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鈴木伸之&下山天監督が語る、サラリーマン金太郎が令和の時代に教えてくれること

映画

インタビュー

左から)鈴木伸之、下山天監督 (撮影:川野結李歌)

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青森のマグロ漁師から一転、都会のサラリーマン社会に飛び込んだ金太郎が、元暴走族の腕っぷしと行動力で正義を貫き通す! 本宮ひろ志が22年にわたって描き続け、たびたび映像化されてきた名作漫画が令和の今、『サラリーマン金太郎【暁】編』『サラリーマン金太郎【魁】編』の2部作から成る映画に。価値観が刷新され、様変わりした世の中を金太郎はどう駆け抜けていくのか。新・金太郎を演じる鈴木伸之と、2部作を手がけた下山天監督が語る。

思いを真っすぐにぶつける金太郎が生みだす爽快感

――まずは、『サラリーマン金太郎』を令和版として生まれ変わらせた理由を聞かせてください。

下山 連載がスタートしたのが1994年。本作の撮影を行った2024年は30周年にあたりますが、この30年間は“失われた30年”と言われています。バブル崩壊やリーマンショックなどが起こる中、いろいろなことが便利になってきてはいるものの、殻を破れない日本人が増えてしまった。そこで、ここはやはり金太郎の出番じゃないかと。令和の時代に、金太郎という存在をぶつけてみたい思いがありました。

――“サラリーマン金太郎”を演じることになった鈴木さんのお気持ちは?

鈴木 よく知られている作品である一方、僕世代や僕より下の世代には知らない方も多い。なので、原作を知る方々に納得してもらうのはもちろん、初めて触れる方も楽しめる作品になればいいなと思いました。監督がおっしゃったように、今の日本は思いを素直に伝え合える風潮になく、風通しが悪くなってきている気がします。だからこそ、思いを真っすぐにぶつける金太郎が爽快感を生むのではないかなと思い、有名なキャラクターだからといって縮こまることなく、むしろ今までの金太郎の中で一番吠えてやる気持ちで挑みました。

――上の世代からの反応は?

鈴木 父は喜んでいました。「金太郎をやるの!?」って(笑)。

下山 お父さん、ひょっとすると僕と同じ世代?

鈴木 63、4歳ですね。

下山 僕の兄貴ぐらいか〜(笑)。

――下山監督が鈴木さんの金太郎に求めたものは?

下山 本宮ひろ志先生による素晴らしいストーリーは変えず、けれども昔話やファンタジーにもせず、今の人たちに元気を与える金太郎を描く。「じゃあ、誰が金太郎を?」となったとき、鈴木さんの名前が挙がりました。器が大きく、強い腕っぷしで壁をぶち破るワイルドなキャラクター像にはまる存在として。僕も出演作をいろいろ観させていただいていますが、正直、実際に話さないとこんなに穏やかな人だとは分からないじゃないですか(笑)。期待したのは、作り手が制御できないくらい金太郎として突っ走ること。僕らはそれをドキュメントで追いかけるような作品になればいいなと思っていました。

――積極的に喧嘩することはないでしょうけど、戦うと強そうですよね(笑)。

鈴木 そう思われがちなんです、デカイから(笑)。

下山 金太郎のキャラクターって、まさにそういうことだと思うんです。むやみにぶち壊すのではなく、何かを守るために立ち上がる。後先考えないわけではないんですけど、正義をもって真っすぐ行動すると、いろいろな問題が起きてくるのが今の世の中ですよね。そういった令和らしさも、鈴木さんの金太郎は見事に炙り出してくれました。

金太郎が男女問わずに“モテる”理由

――アクションシーンの撮影は大変でしたか?

鈴木 アクションはもう慣れっこなので、大変さはありませんでした。スーツ姿で人を殴るなんて実際はなかなかないことですし、爽快感すらありましたね(笑)。

――鈴木さんクラスになると、筋肉痛になることもなく?

鈴木 全くないです! ずっとやっていたかったくらい(笑)。

――前後編を通し、かなり戦っていますが(笑)。

鈴木 楽しかったですよ。ただ、アクションもいろいろですから、サラリーマンが戦ったらどうなるか、金太郎は人をどう殴るのかといったことはよく考え、アクション指導の方と一緒に作っていきました。金太郎の場合、倒そうとして相手を殴るのではなく、彼なりの愛を向けている気がして。暴力ではありますけど、相手が間違っていることを真摯に伝えるから、遺恨が残るようなことはない。“お前も誰かにそれくらい痛い思いをさせているんだぞ”と伝える手法なのかなと捉えていました。

下山 おっしゃるとおりで、金太郎って実は喧嘩相手みんなと友だちになっているんです。

鈴木 ああ〜、確かに!

下山 金太郎にとって喧嘩は友情の芽生えであり、本音のぶつけ合いなんですよね。SNSなどで言葉を交えるのではなく、息づかいと汗をまみえてガッツリぶつかった者同士じゃなきゃ生まれない友情がある。鈴木さんのパンチやキックには、そういった気持ちが十分表れていました。

――ちなみに、喧嘩に強いのはもちろん、女性にモテるところも原作どおりですね。

鈴木 確かに(笑)。

下山 金太郎ですから(笑)。僕は歳の離れた兄の影響もあり、保育園の頃から本宮先生の漫画を読んでいて。幼心に憧れもありましたし、映画ですからそこはファンタジーでいきました。それに、モテる理由も分かるんです。ちょっとやそっとじゃ振り向かない女性たちがみんな金太郎に惚れるのは、通常の男性じゃ物足りないところに純朴で強い金太郎が現れたから。ただ、これは原作の根本でもありますが、金太郎は亡き妻を愛しているし、息子をちゃんと育てたい。その行動原理をぶらさないようには気をつけました。

鈴木 単純に、羨ましいですよね(笑)。でも、金太郎ほど裏表のない人なら、男女問わず人がついてくるのも当然だと思います。自分の気持ちに嘘をつかないところに、みんな心を動かされるんでしょうし。そんな人物になるよう、僕も一生懸命演じました。

――痛快さもあり、優しさもある作品になりましたが、おふたり自身が作品から受け取ったメッセージは?

下山 金太郎みたいに生きたいですし、自分のダメさ加減にも気づかされました。実際、金太郎のように行動するとなると、人を幸せにする以前に自分が傷つくことにもなるわけで。心体共に強くなくては、金太郎にようにはなれません。彼は元漁師だから自然相手に戦う中で強靭な体を作り上げてきましたが、大抵の人は頭だけで行動しがち。人を守るにはスマホだけで完結させるのではなく、ちゃんと行動して、話すことが大事だなと金太郎に気づかされました。

鈴木 『サラリーマン金太郎』って、愛情についてのお話でもあるんですよね。どんなに大きな問題も対話ひとつで解決できるし、そこに思いがあれば越えられない壁はないんだなと金太郎を見て感じました。『【魁】編』には日本を操る大物が登場したりもしますが、それでも金太郎はひるまないので。本音をぶつけて相手の心を動かそうとするのって、実はとてもリアルなこと。会話が減り、頭で考えすぎることが多くなった世の中だからこそ、失われつつあるコミュニケーションの大切さを金太郎に教えてもらいました。

――金太郎を演じて、俳優として見えたものもありますか?

鈴木 役者としては、反省点も自分の中にはたくさんあって。演じようとして演じた部分は“演じているな”と感じましたし、すべてを捨ててやれたシーンは“届いたな”と思えました。金太郎が自分に正直であるみたいに、役者も自分に嘘をついてはいけない。でも、僕なりに魅力的なキャラクターを生み出せた気はしますし、僕も大好きな人物なので、彼の魅力がより多くの人に届いてほしいなと思っています。

取材・文:渡邉ひかる
撮影:川野結李歌
ヘアメイク: 下川真矢(BERYL)
スタイリスト: 中瀬 拓外

『サラリーマン金太郎【暁】編』

公開中

『サラリーマン金太郎【魁】編』

2月7日(金)公開

(c)本宮ひろ志/集英社(c)2025 映画『サラリーマン金太郎』製作委員会

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