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津田健次郎が今年も実感したこと「30年をもってしても、芝居というのはよくわからなくて面白い」

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津田健次郎 (撮影:友野雄)

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スパイダーマンの宿敵として描かれ、ヴェノムにも匹敵する強さを誇るスーパーヴィラン“クレイヴン”。そんな彼が誕生する物語を描いた『クレイヴン・ザ・ハンター』が12月13日、日米同時公開される。怒りのままに“狩り”を繰り返すクレイヴンのことを、吹き替え版でクレイヴンを演じる津田健次郎は「共感はしないけれど、わからなくはない」と話す。その理由とは?

吹き替えは「針の穴に糸を通すような、職人的な面白さ」がある

──映画『クレイヴン・ザ・ハンター』を観た印象は?

暴力描写も激しめで結構血も出ますし……なかなか迫力のある、ワイルドな映画だなと思いました。ヒーローものですが、生身のアクションであるところもこの作品ならではの個性だと感じましたね。

──裏社会を支配する冷酷な父親、幼い頃に亡くなった母親、そして、クレイヴンが最も大切にしている病弱な弟といった家族との関係についてはどのように感じましたか?

父親と弟と複雑な関係を育んでいて、そこから生きる道が決まっていくような……クレイヴンの抗えない運命が描かれている、重厚感のあるお話だなとも思いました。それらをふまえて、クレイヴンを演じる際には「なるべく丁寧にニュアンスを拾っていこう」と特に意識していたと思います。アクションシーンも多いなか、勢いだけで演じるのはちょっともったいないですから。

──普段は冷静で落ち着いているクレイヴンですが、怒りを爆発させたり、ときに若さを含んだりと、いくつもの表情を見せる幅の広い役どころの印象でもありました。そんなクレイヴンの幅広さをどのように表現したのでしょうか?

どちらかというと、原音やアーロンさん(クレイヴン役のアーロン・テイラー=ジョンソン)の表情のニュアンスを頼りにしていたかなと思います。ただ、収録時にディレクションいただいたのが……最初に自分なりに演じてみたときには、もう少し気だるい感じも入っていたんですが、「気だるさはなるべく抜いて、もうちょっと若くやっていきましょう」とリクエストいただいたので、そこは特に意識はしていました。

──吹き替える際に、アーロンさんのお芝居のなかでも最も重視したのは?

どういう音でどういったニュアンスでやっていらっしゃるのかというのも大切ですが、一番は表情ですかね……アーロンさんの表情に自分の芝居が寄り添える感じだといいなと思っていたので、音よりも表情を重視していたと思います。

──「この表情ならこういう音だな」という感じでしょうか?

ん~、音というよりも……なんて言えばいいのかな?

──アーロンさんと一緒にお芝居をしている感覚?

あ、うん、そっちのほうが近いかもしれません。もちろん、音響監督さんの意向が最優先にはなりますし、どのくらいのバランスで演じるのかっていうのも音響監督さんがイメージしているものを目指すんですが……自分の意識としては、クレイヴンに寄り添う感じが強いかな。言葉にするのが難しくて、ふわっとした話ですみません(苦笑)。

──アニメと吹き替え、声を入れるのは同じですが、やっていることは大きく異なりますよね? 改めて、違いについて教えていただけますか。

そうですね、アニメと吹き替えで比較すると、吹き替えのほうが制限が大きい気がします。役を演じているご本人が映って喋っている。そこに表情もついていて、間やブレスが明確に決まっていますから。それらの多くの要素があるなかで、どんなふうに表現を合わせていくかというのが吹き替えで行う作業ですね。

一方、アニメはもう少し自由度が高いといいますか……アフレコ時にはまだ画ができていないことも多いので、表情もどちらかというと僕らがつけていくみたいな部分もあります。それぞれに面白さがありますが、吹き替えのほうでいえば「針の穴に糸を通すような、職人的な面白さ」みたいなものが強いのかなあ……なんて思っています。

表現者として、ネガティブな感情も大事にしている

──金儲けのために罪のない動物たちを狩る人間たちを、クレイヴンは自分の“狩り”の対象としています。そんな彼に共感できるところはありましたか?

僕は正義感が強いわけでもないですし、クレイヴンも正義感で戦っているというよりも「悪党どもが気に入らない」とか「悪の在り方が気に入らない」みたいな感覚で狩りをしている印象があるので……共感できるほど彼に近しいものを自分のなかに感じることはありませんが、「わからなくはない」という気もしました。

──クレイヴン自身にも抑えることができない“怒り”が彼の原動力になっていることに関してはいかがでしょうか?

それはすごくわかります。彼ほどではないですが、僕も怒りの感情をつねに抱えて生きている自覚がありますから……というのも、僕らのような表現していく人間にとって、ポジティブな感情だけでなく“怒り”のようなネガティブな感情もすごく大事なものなんですよね。特に、社会に向いている目みたいなものからくる怒りについては、自分と共通するものがある気はしています。

──弟のディミトリもネガティブな感情を抱えたキャラクターですね。

自分は弱いから父親に認めてもらえないと、幼い頃からずっとコンプレックスを植え付けられてきて、それが思わぬ方向へ向かってしまうディミトリは見ていて感情移入しやすいキャラクターだと思います。ただ白くて美しいだけじゃない彼の人間臭さに共感する部分はあるけれど、共感しきれない、応援しきれない、みたいなところが面白くて、登場人物のなかでも特に興味深いキャラクターだと感じました。

──色々とこじらせているクレイヴン一家ですが、津田さんご自身は“逃れられない血の絆”みたいなものを感じたことはありますか?

そんなに大層なものではありませんが、「あれ? 親に顔が似てきたな」とか(笑)そういったことはあります。完全に別の人間なのに、顔が似ているという……遺伝子レベルで刻まれている何かがあるんでしょうね。若干のめんどくささは感じます(笑)。

「芝居は面白いな」と今年もまた実感しました

──作中で印象的だったシーンは?

冒頭の一連のシーンですね。ネタバレになるので多くは語れませんが……「なるほど、クレイヴンはこういった身体能力を武器としているんだ」とすぐに理解できると思います。アクションシーンとしてもスピード感に溢れていて面白かったです。

──おっしゃる通り、“クレイヴン・ザ・ハンター”とはどんなものか、冒頭で一目瞭然でした。

クレイヴンというキャラクターが持つ個性が非常に色濃く出ていて、冒頭のつかみで全部説明できてしまっているんですよね。セリフや掛け合いで長々と説明するのではなく、「こういうタイプの人です」というのがアクションのなかに組み込まれていて、一発でわかってしまう構成が面白いなと思いました。

この作品自体にアメコミものとしての面白さがあって……、ほぼ生身で戦うところにも新しさを感じましたし、人間ドラマとしても非常に重厚感溢れる作品です。アクションと人間ドラマの両方が楽しめる総合力の高い映画になっていると思いますので、ご興味がおありの方はぜひご覧ください。

──2024年もあとわずか。1年を振り返って、役者として新たに感じたことはありましたか?

どうでしょうねえ……舞台作品や実写作品、吹き替え、アニメと色んな仕事をさせていただき、また1年、たくさんの経験を積ませていただけたことに感謝しています。お芝居の面では数年前から「もう一度初心に返ってやってみる」みたいな感覚がありますが、ますます芝居がわからなくなってきましたし、そういったところも含めて「芝居は面白いな」と今年もまた実感しながら、一つひとつのお仕事に向き合っていた感じでしたね。

──「芝居がわからない」というのはどういう感覚なのでしょうか?

芝居というのは難しい、ということですかねえ……いままでやってきたことも踏まえて、より深く掘っていくと「やっぱり芝居って、いまだにようわからんな」と思うんです(笑)。ずっとその繰り返しなんですが、作品一つひとつについてまずは丁寧に本を読み込んだり、イメージを作っていく。当然のことですが、そういったことが本当に大事だと思いますし、2025年もいままで以上に丁寧に芝居をやっていけたらいいなと思います。

取材・文:とみたまい 撮影:友野雄

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<作品情報>
『クレイヴン・ザ・ハンター』

12月13日(金) より日米同時公開

公式サイト:
https://www.kraven-movie.jp/

MARVEL and all related character names: (C) & TM 2024 MARVEL

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