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ぴあ 総合TOP > 東京パブリックアートめぐり Hareza池袋

岡﨑乾二郎《ミルチス・マヂョル》2020年
東京パブリックアートめぐり
多様なカルチャーとアートが交差する街のシンボル的エリア
Hareza池袋
特集
第4回
2020年7月に池袋の東口エリアにグランドオープンした「Hareza池袋」。多目的ホールや映画館などを備え、多彩なカルチャーが交わる人気のエリアにも、この地ならではの作品がさまざまな場所に配置されています。
執筆者
浦島茂世
美術ライター
時間を見つけては美術館やギャラリーへ足を運び、国内外の旅行先でも美術館を訪ね歩く。著書に『改訂新版 東京のちいさな美術館めぐり』、『カラー版 パブリックアート入門』など。ラジオやテレビなどの出演のほか、美術講座講師なども精力的に展開中。
Hareza池袋
〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目19番1号 他
地図で見る
1分でわかる
「Hareza池袋」の主なアート作品
「Hareza Tower」(オフィス棟)と「東京建物 Brilla HALL」(ホール棟)などからなるエリア内に、(公財)彫刻の森文化財団などのディレクションによる約10点のアート作品が点在。
トキワ荘や池袋モンパルナスなど、多彩なアーティストたちが集った池袋の歴史をふまえつつ、こらからの未来を感じさせることをテーマにしたアート作品を設置。
エリア内には「東京建物 Brilla HALL」を中心に8つの劇場があり、観劇や映画鑑賞と組み合わせてアートめぐりを楽しめる。
ディレクターに聞く
左から坂本浩章さん〈(公財)彫刻の森芸術文化財団〉、遠藤祐也さん〈東京建物(株)ビルマネジメント第二部〉
豊島区の都市づくり構想「国際・アートカルチャー都市構想」のシンボルプロジェクトとして誕生した「Hareza池袋」は、「Hareza Tower」(オフィス棟)と「東京建物 Brilla HALL」(ホール棟)、「としま区民センター」、そして「中池袋公園」からなるエリアの総称だ。エリア内には、約1,250席の多目的ホール「東京建物 Brillia HALL」(豊島区立芸術文化劇場)をはじめとした8つの劇場があり、ミュージカルや大型商業演劇、伝統芸能からインターネット配信ライブまで、多様なカルチャーが交差する場所となっている。「Hareza」という名称は、非日常を体験できる「ハレ」の場と、劇場や多くの人が集まる場所を意味する「座」を組み合わせて名付けられた。
「この場所は、かつて豊島区庁舎と豊島公会堂があった場所です。Hareza池袋は『誰もが主役になれる劇場都市』をコンセプトにスタートしました」と語るのは、Hareza池袋の開発・運営事業者のひとつ、東京建物株式会社の遠藤祐也さん。「建物のデザインに合わせて道路や中池袋公園も整備し、一体感のあるエリアになっています。この場所を起点に、みんなが主役になれるまちを作っていきたいと思っています」と意気込む。
「池袋は、かつてトキワ荘(手塚治虫や赤塚不二夫ら漫画家たちが住んでいたアパート)や池袋モンパルナス(かつて池袋周辺に存在したアトリエ村)などがあり、さまざまな文化が生まれた地域でした。こうした豊島区の歴史をふまえ、さらに未来を感じられることをテーマに作品を選定しました」と話すのは、彫刻の森芸術文化財団の坂本浩章さん。彫刻の森芸術文化財団は、建物の設計段階からプロジェクトに参加し、コミッションワーク(その土地や環境、発注主の要望に応じて新しく制作された作品)を提案した。
「ただ単に空いた場所に作品を置くのではなく、計画段階から作家も含めてプロジェクトに参加することで作品の配置場所から、照明の位置までも決めることができました」と坂本さん。池袋という街の歴史や地域の特性をテーマに制作され、建物や空間とも響きあうアート作品の数々を案内していただいた。
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「Hareza池袋」のアート作品
通りからも見える巨大な“地層”
秋山陽《地質時代》
Hareza Tower 1F オフィスエントランス
秋山陽《地質時代》 2019 – 2020年
Hareza Towerの1F、エントランスにある本作は、陶で作られた巨大な作品。地層をイメージして制作されたこの作品は室内に設置されているものの、周囲はガラス張りのため、通りからも目を引く。

坂本さん 「私たちが今立っている地面の下には、過去の人々の膨大な活動の痕跡が積み重なっています。この歴史の重みを現代の人にも感じてもらいたい。そこで、池袋の土地が隆起して出てきた、そんなイメージで作家はこの作品を造りました」

秋山陽《地質時代》(部分) 2019 – 2020年
高さ約3メートルもの作品は、滋賀県にある日本一大きいといわれる窯で3つのパーツに分けて焼成された。床との接地面が小さく不安定のようにも見えるが、アンカーを使用し建物の駆体にしっかりと固定。設計段階から作品の位置や大きさなどを綿密に検討し、外からもよく見えるエントランスの角のスペースに美しくおさめられている。

坂本さん 「1995年に起きた阪神・淡路大震災以降、パブリックアートの安全性や耐久性は非常に考えられるようになっています。この作品や他の作品も、それらの知見を十分に活かして設置しています」

アーティスト
秋山陽
1953年山口県生まれ。「やきもの」の概念を超えたダイナミックな陶の立体作品で知られ、世界の現代陶芸を牽引するアーティスト。土そのものの質感や重量感を表現する作品を発表し、国内外で注目されている。
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池袋の風で絶えず形を変えていく
西野康造《宙をゆく 2020》
Hareza Tower 1F オフィスエントランス
西野康造《宙をゆく 2020》 2020年
「Hareza Tower」エントランスの天井からワイヤーだけで取り付けられているのは、風や空気の動きを軽量なチタンを使って視覚化する彫刻で知られる西野康造の作品。

坂本さん 「豊島区に流れている空気や風の動きを見せたいと思い、西野さんに制作をお願いしました。全体の重量は40kgくらいしかないので微風でも動きます」

こちらの作品も、建物の設計段階から作品設置の場所を決めていたので、あらかじめ天井にワイヤーを取り付けられるよう設定がしてあったそう。

坂本さん 「以前は、建物の仕様などがすべて決まってから作品の選定が行われることが多かったのですが、最近はHareza池袋のように建物の設計段階から、作品設置を検討できるようになってきています。今後もこの流れは増えていくと思います」

アーティスト
西野康造
1951年兵庫県生まれ。チタン合金を主な素材として、繊細な構造からなる大型彫刻作品を国内外で発表。東京都千代田区の東京ガーデンテラス紀尾井町にも作品が設置されている。
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鏝(こて)で生みだされた優雅な質感
久住有生《土=人》
Hareza Tower 1F貫通通路
久住有生《土=人》2020年
通路に設置された本作は、左官職人でもある久住有生が、鏝(こて)だけで作った土の作品だ。なめらかさ、荒々しさ、無骨さなど土が持つさまざまな特性を一目で感じることができる。

坂本さん 「池袋がかつて武蔵国豊島郡だったころ、この地には村があり、土壁をつかった家がありました。そんな記憶を思い起こさせるような作品がほしいと思い、久住さんにお願いしました。久住さんの左官技術は海外からもお呼びがかかるほど人気なんですよ」

作家はこの場で作業に取り組み、丁寧に土が塗り込められていったという。

遠藤さん 「Harezaの照明は、照明デザイナーの内原智史さんが手掛けているのですが、内原さんが光の向きや作品への当たり方などを調節し、久住さんの作品がより美しく見えるようになりました。ライティングにも注目して見てみるとおもしろいですよ」

アーティスト
久住 有生
三代続く左官の家に生まれ、幼少の頃から鏝を握る。18歳より全国各地で腕を磨き、23歳で独立。歴史的建造物の修復から、個人邸の内装・外装まで幅広い活動で知られている。伝統的な左官技術を使った作品は国内外で注目されている。
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かわいいが詰まった華やかなトイレとまんがをモチーフにしたかっこいいトイレ
西山美なコ《♡Welcome back★Lady♡》
金氏徹平《Hard Boiled Daydream(Restroom)》
Hareza Tower 1F メンズレストルーム/レディスレストルーム
西山美なコ《♡Welcome back★Lady♡》2020年
金氏徹平《Hard Boiled Daydream(Restroom)》2020年
Hareza Tower1Fのレストルームは、従来のトイレのイメージを打ち破る斬新な内装だ。女性用のレストルームは西山美なコ、男性用のレストルームは金氏徹平が、それぞれデザインを担当している。

坂本さん 「アニメやサブカルチャーをモチーフにしたデザインを取り入れました。西山さんのデザインはかわいらしくて華やか。けれどもよく見るとハートの向きが逆さまになっていたりします。金氏さんはマンガで使うスクリーントーンや背景をコラージュした空間を作り上げています」

遠藤さん 「Hareza池袋の誕生は、前区長の故高野之夫さんの想いがぎっしり詰まっているのですが、豊島区は公衆トイレの整備にも非常に力を入れていました。ということでこの施設もトイレを作り込んでいます。トイレは生活文化の基盤を支えるものであるため、少しでも心地よくご利用いただけるような空間造りを意識しています。」

アーティスト
西山美なコ
1965年兵庫県生まれ。かわいらしく、装飾的で、ピンク色を基調とした日本の少女文化を強く押し出した作品を精力的に発表。近年は、砂糖や卵白を使った甘さと儚さを併せ持った作品や、光の反射を捉えた作品なども制作している。
金氏徹平
1978年京都府生まれ。日用品や雑貨、フィギュアや概念などさまざまなものを組み合わせ、再構成し、新しい文脈を作り出す作品で知られるアーティスト。舞台美術や演劇作品の制作なども精力的に行っている。
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池袋の街をぎゅっと1/10スケールに
テラダモケイ 寺田尚樹《1/10 Hareza Ikebukuro》
東京建物 Brillia HALL 1F廊下
テラダモケイ 寺田尚樹《1/10 Hareza Ikebukuro》2019年
1/100スケールの建築模型用添景セットで知られる建築家でデザイナーの寺田尚樹の作品。街を行き交う人々や、コスプレイヤーたち、フクロウ像、自転車、バス停など池袋の街の風景を象徴するモチーフが、1/10スケールで描かれている。パーツのひとつひとつの描写が細かく、見ているだけで楽しくなってくる作品だ。

坂本さん 「『池袋の街や文化を表すオリジナル作品を』とお願いしたところ、寺田さんの視点で池袋の姿を切り取っていただきました。池袋を知る人だったら、一目でわかるモチーフが散りばめられています。」

遠藤さん 「この作品ではラーメン店ののぼりもパーツになっていますが、池袋は本当においしくて個性的なラーメン店が多いんですよ。Hareza池袋に来た方は、帰りに食べていってほしいですね(笑)」

アーティスト
寺田尚樹
1967年生まれ。建築家・デザイナー。2021年に1/100建築模型用添景セットなどを展開する「テラダモケイ」をスタート。100種類以上のシリーズを発表し、模型を通して作る楽しさ、想像する楽しさを伝えている。
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しなやかに形を変える美しいソファ
野老朝雄《RHOMBUS CONNECT SEATING》
Hareza Tower 7F スカイラウンジ
野老朝雄《RHOMBUS CONNECT SEATING》2020年
Hareza Towerは上階がオフィスフロアになっており、7Fはそのロビーという機能をもつ。展望コーナーであるスカイラウンジには、各オフィスで働く人たちや来館者用にひし形を組み合わせてさまざまな形に変えられるソファが設置された。東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムのデザインで知られる野老朝雄の作品だ。
ひし形の組み合わせによって、さまざまな形に変えることができる

坂本さん 「安全で座りやすいソファをイタリアで制作しました。Hareza Towerのために作られたものなのですが青の本革が美しく、座り心地もとてもいいんですよ。経年変化で次第に味も出てくると思います」

遠藤さん 「定期的に形を変えていく予定なのですが、現在ビルを訪れる人が増えてきていまして、一番人が多く座れるヘビ状の形で設置されていることが多いですね」

アーティスト
野老朝雄
1969年東京生まれ。2001年9月11日より「繋げること」をテーマにした紋様の制作を開始。東京 2020 オリンピック・パラリンピックエンブレムをデザインした。現在は平面にとどまらず、立体物の設計や制作も行っている。
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永遠に続く数字の列
久門剛史《crossfades #5 Found Numbers》
Hareza Tower 7F オフィスロビー
久門剛史《crossfades #5 Found Numbers》2020年
オフィスロビーの壁に設置されている3点の作品は、久門剛史による彫刻作品。いずれの作品も、平らな大理石の表面に円周率の数字が渦巻きのように刻まれている。

坂本さん 「久門さんは、さまざまなスタイルのインスタレーションで知られる作家です。故障のおそれがある機械を組み込まない形で、それでも動きを感じさせる表現をしたい、というところから、無限に広がる円周率の作品にたどり着きました。大理石への彫刻はサンドブラスト技法という、細かい砂を吹き付けて石を削っていく技法を用いています」

久門剛史《crossfades #5 Found Numbers》(部分) 2020年

遠藤さん 「今、Hareza池袋では約5000人ほどの人が働いています。この作品には、ここで働いてくださっている人たちにとっての未来が永遠に続くという意味もこめられています」

アーティスト
久門剛史
1981年京都府生まれ。日常に潜んだささやかな事柄や、その場所の歴史や現象をもとにした、音や光、立体を使ったインスタレーションを制作する、近年注目を集めているアーティスト。国内外の芸術祭などにも多数参加している。
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遠くからでも目を引く色鮮やかなモザイク壁画
岡﨑乾二郎《ミルチス・マヂョル》
アーバンスクリーン
岡﨑乾二郎《ミルチス・マヂョル》2020年
Hareza池袋の建物と建物を結ぶ橋「コネクティングブリッジ」は、遠くから見てもカラフルで目立つ存在。これもパブリックアートのひとつだ。この橋や大劇場、東京建物 Brillia HALLのエントランスを飾っている、ガラスと陶器でできたモザイク壁画はかつて要町界隈に暮らしていたこともあるというアーティスト、岡﨑乾二郎が手掛けた作品。鮮やかな色だけでなく、ガラスや陶器の質感も美しい。
アーティスト
岡﨑乾二郎
1955年東京生まれ。造形作家、批評家。1982年にパリ・ビエンナーレに招聘され、以降、数多くの国際展に出品。近年では、2019〜20年に豊田市美術館で大規模な個展『視覚のカイソウ』が開催された。2025年に東京都現代美術館で個展の開催が予定されている。
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池袋といえば、この鳥!
三沢 厚彦《Bird 2019-01B》
東京建物 Brillia HALL 2F ラウンジ
三沢 厚彦《Bird 2019-01B》2019年
東京建物 Brillia HALL2階の入口で、来場者を迎えてくれるのが三沢厚彦によるフクロウの像だ。近年、池袋エリアでは公共空間にフクロウの像を設置する運動があり、街のあちらこちらに少しずつフクロウ像が増えてきている。三沢は木彫を制作の基本に据えているが、公共の空間に長期間設置する作品するため、本作はブロンズで制作されている。

坂本さん 「池袋を象徴するもの、ということでフクロウを作ろう、そのフクロウを誰に作ってもらおうか?というところで三沢さんの名前が出てきました。作っていただいた作品は、私たちが予想した以上に、かわいらしく、りりしいものでした。目力が素敵なんですよね」

遠藤さん 「作品が一番よく見える場所はどこだろう?と、考えながら配置しました。この作品の台座をよく見てもらうと、ちょっと手前に傾斜がついています。作品をより良く見せるために特別に作ったものなんですよ」

アーティスト
三沢 厚彦
1961年京都府生まれ。2000年より手掛けているゾウや、ライオン、キリンなどの動物の姿をほぼ原寸大でクスノキに彫り、油絵の具で着彩した「ANIMALS」シリーズで知られる彫刻家。近年では麒麟やキメラなど、空想上の生き物まで挑戦の域を広げている。
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浦島流「Hareza池袋」アートめぐりのポイント
アートだけでなく、演劇や映画などあらゆるエンタメが好きなぴあの読者の方にとっては、「Hareza池袋」はすでにおなじみの場所かもしれません。でも、いつも行く場所だけでなく、HarezaTowerなどのエントランスやスカイラウンジ、そして中池袋公園などもぜひ立ち寄ってみてください。
私のおすすめは、まずHarezaTowerを7Fまでのぼり、久門剛史《crossfades #5 Found Numbers》を鑑賞後、野老朝雄《RHOMBUS CONNECT SEATING》に腰掛けて、窓からの眺めをじっくり堪能します。
その後、1Fまで降りて、西山美なコ《♡Welcome back★Lady♡》、あるいは金氏徹平《Hard Boiled Daydream(Restroom)》のレストルームでひといき。その後、テラダモケイ 寺田尚樹《1/10 Hareza Ikebukuro》を鑑賞してから、久住有生《土=人》や秋山陽《地質時代》、 西野康造《宙をゆく 2020》を鑑賞。エレベーターに登って、コネクティングブリッジの岡﨑乾二郎《ミルチス・マヂョル》を眺めながら東京建物 Brillia HALLへ。そしてラウンジにある三沢 厚彦《Bird 2019-01B》を眺める、なんていかがでしょう?
美術館のように使えるHareza池袋。映画鑑賞、演劇鑑賞と組み合わせれば、かなり充実した時間になるはずです!
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「Hareza池袋」紹介作品一覧
秋山陽《地質時代》

西野康造《宙をゆく 2020》

久住有生《土=人》

西山美なコ《♡Welcome back★Lady♡》
金氏徹平《Hard Boiled Daydream(Restroom)》
テラダモケイ 寺田尚樹《1/10 Hareza Ikebukuro》
野老朝雄《RHOMBUS CONNECT SEATING》
久門剛史《crossfades #5 Found Numbers》
岡﨑乾二郎《ミルチス・マヂョル》
三沢 厚彦《Bird 2019-01B》
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基本情報
施設名
Hareza池袋
営業時間
施設により異なる
住所
東京都豊島区東池袋1丁目19番1号 他
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