柿澤勇人×矢崎広 同い年で芝居好き。刺激しあうふたりがつくるクライドに期待! ミュージカル『ボニー&クライド』上演に向けて
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インタビュー
左から)柿澤勇人、矢崎広 (撮影:You Ishii)
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すべて見る1930年代、世界恐慌下のアメリカで銀行強盗や殺人を繰り返したクライド・バロウとボニー・パーカー。映画『俺たちに明日はない』でも描かれたこのギャングカップルは、社会からはみ出ざるを得なかった若者の象徴として今でも語り継がれている。このふたりを主人公に、『ジキル&ハイド』『デスノートTHE MUSICAL』などで知られるフランク・ワイルドホーンが音楽を手掛けたミュージカルが『ボニー&クライド』。2011年にブロードウェイで初演され、日本では早くも翌2012年に初演。その後ブラッシュアップされた新バージョンが2022年にウェストエンドで再演され、2023年には宝塚雪組でも上演された。この作品が新演出版としてシアタークリエに登場。クライド役に挑む柿澤勇人と矢崎広に話を聞いた。
俺、なんか“犯罪系”の役が多いんですよね(笑) (柿澤)
――実在した犯罪者カップル・クライドとボニーの物語で、フランク・ワイルドホーンが音楽を手掛けたミュージカルです。まず本作への出演が決まった時のお気持ちからお伺いしたいです。
柿澤 シアタークリエへの出演は2016年の『ラディアント・ベイビー』ぶりです。この時、公演の途中で僕は大怪我をしてしまいました。それを今回、いい思い出に塗り替えたいですね。作品としてのイメージはワイルドホーンさんの音楽だということが大きいです。彼の楽曲はキーも高いし叫ぶし、1曲1曲がハイカロリー。1曲でも十分なのにそれがいくつもあるんです! 怖いので、早く稽古に入りたい(笑)。
矢崎 僕はシアタークリエで主演するのが初めてなので、チャレンジャーな気持ちがありつつ「ついにここまで来たな」とも思っています。その気持ちに負けず、『ボニー&クライド』という作品を楽しめていけたらと思っています。
――物語の印象は? クライドとボニーと言えば映画『俺たちに明日はない』でもよく知られていますが。
矢崎 史実の物語がある中、ミュージカルではふたりがなぜそうなって(犯罪に走って)しまったかに焦点をあてています。映画とは異なりボニーとクライドの出会いから、クライドで言えば刑務所に入り、そこでも色々とあったことが描かれている。時代に飲み込まれていった彼らが、唯一分かり合えた存在がお互いだった。それが恋なのか愛なのかそれ以上のものなのか……というところを表現できたらと思いますが、ミュージカルとして見るとキャッチーな曲も多く、明るく楽しんでほしいナンバーもたくさんあるので、そこのバランスが難しいなと思っています。
柿澤 刑務所での出来事って、映画では描かれていたっけ?
矢崎 『俺たちに明日はない』ではそんなに出てこないんですよ。でもクライドは刑務所で嫌な思いをして、その復讐みたいな気持ちがあったというのも舞台版では重要になってきそうです。
柿澤 映画をミュージカルにしているわけじゃないんだよね。映画ではふたりが出会い、キスをして「強盗しよう!」と銃をぶっぱなす、みたいな感じだけど(笑)。だからすごく動物的な、男女のエネルギーを感じた。ミュージカル版はふたりのバックグラウンドというか、映画に描かれていない部分もあって、演出の瀬戸山美咲さんは初めましてなのですが、一緒に丁寧に作っていけたらと思っています。
――クライドという役については現時点でどう捉えていますか。
矢崎 今で言う不良、アウトロー。1930年代は世界恐慌まっただ中、特にアメリカの南部ではみんなが一斉に職を失っていたそうです。その中で7人兄弟の5番目として生まれたクライドはテント生活もし、充分な教育も受けずに育った。海軍に入る夢もあったそうなのですが、健康診断で引っ掛かって叶わなかった。たぶんそれも不健康な生活でしっかりと身体ができていなかったせいなんだと思う。だから、ちゃんと生きようとしていたのに、時代のせいで良い方に向かえなかった人。ただのならず者じゃなく、世の中への不満が溜まって、常にイライラしているような男なんじゃないかなと思います。犯罪もしていきますが、人としてそうなってしまったのはわからなくもない。彼が何に怒っているのか、クライドと話し合いながら、ひとつずつ理解していきたいなと思います。
柿澤 ……今、すごく勉強させてもらった感じがする(笑)。どういう人なんでしょうね……。
矢崎 めちゃくちゃカッキーで想像できる役ですよ! それが全てな感じがします。
柿澤 俺、なんか“犯罪系”の役が多いんですよね(笑)。映画の印象だとクライドはセクシーだしワイルドだし、男らしい。でも悪いことが好きで犯罪をしているのではなく、抱えているものがあるのだと思うし、可愛らしさや茶目っ気もある人だと感じています。自然と人を惹き付けるような魅力がある、「こういう人になってみたいな」と思わせる人。そこを狙うわけではないけれど、僕も一つひとつに向き合い、ただ罪を犯すだけの人にはしたくないなと思っています。
アンチヒーローという役どころが自分に来るとは思っていなかった(矢崎)
――“アンチヒーロー”という役どころに挑む気持ちは。
柿澤 クライドは“アンチヒーロー”と称されるけれど、それは外からの括りであって彼には彼なりの正義や目的がある。僕は舞台だと悪役が多いのですが(笑)、彼ら自身は「嫌なことをしてやろう」と思って動くようなことはほぼなく、信念があって行動している。今回もそれは同じだと思っていますし「アンチヒーローを演じるからには観る方にとことん嫌われてやろう!」と思うこともありません。逆に「愛されたい、分かって欲しい」とも思いませんけどね(笑)。
矢崎 僕はアンチヒーローという役どころが自分に来るとは思っていなかったのですが、僕自身はクライドという人物をヒーローとも、ダークヒーローとも思っていないかな。むしろ“ヒーローに祭り上げられちゃった人”。イメージでは“不良でモテている先輩”。そういう人に対しては「不良のくせに」と「かっこいいな」と、真逆のふたつの感情を抱くじゃないですか。だから観る方ごとにイメージが違っていてもいいのかなと思います。ただ、筋は通したいんですよね。これから台本と向き合う段階ではありますが、僕のクライドは強盗に入ることも、人を殺めることも、どこまでも「自分は間違えていない」と思ってやろうかな、と考えています。
――なるほど、時代の影響はあるけれど「流されて」ではないと。
矢崎 そうです。意志を持って彼は動いている。特に最初の殺人は意図的です。それが重なり、自分のやっていることを大衆が支持していき、どんどん止まれなくなっていったんだと思う。充分な教育を受けていなかったとはいえ実は賢い人で、州をまたいだら警察は手を出せないというような当時の社会システムを利用したりもしているので、そのあたりも計画的だなと思います。もちろん時代が生み出した犯罪者だというところはあると思うんです。大恐慌でお金もない、職にもつけない、食べるものもないという人が山ほどいた。強盗は悪いことですが、至るところで強盗が起き、ある種「社会に対する反抗」として正当化され貧しい人からは正義のように映っていたそうなので。
――勉強になります……! おふたりとも、作品周辺のことを調べてから作品に挑むタイプなのでしょうか。
柿澤 基本は台本に描かれていることが一番ですが、特に実在した人物、歴史上の人物の場合は資料があればできる限り調べたいですね。そこから得られるものも多いですからね。
矢崎 僕もそうです。昨年『アメリカの時計』という作品に出演した時、演出の長塚圭史さんが事前に調べるタイプの方で、そういうメソッドで芝居を作り上げました。その影響もあり、調べられることがあるならば調べ、入れられる知識はなるべく入れたいと思います。また『アメリカの時計』も同じ1930年代の話だったので、この時に調べた情報も今回使えそうだというのもあります。
――では、ボニーについてはどう捉えていますか? クライドにとってボニーの存在は大きいと思うのですが。
矢崎 ボニーは真面目な大人しい子で、勉強も頑張っていた。女優になるという夢もあった。本来だったらクライドにはなびかなそうな生い立ちです。クライドからすると、ボニーの自分にはない洗練されたところに惹かれたんじゃないのかな。自分はどうしようもない人生を送ってきたけれど、ボニーに「好きだ」とか「共鳴する」とか言われると、自分が特別なものになれた気がした。自分を癒してくれるような、お姉さんであり妹であり、母親でもあるような、そんな存在に感じていたんじゃないかなと現時点では思っています。
柿澤 映画の最初のけだるそうなボニーの表情が印象的。出会った瞬間から歯車が合うような、パズルのピースが合うような感じだったんじゃないかな。それもあって先ほど「動物的」と表現したんです。理屈ではなく、同じ空気を吸った瞬間、肌が触れ合った瞬間、同じベクトルを向いていることがわかった。それが破滅なのか犯罪なのかはわかりませんが、シンパシーを感じ“運命共同体”になった印象があります。
――音楽についてもお伺いします。ワイルドホーンさんの音楽は日本でもファンが多く、おふたりとも過去何作も出演していらっしゃいますね。特に柿澤さんは、ずいぶん前からワイルドホーンさんに「クライドをやって」と言われていたそうですが、ワイルドホーンさんとの印象的なエピソードがあれば教えてください。
柿澤 最初に「クライド!」と言われたのは『デスノート』の時。同じ犯罪系ミュージカルだからリンクしたのかな(笑)。単に僕が悪人顔なのかも? 昨年『ジキル&ハイド』をやった時にも言われました。フランクの曲はキーも高く、本当にしんどいんです(苦笑)。でもご本人にそう言ったら「それが正解だ」と。俳優がexhaust(くたくた)の状態になるように僕は書いている、ラクして歌う曲ではないとおっしゃっていました。だから今回も大変なことになる気がします(笑)。
――矢崎さんも最初にワイルドホーン作品に出演されたのは2011年の『ドラキュラ』ですので、結構長いお付き合いですね。
矢崎 とても気さくで、役者に寄り添ってくださる方です。『ドラキュラ』の曲などは今でも家で口ずさんでいるくらい。日本人の琴線に触れる素晴らしい音楽をたくさん書かれていますね。その後『スカーレット・ピンパーネル』にも出演しましたが、僕も大好きな音楽家さんです。……でも本当に楽曲の難易度は、ヤバい!
柿澤 譜面通りに歌うことがすべてではないという方なんですよね。日本の俳優は真面目な人が多いし、作曲家によっては一音も変えてくれるなという人もいるけれどそうじゃない。俳優の心が動いて、もっと上の音を出したくなったらどんどんフェイクを入れていいからねと言う。キーもその人によって変えてくれるし、なんなら「もっと上の音を出せるんじゃないの!? もっと上に行って!」と上げていく(笑)。俳優としては安全な方向に行きたい時もあるのですが、それを許してくれない方です。
矢崎 僕が最初に「チャレンジ」と言ったのは、そういう部分もあってのことです。フランクさんの楽曲とどう向き合うかも課題のひとつ。しかも1・2回のコンサートだと頑張れるかもしれないけれど、公演は続けていかなきゃいけないですからね。
2024年は生きた心地がしなかった!?
――おふたりとも舞台ではストレートプレイが続き、久しぶりのミュージカルですね。最近のお仕事で得た、本作に活かせそうな学びはありましたか?
柿澤 そういえばちょっと前に、韓国の俳優、ヤン・ジュンモさんが日本でワークショップをされて、矢崎くんも一緒だったんですよね。
矢崎 昨年の冬頃ですね。
柿澤 矢崎くんは映像もやるし、舞台ではストレートプレイもミュージカルもやる方。実は映画で一度共演をしていて、その時から「自分の活動を一色にしたくない」ということと、「芝居が好きで、表現が好きだ」という同じ匂いを感じていました。だから彼が色々な仕事をしているのを見るととても刺激を受けますし、今回は一緒の作品を作れるというのは嬉しいし、勉強になると思っています。ミュージカルでは歌の技術が確実に必要で、歌だけで構成するコンサートやライブの形もありますが、その上で僕らの仕事の根っこにあるのは芝居だと思うんです。そこを多分お互いにわかっているから、僕らが経験した舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』や『ハムレット』も、次の作品に繋がってくると思います。
矢崎 思いがけず褒められてしまいました(笑)。僕こそ、例えば仕事を選ぶときなどに「これはカッキーだったらどうするかな」と考えたりしています。同い年なのですがてっきり先輩だと思っていたくらい。今も思っていたことを先に言われてしまいました(笑)。プラスすると、今僕は舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演していますが、これは本当に色々なジャンルで活躍している方が集まっている作品なんです。その中にいると「僕は何を大事にしているのだろう」と考える瞬間がけっこうあり、やっぱり僕は心が動くことが大事だなと感じています。ちゃんと理由があって、その芝居をしたいんですね。ミュージカルでは歌を重視するのは当然ですが、もっと歌と芝居を一体にしたいとも思っています。
――最後に。2024年もそろそろ年末です。今年はどんな一年でしたか?
矢崎 僕は『ハリー・ポッター』な一年でした(笑)。
柿澤 何月からやってたの?
矢崎 稽古を入れると5月からずっとやってます。
柿澤 一年の半分以上は『ハリー・ポッター』だ!
矢崎 振り返ったら色々あった年ですよね。世界的にも戦争や大きな選挙があり、社会が荒れている。その中でこの『ボニー&クライド』を上演するのはとても意義があるだろうなと感じています。
柿澤 僕は上半期は『オデッサ』『ハムレット』と大変な作品が続いたので、生きた心地がしませんでした(苦笑)。そこから少しお休みをいただいて、なんとか人間に戻って連続ドラマの撮影。大変な一年だったなと思います。今年はミュージカルをやっていないんですよ。いいタイミングで『ボニー&クライド』と出会えたなと思うし、稽古はまだ先ですが、しっかり準備しておきたいなと思います。
取材・文:平野祥恵 撮影:You Ishii
<公演情報>
ミュージカル『ボニー&クライド』
脚本:アイヴァン・メンチェル
歌詞:ドン・ブラック
音楽:フランク・ワイルドホーン
上演台本・演出:瀬戸山美咲
訳詞:高橋知伽江
音楽監督・ピアノコンダクター:前嶋康明
振付:松田尚子
出演:
クライド・バロウ(Wキャスト):柿澤勇人/矢崎広
ボニー・パーカー(Wキャスト):桜井玲香/海乃美月
バック:小西遼生
ブランチ:有沙瞳
テッド(Wキャスト):吉田広大/太田将熙
エマ:霧矢大夢
シュミット保安官:鶴見辰吾
石原慎一/彩橋みゆ 池田航汰 神山彬子 齋藤信吾※ 社家あや乃※ 鈴木里菜 焙煎功一 広田勇二 三岳慎之助 安田カナ
(※スウィング)
【東京公演】
2025年3月10日(月)~4月17日(木)
会場:シアタークリエ
【大阪公演】
2025年4月25日(金)~4月30日(水)
会場:森ノ宮ピロティホール
【福岡公演】
2025年5月4日(日)・5日(月・祝)
会場:博多座
【愛知公演】
2025年5月10日(土)・11日(日)
会場・東海市芸術劇場大ホール
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