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【対談】橋本薫(Helsinki Lambda Club)✕堀江博久「道を敷くというより、外れないように支えてくれる感じがすごくありました」

音楽

インタビュー

ぴあ

左から)橋本薫(Helsinki Lambda Club)、堀江博久

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Text : ヤコウリュウジ Photo:山本佳代子

昨年、結成10周年を迎え、改めてどういったバンドなのかを自ら掘り下げた3枚目のフルアルバム『ヘルシンキラムダクラブへようこそ』を発表し、世界最大級の『ビジネスカンファレンス&フェスティバルSXSW』への出演や初となったイギリスツアーも行ったHelsinki Lambda Club。そんな彼らがそれぞれの生活に寄り添い、自分なりのダンスを踊れる新作EP『月刊エスケープ』を完成させた。その中でも注目を集めたのが鍵盤弾きとしてだけでなく、数々のアーティストのプロデュースやアレンジも手掛けている堀江博久をプロデューサーとして迎えた「たまに君のことを思い出してしまうよな」であろう。80年代のポップスをリファレンスしながら、丁寧かつ繊細に構築したこの曲はヘルシンキ史上、最もポップな存在と表現してもいい。そんな曲の制作秘話からクリエイティブへのスタンスまで、ヘルシンキのフロントマンである橋本薫(vo/g)と堀江にじっくりと語り合ってもらった。

――そもそも、おふたりの接点は以前からあったんですか?

堀江 いや、ゼロでしたね。

橋本 僕らがいつも録ってもらっているエンジニアさんに「この曲にはプロデューサーさんを入れたいんですよ」と相談したら、堀江さんだったらやりたいことがいちばん叶うんじゃないか、と紹介をしていただいたんです。

堀江 割とすぐにやろうかなと決めた気がするな。夏だったっけ?

橋本 そうでしたね。

堀江 バンドが「この曲をなんとかしたい」という話があって、そこからスタートでしたね。

橋本 堀江さんが今まで関わってきたアーティストの方々、僕の中だと世代的にSINGER SONGERのイメージが結構強かったりはするんですけど、the HIATUSもやっていらっしゃったような幅の広さもありますし。僕らがどういうことをやりたいのか、コミュニケーションをとったらすぐに汲み取ってくれるだろうな、と感じたんです。

橋本薫(Helsinki Lambda Club)

――そのとき、曲自体はどういう段階だったんですか?

橋本 まだ全然で、完成度で言えば30〜40%ぐらいしかできてない、すっぴんのデモ状態から始まった印象ではあります。リファレンスとか、こういう雰囲気にしたい、みたいなモノはお伝えしつつも、軸は固まってないぐらいの段階でした。だから、堀江さんが宿題みたいな形で「まず、これをやってきて」というのをひとつひとつ提示していただいて、僕らはそこへ向かっていく、みたいな。まずは曲の土台をしっかり丁寧に作る、っていうところを大事に進めていただきましたね。そういうやり方は僕にとってはすごく新鮮でしたし、そういう風に骨格を作っていくのが大事なんだな、と。

――これまで、堀江さんはたくさんプロデュースもされてきたと思うんですが、どういったところに重きを置いているんですか?

堀江 まず、いつも最初に思っていることがあって。(ヘルシンキは)新人のバンドではないし。もう10年ぐらい経った?

橋本 ちょうどそれぐらい経ちますね。

堀江 そうなると、ライブに足を運んだり、CDをずっと聴いている人たちが「こうなったらいいだろうな」っていうのを考えるんですよ。だから、そこを組み立てていっただけ、というか。曲が3〜4割ぐらい(の完成度)って言ってたけど、僕は大体できてるな、と思ったし。自分にとっては今回のプロジェクトでやることがあんまりなくて(笑)。

橋本 そういう印象だったんですね(笑)。ただ、絶対にリスナーの存在がモノを作るときは頭の中にあるんですね。

堀江 そうだね。(どういう人たちなのかは)勝手に想像しちゃうところではあるんだけど、「こういう感じでいったら喜ぶんじゃないかな?」とか。基本的にプロデュースというのはアーティストとオーディエンスをつなぐモノと定義されてるから、自分はそれに則っているんだよね。キーボーディストだから「鍵盤で色をつけてくれ」とか「サウンド的にどうにかしてくれ」ってよく言われるんだけど、プロデュースするときはあんまりキーボードを弾くことってなくて。それは違うというか、サウンドを自分好みに塗り替えたりするのは、あんまり興味がないことで。ヘルシンキだったら、この3人が持ってるモノを探りながら「こうやったら、聴いている人が絶対に喜ぶだろうな」っていうのをいっぱい探しました。そこに自分の鍵盤があるとうるさくないかな、って。

左から)堀江博久、橋本薫(Helsinki Lambda Club)

――あったらあったで喜ぶ人もたくさんいると思いますよ。

堀江 そう、よく言われるんだけどね(笑)。熊谷(太起)のギター聴いてたら、鍵盤いらないかなって思って。

橋本 最初はめっちゃ入れて欲しかったです(笑)。でも、そういうスタイルだからこそ、僕らも自然な方向でやれたんでよかったと思ってますね。

――曲の仕上がりとしてはヘルシンキ史上でも有数のポップソングになりましたが、そのあたりは制作を進めていく中で見えた部分だったんですか?

堀江 いや、最初からポップなモノを作るというのが共通して見えてたから、そこから実験的なことをしようというのはなかったような。

橋本 そうでしたね。

堀江 だから、自分はポップなモノを作るのはすごく好きだし、伝える要素はいっぱい持ってるんで、それを徹底的に伝えた、っていう。ただ、最終的にこうした方がいい、というのはあんまり言ってなくて。

橋本 基本的には道を敷くというより、外れないように支えてくれる感じがすごくありましたね。

――プロデュースと言うと、線を引いて「ここを歩いてください」っていうスタイルなこともありますよね。

堀江 ほとんどがそうだよね。でも、10年ぐらいバンドをやってるとバンドサウンドも確立できてるから、そこまで足りないモノもあんまりないし。

橋本 その支えてくれる中、80年代のこういうニュアンスを出したい、みたいな気持ちをすぐに汲み取ってくれて、そうしたいならベースはこう弾くし、ドラムの打ち込みも本物のRoland TR-909を使った方がいいよね、ってパッと提示してくれたのはありがたかったですし、なるほどな、って思うことの連続でしたよ。

堀江 でも、言ったモノはだいたい吸収が早かったし。大変だったのは稲葉(航大)のベースぐらいじゃない?

橋本 そうですね。

堀江 ヘルシンキのバンドサウンドって、意外とファンキーな感じがある。今回の「たまに君のことを思い出してしまうよな」はひとつ制限があって、八分でベースを最後まで刻む、っていう。80年代だと最初から最後までずっとタイトに刻んで終わる曲が結構あって、The Policeの「見つめていたい」もそうだし、大澤誉志幸さんの「そして僕は途方に暮れる」もそうだよね。ストイックに最初から最後まで(八分)。で、そのシンプルな中にも踊れる弾き方とか、アタックの強さだったり、表現がいろいろあって。ただストイックにいけばいいわけでもないし。そのさじ加減や塩梅が難しいんだけど、それを最初に提案したよね。加えて、最初の20秒がカッコよければ後は何でもいいよ、とも伝えて(笑)。

堀江博久

橋本 そうでしたね(笑)。

堀江 ストイックにやろうとすると、最初は固くなるんだよね。でも、名曲を聴いていると最初の20秒の中に感動させる音があったりするし。

橋本 あと、手法的な部分で印象的だったのは、ギターがブリッジミュートでめちゃめちゃ歪んだ音で刻むとそのベースが活きてくる、っていう。そういう手法があるんだ、って驚きました。

――歌詞の部分では何かアドバイスをされたりもしたんですか?

堀江 どっちがいいかな、というときに読んで分かりやすい方が、メロディから言葉がちゃんと聴こえる方がいい、とは伝えましたね。言いたいことがいっぱいあるとメロディが追いつかなくなるときもあるんだけど、この曲はちゃんとメロディと言葉が最初からリンクはしてたから、あんまり言うこともなかったけど。

橋本 今まで歌詞を誰かに相談するってことはなかったんですけど、いくつかのパターンを提案したとき、こういう理由でこっちの方がいいんじゃないか、と言ってもらったりもして。それが腑に落ちたりもして、今後の歌詞の書き方に迷いが減りそうな気がしてますね。

堀江 歌詞はね、言いたいことと実際に選ぶ言葉がまた違うからね。

――しかしながら、「たまに君のことを思い出してしまうよな」というタイトルは印象的ですよね。

堀江 あぁ、そうですよね。

――以前、ヘルシンキが発表した「This is a pen.」の歌詞に<たまに君のことを思い出してしまうよな>と出てきますけど、関係はあるんですか?

橋本 そこをめちゃめちゃ意識したわけじゃないですけど、昔から聴いてくれているファンがちょっとクスッとしてくれたら、みたいなニュアンスではあって。あと、音楽的なガワは変わっていったりしても、その中身の部分、言いたいことはまだ変わってないところもあるよな、っていう意味でも同じ言葉を使ってみるのもいいかもな、って思ったんですよね。

――ちなみに、制作を通して、ヘルシンキというバンドに対してどういった印象を持たれましたか?

堀江 そうだね......割とはっきりしていない感じのところを大事にしてるというか。

橋本 なるほど、なるほど。

堀江 今、サウンドがはっきりしてるモノが多かったりとかするじゃない。正解を求めたがるサウンドだったりとか、言葉のメッセージも強すぎるところもあったりして。時代的なところもあるんだろうけど、もっとボンヤリしてることがあってもいいというか。その解釈を自分で全部提示するんじゃなくて、聴いた人が勝手に考えられるゆとりみたいなモノがちょっとあってもいいんじゃないか、と自分も感じてて。そうやって作ると、緩いとかダラダラしてるとか、ネガティブな感じの表現をされちゃうんだけど。

橋本 そうですよね(笑)。

堀江 でも、そういうのを大事にしていきたいなと今でも自分は思ってて、ヘルシンキにもそういう部分を感じたから、そこは大事にした方がいいかな、って。いろんな捉え方や想像ができるように。

橋本 曲を作りながら、自分でもいろんなことを探している途中というか、そういう感覚が強いんで、その印象はまったく間違ってないですね。

――今って、パキッとしたモノだったり、白黒はっきりしたことを求められることも多かったりするじゃないですか。そこは自分の肌に合わないような?

橋本 結局、そういうことになりますね。感情にしても何にしても、そのグラデーションの途中の部分を表現したい、みたいな気持ちが割とあったりするんで。ピンポイントじゃなくて、そこへ近づこうとしている感覚がもしかしたら強いのかもしれないです。今のお話を聞いて、そう感じましたね。

堀江 音だったり、言葉だったり、向かっていく気持ちって絶対に伝わると思うんですよ。そこを自分も大事にしていきたいと思っているから、ヘルシンキのようなバンドでよかったな、って思いながら手掛けてましたね。

――この新作はそういったスタンスが強く出てますよね。はっきり答えを出さなくていいんじゃないか、みたいなメッセージを感じます。

橋本 あぁ、そうですね。

――堀江さんは「たまに君のことを思い出してしまうよな」以外の曲もお聴きになられました?

堀江 CDでも改めて聴いて、すごくよかったですね。いろいろ幅も広くて。

橋本 ホントにそうなんですよね(笑)。

堀江 (収録した曲の)年代は結構経ってる? ここ1年ぐらいの曲?

橋本 割と最近の曲ばかりですね。堀江さんとやった「たまに君のことを思い出してしまうよな」がいちばん古かったりもして。この曲はプロデューサーさんを入れて丁寧に作りたいよね、ということでちょっと寝かせてたのもあり。

堀江 最後の曲(「My Alien」)とのギャップもすごくあるけど、曲順はどうやって決めたの?

橋本 曲順は迷いに迷って......もう、どうしたって、(曲調が)バラバラなのは変わらないし(笑)。

堀江 収録する曲数自体が少ないからね(笑)。でも、もう1回聴きたくなる感じがあって。

橋本 そういった中でも流れの聴きやすさは意識しましたね。あと、最後は「My Alien」で終わりたいな、とか。3曲目の「Yellow」がちょっとダークな雰囲気だから、その後に「たまに君のことを思い出してしまうよな」みたいなパッと開けた明るい曲がきたら際立ちそうだな、とか。そういうことを考えながら悩んでいました。

――バラエティに富んだ新作ですけど、当初は統一感のある作品にしようと考えていたんですよね。

橋本 そうなんですよ(笑)。

堀江 ハハハハ(笑)。

橋本 でも、毎回そうにはならなくて。

堀江 はっきりしていないからね(笑)。

橋本 結局、そこに繋がりますね(笑)。

――せっかくの機会なのでお聞きしたいんですが、おふたりのクリエイティブの原動力はどういったところから生まれるんですか?

橋本 やっぱり、いい音楽を聴いた瞬間が(曲を)作りたいなって思う瞬間が多いですね。20代の頃まではいろんなことが起きて、感情が揺れ動いて、それを消化しなきゃ、って気持ちで作ることが多かったんですけど、歳を重ねるとそういう感情の起伏が削れてはくるんで、純粋に音楽や芸術に触れて、そこから触発されて、っていうシンプルなことの方が多いかもしれないです。

――堀江さんはいかがですか?

堀江 今は......ダラダラしてるかな(笑)。

――よりナチュラルにやられているような。

堀江 でも、そこはずっと変わっていないかもしれない。20代の頃から一緒な気がするし。

橋本 曲を作るとき、「このプロジェクトの曲を作ろう」となるのか、いったん湧き出るモノを出そう、となるのか、どちらになります?

堀江 計画的な部分はまったく考えたことがないかもね。

橋本 へぇ〜!

――目的にフィットさせるというか、数学的に作曲するようなこともありますか?

堀江 あぁ、そういうのはないかな。職業的な部分での作曲の仕方は考えたことがなくて。僕の周りの人たちもみんな、そういう風には考えていないかもしれない。タイアップとか映画の締切に追われて、みたいな人もいっぱいいるんだろうけど、周りはまず音ありきな人が多くて。それは売れている・売れていない、注目されている・されていない、も関係なく。ヘルシンキも、別に映画とかがあったから作ったわけでもないでしょ?

橋本 そうですね。勝手に作ってます(笑)。

――何かこれからのヘルシンキに関して、アドバイスをするとしたらどういったことがありますか?

堀江 決められないことの大事さっていうのはあるから、そこを武器にして。もちろんそれだけでもダメだけど(笑)。

橋本 とっ散らかりますからね(笑)。

堀江 でも、分かりにくいことは提示していないもんね。背伸びもあんまりないし。

橋本 そうですね。なるべく自然体でやりたいな、っていう意識もあって。

堀江 そうやって3人で出している音がすごくいいなと思う。ずっと聴いてくれているオーディエンスもそうだし、初めて聴く人もそこを気に入ったりするから。

――最後になりますが、現在ヘルシンキは絶賛リリースツアー中でもあります。分かりやすく同じステップを踏むようなことじゃなく、みんながそれぞれのダンスを踊れる曲が揃ってますよね。

橋本 そういう意味ではその延長線上というか、そこを広くしたライブみたいな構成になっていると思うんです。めちゃくちゃ何日も前から楽しみにして来た人も、軽い気持ちで来た人も、共存していい空間になるような。多様性って言ったらあれですけど、そういう自由な空間を生み出せるバンドだと思うので、何も気にせず楽しめる瞬間を作れればいいなと思ってますね。

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<リリース情報>
EP『月刊エスケープ』

発売中

●CD:1,980円(税込)
●ダウンロード:1,050円(税込) ※配信サービスによって異なります。

【収録曲】
01.THE FAKE ESCAPE
02.キリコ
03.Yellow
04.たまに君のことを思い出してしまうよな
05. My Alien

<ツアー情報>
『EP「月刊エスケープ」release tour "冬将軍からのエスケープ"』

■2024年
12月1日(日) 北海道・札幌BESSIE HALL
開場 16:30 / 開演 17:00

12月7日(土) 宮城・仙台MACANA
開場 17:30 / 開演 18:00

12月14日(土) 新潟・新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
開場 17:30 / 開演 18:00

12月15日(日) 石川・金沢AZ
開場 17:30 / 開演 18:00

12月21日(土) 広島・広島CAVE-BE
開場 17:00 / 開演 17:30

12月22日(日) 香川・高松DIME
開場 17:00 / 開演 17:30

■2025年
1月18日(土) 大阪・梅田CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演 19:00

1月19日(日) 愛知・名古屋CLUB QUATTRO
開場 17:00 / 開演 18:00

1月25日(土) 福岡・福岡LIVE HOUSE CB
開場 17:30 / 開演 18:00

1月26日(日) 宮崎・宮崎LAZARUS
開場 17:00 / 開演 17:30

1月29日(水) 東京・恵比寿LIQUIDROOM
開場 18:00 / 開演 19:00

【チケット情報】
スタンディング:4,500円
スタンディング:4,800円(大阪・愛知・東京公演のみ)
※ドリンク代別途必要
※全公演当日学生証(大学学生証まで可能)提示で500円キャッシュバック。
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=EC220032

Helsinki Lambda Club 公式サイト:
http://www.helsinkilambdaclub.com

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