愛月ひかるが名作『東京物語』の朗読劇で紀子役に挑む
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愛月ひかる
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すべて見る宝塚歌劇団では品格漂う実力派の男役スターとして、多くの名舞台を残した愛月ひかる。2021年に退団後もミュージカルや朗読劇、ラジオドラマなど多彩な活動を見せる彼女が、朗読劇『東京物語』に出演する。演じるのは、巨匠・小津安二郎の傑作として知られる同映画で、原節子が演じていた紀子役だ。ビジュアル撮影を終えたばかりのスタジオで、「退団後、日本人の女性役が初めて」という愛月に本作への想いを聞いた。
名作映画を独自の演出で朗読劇として再構築する「Classic Movie Reading」シリーズの第4弾。今回は“朗読劇”ならではの魅力に立ち返り、声のやりとりでじっくりと聴かせる構成となる。
「これまで朗読劇に1作とラジオドラマに2作出させていただいた経験を通して、『リーディングって楽しい』という気持ちが強くなりました。前回の朗読劇(『ジョルジュ&ミッシェル ショパンを創った、ふたり』のジョルジュ役)の時も、お受けする時は舞台での女性役ということで悩んだのですが、思い切ってやってみたらすごく楽しかった(笑)。今回も小津監督の有名な作品、しかも原節子さんが演じられている役ということでプレッシャーはあるのですが、やっぱり朗読劇に取り組めることが嬉しくて、また挑戦してみたいと出演を決めました」という愛月。
台本を読んだ印象として、『東京物語』の魅力を「淡々として進む物語なのに、すごく引き込まれるところ」と話す。
「いつの時代も家族の絆や愛情の交流って絶対にあるものだと思うので、それが丁寧に描かれているのが魅力です。特に私の演じる紀子は、戦争で亡くなった夫の義理の両親とは血のつながりはなくても、心からの優しさや気遣いでふたりに接していく。そこが素晴らしいなと思いますし、理想の女性だなと感じます。いま観てもやっぱり名作だと思いますし、今回の舞台も観た方の心に何か温かいものが残るものになったらいいなと思っています」と愛月は語る。
義理の両親への気持ちと共に、紀子の中には戦死した夫への想いも残る。戦後に多く存在した、市井の女性の役どころだ。
「紀子は自立している女性ですけども、まだ亡くなった夫のことは心のどこかで引きずっているんですよね。その寂しさみたいなものは、多分ずっと抱えているのだろうなと思います。今回はセリフの他に“語り”の部分も担当するので、すべて大切にして挑みたいです」と愛月は表情を引き締める。
ビジュアル撮影の直後に行われた本インタビュー。愛月はクラシカルなヘアメイクのままだったが、初めての日本人女性役とは思えないほど、役に溶け込んでいる様子。思えば映画の原が演じる紀子も、凛とした美しさが印象的だった。
「紀子は芯の強さも奥ゆかしさもあって……私はまだまだ『頑張らなくては』という気持ちなのですが(笑)。ただ私自身、未来的な作品よりは“時代感”のある演目のほうが惹かれるので、その意味でいえば、すんなり役に入れそうな気がしています」と愛月は言う。
本作は、東京・日本橋三越内にある三越劇場での上演。1927年の開場で、ステンドグラスをはめ込んだ天井や重厚な彫刻に彩られた内装など、まさに『東京物語』にピッタリの劇場だ。
「私は『ジョルジュ~』に続いて2度目の劇場なのですが、サイズ感が芝居をするのにちょうどよくて、客席に伝わりやすいところが大好きです。内装も本当に素敵で、非日常感が味わえる劇場ですね」と語る愛月。
日本橋エリアにはよく行くそうで、「道行く人を眺めながらカフェでゆっくり過ごすのが好き。いらっしゃるお客様には、東京の日本橋の、そんな雰囲気も含めて楽しんでもらえたら」と笑顔で教えてくれた。
最後に、“愛月ひかる”という稀有な俳優の“現在地”を尋ねると。
「今のところ、女性役は朗読劇やラジオドラマのみですが、一般的な舞台でのそれを拒んでいるわけではないんです(笑)。自分の中では、今回もまた新たな“役に出合う”のが楽しみという気持ち。その後も心が動くような“役に出合う”ことがあれば、女性の役をやることがあるのかもしれないです」と話す愛月。 「まずはこの公演ですね。朗読劇は1回1回(台本を)読むたびに異なる発見がありますし、読むことでさらに心に感情が吹き込んでくるようなところが魅力。今回もそういった心の動きを含めて、お客様に伝えられるように演じたいと思っています」
取材・文/藤野さくら
<公演情報>
Classic Movie Reading Vol.4「東京物語」
公演期間:2025年2月5日(水) ~ 9日(日)
会場:三越劇場
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/tokyomonogatari/
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