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二作同時上演の挑戦から見える、作品の新たな魅力―― 稲葉賀恵×一川華インタビュー

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左から)稲葉賀恵、一川華 (写真:引地信彦)

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演出家の稲葉賀恵と翻訳家の一川華が「翻訳」を探求するユニットとして立ち上げたポウジュ。2025年1月11日(土)~19日(日) に、シアター風姿花伝で第一弾公演として『リタの教育』『オレアナ』の二作を新訳で上演する。

「翻訳劇」に一石を投じられたら

――まずはユニットを組むにいたった経緯を教えてください。

稲葉 (一川とは)翻訳者を育成するワークショップで出会いました。プロデュースをする筋力をつけたい・自分がやりたい作品をクリエイションする土壌を獲得したいと思うようになり、伴走してくださる相手を探していたんです。言葉の選び方が素晴らしくて、水を飲むように言葉を読むことができた。人間がリアルに感じられる言葉遣いに魅力を感じ、「お願いします」と告白したのがきっかけです。

稲葉賀恵

一川 私は元々劇作を中心に活動してきましたが、英語に触れていた時間が長くて翻訳にも興味がありました。ワークショップで、稲葉さんはすごく誠実にテキストを読んでくださって。稲葉さんとなら、翻訳劇への取り組み方に一石を投じられるのではないかと思い、「末長くお願いします」とお返事しました(笑)。

――お二人は「翻訳劇」のどこに魅力を感じていますか?

稲葉 すごく乱暴に言うと、翻訳劇は演出家としては自由度が高くて、より自由に誤読できる。現代劇もそうですが、特にシェイクスピアやチェーホフ、ギリシャ悲劇など近代、古典作品は、日常と地続きでありながら、より思考の広がりを持つことができます。身近なことに思いを馳せながら、演劇では遠くにいる出会ったことのない人たちを舞台上に召喚できる。心理的、時間的距離が遠いほど、作り手とお客さまの想像力の幅や深さが広がる気がするし、それを共有できたとき、演劇の力強さを感じます。

一川 自分の世界を広げてくれること、そしてお客さまの世界も広げるきっかけとなることに、魅力を感じています。翻訳者としては、単に辞書に従って言葉を選ぶのではなく、「今の日本ならこの言葉が伝わりそう」と探していくのが好き。異文化との交差点を見つけていくようなプロセスが楽しいです。それが“対話”するということだと思っていますし、たとえ完全に理解することが難しくても、自分ごととして捉え、言葉を選び、身体に落とし込み、声にして発する――この一連の作業は、今の世界に必要な営みではないかと感じています。

対話の中で垣間見える“色っぽさ”が魅力

――第一弾としてこの2作品を同時上演しようと考えた理由を教えてください。

稲葉 無謀なことをやってみる、お祭りだという気持ちがあります。あと、クリエイティブチームの中にも新たな対話が生まれないかと考えていて。例えば、美術や照明のプランをしてみたいがまだその機会がないという方などに入ってもらったら、お互いに新しい出会いの場を広げたり増やしたりできる場になるんじゃないか。そのような思いも込めて一回目は「対話とは何か?」と考えられる作品を選びました。稽古を進め、どちらも「お互いを理解するのは幻想じゃないか」というところから入る作品だと感じています。
もちろんそれは希望も込めて、逆説的な意味で言っています。人間誰しも、いい人間・価値のある人間でいたいし、褒められたいし、理解してもらいたい。登場人物が相手に理解されないという大きな壁に気づいてもがく様をお客さまにも一緒に体感してもらう。見た後に「これでいい」、「こんな関係は絶対嫌だ」など、見た人の数だけの思考の芽が生まれると思います。

一川華

一川 書かれた年代も国も違いますが、二つの作品は鏡写しみたいな感じがします。設定もそうだし、同じようなセリフが出てくることもあって。1作品では見えないものが2作やることで浮き上がってきそうで、私自身も楽しみです。あと、翻訳劇を翻訳劇としてやることを大切にしつつ、海外の戯曲を使ってどう遊ぶかを大切にしたいと思っています。

稲葉 『オレアナ』は理想郷の成れの果ての荒野のようなものが書かれていて、『リタの教育』は温かみと共感みたいなものがあるけど、稽古をしていると逆に思えてきたりする。1作品だけの稽古では気づかなかったであろう面が見えて、企画として面白いと思います。

――『リタの教育』と『オレアナ』、それぞれの魅力や面白さはどこにあると考えていますか?

稲葉 私は色っぽい話が好きなんです。俳優が色っぽくなる瞬間、普段の生活では見られない人間の表情を覗くために演劇を見ている。『オレアナ』は二人がかけ離れていき憎しみあっている中でも、ある時色っぽく感じる瞬間がある。『リタの教育』は先生と生徒という役割を守りながらも、時にそのルールを犯してしまう突発的な瞬間に色気を感じます。また、キャストのお二人もすごく素敵です。湯川さんは年齢に対してとても達観しながらも時に瑞々しく、大石さんは柔らかくチャーミングな中に少年のような烈しさがある。そこが輝いて見える2作で、しかも二人の両極の持ち味が同時に味わえるいろんな役割と出来事によって、男性・女性を超えるようなところが出てきていて、すごく刺激的です。

チームで丁寧に作り上げている二作品

――今回のキャストである湯川さんと大石さんの印象、稽古の手応えを教えてください。

稲葉 無謀なことをやっているけどお二人ともニコニコしていて、ヤバい人たちだなと思っています(笑)。「大変だ」と言いながらキラキラしていて、このお二人で本当に良かったなというのがまずんひとつ。大石さんと湯川さんは年齢差があるけれど対等にお互いを尊重しながら作り上げてくださっているので、演出としてもすごく助けられています。お二人の変幻自在な姿を早く見ていただきたいなという気持ちです。

一川 濃密で過酷なセリフ量の2作品を同時進行してつくっています。稽古場を見ているとグッとくる瞬間が多い。チーム一丸となって、満身創痍でやっている中でも、セリフ一つひとつについて話し合うことは怠らずにやっています。翻訳していて感じますが、作風が全然違うんですよね。『リタの教育』は比較的セリフの意図がわかりやすい。でも『オレアナ』は余白があり、翻訳者からすると誤訳するリスクが高い作品です。皆さんと話し合って、間違えることを恐れずに作っているところです。

――「翻訳」に関する営みを遊ぶ場所、ということですが、今回はどんなチャレンジをしていますか?

稲葉 作品をきちんとドラマとして立ち上げることを主体にしつつ、2作を同じ劇場で上演する意味を空間にどう表すか。それがチャレンジかなと思います。あとは、翻訳を知らない人や触れてこなかった人、演劇以外の界隈の人にも、「翻訳って面白い」と思ってもらえる機会を作りたいと思って仕掛けを考えています。

一川 2作品とも教育の場をテーマにしています。普通に生きているだけでも人間は何かを背負っていると思いますが、『オレアナ』のキャロルは女性として、『リタの教育』のリタは労働者階級の出身として、立場を背負ってものを語る。学生と教授、男と女、階級差などを背負いながら、二人きりの場でどんな言葉で語るのか想像して翻訳するのは、英語をどんな日本語にするのかというのとは違うところで難しさを感じました。どんな言葉をチョイスするかで作品の印象がガラリと変わるので、慎重に進めています。

「演劇」というジャンルを超えて活動が広がったら嬉しい

――ユニット公演を通してどんな方々に作品を届けたいか、活動をどう広げていきたいかも教えていただけますか?

稲葉 同じ俳優が二作品同時に二役やるという時点で、面白いと思っていただけると思います。あと、「翻訳」といっても、映画や詩、論文……などのジャンルで、言葉の使い方もコミュニティも違うんですよね。「演劇に触れたことがあるかどうか」ではなく「どのように言葉を翻訳しているか」というところで対話することで、演劇を見てもらったり、逆にこちらが関心を持ったり、新たな広がり方をするのは意外と容易なのかもしれない。私自身、翻訳分野はもちろん、他の分野の人たちと関わりたい・話したい気持ちがあって。今はジャンルごとに棲み分けがはっきりしている感じがあるので、お互いに興味を持って一歩踏み出すきっかけを作りたいなと考えています。

一川 普段演劇に触れていない方にも触れていただけるように、活動していきたい。日本において、観劇、特に海外戯曲のストレートプレイはどうしてもハードルが高いのかなと感じますが、私たちクリエイターは楽しみながら作っていますし、決して高尚なものではない。ぜひ気軽に遊びにきて、あわよくば私たちがこれから開催するワークショップやオーディションにも参加してほしいなと思っています。

――最後に、楽しみにしている皆さんや、「気になるけどハードルが高い」と迷っている方に向けたメッセージをお願いします。

稲葉 「翻訳劇を見せたい」というわけではなく、リングで殴り合いしているような人間を見てほしいです。これは冗談ですが、「セリフを忘れたら一度楽屋に帰ってまた戻ってきてもいいよね!」みたいな話もしました(笑)。それくらい過酷なセリフ量でキャストに負担をかけてしまっていますが、アクシデントを物語に組み込めるような強度のある作品になると思うので、演劇に初めて触れる方が入りやすい題材だと思います。

一川 私は二人芝居を扱うのが初めて。二人の人間がひたすら言葉を尽くす様をみんなで見るのは稀有な経験だと思いますし、演劇以外ではなかなかできないことだと思います。映画とはまた違う臨場感がありますし、自分や周りの人・世界に思いを馳せられる時間になると思うので、ぜひ足を運んでください。

取材・文:吉田沙奈
写真:引地信彦

<公演情報>
稲葉賀恵 一川華 ポウジュvol.1 『リタの教育』『オレアナ』

2025年1月11日(土)~19日(日) シアター風姿花伝
※『リタの教育』『オレアナ』各上演日程は下記URLよりご確認ください

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/oleanna-rita/

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