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「この作品がいつまでも残ったら面白い」 鄭義信・浅野雅博・尾上寛之インタビュー

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鄭義信・浅野雅博・尾上寛之

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劇作家・演出家の鄭義信に俳優・浅野雅博と尾上寛之が作・演出を依頼したことをきっかけに、2022年に旗揚げされた劇団「ヒトハダ」。2024年12月12日(木) に開幕する番外公演では、2000年の初演以来、韓国や中国、台湾、インドネシアなどでも上演されてきた名作『杏仁豆腐のココロ』を上演する。約9年ぶりに自身で演出を手がける鄭義信、ヒトハダ劇団員の浅野雅博、尾上寛之にインタビューを行った。

思い入れのある作品を丁寧に作りたい

――2000年に初演を行い、世界各地で上演されてきた作品です。この作品の魅力、鄭さんは9年ぶりにご自身で演出を手掛けられることについてどう感じていますか?

 思い入れのある作品ですが、もしかしたら最後になるかもしれない。でも、今やることで、見た方が「自分たちもやりたい」と思ってくれたらバトンタッチできると思います。この作品がいつまでも生き残り、佳梯かこという女優のことも思い出していただき、心に残るものになればいいなと思っています。

浅野 2000年に書かれた作品ですが、なんでこんなに今にマッチしているんだろうと思います。やはりお互いの信頼感、共通認識が大切になってくるので、そこをクリアできたら、台本が持っている力が伝わるかなと。

尾上 鄭さんの思い入れがすごく強いので、僕らがどう作っていけるか考えながらやっています。2チームとも全然違うものになっていると思いますが、台本の中にある思いを受け継ぎつつ、鄭さんが「こういうのもできるんだ」と新たな発見をできるような公演にしたいです。

――今回の見どころになりそうなのはどこでしょう。

尾上 難しいですね。今、チームをわけて稽古しているので、相手チームのことが全く見えていないんです。

浅野 見るのは完成してからかなと。そんな感じなので、お客様にはぜひ2つ見ていただきたいです。

尾上 だから、見どころは僕の足の怪我が治ってちゃんと立って歩いているところ(笑)。元気になったんだなと思っていただけたら。

 ひろ(尾上)たち仁チームのほうは運動量が多くてわーわー言っていると思う。杏チームは大人だから省エネ。こたつの周りをぐるぐる走り回るのも違うかなと思って、回数を減らしています。

尾上 鄭さん3回やらなきゃ気が済まないのに(笑)。そこも見どころかも。

浅野 稽古では、まずは3回周るのも試してるよ(笑)。

2チームで大きく違うものになりそう

――鄭さんから見た各チームの魅力はいかがでしょう。

 浅野くんとひろ(尾上)2人の年齢がちょうど一回りくらい違うのもあり、テイストが変わっています。立ち位置や動きもだいぶ違うので、演出をしているこっちは混乱するところもあります(笑)。台本から大幅にズレるわけじゃないけど、予想以上に違うものになりそうな気がします。

尾上 2人芝居なので、相手によってこちらもどんどん変わっていく。両方見ると、「こっちのチームの夫婦はこういうことを考えているんだ」というのも見えて面白いと思います。

――役作りについてのこだわりや大切にしている部分は。

浅野 相手ありきなので、「こういうシチュエーションでこういうことを言っちゃうよね」、というのを垣間見られるのが面白いです。自分で考えていることもあるけど、お互いのテンションで芝居が変わるので、決め打ちで行かないほうがいいのかなと思っています。

尾上 僕もあまりガチガチに固めてはいなくて。台本を読んだ中でのイメージを何個か持っておいて、あとは相手とのやり取りの中で取捨選択していきます。今回だと、(高畑)こと美さんが最初に5分ほど1人でお芝居しているのを見て、「この人はこういう人、じゃあ自分はこうかも」と想像しながら作りました。そのうえで鄭さんの演出を受けて修正しながら関係性を大切に作っていますね。フラットな状態からどう振れるかを楽しんでいる感じです。

――村岡希美さん、高畑こと美さんの印象はいかがでしょう。

浅野 村岡さんとは初めての共演ですが、こちらの芝居をどっしりと受け、倍以上にして返してくれます。楽しく身を委ねていますね。引き出しの多い方なのですごく信頼してやっています。

尾上 こと美さんはすごくパワフルで、やっていて楽しいです。パワーの出し方みたいなものが面白いし、鄭さんのこともすごく好きなんだろうなと思います。鄭さんとの信頼関係の中でお芝居が変わっていくのも面白い。2人の関係性がいい方向に作用していて、こちらにもいい刺激になります。

――鄭さんからキャストの皆さんに期待することはありますか?

 今回は怪我なく最後まで全うできたらというのが一番です。役者に期待はいろいろありますが、最終的には舞台を2人で支えなくちゃいけないので、2人の心の交流をお客さんに我がことのように捉えてもらえたら。「よかったよ」の一言のために頑張っているので、そんなに高望みはしていません。

一同 (笑)。

これからも自分たちのペースでいい作品を作れたら

――今上演する意義、注目してほしいポイントを教えていただけますか。

尾上 本作で取り扱う夫婦やパートナー間で起こり得る問題って、20年前の初演当時よりも現代の方が、登場人物の2人と同じ経験をした方は増えているかもしれない。作品と社会との距離感が近付いているのかなと思います。作品について何も知らずに見にきても胸にグッとくるはず。大切な何か・忘れずにいたい何かとして心に残るのかなと。

浅野 とてもデリケートな問題をいかに愛で包んで見せるか。いろいろな年代の方に通じる話ですし、人間が生きている以上起きることです。見た方が「よし、頑張ろう」と思って帰ってくださったら嬉しいです。それでいて、鄭さんらしい、「ここでこんな馬鹿馬鹿しいことするの!?」というのが多々散りばめられています。暗い気持ちになるお芝居ではなく、笑いのほうが実は多いかも。

尾上 内容は重い部分もあるけど、それを包む笑いがたくさんある。楽しんでもらえる作品だと思います。

 たった1回で終わるはずだった作品ですが、多くの反響をいただいて各国で上演しました。インドネシアで上演するとなった時は、「コタツとかないだろうな、どうするんだろう」と思ったりもしましたが(笑)。書かれている普遍的な営みは時がたっても変わらないし、お互いに対する愛と慈しみみたいなところが響くのかなと思います。この作品が永遠に生き残ってくれたら面白いですね。

――今後、劇団「ヒトハダ」でやりたいことはありますか?

 みんな歌うのも好きだから、そういうのをやってみたいという思いも漠然とはあります。だからと言って「やるぞ!」って感じではなく、ゆるく進めていけたら。これが終わったら、みんなで集まって飲みながら話します。

尾上 30〜70代までバラエティに富んだメンバーが集まり、旗揚げで歌、2回目は大衆演劇と挑戦しています。いろんな経験を積んできた人たちが新しいことにチャレンジする劇団になったら面白いなと思っているので、3回目はまた新しい……社交ダンスなのかバレエなのかわからないけど。

一同 (笑)。

 無理無理!

浅野 その時々にみんなで話して考えたらいいなと思っています。でもそれはこういった場所があるから言えること。そういう意味ではまた楽しく、いい芝居を作りたいですね。

浅野 クリスマスの日のお芝居なので、クリスマスシーズンに見にきていただいて。鄭さんのお芝居はいつもそうですが、笑えて泣けて、温かい気持ちになって帰ることができます。安心して見にきていただきたいです。

尾上 年末で寒い時期だと思いますが、劇場に来たら元気になってもらえるし、勇気や希望をもらえると思います。お客様が見に来てくださることで僕らも元気をもらえるので、見ていただいて、来年も一緒に頑張りましょう。

 杏チーム(村岡希美・浅野雅博)、仁チーム(高畑こと美・尾上寛之)どちらもとても面白い芝居になると思います。ぜひ両チーム見ていただけたら。浅草に恋人同士や夫婦で来ていただき、絆を深めていただけたらと思います。

取材・文:吉田沙奈

<公演情報>
ヒトハダ番外公演「杏仁豆腐のココロ」

公演期間:2024年12月12日(木)~22日(日)
会場:浅草九劇

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/hitohada/