大河ドラマ「べらぼう」主人公、蔦屋重三郎の物語『きらら浮世伝』上演に勘九郎、七之助が意欲 松竹創業百三十周年「猿若祭二月大歌舞伎」
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中村勘九郎(右)と中村七之助(左)
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すべて見る2025年2月、東京・歌舞伎座で松竹創業百三十周年「猿若祭二月大歌舞伎」が昼夜二部制で開催される。寛永元(1624)年に初代猿若(中村)勘三郎が猿若座(後の中村座)の櫓をあげ、江戸で初めて歌舞伎の興行を行ったことを記念しての公演だ。今回も中村勘九郎、中村七之助兄弟が中村屋ゆかりの作品にのぞむが、中でも注目されるのが『きらら浮世伝』。37年前に東京・セゾン劇場で初演、父・十八世中村勘三郎(当時五代目勘九郎)が蔦屋重三郎を演じた作品が歌舞伎として新たに蘇る。2024年12月12日、都内で実施された取材会では、蘇蔦屋重三郎を勤める勘九郎、遊女お篠を勤める七之助が公演への思いを語った。
中村屋ゆかりの演目が揃う、猿若祭への思い
1976(昭和51)年に始まった猿若祭。2024年2月の猿若祭は、勘三郎の十三回忌追善興行でもあった。勘九郎は「猿若祭は今回で6回目となりますが、これをきっかけに2月の猿若祭が定着したら嬉しく思います」と意欲的だ。今回の演目について、「最初は、(坂東)巳之助さん、(中村)児太郎さん、(中村)隼人さんの『鞘當』。短い幕ではありますが、歌舞伎の魅力が凝縮されたとても美しい作品です。『醍醐の花見』は(中村)梅玉のおじさまにお出ましいただいて、秀吉の豪華絢爛な花見の、美しい舞台をご覧いただきます」。
昼の部の最後『きらら浮世伝』については、「僕もいつかやりたいなと思っていたのですが、2025年は蔦屋重三郎を主人公としたNHKの大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』が1年を通してある。このタイミングしかないなと、今回やらせていただくことに。抑圧された芸術家たちが爆発する、青春群像劇をお見せできたらと思います」と勘九郎。さらに夜の部、坂東玉三郎主演の『壇浦兜軍記 阿古屋』、尾上菊之助、中七之助による『江島生島』、また『人情噺文七元結』についても触れ、「この(兄弟での)夫婦は珍しいんじゃないかと(笑)。楽しく勤められれば」と述べた。
続いて七之助が、昨年2月の十三回忌追善興行、満席の歌舞伎座から、中村姓発祥の地、名古屋の同朋高校での公演、全国巡業で芝居小屋を巡ったことを振り返る。「最後には硫黄島で、俊寛僧都が流された場所で兄が初役で俊寛を勤めました。また8月には『髪結新三』を初役で兄が新三を、私が忠七をやらせていただき、いろいろな努力が身を結んだ一年だったのではないか。2025年も感謝の気持ちを忘れずに、一日一日一生懸命努力していきたいなと思っております」。
ふたりが並々ならぬ思いで取り組む『きらら浮世伝』は、のちにスーパー歌舞伎等で知られることになる横内謙介の脚本、映画監督・河合義隆の演出で、1988年に東京・セゾン劇場で上演された作品。今回は横内の演出で、あらためて歌舞伎座仕様にしつらえる。
セゾン劇場での上演を観ているという勘九郎は、「記憶にないのですが、僕が楽屋をちょろちょろしていたのを、横内さんが覚えていてくれました。映像を見るともう、爆発、という感じです。小劇場のパワーと歌舞伎のパワーが融合された作品。演出の河合監督は、本当に凄まじい稽古だったそうです」。当時の舞台写真の父を眺め、「若いなー」と笑顔を見せる。
七之助も、「この作品の話題は、父と食事に行くと毎回出てきました。稽古の様子、河合監督とのエピソードは100回以上聞いています。稽古場では『お前らは役者だろう!? 鼻血が出るまでいろんなことを考えてこい』と、いつも怒号が飛んでいたといいます。食事の席で毎回毎回、父が言っていたことを忘れずに、こうした思いでやってきたんだなということを胸に、稽古にのぞみたいと思います」。
父とかぶる部分もある、蔦屋重三郎の反骨精神
勘九郎演じる蔦屋重三郎は、歌麿、北斎、写楽などを世に送り出した、“江戸のメディア王”と称される版元。勘九郎は、「クレイジーでありながら、質素倹約を打ち出した松平定信に対する反骨精神があった。その戦いは、我ら歌舞伎俳優と共通する部分でもあるし、父とかぶる部分も感じます。役者という職業をやるうえで、悔しさ、『こんちくしょう! いつか見てろよ』という気持ちは常に持ち続けています。根っこの部分は共通していると思いますし、蔦屋重三郎のクリエイティブな部分、プロデューサーとしての能力、才能を見抜く力は、これからどんどん身につけていきたいですね」と前のめりだ。
七之助も、「上の人たちの圧力に負けじといろんなことをやってきた人物ですが、その心の底には、お客さまをどう楽しませるか、どういうものを提供したら皆が笑顔になり、心が動くかという思いがある。私たちがやっている職業も、一番の根底では、お客さまにどうやって喜んでいただくかと常に考える。そういう思いをずっと胸に秘めて取り組まなければと思っています」。
あらためて父、勘三郎への思いについて尋ねられると、「(12月に)十三回忌の法要をさせていただきましたが、まだ実感がないんです。生きていればまだ60代ですから」と複雑な表情の勘九郎。七之助は、「不思議な人で、年数を重ねるほどどんどん近くなってきて、3日に1回、2日1回は夢に出てくるのですが、法要というのはちょっと残酷で、“死んだ”という現実を突きつけられている感覚でした。けれどもあとは、感謝の思い。父のおかげで十三回忌追善興行も乗り越えられた。未来に向かって、父がいたらこういうことを喜んでいただろうと常に考え、一年一年を生きていこうかなと考えています」。
見据える先には、勘九郎の息子たち、勘太郎、長三郎の未来も。昨年2月の猿若祭では、勘太郎が『猿若江戸の初櫓』猿若を勤めた。「僕が最初に踊ったとき、これほどに難しい役かと思いました。それを勘太郎が、最初は手も足も出なかった状況からあそこまで踊り込み、最後まで勤めあげたことは誇らしかった。長三郎とは『連獅子』を踊らせていただきました。一時期、『もう終わりにしたい』と名言を残して廃業宣言し(笑)、大丈夫かなと思っていましたが、勘太郎が『連獅子』を踊った頃(2021年)から、『俺もいくよ』と気持ちがのってきた。お客さまに楽しんでいただくことを、楽しみながらやっている。大きな成長ではないかと思います」(勘九郎)。
取材会場に掲げられた舞台写真の勘三郎=蔦屋重三郎が、会見の間もずっと、強烈なオーラを放つ。勘九郎演じる新たな蔦重は、歌舞伎座の舞台にどんな姿で現れるのだろう。
「当時の浮世絵師たちはすごく奇抜。衣裳もきちっとおさまる感じにはならないと思います」と勘九郎。「浮世絵から衣裳のヒントを得るところも多い。横内さんと一緒に、皆で決めていけたら。十返舎一九、山東京伝、大田南畝と有名人がいっぱい出てくるので、歴史好き、浮世絵好きの方もワクワクして観ていただけるかと思います」。
取材・文:加藤智子
<公演情報>
松竹創業百三十周年
「猿若祭二月大歌舞伎」
演目
【昼の部】11:00~
一、『其俤対編笠 鞘當』
二、『醍醐の花見』
三、『きらら浮世伝』
【夜の部】16:30~
一、『壇浦兜軍記 阿古屋』
二、『江島生島』
三、『人情噺文七元結』
2025年2月2日(日)~2月25日(火)
※10日(月)、18日(火) 休演
※下記日程は学校団体来観
昼の部:3日(月)
会場:東京・歌舞伎座
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2449343
公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/926
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