周りからは「怖い」という感想が多かったですね。「なんか面白いけど、怖い」とか「SNSについてとか“面白い”って何だろう?とか、すごく考えちゃった」といった感想はたくさんいただきました。
――ヘレン・ケラーをお笑いのネタにしたことで「不謹慎」と炎上した女性芸人が、お喋りロボットを相方にして、さらに過激なネタで繰り出し一発逆転を試みるという本作ですが、そもそもこのストーリーの発想はどこから?
当時、SNSがすごく過激な内容のものが多くなってきたのを感じていて、あんまり見たくないような動画やつぶやきも流れてきて、それでもつい見ちゃうみたいな感じがイヤだなぁ……というザワザワがありました。あとは劇中にヘレン・ケラーのコントをするというシーンがありますが、あれは学生時代に実際に私の友達が「ウォーター!」とやっていて、みんな笑うみたいなのがあったんですけど、私は「これって笑っていいのかな……?」みたいな感じでずっと引っかかっていたものがあって、そうしたものを合体したら、お話になりそうだなというのが最初のきっかけでした。
――いまでも、TVやネットでの誰かの発言やネタが「不謹慎だ!」と炎上したり、逆に「これはバカにしているわけではない」と擁護する声が上がったりすることは頻繁に起こります。國吉さん自身は、面白さと不謹慎の境目という部分に関して、どのようなスタンスで作品を書かれていますか?
傷つく人がいないのがいいなとは思うんですけど、誰も傷つかないものだけを書いてると、書きたいものが書けなくなっちゃうという部分もあって、「これは書きたいけど、どうやったらなるべく傷つく人が減るだろうか?」みたいなバランスを考えて、あえて明るいキャラクターを出したりすることもあるし、この作品でも、主役の子がアフロというのも、彼女は悲劇の中に飛び込んでいくけど、彼女の姿を追いかけている間は、なるべくお客さんが楽しい気持ちで追えるようにというのもあるんです。ただ、笑っていいものがすごく限られてきているなっていう感覚はありますね。
――今回の再演で、6年前の初演時から変えようと考えている部分に関して教えてください。
初演の時は主役の女の子が「面白い」ということがわからなくなって、どんどん過激になって壊れていくという感じで、あくまで主人公の物語だったんですけど、改めて読み返した時に、彼女がこうなっちゃった理由は、彼女だけの問題じゃないんじゃないか? と思ったんです。SNSも見てくれる人がいるから広がっちゃったりするし、笑ってくれる人がいるから、より面白くしようと頑張っちゃうみたいなところがあると思います。受け取り手がいるから、彼女はこうなっていったのかもしれないと思った時に、初演時は彼女だけの話だったんですけど、今回の再演では、周りの人にも彼女がこうなってしまった理由があるのではないか? とちょっと視点を変えて書き直しました。
――國吉さん自身も6年前と社会の変化を感じますか? このシアタートラム・ネクストジェネレーションに新作ではなくあえて『ケレン・ヘラー』で応募した理由も含めて、教えてください。
すごく過敏になっているなと感じますね。そこに切り込んでいくような物語をいまやったら、どう見てもらえるかな? という思いはありました。多分、いまって“やさしい物語”を見たいという人が多いと思うんですけども、そこであえて傷ついていくみたいなものをいま、やってもいいのかなという気がして、チャレンジしてみようと思いました。
――國吉さん自身、クリエイターとして作品を発表する中で、誹謗中傷と言えるような声が届いたり、周囲の反応に傷つくことはありますか?
傷つきます。そして、とにかく落ち込みます……(苦笑)。でも、それはおそらく、ちょっと深い部分に行ってしまったからなんだろうなと思うので、そこをどうやって掘り下げていったら、「傷つく」という方向じゃなく、何かを感じてもらえるのか? というのを落ち込んだ後に考えたりとかしています。やっぱり、できれば誰も傷つかないものを作りたいなとは思うので、そこは探り探りですね。
――「異常で、日常で、シュール」を掲げている「くによし組」ですが、本作に限らず、社会をシニカルな目線で笑いを交えつつ描き出していきたいという思いは、表現者として以前からお持ちだったんでしょうか?
やっていくうちに、私が書きたいものがやさしいものじゃないぞって気づいていった感じですね。最初はもっとやさしいコメディを作ろうとしていたんですけど……(苦笑)、私は、自分が「痛い」と感じる部分を書きたいんだなと気づいて、変わっていっちゃいましたね。
――シアタートラムでの上演にあたって、演出部分や見せ方というところで新たに考えているところはありますか?
初演の時は劇場が小さめで、俳優同士の距離がすごく近かったんですけど、今回は天井も高いし、空間も広くなりますし、(劇中に)幻覚とかもいっぱい出てくるので、いつの間にか誰かいるみたいな、お客さんが見ていてワクワクするような動きは、たくさんできるなと思っています。あとは、美術がすごくかわいい感じになりますし、いろいろな出口を作っていただけそうなので、いろんなとこから役者さんが出たり入ったりしますし、後半にかけてすごい仕掛けも考えています。
――初めて本作を鑑賞されるお客さんにとっては、いったいどんな物語が展開するのか? ちょっと怖いような、見てはいけないものをのぞこうとしているような、期待と不安が入り混じっているという方も多いと思います。國吉さんはこの物語をどんなふうに楽しんでもらいたいと思っていますか?
このお話が、SNSについて考えるきっかけになったら、それはそれでもちろん嬉しいんですが、何よりもアフロ子という女の子が、夢を叶えたいと思い、好きなものに一生懸命、がむしゃらに生きる物語なので、その姿に対して熱くなってもらえたらすごく嬉しいです。
生きるのが不器用な女の子が、好きなものと夢に向かって頑張っていくお話で、その周りの人たちもみんな、何とか楽しく生きようと頑張っているお話なので、毎日が楽しいという人にももちろん見てほしいんですが、毎日が大変だなという人にも見てもらって、何とか頑張れる。ちょっとしたエキスになったら嬉しいなと思います。
取材・文:黒豆直樹
<公演情報>
シアタートラム・ネクストジェネレーションvol.16 ―演劇―
くによし組『ケレン・ヘラー』
公演期間:2024年12月19日(木)~ 2024年12月22日(日)
会場:シアタートラム
終演後ポストトークあり (※開催回のチケットをお持ちの方がご参加いただけます)
12月20日(金) 18:30 國吉咲貴(作・演出)、野上絹代(演出家・振付家・俳優/快快(FAIFAI)所属)
12月21日(土) 18:30 國吉咲貴(作・演出)、松居大悟(劇団ゴジゲン主宰・映画監督)
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2419938
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