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「ラストマイル」大ヒット、イーストウッド新作が配信のみ…2024年はどんな年だった?

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左から村山章、西森路代、ビニールタッキー

2024年は映画業界においてどんな年だったのか? 映画ナタリーでは、ハル・ハートリー作品の広報や配給業務に携わる映画ライターの村山章、書籍「韓国ノワール その激情と成熟」などで知られるライターの西森路代、“映画宣伝ウォッチャー”のビニールタッキーによる鼎談を実施。年の瀬に1年間を振り返った。

※取材は2024年12月に実施

取材・文 / 小澤康平

「ラストマイル」のヒット、その理由は?

西森路代 2023年末の鼎談で、ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の世界線と交差する映画「ラストマイル」が楽しみという話をしたんですが、約60億円のヒットを記録しているそうです。

ビニールタッキー 海外にはMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)や、2014年の「GODZILLA ゴジラ」から始動した“モンスター・ヴァース”などがある中で、日本でのユニバースものはどうなるのか?という文脈でお話ししましたね。

村山章 先日観に行きまして、公開からもう4カ月経っているのにかなりお客さんが入っていました。映画は楽しめたんですが、実は先行するドラマ2作は観ていなくて。無知な質問で申し訳ないんですが、やっぱりドラマの人気が高いことがヒットの要因なんでしょうか?

西森 それが大きいとは思いますが、「アンナチュラル」「MIU404」のSNSアカウントが映画と連動してまだ更新されていて、放送から数年経ってもファンがドラマの話をしているような根強い人気があります。「MIU404」にはメロンパン号という車が出てくるんですが、現実世界で全国を巡行したりしていて。

ビニールタッキー 僕は映画を観ていないんですが、妻が大好きなのでよく話は聞いていました。SNSアカウントが頻繁に動いていて楽しいみたいなことを言っていたので、確かにヒットの一因のような気がします。

西森 脚本を書いている野木亜紀子さんの作品って、韓国映画に近い感じがするんですよね。みんなが楽しめるエンタメ作品ではあるんだけど、労働問題などの現実社会とリンクする事柄を取り上げている。「ベテラン」の頃のリュ・スンワン監督に似てると思います。

ビニールタッキー ああ、なるほど。一級の俳優さんたちが出演している大作で社会問題を描くところが。

村山 そのへんのさじ加減は、野木さんやプロデューサーがクレバーなんですかね?

西森 自然にそうなってるんだと思います。現実の問題をしっかり描きつつ、多くの人が楽しめるエンタテインメント性のある作品を作ろうと。

村山 演出面としては、シーンのつなぎ方や音楽をかけるタイミングに、さかのぼると「踊る大捜査線」や「王様のレストラン」とかかなと思うんですが、日本のドラマが長年かけて培ってきた1つのパターンを感じました。そういったわかりやすい演出は好みが分かれるとは思いますが、ハリウッドの影響を受けながらテレビドラマが主導して発展させてきたやり方の延長線上に映画のヒット作が生まれるというのは、日本独自で面白いですよね。

西森 日本で多くの人に届けたい場合、やっぱりそういう演出は適してるんだと思います。でも、だからって必ずヒットするわけじゃないので、「ラストマイル」は本当にすごいですね。

北米興行収入ランキング、上位はほとんど続編

村山 ユニバースものではないんですが、「スマホを落としただけなのに」シリーズの3作目である「スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム」の予告編をちょっと前に映画館で観たんです。前2作は観てなくて、ずっとスマホを拾った人にストーキングされる物語だと思ってたんですが、国境を越えた戦いみたいな話で「なんだこりゃ!」ってなって、やけに面白そうに見えたんですよ。

西森 韓国でリメイクされたので、企画に強度があるのかなと感じていました。

村山 「スマホを落としただけなのに」は原作があるのでそれに沿っているのかもしれませんが、続編が作られて思ってもみなかったような展開になるのって、シリーズ作品の醍醐味じゃないですか。ワイスピ(「ワイルド・スピード」)もそうですし、古い例えですけど「エイリアン2」も前作よりめちゃめちゃ派手になって「何が起こってるんだ?」感が楽しかった。「リーサル・ウェポン」は2から急にコメディ色が強くなったりしましたよね。「スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム」の興行収入は高いわけではないですが、自分の知らないところで面白い展開をしている日本映画があるかもしれないと、勉強不足を反省しました。

ビニールタッキー 2024年の北米の興行収入ランキングを見てみると、続編がすごく多いんです。「インサイド・ヘッド2」「デッドプール&ウルヴァリン」「怪盗グルーのミニオン超変身」「モアナと伝説の海2」など、上位20位までを占めているのはほとんどが続編。作品を観てみると面白いですし、だからこそ大ヒットしているんだと思いますが、「そういう現状でいいのか?」と問題提起しているような海外の記事を読んだことがあって。

村山 ここ10年くらいを振り返ってみても、世界的にヒットしている作品の多くが続編やシリーズものだったりしますよね。

ビニールタッキー そうなんですよね。その記事では「これは文化の衰退だ」みたいなことが書かれていたんですが、今に始まったことではないという。

西森 逆に韓国ではシリーズものって少ないんです。最近は「イカゲーム」をはじめ、ドラマの続編も作られ始めていますが、映画で長く続いているのはマ・ドンソクの「犯罪都市」シリーズくらい。

韓国で社会派映画が人気の背景

村山 ちょっと前に「破墓/パミョ」を観てきたんですが、すごいなと思ったのが、冒頭からまるで3作目みたいに始まること。シリーズではないけどシリーズっぽいというか、最初から「皆さんわかってますよね?」みたいに始まるのは面白い手だなと感じました。

西森 チャン・ジェヒョン監督の作品はユニバースっぽさがあるかもしれないですね。

ビニールタッキー 確かに前作の「サバハ」とつながっている感じがありますね。

西森 韓国はとにかく興行成績にシビアで、「流行ればやる、流行らなければやらない」という風潮が強いです。「ソウルの春」が作られたのも、過去に同様の社会派の作品がヒットしていたからで。でも、今回の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の戒厳令のこともあり、さらにヒットしましたね。

村山 ああいう社会派の映画がちゃんとヒットして世の中にも影響を及ぼすというのは、うらやましいと言うと語弊がありますが、日本にはあまりない現象だなと思ってしまいます。

西森 2014年のセウォル号沈没事故のときにいろんな問題が明るみになって、そのあとで社会派の映画が特に数多く作られるようになったんですよね。朴槿恵(パク・クネ)の政権が終わったことも大きいかもしれない。「タクシー運転手 ~約束は海を越えて~」がヒットしてから、さらにその動きは加速したように思います。

ビニールタッキー 韓国でヒットした映画を日本で観ている身からすると、歴史を学ぶことができて、エンタメとしてもよくできている作品がこんなにたくさんあるってすごいなと思っていましたが、そういう背景があったんですね。

村山 戒厳令のことを含め、韓国は大統領選びが下手すぎるんじゃないかという気もします。弾劾されない大統領をほぼ見たことがないという。

西森 それはもしかしたら、問われるべき事柄が日本では問われていないと言えるかもしれないですね。

村山 なるほど。問われているだけマシだと。

ビニールタッキー 確かに、じゃあ我々はどうなんだと聞かれたら、なんとも言えないですね。

濱口竜介や三宅唱は韓国からの信頼も厚い

村山 韓国に比べると日本は社会問題を描いた映画が少ないとは思いますが、この前観た「HAPPYEND」ではデモの描写がありました。空音央監督がどういう気持ちでこの映画を作ったのかが、しっかりと伝わってきて。監督のQ&A付きの上映会は満席でチケットが買えなかったんですが、これも公開から時間が経ってるのにお客さんがかなり入っていました。派手さはないけど作家性の強い映画って、日本ではなかなかヒットしにくい時代があったと思うんですが、今は小さくてもちゃんと市場が存在している感覚があります。

西森 韓国では日本の小・中規模作品の評価がすごく高いです。濱口竜介さんや三宅唱さんへの信頼が厚いですし、映画学科の人とかだと私より邦画に詳しいくらい。韓国の独立映画のことを書いた「0%に向かって」という小説を読んだら、韓国のミニシアターの興行収入はごくわずかで、小・中規模の映画を成立させることが難しいということが書いてあって。そういう作品にお客さんが入ることを日本のよさと考えている人は多いと思います。

村山 なるほど。映画の内容について話すと、日本には端正な作品が多いと思うんですが、「あのシーンはもうちょっと面白く描けたんじゃないか」と感じることがわりとある。一方で、韓国映画は「どのシーンも面白くしたい!」という欲が強いというか、観客をどう楽しませるかにすごく力を入れている気がします。

西森 そこを私たちは日本にないことだとして学ぼうとしますよね。逆に韓国の人たちは、その日本の端正な部分を評価しているのかも。そこはかとないことを、そこはかとないまま描くことと言うか。

ビニールタッキー なんかないものねだりみたいになってますね(笑)。

村山 そうですね(笑)。小・中規模作品にお客さんが入っているという話に戻すと、山中瑶子さんの「ナミビアの砂漠」もロングランになり、自分が観に行ったときも席がかなり埋まっていました。個人的には今年ベストくらいに好きな映画で、20代の監督の作品が世界的に高い評価を得ている。「ベイビーわるきゅーれ」シリーズの阪元裕吾さんもまだ20代ですし、偉そうな言い方かもしれませんが、邦画の未来は明るいなと感じます。

「HiGH&LOW」で輝き、「光る君へ」でも実力を示した塩野瑛久

村山 邦画の話を続けると、あまり自分の守備範囲ではない「赤羽骨子のボディガード」に飛び込んでみたんです。主演のラウールさんのスター性にも驚いたんですが、脇を固める役者陣の演技がとにかくうまくてびっくりしました。アイドルを中心に据えて、人気がある若い子を集めて……みたいな先入観を持つのはダメだなと、改めて思わされました。

西森 撮影現場へ取材に行くことがたまにあるんですが、若い俳優さんが特にしっかりしていて、NGを出す人って全然いない印象です。監督へのインタビューでも、「今の若い役者にうまくない人なんていないですよ」みたいな話を聞くことが多いです。

村山 昔はアメリカの子役や若い俳優はすごいよねっていう話をしていましたが、今や日本の若手も負けてないですよね。年寄りが無理やり分析すると、今の若者たちは撮られることに慣れているというか、レンズを向けられて何かをすることに長けている人が多い気がします。

ビニールタッキー なるほど。2.5次元の舞台やYouTubeの映像作品など映画・ドラマ以外のエンタメの幅は広がっていますが、SNS上を含め才能のあるたくさんの人たちが世の中に可視化されているので、競争率は高くなっているのかもしれません。

村山 この前、大河ドラマ「光る君へ」が完結しましたが、一条天皇役をやっていた塩野瑛久さんは、劇団EXILEのメンバーなんですよね。そのへんもろくにチェックしてこなかった反省があります。って反省ばっかりしてますけど。

西森 そんな反省しなくても大丈夫ですよ(笑)。塩野さんは「HiGH&LOW THE WORST」シリーズの2作にも出ているんですが、「HiGH&LOW」シリーズでは、やる気のある人はどんどん真ん中に行けると言いますか、輝いていたら制作陣や視聴者が盛り上げてくれるような雰囲気があるんです。もともと演技がうまい方でしたが、それをきっかけにどんどん活躍の幅が広がって、「光る君へ」でより多くの人に知られてうれしいですね。

ビニールタッキー 「HiGH&LOW」には山田裕貴さんや前田公輝さん、一ノ瀬ワタルさんも出演していて、皆さん大活躍中ですよね。

村山 そういえば山田裕貴さんは「HiGH&LOW」に村山という役で出演してますよね? ふと魔が差して「村山 映画」でエゴサしたことがあるんですが、「『HiGH&LOW』の村山さんが大好き!」という投稿がわんさか出てきました(笑)。

A24は褒められすぎ?でもやっぱり冒険的

ビニールタッキー A24の話をしてもいいでしょうか? 「エブエブ」(「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」)がアカデミー賞を獲ったこともあり、今やそんなに映画を観ない人も「いい映画を作ってる会社でしょ?」くらいには浸透している気がしますが、「シビル・ウォー アメリカ最後の日」が10月初週の全国映画動員ランキングで1位になったことには驚きました。

西森 宣伝もしっかりやっていた印象で、まんまと観に行かないといけない!という気分になりました。

ビニールタッキー アメリカでは4月公開だったので日本公開まで半年くらい空いていて、なぜそんなに遅くなったのかを調べてみたら、大きなスクリーンがある映画館でかけたいという思いがあったみたいで。本国でもIMAXを含むラージフォーマットで上映された作品だったので、日本でも製作側の意図に合わせてということだと思うんですが、そういう戦略がうまくいったのかなと。アメリカの内戦の話が大統領選挙の時期に公開されたことも、ヒットにつながったのかなと感じます。

村山 A24は面白い映画をたくさん作っているとは思うんですが、以前までは「ちょっと褒めすぎじゃない?」という気持ちがあったんです。というのも、日本だとA24が製作しておらず配給だけをしている作品も“A24映画”と一緒くたにされたり、面白いけどダサいような映画も作っているのに「A24=おしゃれ」といったちょっと乱暴なまとめ方もあったりするから。でも冒険的な企業であることは確かですし、大手映画会社が作らなくなったような、絶滅してもおかしくなかった攻めた作品をちゃんとヒットさせたりバックアップしている貴重な存在であることは間違いないので、ひねくれた見方をするのはやめようと今年になって思いました(笑)。

ビニールタッキー 正直僕も、日本国内におけるA24をやみくもにもてはやすような風潮はどうかと思っていたんです。でもそれも落ち着いて、ちょうどいい空気感になってきた気がします。

「ウルフズ」は公開中止、イーストウッド新作は配信のみ

ビニールタッキー 配信の現状についてはどうお考えですか?

村山 一時期は中小規模の映画の受け皿になっていましたが、いわゆる“とがった”映画は少なくなっていると思います。配信サービスの運営会社がどんどん大きくなっていって、競争も激化している。印象的だったのは、ジョージ・クルーニーとブラッド・ピットが共演したApple Original Filmsの「ウルフズ」。アメリカでは限定的な劇場公開に変更され、日本では予定していた公開が中止になりApple TV+での配信のみになった。

ビニールタッキー Appleとしては、すごく時間と労力を掛けたCMみたいに捉えてるみたいですね。劇場公開はもうけることではなく「Apple TV+ではこういう映画が観られますよ」という宣伝が主目的だった。そういう流れの中で、マーティン・スコセッシの「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」やリドリー・スコットの「ナポレオン」を作ってきたけど、さらにいろんな映画の製作を進める中で「このビジネス、もしかしたらあまりうまくいかないかも?」となってきたようです。その打撃を受けたのが「ウルフズ」で、監督のジョン・ワッツは「もうAppleは信用できない」と怒っていました。

村山 「ナポレオン」は、劇場公開版よりも長い3時間26分のディレクターズカット版が劇場公開後にApple TV+で配信されましたが、正直周りには全然観ている人がいませんでした。長尺版は劇場版よりもはるかにいい映画だったんですが……。あとは(クリント・)イーストウッドの新作「陪審員2番」が劇場公開されず、配信のみになったことも印象的です。

ビニールタッキー 本国アメリカで小規模公開だったので、日本で配信だけと知ったときは仕方ないのかなという気もしましたが、仕方ないで片付けていいのかという思いも正直湧きました。

村山 日本では公開も配信もされない映画がある中、観られるだけありがたいとも言えるので難しいですね。僕は劇場で上映されている2時間、3時間の作品が映画だと思って育ってきましたが、劇場で観ること=映画体験という考え方はもう時代と合ってなんじゃないかと思い始めています。

西森 コロナ禍をきっかけに考え方を変えた映画人は多いですよね。韓国ではコロナ禍によって映画館に人が全然行かなくなり、映画監督・映画俳優が配信ドラマに関わるようになりました。それ以前は映画とドラマがしっかり区別されていたんですが、今はその障壁が低くなっている状態。それによって配信作品のギャラが高騰しすぎて、世界的な配信プラットフォームの運営企業以外は著名な俳優、監督、脚本家を呼べなくなっているということも起こっているとか。

ビニールタッキー なるほど。日本でも似たようなことが起こっているという記事を読んだことがあります。ある俳優に出演してほしいと考えても、高額なギャラを支払っている配信会社に長期間スケジュールを押さえられているとか。でも俳優や監督の独占みたいなことが発生し得る一方で、そういう状況をバネにして「じゃあ私たちで面白いものを作ろうよ」と一念発起する人たちもいるかもしれないですね。

おばさん映画の「密輸 1970」「市民捜査官ドッキ」、おじさん映画の「ドリーム・シナリオ」

西森 配信ではなく劇場公開作ですが、「侍タイムスリッパー」も話題になりました。世の中には素晴らしい役者がたくさんいて、そういう方々がこうやって脚光を浴びるのは見ていてうれしいです。興行成績のために広く知られた方を起用するのは理にかなっていると思いますが、それにしても同じ俳優たちのローテーションになっている感じがあって、キャスティングのときに候補に挙がるのって毎回同じような人たちなんだろうなと。「侍タイムスリッパー」みたいな映画のヒットが、そういうところを変えるきっかけになればいいなと思います。

村山 個人的には、主演の山口馬木也さんに感動しました。殺陣はもちろん、セリフの1つひとつがこんなに自然でうまい人がいるのかと。いろんな映画人から注目されてるでしょうし、今後の活躍が楽しみです。今回の「侍タイムスリッパー」のヒットで引き合いに出されている「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督が「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」を発表されていて、お二人はご覧になっていると聞いたんですがどうでしたか?

ビニールタッキー 面白かったです。

西森 私も楽しく観ました。原作は「Squad 38」(邦題:元カレは天才詐欺師~38師機動隊~)っていう韓国ドラマで。

ビニールタッキー 韓国ドラマが原作だなと感じるくらい、悪役がちゃんと悪いのがよかったです。あとは型にはめたような女性キャラクターが1人もいないところも好きでした。

西森 ちゃんと女性の中高年の俳優さんもいるんですよね。「アングリースクワッド」というタイトルもうまい解釈の仕方だなと思いました。

ビニールタッキー 不正を知って、怒りを感じて、というストーリーに合ってますよね。怒りが起点にはなってるんですが、怒りだけではダメということがちゃんと示されるのも見事でした。

西森 私の周りでは中年女性が活躍する映画が観たいと言っている人が多くて、個人的には韓国映画の「密輸 1970」と「市民捜査官ドッキ」が面白かったです。困っている人を放っておけないおばさんが出てくるんですが、そういうのをストレートに描くという韓国のいいところが出ていると思いました。クライム作品としても堂々たる出来栄えで、「市民捜査官ドッキ」で主演を務めるラ・ミランなんて、もうファン・ジョンミンみたいなんです(笑)。

村山 「密輸 1970」は評判もすごくよかったですよね。おばさんではなくおじさんで言うと、ニコラス・ケイジ主演の「ドリーム・シナリオ」は全おじさんが観るべき映画だと思いました。主人公は自分が何も悪いことをしてないと思っているんですが、何もしてない俺は関係ないと思っていることの害悪も描いていて、おじさんへの風当たりが強い昨今だからこそ、全人類で話し合いたいトピックが詰まってました。

ビニールタッキー 終わりの異様なきれいさが印象に残ってます。

西森 おおー気になる。

村山 本当に美しいラストシーンですよね。いろんなレイヤーがあってすごくいい映画ですし、社会がおじさんっていうものをどう考えていくのかについてのサンプルとしても価値があると思います。

ビニールタッキー 最近は「ロボット・ドリームズ」が話題になっていますが、皆さんいかがでした?

西森 すごくよかったです。どんな内容か知らずに観に行ったんですが、すれ違いの切ない話だとは思っていなかったので、どんどん引き込まれていって。ピーター・チャン監督の「ラヴソング」(1996年製作)という大人のすれ違いや再会を描いた香港映画があるんですが、そういう古い名作を思い出しながら観ていました。キャラクターもかわいくて、グッズも欲しくなりましたね。

ビニールタッキー 僕もすごく好きで。試写で観て、Xに面白かったという投稿をしたんですが、最初は公開館数が20館と少なかったので「観たいのに観に行けない」と言っている人たちがけっこういたんです。話題になって広がったらいいなと思っていたら、今は60館以上で拡大公開されているみたいでうれしいです。

村山 僕は正直あまりピンと来なくて……。でも映画を観たあとに原作のグラフィックノベルを読んでみたらすごくよかった。映画はエモい感じになっていますが、原作にはそこはかとない情感のようなものがあって、表現のベクトルが全然違うんです。両方好きな方も数多くいると思うんで、そっちもたくさん読まれてほしいです。

2025年アツいのはホラーと香港映画?

ビニールタッキー 僕は特別ホラー映画が好きというわけではないんですが、2025年以降は楽しみなホラーがたくさんあります。3月14日に公開が決まっているニコラス・ケイジの出演作「ロングレッグス」をはじめ、スティーヴン・ソダーバーグの「Presence(原題)」、ロバート・エガースの「Nosferatu(原題)」、けっこうグロいと言われているカナダのスラッシャー「In a Violent Nature(原題)」も早く観たいです。

村山 「Presence」は僕も気になってました。あとは自分が裏方的に関わっているハル・ハートリーの新作がほぼ完成していて、まだ脚本を読んだだけなんでどこまで傑作になっているかはわからないんですが、楽しみです。ハートリーの新作は11年ぶりなので日本でも劇場公開できるようにがんばります。西森さんは期待している作品はありますか?

西森 すでに試写で観てはいるんですが、1月17日公開の香港映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」が面白かったです。アクションもセットもすごくて、舞台となる九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)は多様な人を受け入れる場所でもあるから、団地映画っぽさもある。何度も映画館で観ないといけないなという気持ちです。

ビニールタッキー 泣けるみたいな話も聞いたので楽しみです。

西森 香港映画は盛り上がっている感じがあって、香港というと皆さんアンディ・ラウやトニー・レオンが浮かぶと思うんですが、今はダヨ・ウォンっていう俳優の活躍が目覚ましいです。2023年に出演作の「毒舌弁護人~正義への戦い~」が香港で歴代興行収入ナンバーワンヒットをして、2024年も「The Last Dance(英題)」という映画がそれを塗り替えて歴代興行収入ナンバーワンになりました。そのうち日本でも劇場公開されたらいいなと期待しています。

村山 そういえば2023年に香港映画特集で観た「縁路はるばる」という作品が、軽いラブコメでありつつ香港の今を描いていてすごくよかったです。

西森 そういう特集でやっているミニシアター系の香港映画も、最近すごくいい作品が多いんですよね。今までイメージしていた香港映画とはちょっと違う面白さのものも出てきているので、今後が楽しみです!

参加者プロフィール

村山章(ムラヤマアキラ)

映画ライター。2009年より続く「しりあがり寿 presents 新春!(有)さるハゲロックフェスティバル」では、初回から運営スタッフを務める。配信系映画やドラマのレビューサイト・ShortCutsの代表。2017年からハル・ハートリー作品の広報や配給業務にも携わっている。

村山章 (@j_man_za) | X

西森路代(ニシモリミチヨ)

愛媛県生まれのフリーライター。主な仕事分野は韓国映画、日本のテレビ・映画についてのインタビュー、コラム、批評など。著書に「K-POPがアジアを制覇する」「韓国ノワール その激情と成熟」、共著に「韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020」などがある。

西森路代 (@mijiyooon) | X

ビニールタッキー

映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集しており、映画ナタリーではコラム「月刊おもしろ映画宣伝」を連載中。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催している。

ビニールタッキー (@vinyl_tackey) | X