君島大空が語る、自身のルーツや曲作りに対する視点「僕の音楽では歌はひとつの要素でしかない」
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沖ちづるやタグチハナのサポートギタリストを行い、アイドルグルーブ・sora tob sakanaへの楽曲提供を行うなどの傍ら、弾き語りでのライブ活動を通してシーンの枠を越えて注目を集めている、君島大空。彼が、自身のデビューEP『午後の反射光』を3月13日に発売した。多重録音によるサイケデリックなサウンドが印象的な「遠視のコントラルト」をはじめとした、メロウかつフレキシブルなサウンドと繊細な歌声がどこまでも心の中に染み込んでくるような一枚となっている。今回のインタビューでは、彼のルーツから音楽に関する考え方など、様々な角度から「君島大空」というアーティストを紐解くことを試みた。(編集部)
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■言葉で言い表せない部分をまわりの音で補完する
ーーすごく素敵な作品でした。今作は初の単独全国流通盤ということですね。
君島:はい。そもそも僕はギタリストとして、高校を卒業してから20代前半まで、いろんなシンガーソングライターのサポートの活動をしてきたんですけど、自分の音楽ってちゃんと言えるものを作りたいっていう気持ちがどんどん芽生えてきたんです。宅録で多重録音で、自分の曲を作ってSoundCloudに上げるっていうのを3年ぐらい前から始めて、曲のストックはすごくあって、いつかちゃんと出したいなと思ってました。
ーー最初はいわゆるギタリストというか、プレイヤー志向のほうが強かったんですか?
君島:そうですね。父親がフォークが好きで、吉田拓郎とか加川良とかトム・ウェイツとかが好きで。その親父に最初にギターを教えてもらって、ずっとギターばっか弾いてて。ブルーノートから出たジャズギターのコンピレーションをもらって、「アル・ディ・メオラかっこいい!」みたいなかんじになって。パコ・デ・ルシアとかも好きになって。
ーーテクニカルなプレイヤーが。
君島:はい。中・高はずっとプレイヤー志向というか。歌を作ったりとかはまったくしていなくて。いかに速く弾くか、みたいな。
ーーTwitterを見たら、昔はメタラーだったって。写真とか上げてましたね。
君島:そうです。すごい太ってて(笑)。
ーーじゃあ速弾きのメタルギタリストを目指して、毎日スケール練習に励むみたいな。
君島:毎日、毎日。ホントに。クリックを鳴らしながら、速く弾く練習をしていました(笑)。
ーートム・ウェイツとか聴いてても、「歌」にはあまり惹かれなかった?
君島:多分、ずっと惹かれてたんだと思うんですけど、父親が好きなものを敬遠していて。高校後半ぐらいに一周して、親父の印象とかも離れたところで、やっとそういうものが入ってきた気がします。
ーー特に歌詞なんか聴こえてくると、お父様の思いがそこに重なってるみたいな。
君島:なんか親父の枕の臭いがしてきそうな感じが(笑)。あんまり自分からは行かなかったんですよね。
ーー歌に興味を持つようになったきっかけは、何かあったんですか?
君島:僕が今もずっと一緒にやってる高井息吹っていうピアニストがいるんですけど、その子と一緒にやったりとか、沖ちづるとかタグチハナとか、そういう弾き語りの女の子のサポートをしたりする中で、歌に対してすごくコンプレックスを感じていた部分があって。自分の言葉を歌にしている人を目の当たりにしてしまって、いつも、すごいショックを受けていたんです。自分の言葉が自分にはないなと感じていて。で、一緒にやっていく中で、どうやって歌に、言葉に寄り添うギターが弾けるんだろうかっていうことをずっと考えていて、それは自分も歌ってみることなんじゃないかって思ったのが、最初のきっかけです。
ーーより良いサポートギターを弾くために、自分も歌ってみて歌い手の気持ちを知ろうと。
君島:一番初めはそういう気持ちで作り始めましたね。
ーーギターを一生懸命練習していた頃は、バンドをやってやろうとか、そういう気はあまりなかったですか?
君島:あんまりなかったですね。人が3人以上集まるとめんどくさくなってしまうんですよね。
ーー中学、高校でギターをやってて、しかもメタル好きだったら、じゃあバンドやろうよみたいな話は、同級生で盛り上がりません?
君島:ありました。盛り上がっていて、僕も最初はやりたいってなっていたんですけど、一緒にやったら「共有できないものが多すぎる」って、すごい早い段階で感じてしまって。それがすごいコンプレックスで。バンドは組まないぞ、という気持ちのほうが強かったですね。それよりも、一人で、音を重ねていったりして、自分の色が強いもののほうが面白いと思っていましたし、今でも思ってます。
ーー人と一緒にやることによって、他の人の色と自分の色が混ざり合っちゃって、自分の色が薄くなるような気がしたとか。
君島:多分そうですね。でも、今回「遠視のコントラルト」で、石若俊さんというCRCK/LCKSのドラマーの方に叩いていただいてから、ちょっとその気持ちは薄れきてますけど。
ーーじゃあ今は自分のバンドっていうのはないんですね。
君島:自分のバンドはないです。
ーーライブをやるときは弾き語り?
君島:弾き語りですね。
ーーサポートをやってるとバンドで弾くことも当然あるでしょうけど、サポートのバンドは別に気にならない?
君島:気にならないです。誤解を恐れずに言うならば、恐らく自分の音楽ではないからだと思うんですよね。自分がこの人の音楽を広げるんだっていう気持ちでそこに行くので。
ーー君島さんが一緒にやっている人を調べていたら、ほとんどが女性ですよね。ボーカリストも映像を作る人も。それはなぜですか?
君島:なぜなのか、僕もすごい知りたい(笑)。
ーー女性が多いとは自覚していました?
君島:急に女の人ばっかりだなって思った時がありました(笑)。僕はサポートに関しては、基本的に自分から一緒にやろうとは言わなくて。ホントに僕のギターを知っていてくれて、君島が必要だと思った人に声をかけて欲しいってスタンスなんです。なので、お声がけしてもらって、「一緒にやらない?」って言ってもらった人が、気づいたらほとんど全部女性だった、って感じですね。
ーー何が自分に求められていると思います?
君島:所謂ギター然としたギターみたいなものを、サポートするときにはあまり弾かないんです。シンセとか、アタックのないような、空間を広げていくようなプレイだと思っているので。ビル・フリゼールがギタリストとしてすごい好きで、いるようないないような、でも確かに空間が広がってる、みたいな。いないけど音が聴こえるみたいなギターが弾けたら良いなと思っているので。
ーー過剰に存在感を主張しない、押しつけがましさのなさみたいなものが求められてる?
君島:そう僕は思います。多分こういうプレイをする人は他にいないだろうというか。自分にもそういう自信がありますねあるので。
ーーそういう、自分のギタープレイのスタンスというのはあるけれども、それは自分のやりたい音楽とは少し違うということですか。
君島:そうかもしれないですね、。自分の音楽とは言えない。自分のギターではあるとは思うんですけど。
僕が言っている自分の音楽っていうのは、本当に全部自分で作り上げたものなので。自分が主体になる場合は、あまり人には任せられないなぁと思ってしまいがちです。
ーー曲はどう作ることが多いですか?
君島:僕はギターを弾きながら、インチキ英語みたいなのを歌いながら、iPhoneのボイスメモを回して、あとから聞いて、良かった断片を切り貼りしていくような感じです。
ーーギターは生ギターですか?
君島:そうです。ガットを使います。
ーーそれは何かこだわりがあるんですか?
君島:アコギ(フォークギター)がぎゃんぎゃんしすぎるので。ガットって、どう弾いても優しい音になる気がして。嫌なうるささがない。やかましさがない気がしていて、すごく好きな楽器なんです。ライブでも一人でやるときはガットを使っています。
ーー生ギターの弾き語りでは足りない時にいろんな音を足していったり、加工していったりっていうことをやっているわけですか?
君島:それもあるんですけど、最初から音像が見えている場合のほうが多いですね。
ーーこういうサウンドにしたいという。
君島:ええ。ギターで最初に弾き語りみたいな風に作るときも、だいたい音像は見えていて、それに和音を当てていくみたいなイメージです。最終的にギターでの弾き語りをイメージして作っているものは少ないと思います。
ーー今回のEPも、サウンドの細かい作り込みが一番印象に残りますね。音像も立体的で奥行きと広がりがある。
君島:全部を作りたい、景色を全部作りたいっていう欲求があって。僕は自分の音楽を作るときに、目に見えるようなもの、まぶたの裏に映像が浮かぶようなものを作りたいと思っています。
ーー景色を作ることが第一前提にあって、メロディだったり歌詞だったりっていうのは、それを彩るひとつの要素に過ぎない感じもあるわけですか?
君島:ああ、そうですね……でも逆を言うと、僕が最近思ったのは、言葉で言い表せない部分を、まわりの音で補完する、という。
ーーああ、フィッシュマンズの佐藤伸治が同じこと言ってましたね。歌詞で言い切れないことをサウンドで表現するって。
君島:僕はそういう気持ちで作っていたなって、この前ふと気づきました。
■あまりハッキリ言葉を言いたくない
ーー歌詞はどの段階で作るんですか?
君島:歌詞は歌詞で、曲とは別に溜めておいて。心に思いついたことをずーっと書いていって、曲を作る時にそこから精査していくかんじですね。
ーー全体のもわっとした雰囲気みたいなものが、自分のイメージとしてあって、それに
合うような歌詞はどれかっていうことで、ストックしていた言葉の中から探してくるって
いう感じに近いですか?
君島:そうですね、でも歌詞は歌詞で言いたいことがあって。言葉を選び取っていく感じ。
ーー歌詞は普通のフォークやポップスの人があんまり使わないような難しい語彙も出てきますけど、どういったところから、そういった言葉は浮かんでくるんですか?
君島:作った段階でのインチキな英語の耳触りみたいなものをすごく信じていて、日本語にない響きであったりとか、言葉の「音としての響き」がとても好きなので。そういうものを大事にしたくて、これが良いなと思ったボイスメモのテイクから、言葉を当てていく感じなんですよね。それに似た響きを。当てていって、見えてきた線を、さらに磨いて、ちゃんとつなげていくような。
ーー歌詞の言葉のひとつひとつに、細かく意味を込めていくというよりは、響き重視の場合も多いということ?
君島:多いです。ワンセンテンスでドンというよりは、全体をぼかして見たときに、こう
いうことなんだっていうのが、なんとなく伝われば良いなっていう。
ーー君島さんのボーカルスタイルはかなり独特ですが、意識しているところは?
君島:あまりハッキリ言葉を言いたくない、というのはあります。自分を離れてしまった言葉の強さみたいなものがすごく怖くて。聴いた人が受けて、思ってもない方向に作用してしまうことっていうのは、多分あると思うんです。僕はそういうのを感じたことがあって。無駄に悲しませてしまったりとか、無駄につらくなってしまったりとか、そういう風に受け取られてしまったことがあるので、ぼかすような、ちょっと言葉ではない感じに歌う。楽器的な響きとして。
ーー音楽から言葉だけが切り離されて一人歩きしちゃうのがイヤだってことですか。
君島:そう。そうなると、歌がとても立ってきてしまう。歌のための音楽になってしまう。
ーーああ、歌のための音楽じゃないんですね。
君島:そうですね。僕の音楽では、歌はひとつの要素でしかない。もちろん歌は好きですし、トム・ウェイツも好きだし、まわりのシンガーソングライターの言葉も歌も大好きなんですけど、自分が作るものは、歌や声は音楽を作るうえでのひとつのーーでも欠かせない要素だと思います。
ーー自分の声をどう評価しますか?
君島:あんまりボーカリストとしては良くないなぁと思います。喉が弱い(笑)。歌う人間ではないなぁと、作ってるときにホントに思ってしまいます。
ーーそれと関係あるかわかりませんが、君島さんの声の、あの中性的な感じがひとつの個性になっていますね。
君島:そうですね。男性性みたいなものは消したい。
ーーああ、それ、やっぱりありますか。
君島:男性の匂いのする声が好きではないんですよ。多分ただの好みなんですけど。僕にとっては余計なもので、すね。それがとてもかっこいい方もいるし、そういう曲もあると思うんですけど、さっきの「言葉が立ってきてしまう」みたいなことと同じで、その匂いばかりが僕は気になってしまう。音楽が入って来なくなってしまう気がして、なるべく消したい。
ーーもともとご自分の声がそうだったのでそういう考え方になってきたのか、それとは関係なく、男性性が出てるような声が好きじゃなかったのか。
君島:どちらもありますね。音楽を聴いていて、男性性でも女性性でも、少し行きすぎてしまうと、音楽には要らない色気だと思うんです。音楽に必要な色気もあるとは思うんですけどね。あとは自分が歌を作り出したとき、すごい太ってたんですけど、昔のボイスメモをこの前聴いたら、すっごい声も太っていて。
ーーへえ。そんなのあるんですね。
君島:うわ、太ってるやつの歌だ!、みたいな。多分喉が太いから。思い出すと多分その頃は、自分の声がホントに気持ち悪いと思いながら歌ってた。その頃の気持ちがまだ残っていて、そこからなるべく離したいって気持ちもある。
ーーなるほどね。完全に離して、たとえばボカロに歌わせるっていう発想にはならない?
君島:ならないです。人間の声は、音楽にとって一番大事な要素だと思うので。肉体とか血みたいなものを、あんまりフィルターを介さずに伝えられるものだと思うんです、声っていうのは。
ーー仮の話ですが、あなたがすごい逞しい男性的な声をしたボーカリストだったら、今みたいな表現、音楽になっていたと思います?
君島:絶対になってないと思います。絶対。メタラーにはなってたかもしれないですけど
(笑)。
ーー自分の声質とかそういうものが、音楽性を規定していくみたいな。
君島:そうですね。あとやっぱり、女性の声がすごく好きなんですね。その憧れみたいなものはずっとありますね。
ーーじゃあ女性ボーカリストからお声がかかるのは必然ということなんですかね。
君島:ああ、でもそうなのかもしれませんね。男性の方からオファーがきたことがホントに、ほぼないです。それは逞しくないからなのかもしれないなっていうのは、最近思いますね。
ーー君島さんの、繊細さみたいなものの表現が、女性のアーティストと相性が良いっていうことなんですかね。
君島:そうだと良いなぁと思います(笑)。
■「遠視のコントラルト」は自分で自分が救われた曲
ーーライブでは、生ギターの弾き語りをやっていらっしゃいますけど、宅録で作り込んだ音源とはまた違う狙いがあるってことですか。
君島:そうですね。弾き語りに挑戦してみようと思って。ギターと歌だけで、どこまで自分の音楽と言えるものができるかみたいな。今のところすごく難しくて。
ーーギター一本持ってお客さんの前に行くと、当然生身の自分をそこにさらけ出さなきゃいけないじゃないですか。それはご自分にとってはどうなんですか?
君島:とってもつらいんですけど、毎度。
ーーつらいんですか(笑)。
君島:毎度つらいんですけど、最近は楽しくやれるようになってきました。
ーータワーレコードのレコメンで今作が選ばれて、コメントの動画を上げてたでしょ。あれずーっと下向いてしゃべってて、この人どんだけシャイなんだと(笑)。
君島:ははは(笑)。そういうことがホントできなくて。
ーー最新のアー写ではちょっと顔を出してらっしゃいますけど、真正面から撮ったポートレイトではないし、そもそもあんまり顔も出さないですよね。ライブでも下を向いてるし。
君島:お客さんの顔を見れないっていうか、前向けないっていうのと、それ以前に、この人がやってるんだっていう印象をあんまり与えたくないというのも強い。顔の印象とかがあんまり付いてほしくないっていうのが多分あって。そこに縛られる部分ってあると思うんですよ。この人が作ってるんだって、顔を見てから聴くと、ちょっと聴こえ方が変わったりする気がしていて。音楽だけを聴いてくださいって思います。あんま見ないでください、目を閉じて聴いてくださいって。
ーー自分の音楽を通じて自分自身を知ってほしいと思う音楽家もいますね。
君島:作家の色味とか人間味みたいなものって、どうしてもにじみ出てきてしまうものだと思うんですよ。だから、私を知ってくださいっていう押しおしつけがましいことはせずとも、にじみ出て来たものを感じていただけたらいいなぁと思いますね。
ーー音楽に表れている自分というのは、君島さん個人の人間性のどれぐらいの部分を占めていますか? ほんの一部分にすぎないのか、それともやっぱり自分ですと言い切れる?
君島:自分ですね。これは自分だと思います。今回のEPの中には最初期の、自分が作り始めた頃の曲がけっこう多いんです。「遠視のコントラルト」と「午後の反射光」っていう曲は、自分の中ではすごく古くて、3、4年ぐらい前からある曲なんです。「遠視のコントラルト」は高校生ぐらいのときには曲は全部あって。2年前ぐらいにやっと歌詞が付いたものなんですね。その頃に見ていた景色とか気持ちとかっていうものを、一回吐き出しておきたかったんです。今だから見られる景色みたいなものもあるとは思うんですけど、まずこれを出しておかないと、自分の中で話が始まらない。スイッチというか、起動ボタンというか、扉みたいなもの。これをまず世に出しておかないと、これから作る新しい曲に自分が繋がっていかない気がしてしまって。
ーーそれはもうちょっと詳しく説明していただくと、どういう?
君島:自分が人生で一番つらいなぁという時期、音楽を別に聴きたくもないし、やりたくもないしっていう状態のときがあったんですけど、そのときに、ふっとできたのが「遠視のコントラルト」で、自分で自分が救われたというか。自分が作った曲で。
君島:ずーっと曲だけはあって、作ろうとはしていたんですけど作れなくて。でもけっこうズドーンって自分が落ちていたときに、歌詞がすーっと出てきて、「あ、こういうことだったんだ」と思って、これを形にしなければ、というか、世に出したいな思ったんです。
ーーつらいこと、ハードな体験みたいなものを、これを作ることによって、乗り越えることができた?
君島:そうですね。なんかそれが、曲の中に……なんて言うんですかね。乗り越えてはいな
いんですけど、そのときの気持ちみたいなものを化石にしておきたかったというか。
ーーー化石?
君島:はい。つらい時期が来る前に、美しかった時間、自分の中でずっとループして終わらない、美しい瞬間みたいなものがあって。その瞬間をどこにも逃げ出さないようにしておきたいという気持ちがあったんです。その一瞬、一瞬を、どうにか終わらないものにしたかったんですよね。つらいものを、「つらい!」って出す表現が僕は嫌いで。そんなものを聴いてしまったら、またつらくなっちゃいますから(笑)。だったらそうなる前の美しかった時間みたいなものを、自分がホントに心に留めているものを、自分しか知らないような景色を、どうにか絶対に、永遠に終わらないものにしようと。
■わかりあえなかった部分を音楽にしていこうっていう気持ちはある
ーーとなると、君島さんの音楽は、ある種のノスタルジーとしても機能してるっていうことでしょうか?
君島:そうですね。それは自覚があります。
ーーなるほど。確かに聴いていてそんな感じがしました。なんか白昼夢を見ているような。心象風景のようでもあるし、現実の風景のようでもあるし、それが曖昧なところで漂っていて、美しい時間だけがそこに流れている。
君島:共有ができない部分、他の人と「あれ良かったよね」と話し合えない部分で、自分が大切にしている瞬間。好きな人の横顔をちらっと見たときに、その人の瞳に光が入
っていて「わー、きれいだな」って思った一瞬みたいなものを、引き伸ばして音楽にし
たいっていう欲求がありますね。
ーーMy Bloody Valentineの曲とか、ホントに自分が気持ち良いと思う瞬間が永遠にループして終わらないで続いている甘美な感じっていうのが、私はすごい好きなんですけど、それに近いですか?
君島:ええ、ええ。そうですね。
ーー例えば現在進行形で自分が感じてることを、そのままパッと歌にするみたいなことってあまりないですか?
君島:あんまりないですね。でも最近は、そういう曲が作れるようになってきたかなと思います。今まで作った曲は全部、その時点からちょっと時間が経ってから振り返って、こんなきれいな景色だったなぁみたいなのを、言葉を集めていく感じ。多分自分の中ですごいたくさんフィルターを通して。なるべく美化はしないように努めて作っているんですけど。
ーーそういう音楽だからこそ、あの凝った空間構成というか、音響的な部分も含めたトリートメントが必須っていうことですね。
君島:そうですね、それがないと(ダメ)、とは思います。
ーーある種の舞台装置として。
君島:ええ、ええ、そうですね。さっきも言ったように、声とか言葉では足りない部分を、そういう音で補っていくという。
ーーなるほどね。そんな凝った音源を出して、今後ライブはどうするんですか?
君島:すごく考えています。弾き語りでもちょろちょろやろうかなとは思うんですけど、
ひとりでできるだけ音を出せるように。違う音を出せるようなセットになっていくかなと。バンドもやろうかなと思いますね。
ーーバンドやりますか?
君島:ついに!(笑)。(注・この取材のあと、バンドセットでのライブを発表)
ーーバンドでやると、ひとりでやるのとは違う伝わり方がある?
君島:それは感じますね。わかりあえない分、違う人同士がぶつかったときのバチッとした光みたいなものはすごく信じています。
ーーわかりあえないことが前提ですか。
君島:わかりあえないことが前提です。でも、ライブをやってる途中に何かが繋がる瞬間みたいなものがあって。その瞬間を信じてやってますね。
ーーそれはサポートのバンドをやってるときにもそう思う?
君島:そう思います。そこに最短で行き着くために、歌に寄り添うギター、みたいなすごい抽象的なことばかりずーっと考えていましたね。バンドはバンドですごく好きです。合奏するのはすごく好きです。
ーーお話をお聞きしていると、君島さんの表現は、諦めるところからスタートしているというか。そんな印象を今受けましたけど。
君島:(笑)。そ~うですね。なんでですかね。諦めからスタートしているかもしれないですね。確かに、そう言われてみると。
ーーわかりあえないとか、一番美しかった瞬間に思いを馳せるみたいなところからスタートしていることとかもそうですけど。
君島:それは……なんだろう、僕が好きな音楽家が全部ひとりでやっている人が多いからっていうのもあると思っていて。わかりあえないっていうのは、ずっとあるんですよね、小っちゃいときから。
ーー音楽に限らず、日常的にもあるっていうことですね。
君島:そうですね。恐らく父の影響だと思うんですけど。死生観みたいなのを幼い頃から言ってくるような親父で。人はわかりあえないっていう旨のことを、言われてきたことも一因としてあると思います。
ーーそういうことを幼い息子に言うわけ?
君島:振り返ると、ホントにどうかな? って思うんですけど(笑)。でもホントにそうだなとも思いますし、自分で。
ーーでもわかりあいたいと思いますか?
君島:思います。だから、そのわかりあえなかった部分を自分の音楽にしていこうっていう気持ちはあると思います。
ーーそれは人に対して何かを求めるっていうことになっちゃうから、相手次第っていうことになりますよね。それはなかなかちょっとつらいかもしれないですね。相手に委ねちゃうっていうのは。
君島:うん、そうですね。つらいですね。つらい道だと思います。
ーーでもみんなそうなのかもね。現実生活に満たされてて、幸せなリア充だったら別に音楽作る必要もねえだろって(笑)。
君島:(笑)。そうですね、そういう人の音楽はあまり興味ないですね(笑)。(小野島大)