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ここからスタート! 新メンバー、中村玉太郎、尾上左近が語る「新春浅草歌舞伎」への意気込み

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中村玉太郎(右)、尾上左近(左) (撮影:藤田亜弓)

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お正月の風物詩として多くのファンに親しまれている「新春浅草歌舞伎」が、2025年も1月2日(木) ~26日(日) に東京・浅草公会堂で上演される。若手歌舞伎俳優の登竜門として知られるこの公演、前回で大半のメンバーが一区切りを迎え、新たにフレッシュなメンバーが加入、中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松という顔ぶれで新たなスタートを切る。中村玉太郎、尾上左近のふたりも、今回が初参加。公演への意気込みとともに、演目の見どころ、「新春浅草歌舞伎」の魅力を聞いた。

いつか「新春浅草歌舞伎」に、と憧れた舞台

──2024年はさまざまなことに新たに挑戦されたかと思いますが、おふたりにとってこの一年はどのような年でしたか。

玉太郎 役者として成長するために必要な一歩を、着実に踏み出すことのできた年だったかと思います。2月の御園座、『鯉つかみ』の小桜姫では、(市川)右團次のお兄さんからいろいろとアドバイスをいただきました。また9月の新国立劇場では『夏祭浪花鑑』の琴浦。いずれも、将来どのような役者を目指すとしても、確実に必要な経験だったと思います。

左近 女方の大役をいろいろと経験させていただいた一年でした。思ってもみなかったことです。9月には(坂東)玉三郎のお兄さんにご指導いただいて『妹背山婦女庭訓 吉野川』の雛鳥を、11月には(尾上)菊五郎のお兄さんに教えていただいて『三人吉三巴白浪』のお嬢吉三をと、とくに後半は本当にがむしゃらに取り組んだ、まさに挑戦の年でした。本当に勉強になりましたし、自分の進むべきところ、目指すべきところが少し、定まってきたかなと感じています。

──では、初参加となる「新春浅草歌舞伎」への思いをお聞かせください。

玉太郎 ずっと憧れていました。いつかは、と思っていましたが、こうしてチラシの表に自分の写真が並ぶのを見ると、責任の一端を担うのだなとプレッシャーを感じます。

左近 私もいつかは、と憧れていました。例年、1月は国立劇場で尾上菊五郎劇団のお正月公演に出演させていただいていましたが、いざこうして浅草に、となると、劇団のお兄さん方に「しっかりやっているな」と思っていただけるようにしなければ。7人の中で私が最年少ですから、フレッシュなところを楽しんでいただきたいと思う一方で、年齢差を感じさせないよう、意識して取り組みたいと思います。

玉太郎 こうしていろんなところから役者が集まっての興行は、若手に限らずあまりないこと。また、いつもの舞台では父の世代、祖父の世代の方が座頭で引っ張ってくださいますが、今度は同世代の皆で頑張ろうと橋之助さんも言ってくださいました。皆で支え合っていくことで、結束力がどんどん強まっていくのではないかと思います。

左近 橋之助のお兄さん、中村莟玉のお兄さんに鶴松さんも「新春浅草歌舞伎」を経験されてきたわけですが、今回新たに入るメンバーは、これまで、同世代同士で大きな公演に携わる機会がなかったので、私たちも新鮮に感じますし、お客さまにとっても、「このメンバーが揃ったらどうなるんだろう?」という目新しさがあるのではないでしょうか。同時に、自分が育ったところの味を出していきたいと思うのは歌舞伎役者の性でもありますし、そこは皆、意識されているのかなと思います。

ダブルキャストでのぞむ『絵本太功記』

──では、上演される演目について、まずはおふたりが出演される『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」から教えてください。第1部では玉太郎さんが初菊を、第2部では今度は左近さんが初菊を演じられますね?

玉太郎 今回のように昼の第1部、夜の第2部で同じ演目をダブルキャストで上演する例はあまりないかもしれません。通しでご覧になる方には、役者による違いも体感していただけると思いますし、私たちにとってはそれも挑戦です。

──『絵本太功記』は、武智光秀(史実では明智光秀)の謀反にまつわるドラマを描いた時代物の名作ですが、初菊についてはどのような役柄と捉えていますか。

玉太郎 初菊は、光秀の息子である十次郎の許嫁で、恋人同士ですね。この物語は家族のお話でもあり、初菊はその中で最も若い役ですから、若々しさ、可憐さが必要なお役です。「尼ヶ崎閑居の場」では、前半に十次郎と初菊との掛け合いがあり、ここが初菊の一番の見せ所に。十次郎に戦に行ってほしくない初菊は、その思いをこらえて送り出すわけですが、それでもつい、体は止めに行ってしまう──。初菊のその一途なところは、大事に演じなければいけないと思っています。私は(中村)魁春のおじさまに教わっているのですが、初菊の目線はいつも十次郎のことを意識し続けるように、と教えていただきました。

左近 「新春浅草歌舞伎」で『絵本太功記』を上演すると聞いたとき、多分、出演する俳優や、お客さまにも驚かれた方もいらしたかと思います。義太夫狂言の名作ですが、なかなか難しく、渋いお芝居なので…(笑)

玉太郎 あの……、今日は皆さんに歌舞伎を観ていただきたいという話なのだけど(笑)。

左近 そうですよね(笑)。でも、だからこそ、しっかり興味を持っていただくために、役者で見せなければいけないところがあると感じています。この作品は戦後、戦争で身内を亡くされた方たちの共感を得たという話を聞いたことがあります。いま、お客さまのそうした感情を引き出すのは難しいことですが、そこを、玉太郎のお兄さんがおっしゃったように、まず、初菊と十次郎の掛け合いの健気さを見せることが大切なのかな、と。その後で出てくる光秀の迫力、不気味さを際立たせるためにも、初菊と十次郎が舞台を作り上げていかないといけません。また、十次郎は裃から鎧に着替えるために一度奥へ引っ込みますが、初菊にはその間の時間をつなぐ役割も。十次郎の兜を引きずっていくところも、大きな見せ場ではないかと思います。

玉太郎 相手によって変わってくるところもありますね。私のときは鷹之資さんが十次郎、左近くんは鶴松さんとですが、おふたりがどのように動かれるかで初菊も変わってくると思います。

左近 私は(中村)時蔵のお兄さんに見ていただいているのですが、いろいろお話を伺うと、本当に役者によって違う。型はあるけれど、「そこは自分で考えて」とおっしゃってくださる部分もありますし、とくに十次郎が着替える間の合方、つまり演奏のスピードやノリは、毎日同じではありません。

玉太郎 生演奏というところも、歌舞伎の見どころのひとつですね。

──第1部では左近さんは、染五郎さん演じる光秀の家臣、佐藤正清(史実では加藤清正)を演じられますね。

左近 最後の最後に花道から登場します。最終的には真柴久吉(史実では羽柴秀吉)、光秀、正清の3人で強引に幕を閉じるようなものですから、それだけの格好良さ、説得力がなければいけない。難しくない役などありませんが、これも大変な役だと思っています。

お客さまとも一緒に歩む、これが第一歩

──第2部の『春調娘七種』では、鶴松さんとおふたりの共演が実現します。

玉太郎 華やかで、実にお正月らしい演目です。

左近 音楽と役者の拵え、背景の絵なども楽しんでいただけたらと思います。

玉太郎 出てくるのは曽我五郎・十郎という兄弟と静御前。バックボーンとしての物語はありますが、ここでそのお話が進むわけではありません。

左近 五郎・十郎の親の仇が工藤祐経で、源頼朝の家来。頼朝に追われて殺されたのが源義経でその恋人が静御前、つまりこの3人は仇が同じという繋がりですが、何故ここで一緒にいるのかはわかりません(笑)。義経や曽我兄弟を題材とした演目はたくさんありますが、そのヒロインと兄弟たちが一緒に出てくる踊りは他にはないですよね。

玉太郎 私たちの世代で、曽我兄弟に静御前と聞いて「おお!」と目を輝かせる方はあまりいらっしゃらないかもしれませんが、いまで言うなら──さまざまなキャラクターが集まった「アベンジャーズ」のようなものです(笑)。私が演じる十郎は、和事と呼ばれ、立役ではありますが、少し線の柔らかい、端正な役柄です。

左近 私が演じる五郎は、荒事。むきみ隈という隈取りをした、荒々しく血気盛んな若者です。

玉太郎 パワー100%の力強い五郎に対し、十郎は一歩引いた感じを出すのが難しいところです。

左近 「新春浅草歌舞伎」はいろんな役をやらせていただく場ではありますが、私の家(尾上松緑家)としては五郎のほうの家系ですし、キャラクターとして好きなので、昔から仲良くさせていただいている玉太郎さんと兄弟をさせていただけるのは嬉しいですね。

玉太郎 以前、「いつかふたりで五郎十郎をやるかもね」と話をしていたんです。まあ、(左近は)覚えていないみたいだけれど……。

左近 (笑)。こういうところで役者同士が一緒になる様子を観ていただけるのも、「新春浅草歌舞伎」の魅力ですね。

──また、第1部の『道行旅路の花聟 落人』で玉太郎さんが演じられるのは、鷺坂伴内。どのような思いで取り組まれるのでしょうか。

玉太郎 やらせていただけるとは思っていなかった役のひとつですので、大きな挑戦です。三枚目の敵役で、憎たらしいけれど面白くて可笑しいキャラクター。第1部のお姫さまとはだいぶギャップがありますが、役者としてはそこが楽しいところですね。『仮名手本忠臣蔵』の一場面で、主役はおかると勘平。伴内は仇討ちされるほうの高師直の家来で、勘平にとっては敵ですが、勘平の恋人であるおかるにちょっかいを出しにくる。最初はおかると勘平が清元で踊る華やかな場面ですが、伴内の登場で流れはガラリと変わり、舞台は一気に立廻りとなるわけですから、そのインパクトを大事にしたいです。この役は祖父(中村東蔵)と父(中村松江)に教わっています。先輩方の映像を拝見すると、台詞まわしから動きまで本当に皆さんそれぞれの色がある。これも型があるようでない役のひとつだと感じます。祖父や父のアドバイスに倣いながら、伸び伸びと演じるのを、お客さまに観ていただけたらと思っています。

──多くの方々に歌舞伎を楽しんでいただきたいですね。

玉太郎 初めて観るという方は、この「新春浅草歌舞伎」をきっかけに歌舞伎を観てくださるといいなと思っています。「『絵本太功記』を観た」と誇っていただけるように、この古典の大事な演目をしっかり勤めたいです。でも、歌舞伎には世話物から新作歌舞伎まで、本当にさまざまな演目がありますから、この「新春浅草歌舞伎」を、歌舞伎に親しむきっかけとしていただけたら嬉しく思います!

左近 これまで「新春浅草歌舞伎」を観てくださっていたお客さまに楽しんでいただくとともに、初めのお客さまにとっては、今回が、一緒に歩んでいただくその第一歩の公演となればと思います。役者の顔を覚え、追いかけていただくきっかけにもしていただきたいですし、そうなるよう、役者一同、一丸となって頑張ります。ぜひ、劇場に来ていただけたらと思っています!

取材・文:加藤智子 撮影:藤田亜弓

<公演情報>
「新春浅草歌舞伎」

【第1部】11:00~
一、『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」
二、『道行旅路の花聟 落人』

【第2部】15:00~
一、『春調娘七種』
二、『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」
三、『棒しばり』

出演:
中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松
ほか

2025年1月2日(木)~1月26日(日)
※19日(日) 第2部は、「着物で歌舞伎」開催

会場:東京・浅草公会堂

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2455489

公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/915

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