10年ぶりの再演へむけて――インタビュー 嶋尾康史(演出)×柊子(主演)
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インタビュー
左から)嶋尾康史、柊子 (写真:石阪大輔)
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すべて見る元阪神タイガースの投手という異色の経歴を持つ俳優であり、現在放送中のNHK連続テレビ小説「おむすび」にも、社会人野球の名監督という役どころで出演中の嶋尾康史が率いる劇団「Team337」の第7回公演 「かすていら ~兄と私の一番長い日~」が東京と大阪で上演される。焼鳥屋の店主を務める主人公・都子と町会議員を務める都子の兄を中心に展開するコメディで、都子を演じるのはこれまでも同劇団の公演で主演を担ってきた柊子。嶋尾と柊子に話を聞いた。
いまの時代へ繋げる10年間の想いと歴史
――本作は「Team337」旗揚げ前の2015年に、嶋尾さんの演出、柊子さん主演で初演されていますが、なぜいま再演することになったんでしょうか?
嶋尾 いろんなことが重なったんですが、ずっと一緒にやってきた我々の仲間のひとりのクリエイターが、第6回公演『最後の望み』の大阪公演が終わった頃に倒れてしまったんです。
柊子 入院されたと聞いて、みんなでお見舞いにも行きましたが、後遺症で話をするのも大変そうでした。でも「リハビリ頑張って、元気になるからまた一緒に作品を作りましょう」とおっしゃっていて、すごく私たちも活力をいただいたんです。ところが、今年の夏、その方が亡くなられてしまって……。そこで何か追悼公演のようなことをできないかとメンバーで話していた時に、この『かすていら』の原作・脚本を書かれた柚子さんから「10年前に書いた『かすていら』をいまの時代に合わせてリライトしたい」というお話をいただいたんです。
嶋尾 10年前の公演の際、亡くなったその仲間はすごく素晴らしいプロモーション映像を作ってくれたんです。それもあって、思い入れのある作品だったので「やろう」という声がみんなから上がりました。
――10年前の公演の思い出はありますか?
柊子 私が覚えているのは、10年前の公演は嶋尾さんも出演されていて、物語のキーパーソンである天童という男を演じられてたんですけど、物語の後半、嶋尾さんが舞台に上がった時、客席から「デカっ!」って声が聞こえてきて(笑)、板の上にいる人間としてはものすごくビックリしました。
嶋尾 それはね、俺も聞こえた(笑)。
柊子 心の声、漏れすぎじゃない? って(笑)。本当にビックリしたら声に出るんだなと。それが一番心に残っています(笑)。
嶋尾 今回も「出るのか?」って話もあったんですが、天童の役は大阪公演の中の25日と26日は妹尾和夫さん、東京公演は夏樹陽子さんが演じてくださるんです!ぜひ楽しみにしていただければと思います。
外部ゲストも参加した新たな試みにも高まる期待
――兄と妹を中心に描きつつ、カジノ誘致に揺れる小さな町の様子が描かれます。
嶋尾 「2024年の漢字」に“金”という字が選ばれましたけど、政治家の裏金問題という意味も含まれていると思います。この物語もそういう重要な部分として描かれるので、そういう意味でもこのタイミングでこの作品なのかなと思います。全員ではないですが、10年前の公演に出演したメンバーもいるので、10年分歳を重ねて円熟味を出せたらと思いますね。
柊子 物語の本筋として、金権政治とか賄賂とかダークな雰囲気もありつつ、「Team337」の持ち味として軽やかに見せられたらと思います。またこのお話にはもうひとつ部屋があって、そちらでもある問題が起きています。ふたつのエピソードが同時進行していくんですけど、そこは前回の公演でも「面白かった」という声をいただきました。
――都子という役柄の印象は?
柊子 妹という立場ですけど、私自身、3人きょうだいの一番下で上に兄が1人いるので、その雰囲気はわかります。ですが、都子はわりとしっかりした、男勝りでずけずけと言いたいことを言うタイプ。そこはあまり自分にはないので、声のトーンや語尾を強めに演じたりしながら稽古に臨んでいます。
――演出面で10年前と変えていく部分はありますか?
嶋尾 新しいものも取り入れたいし、それこそ前回は僕も含めて、「Team337」内で収めていたんですけど、今回は外部のゲストに入っていただくので、新たな血を入れてどういう化学反応を起こすのかというのも楽しみですし、演出的にも時代に合ったものを取り入れられる部分は入れたいなとは思っています。
舞台セットとしては、(様々なトラブルが起こる部屋の)ドアの数は同じなんですけど、セット自体は変わっています。僕は楽をしようとして「前回と同じでいいかな」と思っていたら、プロデューサーからNGが出まして(苦笑)、ちょっと仕掛けを考えています。
――町会議員の兄のパートに関しては、ドアの向こうの見えない部屋の中で、延々と動物愛護団体から抗議を受けるというシチュエーションになっています。
嶋尾 動物愛護団体のパートに関しては、ちょっと新しいネタも入れているんです。そのあたりの見せ方も演出を変えています。「Team337」は関西人が多いので、みんな「笑ってほしい」という欲求が高いんです(笑)。シビアなシーンとくすりと笑っていただけるシーンを織り混ぜて、手前味噌ですが楽しんでいただけると思います。
――10年ぶりの再演ですが、柊子さんは楽しみにされていることはありますか?
柊子 “かれしちゃん”という名前のほうが知られていますが、今回、ゲストとして出てくださる宮瀬かれんさん、友情出演してくださる妹尾和夫さん(1月25日・26日のみ)や特別出演してくださる夏樹陽子(東京公演のみ)さん!――やっぱり新しい方と出会い、初めて一緒にお芝居する時の楽しさって特別なものがあると感じています。10年前は、チームの仲間とだけで作りましたけど、今回はこの三人の方とのお芝居はすごく楽しみです。
嶋尾 かれしちゃんは今回、初舞台なんです。大先輩の妹尾和夫さん、夏樹陽子さんにも出ていただけて本当に嬉しいです。悪役なのに受けてくださって!!(笑)。よく受けていただけたなと思います。
温もりあふれるコメディは、演劇初心者の方にもオススメ(柊子)
10年前よりも絶対面白くします!(嶋尾)
――演出家、主演女優としてこれまでいくつもの作品を一緒に作られてきましたが、改めてお互いの印象や魅力について教えてください。
柊子 魅力かぁ……(笑)。
嶋尾 俺、先に言うわ(笑)。柊子さんは、いまこうやって話していてもわかりますけど慎重な性格で、丁寧で、すごく真面目です。僕は演出家で飯を食っているわけではないので、できていないことのほうが多いんですけど、僕のできない部分をきちんと指摘してくれたり、補佐してくれたり、もう頼りにしかしてないです。台本をのぞいたら、余白の書き込みの量がえぐいんですよ(笑)。自分のを見返すとスカスカで「マズいな」と(苦笑)。付き合いが長いので、僕の言葉が足りない部分も読みとって、みんなに説明までしてくれる。
柊子 同時通訳(笑)。
嶋尾 非常に助かっています。女優としての魅力も年々増していることは、近い距離で見ていて「こんなこともできるんだ」と気づかされることも多い。演出の立場で見ながら彼女の芝居にクスクス笑ってしまうこともあります。僕から“成長”なんて言い方をするのは失礼かもしれないですけど……。
柊子 とんでもないです。気持ち悪いです(笑)!
――逆に柊子さんから見た嶋尾さんの凄い部分は?
嶋尾 なかったらいいよ(苦笑)
柊子 ひとつだけあります(笑)!
嶋尾 ひとつしかないの(笑)?
柊子 圧倒的な決断力と背中を押す力ですね。迷っている時に「これで行くよ」と決断する早さ、その力強さはみんなが感じていると思います。
嶋尾 俺、ある? 決断力……(笑)。
柊子 取り消しますか(笑)? 優柔不断な時もあるけど、こうと決めたら早いんですよね。
嶋尾 頑固なんだよね。
柊子 みんなが「こっちかな?」「あっちかな?」と思っている時にビシッとね。
嶋尾 背中を押してる?
柊子 本番直前に背中を叩くんですけど(笑)。
嶋尾 そっちの意味(笑)?
柊子 あれがすごい力で痛いんですよ(笑)!
嶋尾 ひとつ言えるとしたら、よく言う「行ってこい! あとは俺が責任を取る」じゃなくて、「行ってこい! あとはお前らの責任だ」というスタンスですね。
柊子 「良かった時は俺の手柄」でね(笑)。
嶋尾 それそれ(笑)。
――嶋尾さんは、朝ドラにも出演されるなど、俳優として活動しつつ、継続的に「Team337」で演出をされていますが、劇団という形で、演出という立場で演劇に関わる楽しさ、モチベーションはどんなところにあるんでしょう?
嶋尾 僕、(公演が)決まるまではすごくイヤなんですよ(苦笑)。責任もプレッシャーもあるので。でもやると決まったら、メンバーのみんなが良く見えてほしいし、お客さまにも楽しんでいただきたいし、自分の演出で役者がカッコよく見えなかったらイヤですし、“モチベーション”という言い方が正しいかわかりませんが、責任を感じながらやっています。
そこで役者として仲間たちが成長していくのは嬉しいし、自分も含めてですけど、役者やるからには売れたいし、たくさんの作品とかかわりをもちたい!僕が演出している舞台をみてくださった関係者の方の次の作品にうちのメンバーが起用されるなんてめちゃくちゃ嬉しいし、その手伝いができたら嬉しいです。実際、ウチの公演を見て業界の方が、キャスティングしてくださることもあって、今回も役者たちのスケジュールをあわすのが大変でした。それは仲間としてすごく嬉しい。自分たちがやってきたことの答えのひとつだなと思っています。
――最後に本作を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。
柊子 この「かすていら」は、いくつもの扉を使った“すれちがいコメディ”だと思っています。私たちの長所と言えると思うんですが、普段、あまり演劇になじみのないという方でも楽しんでいただきやすい作品なので、ぜひ温かみのあるハートフルな物語を味わっていただきたいです。
嶋尾 初めて「Team337」の公演を見に来てくださる方には「また次も来てみよう」と思う結果を残したいですし、もう何度も来ていただいている方、特に10年前の「Team337」の旗揚げ前の「かすていら」を見てくださった方がいたら「前回より全然面白いじゃん!」と思っていただけるようにしたいと思っています。ぜひ時間を割いていただいて、損はさせません!
柊子 もし10年前の公演も見に来てくださって、今回も見に来てくださるという方には、ぜひお会いしたいですね。声をかけていただけると!
嶋尾 特典は?
柊子 考えます(笑)!
取材・文:黒豆直樹
写真:石阪大輔
<公演情報>
Team337 第7回公演 「かすていら~兄と私の一番長い日~」
2025年1月29日(水)~2月2日(日) 赤坂RED/THEATER
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/team337/
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