日本の劇団『十二人の怒れる男』が開幕。各劇団を代表する俳優たちの、個性ぶつかり合う緊迫の密室劇
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日本の劇団『十二人の怒れる男』ゲネプロより
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すべて見る日本の劇団による『十二人の怒れる男』が12月11日、東京・駅前劇場にて開幕した。当日に実施されたゲネプロでは、12人プラスひとりの俳優がそれぞれの個性を剥き出しにし、激しくぶつかり合う緊迫の2時間を繰り広げた。
日本で10年以上活動している劇団からそれぞれ代表者1名が出演し舞台を作り上げるユニークな企画。『十二人の怒れる男』は、下平慶祐による翻訳・脚本、劇団チョコレートケーキの日澤雄介の演出で、当初は2022年2月に上演する予定だったが、コロナ禍でやむなく中止、今年4月の『第十七捕虜収容所』に続く2作目の舞台としてようやく実現した。
中央に大きなテーブルを配した殺風景な空間が、12人の陪審員のために用意された舞台。冒頭、裁判官の声が陪審員たちにその責任の重さと、判決は全会一致でなければならないことを告げる。守衛(イッツフォーリーズ 志賀遼馬、友情出演)が準備を済ませると、法廷での傍聴を終えた12人の陪審員たちが、ぞろぞろと入ってくる。お互いに見ず知らずの者同士、ため息混じりだが、「暑いね」、「ガムいる?」とまだ気持ちに余裕がある。が、守衛が外からガチャンと鍵をかけると、客席も巻き込んでの暑苦しく、息苦しい密室が立ち現れる。
彼らは、父親殺しの容疑をかけられた少年の有罪、または無罪を、全員一致で評決しなければならない。原作はレジナルド・ローズ。1957年の映画で、ただひとり少年の無罪を主張したヘンリー・フォンダ演じる陪審員が、じわじわと、粘り強く他の11人の主張を変えさせる姿が、いまも多くの人々の記憶に残る。日本でもたびたび舞台化されたが、各劇団で唯一無二の存在感を発揮する俳優たちの駆け引きは、一体どんな景色を作り出すのだろう。
青木隆敏(スタジオライフ)演じる人物は、時折母国での厳しい生活を振り返る、神経質でマイペースな男。秋本雄基(アナログスイッチ)は重々しい空気の中でも、独特の愛嬌で客席を和ませる。浅川仁志(イッツフォーリーズ)はカジュアルな服装の男に扮し、時折大きな声で不満を口にし、疎遠になった息子との関係も告白する。浅野康之(劇団鹿殺し)は、広告業界で働く少し軽めのキャラ。人懐っこい無邪気な笑顔が、そのうち皮肉たっぷりの表情に。岡本篤(劇団チョコレートケーキ)が演じるのは知的な紳士だが、その鼻持ちならない感じは目が離せない。木津誠之(文学座)による陪審員長は、温厚かつ冷静な言葉で皆をまとめる人格者。作業着の男は、栗原功平(劇団スーパーエキセントリックシアター)。ずっと真面目に生きてきた人物のようだが、少年の運命を決める重いやりとりを冷めた目で眺める姿が印象的。佐藤文雄(劇団銅鑼)は杖をついた年配の男性を演じ、弱い者の立場に立った発言で皆の心を動かす。豊田茂(劇団青年座)は強面の印象だけに、有罪の立場をどう覆させるのか、注目させられる。畑中智行(キャラメルボックス)は、少年の無罪を確かなものにしようと、緻密な分析と静かな熱をもって訴え続け、密室劇をどんどん前へと進めてゆく。牧田哲也(柿喰う客)演じる男も、少年の先々より、この後のヤンキースの試合に間に合うかどうかが大事。全会一致となるまで部屋から出られないことへの彼の苛立ちに、いたく共感。大柄で独特の存在感を放つ横道毅(花組芝居)が演じる、たびたび苛立って声を荒らげる男も、少年が有罪であるという立場をなかなか捨てられず葛藤する。
ひとりを除く全員が少年の有罪を当然と考えていた状況から、全会一致で無罪という結論を導き出す道のりは、平坦ではない。根底にあるのは、推定無罪。こんな短時間で少年の生き死にを決めてしまってもいいのかということから始まり、投票、挙手を重ね、現場の再現を重ねる。その間も、窓がひとつしかない部屋は暑く、空気は澱むばかり。イライラしながら腕時計を見たり、挙げ句の果てにはその腕時計をゴミ箱に投げ捨てたり、自身の過去を打ち明けたり、いつまでも冷めていたり──。そんなときにこそ、おもむろに浮かび上がってくるのは、その人となり。俳優たちの個性がここぞとばかりに爆ぜる瞬間が、次から次へとやってくる。手練れともいうべきこの顔ぶれだからこその、見応えある密室劇が実現した。陪審員制度というものに馴染みのない私たちの教科書のような作品だが、そこに居る人々も実はごく普通の人々であることを、あらためて気づかせてくれる。
公演は12月15日(日)まで。
<公演情報>
日本の劇団『十二人の怒れる男』
原作:Reginald Rose 「TWELVE ANGRY MEN」
翻訳・脚本:下平慶祐
演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
出演:
青木隆敏 秋本雄基 浅川仁志 浅野康之 岡本篤 木津誠之 栗原功平
佐藤文雄 豊田 茂 畑中智行 牧田哲也 横道毅 他
2024年12月11日(水)〜12月15日(日)
会場:東京・下北沢 駅前劇場
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2438126
公式サイト:
https://www.set1979.com/stage/stageinfo202412/
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