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【ぴあテン:ステージ】ぴあ執筆陣が選ぶ2024年のマイベスト

「ぴあアプリ/WEB」ステージジャンルでご執筆・ご出演いただいている9名の皆さまに、古典芸能、演劇、ミュージカル、2.5次元舞台、アイスショーまでさまざまな舞台公演から、「ベスト10本」を挙げて頂き、とくに印象に残った作品についてコメントを頂きました。さらに2025年に期待している公演、俳優などについても教えて頂いています。2024年、皆さまの観劇体験はいかがでしたか? 2024年の振り返りと2025年の鑑賞計画にぜひお役立て下さい。


追善と襲名、浅草メンバー一新、そしてさすらう国立劇場。

萬屋三代の同時襲名と、人形浄瑠璃文楽の豊竹若太夫の襲名、そして十八世中村勘三郎の十三回忌追善という「襲名と追善」が印象に残る1年だった。昨年閉場した国立劇場はその後建て替えの詳細定まらず、公演の都度、新国立劇場中劇場など代わりの劇場をさすらうことに。
11月に菊五郎劇団の重鎮だった市川團藏が帰らぬ人となってしまった。『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」の武蔵坊弁慶のような時代物の線の太い役から、世話物なら『雪暮夜入谷畦道』の暗闇の丑松や、時に『人情噺文七元結』の角海老手代藤助のように花街ならではの飄々とした男の役も素敵だった。

新春浅草歌舞伎『魚屋宗五郎』
宗五郎を勤める尾上松也を筆頭に、10年間共に浅草歌舞伎を盛り上げてきた顔ぶれが総出演し、宗五郎の家族や彼らを取り巻く人々を勤めた。彼らの浅草での10年が息の合ったアンサンブルとして実を結んでいた。

猿若祭二月大歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒』
十八世中村勘三郎の当たり役佐野次郎左衛門に中村勘九郎が、傾城八ツ橋に中村七之助がそれぞれ初役で挑んだ。また片岡仁左衛門ほか大顔合わせとなり話題に。勘九郎の次郎左衛門が愛想尽かしされ、その恨みが一気に殺しへのエネルギーへと昇華していく様に肌が粟立った。そして吉原仲之町での見初めでは、七之助の八ツ橋が、艶麗なだけではない、どこかゾッとするような笑みを見せた。運命の歯車がかちりとかみ合い回り始めた瞬間だった。

国立劇場9月歌舞伎公演『夏祭浪花鑑』
団七を勤める坂東彦三郎を初め、一寸徳兵衛に坂東亀蔵、団七女房お梶に澤村宗之助、三河屋義平次に片岡亀蔵、そして徳兵衛女房お辰に片岡孝太郎と初役揃いだった。そんなフレッシュな一座ならではの結束力が舞台と客席との距離をグッと縮めていた。また初春公演同様、新国立劇場中劇場という現代劇などを上演する劇場で上演された。『夏祭』の幕切れでは団七とともに祭りの神輿が花道を通っていく。だがこの劇場の舞台袖の短い通路では通れないため、今回は客席の間を突っきって直角に曲がる短い花道を新たに設けた。それもあって、蒸し暑い大坂のある晩に起きた惨劇を覗き見しているような感覚に襲われた。

2024年「新春浅草歌舞伎」公演チラシ

〈これも良かった!〉

2025年のステージはこれに期待!

尾上菊之助が八代目尾上菊五郎を、尾上丑之助が六代目尾上菊之助を襲名する。当代の菊五郎はそのまま七代目として尾上菊五郎を名乗るため、二人の菊五郎が並び立つことになる。顔ぶれが一新された新春浅草歌舞伎でもどんな化学反応が起こるのか楽しみだ。また、2024年5月歌舞伎座で中村芝のぶが『伽羅先代萩』の八汐を代役で勤め、10月には『俊寛』の千鳥に上村吉太朗が抜擢、12月には澤村國矢が二代目澤村精四郎を襲名した。いわゆる門閥ではない役者の活躍の機会はさらに増えるのではないか。


今年の演劇界を総括出来るほどには観劇の数も力も足りないのでご容赦願いたく、印象に残る舞台はどうしても関心分野(韓国演劇、フィギュアスケート等)に寄ってしまってこのラインナップになりました。

『Endless SHOCK』は2000年の初演からラストイヤーと定めた今年まで、堂本光一さんが単独主演で、途中からは作・構成・演出も担って積み重ねて来た舞台。全身全霊のエンターテインメントを25年間届け続けた、その偉業は特筆すべき今年の記憶です。

『Everlasting33』は浅田真央さんがプロデュースした“劇場型アイスショー”。半円形の張り出し舞台ならぬ張り出しリンクを特設して、信頼する仲間とともに華やかなスケーティングプログラムを多数披露したほか、真央さん自身はエアリアルやタップダンス、コンテンポラリーダンスにも挑戦。アスリートの魂を燃やして立ち上げたアーティスティックな劇場空間に終始、痺れるほど惹きつけられました。

『ファンレター』は韓国で人気を博した創作ミュージカルの日本初演。日本統治時代の京城(現在のソウル)を舞台に、実在した文人たちをモチーフとして、彼らの文学への愛と苦悩をミステリー調に描いた秀作です。劇作、音楽など韓国クリエイター陣の確かな手腕にうなるとともに、芸術に命を燃やす人々の葛藤、その時代の空気を肌感覚で再現した演出の栗山民也さんの真摯な仕事に敬服しきり。天才作家に扮した浦井健治さんのこれまでにない表現の煌き、新境地を見た作品でもありました。

ミュージカル『ファンレター』より(提供:東宝演劇部)

〈これも良かった!〉

2025年のステージはこれに期待!

韓国ミュージカルの精鋭クリエイターたち、演出オ・ルピナ(『キングアーサー』)、脚本・歌詞パク・ヘリム(『ナビレラ』)、音楽チェ・ジョンユン(『マリー・キュリー』)が集結し、主演の前田公輝さんを始めとする日本のキャスト、スタッフとともに立ち上げる日本オリジナルミュージカル『ミセン』。日本発の舞台がいつの日か韓国でも、また他の国でも観られるような展開になればと期待しています。

2024年の演劇界は現代演劇、ミュージカルの新作に残念ながら傑作は生まれず秀作も数少ない寂しい結果となった。それでも再演公演は充実し、劇作家では三谷幸喜、野田秀樹が健在。歌舞伎界に目を移せば片岡仁左衛門、坂東玉三郎の円熟した芸が飛び抜け、中村七之助、中村隼人、市川團子という花形・若手が著しく急成長したのが特徴だった。

『品川猿の告白』は原作者・村上春樹を愛するマシュー・レントンの演出が度肝を抜く。人間の言葉を理解しクラシック音楽にも精通する品川猿、自分の名前を盗まれて記憶にない女という2本の縦筋を調和させ、見事なテンポで展開させて秀逸。特に猿を演じたサンディ・グライアソンの演技はどうだ。知的で愛嬌があり魅力に満ちた。照明のサイモン・ウィルキンソンを加えて娯楽劇としての異色の“ハルキ・ワールド”を作り出した。

『骨と軽蔑』は鬼才ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)が珍しく演出した新作だ。思い入れというか作品の方向性が半端ではない。舞台と背景環境は内戦が続く田舎町、超豪邸に住む姉妹が主人公。終始、戦闘の轟音が鳴り響く。父は敵同士に武器を売り渡している商人だから標的にされても仕方ない。これがスリリングな緊張感を漂わせる。小説家の姉マーゴと妹。宮沢りえをはじめ出演者は女性ばかり7人による会話劇、寓話劇と言っていいだろう。KERAはその7人の立場、個性をはっきりと描き分け、女優はそれに応えた。中でも家政婦の犬山イヌコが面白い。ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルの侵略、シリア、韓国……。世界は今、戦争と混乱に陥っている。KERAの方向性は人間の飽くなき止めようのない欲望の醜さ。濃厚な舞台であった。

『ケエツブロウよ』は創立70周年を迎えた劇団青年座の記念公演第1弾。“創作劇の青年座”がマキノノゾミの新作で、失礼ながら久しぶりに秀作をかっ飛ばした。題名の「ケエツブロウ」とはカンムリツブリという鳥の名。その意味が後半で明らかになる。副題が「伊藤野枝ただいま帰省中」。主人公はノエ(伊藤野枝)。アナキストの彼女は肉体的、精神的にも常人とは思えない生命力の持ち主。最初の夫・辻潤との飽き足らない生活、次の夫・大杉栄と死に向かって闘い抜く。マキノの仕掛けは実家に帰った設定だ。常識と新しい女との相克。17歳から28歳までを演じた那須凛が自由を求めた女と同化していた。演出の宮田慶子は、幕切れでノエに絶叫させる。不屈の精神力を――。

『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey』より(撮影:細野晋司)

〈これも良かった!〉

2025年のステージはこれに期待!

2025年で注目しているのは歌舞伎俳優・尾上菊五郎の襲名披露だ。菊之助が八代目を継ぎ、父・菊五郎は七代目のまま“二人菊五郎” 同時出演による4・5月歌舞伎座から開幕する画期的な興行は一番の見物である。

物価の上昇は否応なしにチケット代にも反映され、作り手の皆さんにとってもかなり厳しい1年だったのではと思います。そんな中でもいい作品を生み出している方々に敬意と感謝を抱く1年でした。それぞれによさがあり、10に絞るのはたいへん難しかったのですが、カレンダーを振り返ってシーンが脳裏に鮮やかによみがえったものを並べました。東葛スポーツ『相続税¥102006200』は岸田國士戯曲賞受賞作『パチンコ(上)』(2022)、『ユキコ』(2023)に連なる”オートフィクション”で、笑いながらも自分が受賞後第一作の完売公演の客席に座っていることがちょっと後ろめたくなるような作品でした。つい先日上演された、金山寿甲さんがS.Leeさんとともに手掛けたワークインプログレス『K演劇』もよく、焼肉屋さんを見る目が変わりました。2009年の初演も観た流山児★事務所『田園に死す』、私にとって最後の天野天街演出作品となりました。いつ観ても圧倒される密度の濃い演出がもう観られないと思うと喪失感に襲われます。『江戸時代の思い出』は、30年間劇団という繋がりで芝居を続けるとこんなところに到達するのか! と思わされました。すさまじいナンセンス。『ちがう形』では、中野成樹+フランケンズという団体がいてくれることの喜びを噛み締めました。ここ最近の、劇団員の子どもたちが登場する作品を観ていると、劇団の変化を作品に反映していく面白さを感じます。はからずも、自分も長く演劇を観てきたのだなと感じる作品に多く出会えた2024年となりました。

『江戸時代の思い出』より(撮影:引地信彦)

2025年のステージはこれに期待!

劇団アンパサンドの観客席を見渡したとき、「いまの小劇場界の中心はここだ」と感じました。また、今演劇に若い観客を呼ぶことのできる数少ない団体であるダウ90000のことを、演劇界はもっと大事にしたほうがいいと思います。

2024年は長く続いたコロナ禍の影響がじわじわと出てきていると感じました。チケット代の高騰もあって、観劇の習慣がなくなり、舞台を観に行く人と行かない人がはっきり分かれてきているのではと感じます。観に行く人たちの中でも、以前より回数が減る傾向にあり、チケット争奪戦になるものと集客が厳しい舞台の差も激しくなっています。新しい観客を獲得するためにはプロデューサーや制作スタッフが充実していなければなりません。そのために舞台芸術界全体で取り組む必要があると思います。

宝塚歌劇団星組『RRR~』
あの映画を宝塚歌劇団でミュージカル化。しかも、3時間20分を1時間40分にまとめ上げ美味しいところは全て網羅。男役トップスター礼真琴のビーム、暁千星のラーマ。ともに素晴らしいダンサーであるふたりのナートゥダンスは宝塚史上に残る名シーンに。潤色の谷貴矢さんの手腕が光りました。宝塚歌劇団の次世代エースとしてますますのご活躍を祈っています。

尾上右近自主公演「研の會」
尾上右近の歌舞伎愛が炸裂。今年も気合いと意気込み、覚悟がすごかった。玉手御前はむせかえるような色気でそれゆえに己が引き受ける運命の過酷さに涙しました。『連獅子』では、寺島しのぶさんの愛息子・眞秀を迎えての初の親獅子。こうやって歌舞伎の世界は紡がれていくのだと実感しました。

ここ何年かで着実に存在感を増した俳優・柿澤勇人。このタイミングで全身全霊をかけて演じた『ハムレット』は格別の輝きを見せました。柿澤勇人をよく知る吉田鋼太郎の愛に溢れた演出も相まって新しいハムレットを見せてもらいました。しかも、今年は三谷幸喜作、演出の『オデッサ』でも難役を演じきったのも記憶に新しい。これからが楽しみ!

彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』より(撮影:宮川舞子)

〈これも良かった!〉

2025年のステージはこれに期待!

2025年はさらに劇場が少なくなり、劇場以外でのパフォーマンスが増えそう。中でも企画、主催、作、演出に加え出演もする上田久美子さんの舞台が楽しみでなりません。1月24日から2月3日に上演される『寂しさにまつわる宴会』に注目。上演はなんと蒲田温泉2階の宴会場。まるで想像がつきません。チラシもワクワク感を掻き立てます。2023年にはオペラの演出も手がけた上田久美子さん。(『めくるめく演劇チラシの世界』でも取り上げました! バックナンバーもぜひご覧ください)。宝塚歌劇団を退団したのち文化庁の制度を利用してパリに1年間滞在し、いよいよ本格的に活動が始まります。ずっと追いかけていきます。

注目の俳優は中島歩さんと北香那さん。 中島歩さんは『不適切にもほどがある』で昭和の中学教師安森を演じた甘いマスクと甘い声の持ち主。あんなにかっこいいのに、こんなに残念な男を好演。12月には城山羊の会『平和によるうしろめたさの為の』にも出演。山内ワールドでも光っていました。

北香那さんは『ハムレット』ではオフィーリアを演じ、年末には宮藤官九郎作ウーマンリブのコントに登場。テレビ東京のドラマ『バイプレーヤーズ』で中国人女性ジャスミンを演じている時から気になっていましたが、今年、藤沢周平の時代劇をドラマ化した『約束』のヒロインお蝶役も素晴らしかった。幅が広い! これから舞台でも目が離せません。


今年も2.5次元界はさまざまなジャンルで盛況!
ホールや劇場が足りない!とずっと言われている昨今。今年は大井競馬場駅前に演劇・ミュージカルを中心とした新劇場「シアターH」が開業。音響も良く、1階席もスロープがあり、2階席も見やすそうで、演劇だけでなくコンサートなどでも訪れたいとても素敵な劇場が誕生しました。新作公演をぜひチェックしてみてください。

『舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 3』
人気アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」の舞台オリジナルスピンオフシリーズ。第3弾にして完結編と謳われた今作。アニメ初期スタッフである本広克行監督と深見真氏が手掛ける本シリーズは、原作アニメに登場しても違和感のない魅力的なキャラ揃い。そしてアニメ本編の事件ともリンクする内容や、舞台ならではの生身のアクション、PSYCHO-PASSならではの「正義」とシヴィラの在り方に観劇後も思いを巡らす。今作は第1弾公演の主人公・鈴木拡樹演じる九泉晴人が戻ってくるところから始まり、その背景がさらに明かされる内容となっていました。PSYCHO-PASSの普遍的な正義と人間社会への問いかけに、まだまだいくらでも続編が作れそうな本シリーズ!終わってほしくない! アニメに逆輸入してほしい傑作です。

『歌絵巻「ヒカルの碁」序の一手』
名作「ヒカルの碁」がミュージカルになった本作。進藤ヒカル役・糸川耀士郎、藤原佐為役・小南光司、塔矢アキラ役・赤澤燈といった、演技力、歌唱力ともに定評のあるキャストを揃え、演出は2.5舞台でお馴染みの毛利亘宏氏、音楽は和田俊輔氏のタッグという盤石の布陣。囲碁という一見ステージ上では地味になってしまう盤上の戦いをダイナミックな空間演出や、闘志溢れるぶつかり合いを日本刀を用いた殺陣で表現するのは舞台ならではで素晴らしかったです。そして小南さんの佐為が麗しかった!

『アイドリッシュセブン VISIBLIVE TOUR "Good 4 You" HELLO MAKUHARI』
現実世界でのライブという意味では、CGライブも2.5次元!「アイドリッシュセブン」初の全国CGライブツアー「VISIBLIVE TOUR "Good 4 You"」は2023年の夏からスタート。今年新年に追加公演として幕張公演が行われました。昨年のツアースタート時の公演ももちろん良かったのですが、追加公演では各グループに特効が追加、新曲も披露され、新たなトキメキに観客も熱狂! MCも新年バージョンで楽しませてくれました。アイナナ公式YouTubeに30分近いダイジェスト動画がアップされているので、気になる人はご覧ください!

『舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice 3』メインビジュアル

〈これも良かった!〉

〈ドラマも!〉

  • 「ひだまりが聴こえる」(テレビ東京)
    漫画原作実写化もある意味2.5次元ということでコチラ。今年一番好きなドラマでした。一応BLですが、手を繋ぐことすらほぼないプラトニックなので、BL関係なく老若男女に観てほしい! 人との関わり方や進路に迷っている人にも気づきを与える名作です。
  • 「神様のサイコロ」(BS日テレ)
    2.5俳優ドラマとしてコチラ。和田雅成、曽野舜太、前嶋曜、櫻井圭登、寺坂頼我の5人が謎の儀式を通じてデスゲームに巻き込まれていく本作。カルト的人気となったドラマ『NIGHT HEAD』の飯田譲治氏が監督・脚本・原作を務め、話数が進むごとに先の気になる展開や演出に納得。ラストもすんなり終わらず……最後の最後まで楽しめました!

2025年のステージはこれに期待!

2025年は1月から古屋兎丸原作の演劇『ライチ☆光クラブ』や、演劇調異譚『xxxHOLiC』の再演など、人気作の復活公演に注目『ライチ☆光クラブ』では牧島 輝さんの新たなゼラ、『xxxHOLiC』では前作に引き続き太田基裕さんの侑子さんが現実世界に現れ、観客を魅了しそう!


今年は、コロナ禍の経験も踏まえ、新たな試みが軌道に乗った年だったように思います。劇団四季は、新体制になって力を入れてきたオリジナルミュージカルの製作が充実、歌舞伎は、一昨年から始まった歌舞伎座の歌舞伎会会員向け定額制観劇サービスが定着し、国立劇場閉場に伴い、新国立劇場や新宿・歌舞伎町のTHEATER MIRANO-Zaでも歌舞伎が上演されて、観客層の広がりが期待されます。110周年を迎えた宝塚は、予想外の映画を原作にした2公演で星組の活躍が印象的でした。

『ゴースト&レディ』は、藤田和日郎の原作コミックをベースに、オリジナル要素やミュージカルならではのシーンを加え、フローレンス・ナイチンゲールと、古い劇場に棲むゴーストのグレイとの美しい愛の物語に昇華させていて、感動しました。

『婦系図』は、記憶に刻まれる名舞台を残してきた片岡仁左衛門と坂東玉三郎のコンビが、新派の代表作で初共演を果たしたもの。苦悩する早瀬主悦の仁左衛門の若々しさ、一途さ、お蔦の玉三郎の無邪気なかわいらしさが別れの辛さをより際立たせ、やはり絶品です。妹分のお蔦を案じる柏家小芳を初役で演じた中村萬壽も好演でした。

『記憶にございません!』は、およそ宝塚とは縁のなさそうな三谷幸喜の同名映画を、宝塚の舞台として成り立たせた潤色・上演台本・演出の石田昌也の手腕が光ったと思います。大階段を、首相公邸の赤絨毯の階段に見立てて歌い踊る「献金マンボ」など、オリジナルのシーンも出色でした。

劇団四季オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』より(撮影:上原タカシ)

〈これも良かった!〉

2025年のステージはこれに期待!

2025年、まず気になるのは、劇団四季が4月6日からJR東日本四季劇場[秋]で上演予定の新作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』です。あの大ヒット映画のミュージカル化で、主人公の高校生マーティ・マクフライや、変わり者の科学者ドクなど主要キャスト候補も発表され、期待が高まります。そして、やはり4月に宝塚大劇場で開幕する星組の『阿修羅城の瞳』も、劇団☆新感線との初コラボに注目しています。これはトップスター礼真琴のサヨナラ公演です。また、永久輝せあの花組トップお披露目公演で上演されたレヴューグロリア『Jubilee』 が大好きなのですが、今年の10作に入らなかったので、3月の博多座公演で再び観られるのをとても楽しみにしています。


日本オリジナルミュージカル“元年” 年間ベストスリーは個人的にも毎年決めているが、今年はついに、日本オリジナルミュージカルが初めてそこに食い込んだ記念すべき年。まずオリジナル作品の上演本数(正確には筆者の観劇本数)が例年より格段に多く、輸入作品に肉薄する勢いだったのだが、わけても『この世界の片隅に』が出色の出来だった。この作品がどれだけ高度なことをやっているかは既にあちこちで熱弁してきたのでここでは詳述しないが、アンジェラ・アキ(音楽)と上田一豪(脚本・演出)のコンビにはぜひ、再演を重ねつつ新作もどんどん生み出していただきたい。『イン・ザ・ハイツ』は日本版10年の集大成。天才リン=マニュエル・ミランダの楽曲をこのレベルで歌える俳優がこんなにも多く育ったとは!と、内容にはもちろんだが日本ミュージカル界の成長にも感涙してしまった点は『この世界~』と共通する。再演作品はこのように、前回以上に良かった場合に限って選出するようにしているのだが、それでも再演の度にランクインしてしまうのが『レ・ミゼラブル』。初めて観てから30余年、これは神が創りしミュージカルだという以外の答えが恥ずかしながらいまだに見つからない。とはいえその神力は人間が一生懸命立ち向かわなければ失われてしまうなか、今年のキャストもそれぞれが自分らしく演じていて素晴らしい。公演は2025年まで続くため、下手したら来年もランクインしてしまうかも……。

ミュージカル『この世界の片隅に』より (C)こうの史代/コアミックス・東宝 製作:東宝

〈これも良かった!〉

2025年のステージはこれに期待!

引き続き『レ・ミゼラブル』と、同作の「ステージド コンサート」は鉄板として、長年の日本版妄想がついに実現する『SIX』、そしてメインキャストが一新される『キンキーブーツ』にも注目中。過去3回の公演では小池徹平、三浦春馬、城田優の出演により、従来のミュージカルとは異なる話題性と観客層を獲得してきた『キンキーブーツ』は、ミュージカル界の実力派キャストに替わる今回がある意味、作品が日本に定着するかどうかの正念場。新キャストの奮闘による定着を願って足を運びたい。


『千穐楽まで、きちんと公演ができる喜びを、免疫力として』

決してまだ完全に収束した訳ではないコロナ罹患。実際、今年の夏、観に行こうとしていた公演も中止になった。そしてこの暮れにも、公演中止の連絡が届いた。もちろん、常にきちんとした対策を考えないといけないのは確かだが、マスクをして、手洗いをして、今現在やっておくべきことをやったら、意識して忘れた振りをしていることも、できれば許してもらえたらと思う。まだなんとなく全力で走れていない感じがしてもどかしいが、体調に関して用心深くなったことと、千穐楽まで公演できることが当たり前では無いと感謝の気持ちを胸に刻ませてくれたことは、良しとするべきかもしれない。果たして「コロナウイルス撲滅宣言」の日は来るのか来ないのか。そんな、心の底に影が横たわる日々の中で、素晴らしい演劇作品を産み落としてくれたカンパニーが多くあったことに感謝。きちんと公演ができる喜びを、免疫力としてDNAに組み込んだ演劇界のアーティストたちの力強さが、2024年も演劇の世界を豊潤にしてくれた。

ロロ『飽きてから』
多くの良作を生み出してきたロロの、私の中での最高傑作。舞台上で繰り広げられる人間模様を味わっていると、やがてその心象風景を微かに擦っていく上坂あゆ美の短歌が舞台後方に映し出される。その芝居と短歌の「微かに擦っていく感じ」が絶妙すぎて、あまりの心地よさに、もうずっと観ていたいと思うほどであった。そして、役者の中では鈴木ジェロニモの舞台上での佇まいとセリフの間(ま)が完璧で、正直言って度肝を抜かれた。さらに、前出の歌人・上坂あゆ美も役者として出演していたが、彼女の(おそらく)初舞台を、全体の流れに乗せてチャーミングな役柄に仕立てあげた三浦直之の演出も見事であり、そこに、亀島一徳、望月綾乃、森本華というロロの劇団員が、舞台上で余裕を身に纏い、滑らかに柔らかく演じていく頼もしさは、まさに「惚れ惚れ」の一言であった。

ONEOR8『かれこれ、これから』
特別養護老人ホームを舞台にしながら、老けメイクや老人に寄せた演技等を一切せず、若い俳優たちが等身大にそのまま演じ、しかも、その説明は一切無いまま、徐々に特養ホームだと判らせていくという演劇的興奮を作りあげることに成功した傑作。逆に、“若い俳優が、そのままの姿で、普段通りの会話をして、老人を演じる”ことで「姿形に関係なく、誰にでも起こりうる問題を描いている」という普遍性を生み、年配の観客だけでなく、若い世代の胸にも直接飛び込んでいく、素晴らしい舞台であった。

劇団普通『病室』
2019年の初演を池袋の「スタジオ空洞」で拝見した時に、そのあまりの素晴らしさに“声を失うとはまさにこのこと”という体験をした、珠玉の舞台の再々演。茨城の病院の一室を舞台に、4人の入院患者とその家族、そして医師や看護師との何気ない会話の中から、それぞれの人生の奥行きを浮かび上がらせる台詞の秀逸さはもちろんのこと、その台詞を成立させるべく未曽有の緊張感を導いた石黒麻衣の演出力も確かで、さらに、その演出力に応える用松亮、渡辺裕也、松本みゆき、(石黒麻衣)といった初演時からの俳優たちの確かな演技に加え、武谷公男、重岡漠、上田遥、青柳美希ら初出演組も見事に演じ切り、全く隙の無い舞台を生み出した。

ロロ『飽きてから』より(撮影:阿部章仁)

〈これも良かった!〉

2025年のステージはこれに期待!

先にも書きましたが、2025年もまだ「誰が悪い訳でもなく、ただ、コロナに偶然罹患してしまったことによる、公演中止」の可能性を背中に感じながらの演劇公演が続きます。まずは、STAFF&CASTの皆さんが手塩にかけ、全力を傾けた全ての舞台が、無事開幕し、千穐楽の幕を降ろすことを、心から願っています。そしてもちろん、今現在注目している劇団は幾つもありますが、少し的外れに答えさせていただくならば、足を運ばせていただく全ての公演に『期待』しています。劇場の片隅で「これは凄い……」と思える舞台に、来年も数多く出会えることを心から『期待』しつつ、時間が許す限り、劇場に足を運びたいと思います。