長尾謙杜 (撮影/梁瀬玉実)
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すべて見る「お願いします」優しげな雰囲気で、この日取材現場に入ってきた長尾謙杜。彼のイメージを言葉で表現するのなら、柔らかな雰囲気の形容詞を思い浮かべる人は多いのではないだろうか。そんな長尾のイメージを一変させた映画『室町無頼』が1月17日(金)に公開される(IMAXにて先行公開中)。間違いなく、長尾本人の役者としてのキャリアに風穴を開けた本作。演じた本人は、今自身の変化についてどのように捉えているのだろうか。話を聞いた。
ヒーロー・才蔵は「嬉しくもあり、難しくもありました」
垣根涼介の時代小説を大泉洋主演で実写映画化した時代劇アクション『室町無頼』。同作は、日本の歴史において初めて武士階級として一揆を起こした室町時代の人物・蓮田兵衛(大泉洋)の知られざる戦いをドラマチックに描いた作品だ。
そんな本作で長尾が演じたのは、並外れた武術の才能を秘めながらも天涯孤独で夢も希望もない日々を過ごしていた青年・才蔵。兵衛に見出され、鍛えられ、成長を遂げていくといった役どころなのだが、なんといっても殺陣のシーンが圧巻だった。
今まで、長尾が演じた役を振り返ってみると、少し頼りなく、内省的な役が多い印象。実際に、長尾自身も「自分から攻撃に出る役は、初めてで」と前置きをし、次のように話してくれた。
「これまでに殴られたり、いじめられたりする役を演じたことはあったんですけど、自分から攻撃に出る役は初めてでした。僕、内に籠るような役が多かったんですよ。なので、今回、初アクションをできたこともそうですし、ヒーローみたいな最強の役を演じられたことが、まず嬉しかったですね」
そう笑顔で話すも、初めてのアクションはやはり「難しかった」とのこと。才蔵を演じる上での泥臭い日々について教えてくれた。「刀を使った殺陣は想像できるのですが、今回、僕がやったのは棒術。初めて聞いた時は、正直、想像つかなかったです。なので、本当に何もわからないまま練習に行ったのを覚えています。それで、6月から9月まで約3ヶ月間、かなりの時間を費やして練習しました。素振りから始まって、クライマックスのシーンを想像しながら作り上げていって……。それから、棒術の練習以外にもジムにちゃんと通いました。というのも、僕、この作品に入るまでは50キロ台前半の痩せ型だったので、少しでも肉をつけようと、できるだけごはんを食べたり、胸筋をつけようとしたり頑張りました。今ではメンバーの誰よりも重くなっちゃいました。まだ、軽い方だとは思いますけど」
また、映画の中盤、水上アクションのシーンについては「真冬の琵琶湖ですから、寒かったです。しかも“落ちたらメイク取れるからね”と言われて、ドキドキしながらやったりしていました。やっていくうちに、体は温まっていくんですけどね。時折、水に落ちたりしながらも、なんとか頑張りました」と言及した。
さらに初挑戦で言うと、映画後半で魅せたワイヤーアクションについても言及。「アクション映画のメイキングを見ていると、ワイヤーアクションに挑戦されている俳優さんがたくさんいたので、憧れを持っていました。ただ、フライングの経験はあったので、棒術ほどは苦戦しませんでしたね。ただ、事務所の伝統的にまず足をかけるのですが、それが自然と出た時には“大丈夫だよ、そんなことしなくても”とアクション監督に言われました(笑)。そのときは、自然とアイドルが出ちゃったな、と思いましたね」と照れくさそうな笑みを浮かべた。
天涯孤独な少年がヒーローになるまで
長尾が「ヒーロー」と例えた才蔵という役。それはあくまでもこの作品を最後まで見た時に感じる肩書きだ。物語の序盤での才蔵は、天涯孤独で、肌も真っ黒、服はぼろぼろ、池に落ちるようなシーンもあるような役。そこに生きる喜びはなく“生かされている”ような目つきをしている。
そんな青年がヒーローになるまでの課程を描くにあたって、長尾は才蔵の内面を次のように捉えたと話す。
「兵衛に拾われた当初は、どうしようもない少年だったと思います。ただ、“この人なら信じてついていける”と思える存在の兵衛に出会えて、背中を見て、師匠(唐崎の老人・柄本明)に心も身体も鍛えられていくうちに変わっていくんです。そこには“任される嬉しさ”があったと思います。誰かに頼られることで、ようやく自分の居場所を見つけた感じが少しずつ実感できたのではないかなと」
そんな成長過程を、時系列バラバラに撮影する上でスイッチとなったのは「メイク」だった。「日によって、メイクがだいぶ変わってくるので、それが自分のスイッチになっていました。見た目が全然違うので、初期の頃を演じるときは、それこそプロデューサーさんや監督が言うように、大泉さんの後ろを追っかける子犬のような感じ、感情をむき出す感じを意識して。成長を終えた後は、少し落ち着きのあるような、声色や言葉のなまりが取れた感じで表現しました」
「昔の僕ならオファー来てなかった」
ここまで話した後で「実は運動神経があまりいいほうではないので……」と長尾。そのため、クランクイン前は不安でいっぱいだったと言うが……
「最初、自分の運動神経で大丈夫なのかなって、不安でいっぱいでした。でも、棒術を練習していくにつれて“あれ、意外とかっこいいかも”、“あれ!イケてるかも”っていう気持ちにもなってきて。練習すればできるようになっていくもんなんだなって気づけたことは嬉しかったですね。小さい頃は、いろいろな習い事をして、どんどん上達していく嬉しさを味わうことが多かったんですけど、大人になるにつれて、そういう経験って少なくなっていくじゃないですか。でも、この作品で久々にいろいろな挑戦、例えばアクションや、時代劇というジャンルにチャレンジして。新しいことに挑戦していくのって大切だなと改めて思いました。そういう経験を通して生まれる喜びというのは、これからやっていく作品にも繋げていけたら嬉しいです」と人として“成長”を感じたことへの喜びを露わにしてくれた。
内に籠る役から、ヒーローのような存在へーー長尾にとって、役柄としても一気に幅を広げた今回の作品だが、実はプロデューサー陣からのラブコールがあり、実現した。
これについて聞くと「実はそのことを知ったのは、撮影が終わった後からだったので、プレッシャーは感じていませんでした」と長尾。しかし、そう話した上で「でも、昔の自分だったら、才蔵のオファーは来ていなかっただろうし、演じきれてもなかったと思います」と答えた。
「今回、才蔵を演じ切ったところで、大人になったのかなと感じました。特に最後のアクションシーンは、何ヶ月も前から計画を重ね練習してきて、撮影自体は1日で撮り終えたんです。そのシーンを撮影する日は、1日中、朝から晩までずっとアクションをしていたのですが、最後にあの長いシーンを撮り終えたときの達成感はすごかったですね。一緒にアクションをした皆さんから拍手をいただけた際には、達成感に満ち溢れました」と自身の成長した瞬間を明かしてくれた。
2年前に公開されたAmazonPrimeオリジナル映画『HOMESTAY(ホームステイ)』で高校生の「小林真」の身体にホームステイする、気弱な魂を演じていた長尾が、今回は無頼と共に戦うヒーローに。それを冷静に分析する長尾の言葉から、俳優としての幅が広がっていくことを確信した今回の取材。現在、22歳、学生役も大人の役もまだまだ両立できそうな長尾が、役者として、どんな道を辿っていくのか。楽しみだ。
『室町無頼』1月17日(金)より全国公開
https://muromachi-outsiders.jp/
撮影/梁瀬玉実、取材・文/於ありさ
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