大きく軌道を描きながらストロークする右手、軽やかなステップを踏みながら繰り出されるソリッドなカッティング、キメに合わせて大きく蹴り上げられる左足。長年、ロックキッズたちが憧れるギターヒーローのシルエットがステージで縦横無尽に躍る。ロマンスグレーのニューヘアスタイルも年齢とキャリアを重ねたロックスターの気品と貫禄を漂わせ、最高に似合っている。
「ようこそ、ライブハウス武道館へ!」
2024年12月6日・7日の2日間、布袋寅泰が『LIVE IN BUDOKAN ~The HOTEI~ “Super Hits & History”』と題したライブを開催した。「The HITS」「The HISTORY」と銘打たれたコンセプトの異なる2デイズはまさに「The HOTEI」というべき、オールタイムベストなセットリストで届けられた宇宙一のロックンロールショウであり、ステージを360度オーディエンスが取り囲んだ“ロックの聖地”、日本武道館はライブハウスだった。
<Day 1 “The HITS”>
ゴージャスなゴールドベロアのスーツを纏った布袋が高らかにあげた右手。それを合図に「スリル」でパーティーの幕が上がる。ザッカリー・アルフォード(ds)の精確なビートの上に、布袋はタイトなストロークを重ねる。手にするギターはZodiac NEO Eternal Legacy HOTEI MODEL。ソリッドでブリリアントな響きが心地よい。メリハリを効かせたリズムでギターをかき鳴らし、太い歌声を響かせる布袋。〈俺のすべては “おまえたち”のものさ〉〈今夜世界は “俺たち”のものさ〉と、この日だけの詞を歌い上げると大きな歓声が上がった。
〈Baby Baby Baby Baby……〉のコーラスは、そのまま「BE MY BABY」のリフレインへと引き継がれる。重厚なアンサンブルにダーティーなギターリフが轟く。グッと重心の下がったグルーヴが会場を揺らす。ドラマチックにギターソロをキメた布袋は、ステージをぐるりと囲むスロープをゆっくりと回廊していく。「普段見られないアーティストのシルエットを見てほしい」とあえて入れたバックスタンドのオーディエンス、一人ひとりの顔を確かめるように。そしてそのまま、「Marionette」へ傾れ込んだ。日本のロックシーンに大きな衝撃をもたらした8ビートロックナンバーを悠々と、かつスリリングに披露した。
「やっと会えました。久しぶりの武道館は無観客ではなく超満員」
未曾有のパンデミックに見舞われ、やむを得ず無観客ライブとなった2021年の武道館公演『40th ANNIVERSARY Live “Message from Budokan”』を思い出しながら、全国から集まったであろう満員のオーディエンスに感謝すると、持ち替えたZemaitisから凄まじいダウンピッキングによるエッジィなリフが炸裂した。「RUSSIAN ROULETTE」だ。バンドアンサンブルの波が緩急をつけながら武道館を襲う。
ザッカリーのビートを軸にボトムを堅実的に支える井上富雄(b)、布袋の左側にはこのギタリストありというべき黒田晃年(g)、そしてバンドの頭脳である岸利至(prog)、長年布袋バンドに欠かせない面々だ。ザッカリーと布袋の邂逅は1996年、布袋がオープニングアクトを務めたデヴィット・ボウイのジャパンツアー、ここ武道館だった。そしてこれまでも要所要所のライヴで布袋のビートを刻んできた。身体全体で魅せるリズムを打ち鳴らす重金属打楽器奏者、スティーヴ エトウ(per)。2024年は能登半島復興支援のためのライブ、COMPLEX『日本一心』で布袋と共にステージに立ったが、遡れば布袋の初ソロライブである1988年の『GUITARHYTHM LIVE』を支えた旧友だ。そして今回布袋バンド初参加となるH ZETT M(key)はその風貌通り、道化師のごとく怪しくアクロバティックに鍵盤を操っている。そんな新旧の“HISTORY”を重ねてきた、スキルとエンタテインメントに満ちた強靭なメンバーが布袋の楽曲、このステージを彩っている。
H ZETT Mの情熱的なチェンバロの調べから流麗なギターリフに紡がれ、「NOCTURNE No.9」へ。さらにフェンダー・エクスワイヤーのヴィンテージテイスト漂う極上のトーンで奏でられる「CIRCUS」と、異国情緒に溢れたナンバーが続いた。「ラストシーン」では、浮遊感のあるサウンドに乗せて柔らかいメロディをファルセットまで丁寧になぞる、ボーカリストとしての布袋の表現に会場は息を呑んだ。そんな同曲の余韻を断つ、斬れ味抜群のギターリフにハッとさせられる。「季節が君だけを変える」だ。シャッフルビートと刹那メロディが12月の哀愁の胸をえぐる。この上ない郷愁感に包まれた武道館であったが、イントロのシンセと無数の光によって近未来的な情景へと瞬く間に変わった「1990」。次々と投下されるキャリアの枠を超えた代表曲のオンパレードにオーディエンスの情緒は揺さぶられっぱなしである。そんなうれしい悲鳴は大歓声と大合唱となって、武道館にこだまする。
「“Super Hits”。“Super”かどうかわからないけど、“Hits”かどうかもわからないけど。それなりに売れた曲もあるけど、そういうことじゃなくて、あの日のキミのハートを“Hits”した曲、誰かのハートに刺さる曲、それが俺にとっての“Hits”だと思う」そう布袋は語った。そして、キャリアを振り返り「僕ひとりで積み上げたものじゃありません。ヒムロック(氷室京介)、まっちゃん(松井常松)、まこっちゃん(高橋まこと)、その前はもうふたりメンバーがいました。その仲間たちと一緒に夢を追いかけて……」と昔のバンドメンバーへ思いを馳せながら、吉川晃司と掲げた『日本一心』に賛同してくれたファンへの感謝を続けた。
「僕の夢はギターと共に世界を旅すること。この曲はその夢を叶えてくれた、世界中を飛び回ってくれた曲」と紹介されたのは「Battle Without Honor or Humanity」。サスティナーとアーミングを駆使して繰り出されるフレーズはまるで布袋の声のようであり、ギターが身体の一部であるかのように操っていく様に目を奪われる。聴覚と視覚、両方で魅了するギタリスト・布袋寅泰の唯一無二のスタイルをまざまざと魅せつけた。そして、MAN WITH A MISSIONとのコラボ曲「Give It To The Universe」、『北斗の拳 201X』のテーマソング「STILL ALIVE」を続けた。新旧楽曲が織りなす“Super Hits”である。
「音楽には魔法の力があって、その曲を聴くとタイムスリップして……」
布袋が口を開いた。「世の中なんてクソ喰らえ、と思っていた若い頃に作った曲。長い年月が過ぎても、幼馴染みのような、家族のような、恋人のようなキミたちと一緒に抱きしめ合えるなんて、とても幸せなことだと思っています」。そんな言葉のあとに届けられた「さらば青春の光」と「SURRENDER」。90年代初頭、布袋が30代になったばかりの頃に書かれた2曲だが、60代になった現在の布袋によってより深みと説得力が増す歌になったと感じた。布袋自身もいつにも増して詞を噛み締めるように歌っているように見えたのは気のせいではないだろう。そして「バンビーナ」だ。2021年に公開された『THE FIRST TAKE』によって、時代を超えてダンサブルな熱狂を生んだことも記憶に新しい。ギターソロもダックウォークも華麗にパフォーマンスし、興奮と昂揚を重ねていく。
ラストスパートは、唐突に刻まれるビートによって導かれる。風のようにそよぐ耳馴染みの良いギターサウンドが響いた。「B・BLUE」である。この2デイズ、BOØWY楽曲では当時のメイン機材であったローランドのギターアンプ“JC”が使用されていたことを付け加えておきたい。懐かしくも聴き慣れたコーラスの掛かった抜けの良い音。クリアな音圧をしっかり保つ程良い輪郭が、あの頃を思い出させてくれる。
間髪入れずにシュレッドなギターのイントロを弾き出した。〈“金曜”の夜さ 連れ出してあげる〉に大きく沸いた「恋をとめないで」。〈Don’ t stop my love〉のシンガロングが武道館の天井を突き破るように大きく響き、本編ラストは「Dreamin’」。布袋に負けじと、オーディエンスも声が枯れるほど歌いに歌った。
布袋がテレキャスター、黒田がストラトキャスターを抱えた「Stereocaster」で始まったアンコール。鬼気迫るギター2本のバトル、そして前のめりのギターに対して引き戻そうとするリズムセクションのせめぎ合いがスリリングだ。バンドメンバー紹介を挟んだ各々のソロタイムを設けられ、強力で個性に溢れたメンバーであることをあらためて思い知らされた。
「C'MON EVERYBODY」、「GLORIOUS DAYS」と、『GUITARHYTHM』からのデジタルビートとヒューマングルーヴがクロスオーバーする楽曲が立て続け演奏され、最後の最後に贈られたのは「POISON」。蠱惑的なギタリストの毒薬に会場が酔いしれた。
<Day 2 The HISTORY>
大歓声に包まれながらバンドメンバーが登場。それぞれの持ち場につくと、1日目とは打って変わり、ブラックレザーのスーツでシックにキメた布袋がステージのセンターに立った。
不意を突くように「NO. NEW YORK」でスタート。のっけからボルテージ全開のステージに応えるよう、オーディエンスも全力で拳を上げ、武道館を揺らすほどのシンガロングを轟かせる。間奏で布袋は右手を旋回させるウィンドミル奏法でオーディエンスを鼓舞し、さらなる昂揚へと導いていく。前日より明らかにソリッドになった「Marionette」、ギターキッズがどんなに頑張ってコピーしても、ああは弾けないカッティングリフが虚空を斬り裂く「BAD FEELING」と、BOØWY ナンバーで立て続けに攻めていく。
「今日は“HISTORY”と題して懐かしい曲はもちろん交えながら、後ろ向きな気持ちではなく、今日新しい“HISTORY”を作るぜ!というそんな思いでみんなと楽しみたいと思います!」
「BE MY BABY」では、H ZETT Mのピアノとホーンアレンジが絡むアウトロのアレンジがパーティー要素をさらに加速させていき、ザッカリーのフィルによって導かれた高鳴るホーンが煌々と響く「PROPAGANDA」へ。伸び縮みするリズムと“偽りのビート”で踊り狂う大人たち(=オーディエンス)。スティーヴのメタルパーカッションも楽曲のインダストリアルな雰囲気を強調させる。さらにガットギターから、サスティナーを使ったトリッキーなフレーズに流れるギターソロが同曲の無機的世界を演出。その世界観のままにピッキングハーモニクスを加えた鋭利なリフが強襲する「MATERIALS」へ突入。デジタルロックなんて言葉がまだ生まれていない時代に布袋が作り上げた『GUITARHYTHM』を象徴する曲だ。デジタルで退廃的な中で突如、流麗なピアノソロからのギターソロへと繋がっていく、ドラマチックな間奏のアレンジが印象的だ。そして無数の光が交わる照明も美しい。LEDモニターも大掛かりなセットもないシンプルなステージだが、多くの閃光が創りだす空間演出が見事である。
一変して、「MEMORY」の幻想的な世界が広がった。布袋が手にするギターは白地に黒ラインのHOTEI MODEL。BOØWYが解散宣言をした1987年12月24日の渋谷公会堂において、同曲で手にしていたのがこのカラーリングのモデルだった。旅立ちを綴った詞を歌いあげる優しいボーカルに耳を傾け、それぞれの思いに浸るオーディエンス。あの日と同じように感情の赴くままアウトロのギターソロを弾く布袋。あのときの緊迫した表情も印象的であったが、今はどこか優しい表情で旋律を奏でているように見えた。そうしたノスタルジックな空気は「DANCING WITH THE MOONLIGHT」へ引き継がれる。光が交差していく夜空のようなステージをハンドマイクで歌う布袋がゆっくりと回廊していく。スティーヴもジャンベを抱え、トライバルなリズムを刻みながらステージ前方へと躍り出る。
布袋が穏やかに口を開く。「いろんな仲間との出会いによって重ねられて“HISTORY”になっていく」ゆえに“最新型のHOTEI”が今ここにいると。「人生はいいことばかりじゃない、いろんなストーリーを掲げてここに集まってくれている。会いたくても会えなくなってしまった人、伝えたくても伝えられない想い、平和への願い、いろんな優しくて熱い思いを抱いて集まってくれた方々へ送ります」と言って、情感たっぷりに歌われたのは「FLY INTO YOUR DREAM」。咽び泣き、叫び、怒り、笑い……感情のすべてを叩きつけるようにギターで表現するドラマチックでエモーショナルなギターソロはこの日の大きなハイライトだった。テクニック云々という次元ではない表現を音で奏でるギタリストなんて、世界中探してもそうはいないだろう。
エンジン音にギターリフが重なって始まった「SUPERSONIC GENERATION」、黒田との掛け合いギターバトルを展開した「GOOD SAVAGE」と、ソリッドでアッパーなナンバーを畳み掛け、「DIVING WITH MY CAR」では熱い歌を聴かせる。
「楽しんでる? 懐かしい曲を聴くとさ、あの時の自分、あの時の景色、時代、相棒、恋人……いろんなこと思い出すよな。次の曲もかなり懐かしい曲です。覚えてるヤツは一緒に拳をあげてください!」
そう言って徐に始めた「TEENAGE EMOTION」。続く曲はもちろん「LONDON GAME」だ。2011年の武道館公演『30th ANNIVERSARY ANTHOLOGY “創世記”』での誰も予想しなかったオープニングを思い出しながら、オーディエンスは狂喜乱舞の盛り上がりを見せた。
皆が頭上にあげた右手で“人生を指で回す”「MERRY-GO-ROUND」。曲の終盤ではマシンガンギターが炸裂し、布袋はオーディエンスのシンガロングを自在に操りながら、そのまま「C'MON EVERYBODY」、「GLORIOUS DAYS」と『GUITARHYTHM』からのナンバーを立て続けにドロップ。〈We walked the streets of “BUDOKAN”〉からの、ラストナンバー「Dreamin’」で、本編は絶頂を迎えた。
「Stereocaster」で始まったアンコール。2024年、怒涛の快進撃で日本シリーズを制した横浜DeNAベイスターズの開幕戦セレモニー、そしてボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥の防衛戦で生演奏を披露した「Battle Without Honor or Humanity」へ。
「昨日今日と、最高の武道館、そして最高の2024年の締めくくりとなりました。本当に感謝しています、ありがとう! 毎日を大切に俺たちの“HISTORY”を更新していきましょう!」と感謝の意を述べると、「LONELY★WILD」をワイルドに、「POISON」をエレガントに届けた。これで終了と思いきや、鳴り止まぬ“HOTEI”コールにバンドメンバーとアイコンタクトする布袋。最後の最後に始まったのは「バンビーナ」だ。曲終わりで唐突に始まった最高のバンドメンバーで行われる大セッションで大団円。まごうことなき宇宙一のロックンロールショウを存分に魅せつけて、2デイズのパーティーを終えた。
最新のHOTEIが最高のHOTEI——。その言葉を大きく更新した2日間だった。MCで布袋自身が語っていたが、現在ニューアルバム『GUITARHYTHM VIII』の制作中であるという。来年2025年のリリース、そして全国ツアーの約束をした。布袋寅泰の進化はとどまることを知らない。
Text:冬将軍(fuyu-showgun) Photo:山本倫子.
<公演情報>
LIVE IN BUDOKAN~The HOTEI~“Super Hits & History”Day 1 “The HITS”
12月6日(金)東京・日本武道館
LIVE IN BUDOKAN ~The HOTEI~“Super Hits & History”Day 2 “The HISTORY”
12月7日(土)東京・日本武道館
Day 1 “The HITS”
セットリスト
M1 スリル
M2 BE MY BABY
M3 Marionette
M4 RUSSIAN ROULETTE
M5 NOCTURNE No.9
M6 CIRCUS
M7 ラストシーン
M8 季節が君だけを変える
M9 1990
M10 Battle Without Honor or Humanity
M11 Give It To The Universe
M12 STILL ALIVE
M13 さらば青春の光
M14 SURRENDER
M15 バンビーナ
M16 B・BLUE
M17 恋をとめないで
M18 Dreamin'
EN1 Stereocaster
EN2 C'MON EVERYBODY
EN3 GLORIOUS DAYS
EN4 POISON
” Day 2 “The HISTORY”
セットリスト
M1 NO. NEW YORK
M2 Marionette
M3 BAD FEELING
M4 BE MY BABY
M5 PROPAGANDA
M6 MATERIALS
M7 MEMORY
M8 DANCING WITH THE MOONLIGHT
M9 FLY INTO YOUR DREAM
M10 SUPERSONIC GENERATION
M11 GOOD SAVAGE
M12 DIVING WITH MY CAR
M13 TEENAGE EMOTION
M14 LONDON GAME
M15 MERRY-GO-ROUND
M16 C'MON EVERYBODY
M17 GLORIOUS DAYS
M18 Dreamin'
EN1 Stereocaster
EN2 Battle Without Honor or Humanity
EN3 LONELY★WILD
EN4 POISON
EN5 バンビーナ
布袋寅泰 オフィシャルサイト
https://jp.hotei.com/