森 大翔『3rd Tour「Let It Grow」』凄まじい濃度で展開された渋谷CLUB QUATTRO公演をレポート
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森 大翔『3rd Tour「Let It Grow」』11月20日 渋谷CLUB QUATTRO公演 (Photo:小西泰央)
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すべて見るText:石角友香 Photo:小西泰央
森 大翔が10月30日にリリースした2ndアルバム『Let It Grow』を携え、東名阪ツアーを開催。ここでは2日目の東京公演をレポートする。ジャンルを越境するテクニカルなギタープレイでデビューのきっかけを掴んだ彼が、ギタリスト&シンガーソングライター、さらにエンタテイナーとしてのレンジを拡張した作品がニュー・アルバム『Let It Grow』。ギターだけでなく、楽曲プロデュースやギター以外の楽器アレンジや、シンセや打ち込みにも挑戦した本作、そして今夏の『FUJIROCK FESTIVAL』など各地のイベントやフェス出演を経た最新の森 大翔へ寄せられる期待値は高く、幅広い年齢層のオーディエンスにもそれが見て取れる。
“やまと!”“もーり!”と交互に発されるコールの中、サポートメンバーの杉本雄治(key)、田中駿汰(ds)、月川玲(b)、GenTi(g)が登場し、少し遅れて森も現れるといきなりエモーショナルなソロから「I thank myself(for all of me)」がスタート。“選択肢と可能性、無限のシチュエーション”という歌い出しがもう森そのものだ。GenTiにオブリガートを任せ、バッキングと歌に集中し、間奏では杉本も含むトリプルギターでアンサンブルの厚みを増す。ギターを弾き、ハンドマイクで煽り、ジャンプする。
オープナーから全身全霊のパフォーマンスだ。すかさず2曲目の「剣とパレット」ではイントロで見事なツインリードを披露し、月川はタフなスラップで森のラップ調の歌唱を支える。さすが、ライブを重ねてきたメンバーである。さらに畳み掛けるように勇壮なストリングスのSEから「Chaotic世界」に突入。音源以上にほしいところにリードやオブリをサッカーのパス回しのように展開する森とGenTiのプレイの痛快さに驚きを超えて笑いが起こってしまう。
「初っ端からペース配分をミスりました」と、告白する森。自分でツッコミを入れるところも彼の持ち味で、ライブをより風通しのいいものにしている。「大都会とアゲハ」では5弦ベースを構え、スラップのソロを披露。パーカッシブなこの曲の良さをライブで表現するすごくいい手段だ。しかも月川とベースのユニゾンもするわ、ラテン歌謡っぽいメロディはハンドマイクで熱唱するわで、とても1曲の情報量じゃない。それでもキャッチーさでオーディエンスが乗りこなせる構成になっている。まったく見事だ。さらにマスロックなリフで始まる「台風の目」、ニューエイジなフレーズのギターで景色が広がる「悲しみの空の果て」、「夏の落とし物」と、夏の情景や温度を感じさせる曲が続いた。ジャンル感は多様だが、隙間をうまく作るライブアレンジで、森のボーカルが明快に聴こえるのもいい。「夏の落とし物」では“僕はひとり”というフレーズを際立たせ、スパッと終わったのも曲の意図を伝えて印象的だった。
まだ7曲しか披露していないにも関わらず、持っているものを全開陳していく森のスタイルは凄まじい濃度だ。中盤、次に披露する「群青日記」について話し始める。清原果耶主演のドラマ「マイダイアリー」(ABCテレビ・テレビ朝日系)挿入歌として書き下ろしたこの曲。ドラマのストーリーは社会人の現在と大学生の頃の思い出が並行するけれど、自分は学生視点でこの曲を書いたと言い、「生きていくともどかしいこともあるけど、ひとりではあるけど孤独じゃないということを書きたかった」と話してくれた。
森はほぼボーカルに徹し、杉本の弾くピアノが歌を伝えるポップスの強度を増す。ギターソロに温かい想いを込めた分、よりこの曲でのギターが際立つ。そしてハンドマイクで歌った「きっと上手くいくよ」はライブアレンジでグッとポップソウルなアレンジに。アウトロではギターを持ち直し、ストラト2本が軽妙に絡み、ラフなハンドクラップがこの曲のマイペースな前向きさにシンクロしていた。ポップス好きにも親しみやすいこの2曲で出会ったファンも多いように見受けられた。
すでにさまざまな表情を見せてきたが、まだまだ森の音楽的なレンジは天井知らず。田中の重いキックとスネアで始まる「VSプライドモンスター」は怪しげなムードとねちっこいファンクのグルーヴでまた別世界へフロアを誘う。
スイングするフロウで歌う森、エフェクティブなサウンドでベースソロを放つ月川と、曲の世界観をアップリフトする演奏がオーディエンスの熱量をどんどん上げていき、演奏が終わった瞬間に大きな拍手と歓声が上がった。
「もっと声を聞かせてくれ!」と煽る森に応えてコール・アンド・レスポンスが起こる「ラララさよなら永遠に」は80’sっぽいビートに思わず体を揺らしステップを踏む人が続出。森、月川、GenTiのフロント3人が同じアクションでユニゾンするのも華やかで楽しい。ファンクバンドに見られる光景だが、彼らのステージアクションはちょっとプリンスを彷彿させる部分も。森とGenTiのツボを押さえたソロやオブリのフォーメーションは洒脱なナンバーでも冴えを見せた。
「もっと行けるか?」と森が声をかけ、四分キックが鳴らされるとクラップがさらに大きくなり痛快な「Crybaby Fly!」へ突入。クランチなリフから輝くトーンに開放されていくフレージングも、挫折と憧れを動力にしてジャンプする歌詞も、情動に突き動かされている状態はやはりライブならでは。バランスを重視する音源でのスタンスを飛び越えるカタルシスが目の前で展開するダイナミズムは体感しなければわからない。「最後の曲です!」という彼の声が不服そうなファンの声を上回って、人気曲「アイライ」のイントロが鳴らされると、フロアも“愛来(アイライ)!”のシンガロングとクラップを巻き起こす。
森とGenTiのユニゾンするリフのフレーズが高い中毒性を持っていて、このセクションに乗っかって楽しむ人が多数いる。時に歌メロ以上にキャッチーだ。ありのままのあなたでいてほしいという、セルフラブが主題でもあるこの曲が一体感を作り出すのも大いに納得。アウトロを2回回し、ステージ上のすべてのライトが点灯して本編は終了。森もサポートメンバーもオーディエンスも目一杯、ヒューマンパワーを使い果たした爽快さが残った。
開演前と同様、名前のコールでアンコールが求められる中、「こんな熱いアンコールなかったです!」と、喜びを表す森。演奏に入る前に弾き語りツアーと崎山蒼志とのツーマンライブの決定を告知。引き算することも学んでいきたいという趣旨だそうだが、ここにきてよりシンガーソングライター&ギタリストの個性を尖らせていくアプローチなのだろう。非常に挑戦的だ。ラストはお互いに声をかけてあげたいような、今の時代こそ必要なナンバー「たいしたもんだよ」をギリギリ残った力で歌いきる。サビの“いつだって頑張って諦めない日々も”“何もなくて有り余った体で眠る日も”というリアルなフレーズが耳に残った。
すごい速さでアーティスト森 大翔を更新している今、ライブにこそ最新の森がいることは間違いない。2025年の弾き語りツアーもきっとそうだろう。
<ライブ情報>
『森 大翔 弾き語りツアー「響縁」』
■2025年
1月19日(日) 大阪・南堀江knave
開場17:30 / 開演18:00
1月24日(金) 広島・Live Juke
開場18:30 / 開演19:00
1月25日(土) 福岡・ROOMS
開場17:30 / 開演18:00
2月9日(日) 愛知・名古屋LIVE & lounge VIO
開場17:30 / 開演18:00
2月11日(火・祝) 東京・下北沢440
開場17:30 / 開演18:00
2月22日(土) 宮城・仙台カフェモーツァルトアトリエ
開場18:30 / 開演19:00
2月24日(月・祝) 北海道・札幌musica hall café
開場18:00 / 開演18:30
【チケット】
前売:3,800円(ドリンク代別)
U-23前売:2,800円(ドリンク代別)
『森 大翔 弾き語り2MAN「響演」』
2025年3月16日(日) 東京・Shibuya WWW
開場17:00 / 開演18:00
共演:崎山蒼志
料金:前売4,500円/U-23前売3,500円
※ドリンク代別
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/moriyamato-tour2025/
オフィシャルサイト:
https://www.yamato-mori.com/
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