4ピースバンド、JIGDRESSがワンマンツアーの東京公演を下北沢DaisyBar(11月27日)で開催した。『ONE SHOT KILL』と題され、大阪・寺田町Fireloop(11月16日)、名古屋・CLUB ROCK’N’ROLL(11月23日)、そして東京で行われたこのツアーで4人は、JIGDRESSの“今”と“これから”を体現してみせた。
11月27日の東京の最高気温は20℃。いわゆる小春日和で、下北沢はたくさんの人でにぎわっていた。これから飲みに行くであろう人々の間をすり抜け、18時40分くらいに下北沢DaisyBarの扉を開けると、フロアは既に観客で溢れていた。キャパは140人ほどだが、チケットはソールドアウト。その後も続々と人が入ってきて、スタッフが「もう一歩ずつ前の方に進んでください!」と叫び、「こりゃ酸欠だな」という声が聞こえてくる。筆者は壁際に追いやられ、壁に貼られた過去の公演のフライヤー(クリープハイプやyonigeとか)を眺めながら開演を待つ。
ジョイ・ディヴィジョンの「Ceremony」をSEにして、メンバーの山崎大樹(vo/g)、イセノ(g)、ワタナベカズタカ(b)、ヤマグチハヤト(ds)がステージへ。フロアは完全に埋め尽くされていて、ほぼ体が密着している状態なので、手を叩くスペースもなく拍手はまばら。「ソリッド島へようこそ。俺達がJIGDRESSだ。よろしく」(山崎)という言葉とともに、1stフルアルバム『MINORENTROPY』の1曲目に収められた「taog」からライブはスタートした。研ぎ澄まされた轟音が叩きつけられ、デッドな鳴りのサウンドの中に閉じ込められる感覚になる。
さらにノイジーな透明感をたたえたギターが炸裂する「瘡蓋」、〈はい出して 生活費/這い出して 絶望感〉というキラーフレーズが突き刺さる「生活費」、直線的なビートと失恋をテーマにした歌詞が共鳴する「bleach」、このバンドのポップな側面が垣間見える1stシングル「Goat」を続けて演奏。ポストパンク、グランジ、オルタナといった音楽を血肉化し、独創的にしてエッジーなロックミュージックへと結びつける、JIGDRESSの在り方を冒頭からダイレクトに描き出してみせた。
「前のワンマンは渋谷でしたね(7月19日に渋谷WWW Xで行われたワンマンライブ)。あの日から俺は、入り込むようになりまして。“ソリッド島”というのを作ったんですよ。そこで俺は高みを見たいなと思ってまして」「こんなに狭いところに集まって、相当なマニアだと思ってます。お前らと一緒にソリッド島で、高みに行くための曲です」というMCに導かれたのは、〈枯らした花と二人で/最後の歌を作ってる〉というラインを持つ「nectar」。さらに〈始まったあなたと僕との夜〉という歌詞が、オーディエンスとバンドの関係に繋がっているように感じた「plan」の後、「クソみたいな歌詞」へ。鋭い抒情性と称すべきメロディの中で、“あなた”と“僕”の喪失感たっぷりの物語が映し出されるこの曲は、山崎大樹というソングライターの才能を証明している。そのことを改めて実感させられた。
ここからJIGDRESSが持つ(実は)多彩な音楽性を体感できる時間が続いた。美しいギターフレーズから始まり、徐々に狂気を帯びていくように歪んでいく「Flicker」、悲しいまでに透き通ったバンドサウンドが鳴らされた「無重力透明」、どこか淡々としたボーカルが〈退廃的な快楽と腐ったベッドに溺れてたい〉という文学的とも言えるラインを描く「snap」、ヤマグチがビートを刻み続け、その間にメンバーがチューニング、そのまま繊細な音像を生み出してみせた「ORTHODOX」(間奏におけるメロディアスなベースラインも印象的)、痛み、寂しさ、悲しさが混ざり合う刹那的な感情を綴った「refill」。そして、個人的に最も心に残ったのは、「壊れるまえに」だった。シンプルに研ぎ澄まされたアンサンブル、憂いと光の両方を感じさせるメロディ、〈形を亡くした僕らは/夢が汚いゴミだとわかってる〉という歌詞。いつ壊れてもおかしくない、という危うさをまとったJIGDRESSの本質を射抜くようなこの曲のパフォーマンスは、この日のライブの静かなハイライトだったと思う。
「さっき話した“ソリッド島”の話、あれは結構本気です。アホなこと言うけど、みんなに普通にいい思いをしてほしい。俺らの共通項は音楽だけなんだから、その中でやるしかないわけであって。何がしたいかっていうと、俺らがやってることに反応してくれたみんなを連れて、もっと広いものを見たくて。タイアップとか一過性のものではなく、みんなでこのまま、もっと高いところから“ソリッド島”の住人として、すべてのロック業界を見てみようと思ってる。ついてこいよという気持ちもあるし、純粋に応援してほしいという気持ちも出てきて。俺たちずっとカッコいいから、これからもよろしく」
山崎なりの言葉で今後のビジョンを示した後は、「優しい音楽の暴力で締め括ろうと思います」と「ってか」からファスト・チューンを続けざまに放つ。パンキッシュな鋭さをたてた(決してメロコア的ではない)ナンバーを浴びたオーディエンスは、小刻みに体を揺らし、拳を突き上げる。音楽を介した不純物ゼロのコミュニケーションこそが、JIGDRESSのギグの核なのだという事実がはっきりと伝わってくる。本編ラストは「狂ってる」。天井に顔をくっつけるようにして叫びまくる山崎のパフォーマンスから目が離せない。
アンコールではまず、「ありがとうございます。マジでありがとうございます。高みに行くためには、ツイートとか、誰かと飲んだ、誰かにCDを渡したとかそういうことではなくて、曲を作ることだと思うんですよ。春にEPを出すので、よろしく。マジでいい曲できてるので」と山崎がコメントし、新曲の「wack」とライブアンセム「POP is DEAD」を演奏。そしてダブルアンコールは、本編でも演奏した「ってか」「生活費」「mother」。バンドメンバーとオーディエンスが“今できることはやりきった”という表情を浮かべる中、ライブは終了した。
アルバム『MINORENTROPY』のインタビュー(『PMC Vol.32』)で「好きなものを作ればいいと思うし、聴いてもらうために作るのをやめたんですよ。俺らはただ好きな音楽をやって、それをアクシデント的に誰かが見つけて。もしついてきてくれたらマジでありがとうだし、心の底から愛そうと思うんですけど」と語っていた山崎。まさにその言葉通りのステージを見せつけたJIGDRESSは間違いなく、最も信頼できるロックバンドのひとつだと思う。
2025年1月16日(木) には、往来イベント『after feedback vol.02』を下北沢BAEMENTBAR / THREEで開催。出演はJIGDRESS、ルサンチマン、SleepInside、超☆社会的サンダル、板歯目など。言葉の意味通りの“オルタナ”を牽引するJIGDRESS。今後のアクションにもぜひ注目してほしい。
<公演情報>
JIGDRESS『ONE SHOT KILL』
11月27日(水) 東京・下北沢DaisyBar
セットリスト
01. taog
02. 瘡蓋
03. 生活費
04. bleach
05. Goat
06. nectar
07. plan
08. クソみたいな歌詞
09. Flicker
10. 無重力透明
11. snap
12. ORTHODOX
13. refill
14. 壊れるまえに
15. ってか
16. 5/0.6
17. AMEL
18. mother
19. 狂ってる
EN1. wack
EN2. POP is DEAD
WEN1. ってか
WEN2. 生活費
WEN3. mother
<ライブ情報>
『JIGDRESS pre.「after feedback vol.02」』
2025年1月16日(木) 東京・下北沢BAEMENTBAR / THREE
開場17:30 / 開演18:00
出演:JIGDRESS、ルサンチマン、SleepInside、超☆社会的サンダル、板歯目、and more
※第二弾出演者は後日発表
【チケット情報】
スタンディング:3,800円
※ドリンク代別途必要
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=M1040001
JIGDRESS 公式サイト:
http://jigdress.tokyo/