「日生劇場でしか味わえない世界を体験して」田代万里生&加藤和樹が語る『ラブ・ネバー・ダイ』の魅力
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インタビュー
田代万里生×加藤和樹(写真提供:読売新聞社)
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すべて見る作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーが『オペラ座の怪人』の続編として製作したミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』。日本では2014年初演、2019年再演と実力派キャストの競演で人気を博した舞台が新春、新たな豪華キャストを迎え、パワーアップして現在日生劇場で上演中だ。パリ・オペラ座での出来事から10年後、ファントムとクリスティーヌの再会で始まる新たなドラマが、豊潤な音楽とともに綴られていく。クリスティーヌはラウルと結婚し、息子グスタフの母となっていた。しかし夫ラウルがギャンブルで多額の借金を背負い、その返済のために家族でニューヨークへ渡ることに……。『オペラ座の怪人』を知る人に驚きをもたらしたラウルの人物描写について、ダブルキャストでラウル役を担う田代万里生と加藤和樹が熱く対談! 3回目の上演となる本作の魅力について、本番を目前に控えたふたりが存分に語り合った。
“一番かわいそう”なキャラクター、ラウル
――開幕も間近ですが、今回の稽古の状況、感触をお話しいただけますか。
田代 今回の再々演はファントム(市村正親、石丸幹二、橋本さとし)とクリスティーヌ(平原綾香、笹本玲奈、真彩希帆)がトリプルキャストで、アンサンブルも含めて半分以上が新たなキャストなんですよね。僕は3回目ですが、初演や再演とでは稽古の進め方が違ったんですよ。初演と再演は、演出補の方が通し稽古の出来る状態まで型を作り、そこから演出のサイモン・フィリップスさんがブラッシュアップしていくというやり方でしたが、今回は稽古初日からサイモンさんがいらして、キャスト全員がゼロの状態から稽古がスタートしたので、とても新鮮でした。
加藤 割と早いタイミングで通し稽古をしましたよね。僕としてはまだラウルとしての居方が曖昧な部分がある中での通し稽古だったので、そこから演出のサイモンと「ここはこういう気持ちで」と、シーンごとにこと細かに詰めていって。すごく丁寧に進めるなという印象でしたね。
田代 返し稽古(特定の部分を繰り返し稽古すること)が多かったしね。新キャストの和樹君や橋本さとしさんが、先入観のない素朴な疑問をどんどん質問してくれるので、ハッとさせられることがたくさんありましたね。
――加藤さんは過去の日本版をご覧になっているのでしょうか。
加藤 僕は初演を観ました。『オペラ座の怪人』の続編ではあるけれど、この作品ならではの面白さにすごく引き込まれましたね。音楽に導かれた先にお芝居がある、といった印象で、旋律は美しいけれど感情は激しく燃えていて、表現するにはそのバランスが難しそうだなと思って観ていました。
田代 僕はロンドンで『オペラ座の怪人』も観たし、ラミン・カリムルーが主演した『ラブ・ネバー・ダイ』の初演も観ているんですよ。
加藤 へえ〜!
田代 で、その後、2014年の日本初演に出ることになったのでサイモンが演出したメルボルン版を映像で観たら、ロンドン初演とは全然違う作品になっていて(笑)。ラウルの描写をロンドン版からメルボルン版で「脚本から劇的に変えたんだ」ってサイモンが話していましたね。初演ではファントムはとにかくスーパーヒーロー、ラウルは脇役のヒール(悪役)でDV男みたいになっていたのを(笑)、お客さんに共感してもらうために『オペラ座の怪人』の貴公子ラウルの要素を戻して、ヒールではないように変えたと。彼のクリスティーヌへの愛は変わっていないけれど、クリスティーヌは自分を見ているようで見ていないような気がする。そんな違和感を抱いて、どんどん自信がなくなって迷いが出てしまい、ギャンブルにハマったり借金を作ったりしてしまったんですよね。
加藤 僕もこの作品に携わるまでは「ラブネバのラウルはクズ男」みたいな評判を聞いていて(笑)。でも作品に触れていく中で、いや全然そんなことない! むしろ一番かわいそうではと……。
田代 そう、一番かわいそうだよ(笑)!
加藤 この作品に登場する人たちは、何かしらの才能を持った人たちなんですよね。でもラウルには何があるのかと言ったら、結局今は権力も地位もお金もない。何者でもない人がひとり混じっている、みたいな印象をすごく受けたんですよ。でも自分にはクリスティーヌがいる、というところも先ほど万里生さんがおっしゃったように、結婚してからどこか拭えない壁、劣等感のようなものをずっと抱えてきたのだろうなと。そうした彼の弱さや人間臭い部分がラウルの魅力だと僕は思っていて。そのようにサイモンに話したら、サイモンも同じようなことを言っていましたね。「けっして暴力的ではないけれど、ふとした瞬間にそういう一面が垣間見えてしまう、そこがすごく人間臭くていいところなんだ」と。もうイメージが180度変わって、とてもやり甲斐のある役だなと感じています。ソロのナンバーも悲しすぎるんですよ。万里生さんの通し稽古を見させていただいた時に、もう抱きしめてあげたい!って思った。(一同笑)
田代 ハハハ! なおかつラストシーンで、クリスティーヌが息子のグスタフを抱えてファントムに言う言葉があんまりで……ここには言えないけど(笑)!
加藤 いや〜それはないっしょ!って思いますよね。
“Mr.ファントム”市村正親との共演
――おふたりは、お互いの稽古をご覧になっているんですか?
田代 ほぼ全部見ています。和樹君は、僕だけの稽古だから来なくていい日でも来てくれて。「見に来たの?」って聞いたら、「いや、昨日変更点があったんですけど、万里生さんに伝えてなくて。ちゃんと伝えた方がいいかなと思って」って(笑)。
加藤 僕はやっぱり、ダブルキャストの相手の稽古は見たいですね。
田代 僕も見たいほう。以前『マタ・ハリ』という作品でもラドゥという役を一緒にやりまして、その時は今回とは逆に和樹君が初演からの続投で僕が新参者で、すごく助けていただきました。いいところは盗ませていただき(笑)、ここは和樹君だから成立するけど僕じゃ出来ないな……とか、そういうのももちろんあった。今回のラウルでもそんなふうに上手く相乗効果になったらいいなと思っています。
加藤 僕は今回初参加なので、万里生さんにいろいろな細かい動きやテクニカルなところ、お芝居で気になるところとかをディスカッションさせていただいています。
田代 あと、ふたりで話し合って台詞の語尾を変えたりもしていますね。ちゃんと翻訳の竜真知子さんにも情報を共有していただいて。サイモンの言うように、暴力的ではなく愛のあるラウルがこうなってしまったということが少しでも滲み出るように、ふたりで考え、もがいて提案しました(笑)。
加藤 本当に些細なことなんですけど、日本語って不思議で、語尾を変えるだけでガラッと印象が変わりますよね。
――お話のように今回は三人のファントムに三人のクリスティーヌで、稽古でも毎回違う雰囲気の劇空間が立ち上がっていたのではないでしょうか。
田代 そう、三者三様ですね。
加藤 それぞれ全然違いますから、本当に面白い!
田代 市村さんとは他の作品でもご一緒していますけど、この作品でファントムを演じる時は稽古場で最も寡黙なんですよ。
加藤 ええ〜!?
田代 確か初演か再演の時にアフタートークショーがあったんですけど、最初は市村さん、ファントムの格好でトークショーはしたくないとおっしゃっていて。最終的におやりになったんですが、いつもサービス精神旺盛な市村さんだけど、冗談など一度も言わずにずっとファントムとして受け答えされていましたね。やっぱりファントムは特別な役柄なんだなと。
加藤 大事にされているんですね。
田代 だけど、先日新年のご挨拶をしようとお声がけした時に、僕の目の前に来て、踵を頭の上まで持ち上げて「万里生〜元気か〜!?」って。
加藤 ハッハッハッハ!
田代 あんなに足の上がるファントムは、世界中見てもいないですよ。ロイド=ウェバーさんとほぼ同い年でいらっしゃるんですよね。いつもお元気です。
加藤 僕は、市村さんの作品はもちろん観ていますけど、ご一緒するのは今回が初めてなんです。最初、部屋の前で佇んでいるところからソロナンバーが始まるシーンで、そこに座った瞬間に、もうファントムになっている!と。“Mr.ファントム”というオーラが全身から漂っているのを感じました。
作品の一番のキーポイントは、十歳のピュアな少年
――『オペラ座の怪人』がファンタジックな色合いとすると、『ラブ・ネバー・ダイ』は非常にリアルなドラマと感じ、同じように胸を打たれます。おふたりが本作で最も心揺さぶられるポイントとは?
加藤 僕はやっぱり、音楽に導かれて展開していくお芝居ですね。しっかりしたストーリー構成がすごく魅力だなと思います。始まったらあっという間に終わっちゃう、そんな感覚ですね。
田代 僕はこの作品の一番のキーポイントは、グスタフだと思っていて。
加藤 ああ、それは間違いない。
田代 舞台背景が『オペラ座の怪人』の十年後で、その世界観もどんどん成熟している中にひとり、十歳のピュアな男の子がポンって入って、スコーンと澄んだボーイソプラノで歌うんです。大人のドロドロした世界の中に何も染まっていない子供がいる、そのコントラストが成熟した世界観をより深めていくと思う。このあいだ市村さんと笹本玲奈ちゃんの通し稽古を見ていて、一幕のラストでクリスティーヌがファントムに「すべて愛し、育ててきたの。そして彼こそ生きがい」って歌うんだけど、玲奈ちゃんが今までのクリスティーヌとは全然違う歌い方をしていて、そのシーンで初めて泣きましたよ。本当に十年間グスタフを慈しんで育てて来たんだな〜っていうのがすごく伝わって来たんだよね。
加藤 やっぱり説得力を感じますね。
田代 そう、さらっと綺麗に歌うんじゃなくて、もう見たこともない表情で歌っていた。それを受けて歌う市村さんがまた素晴らしくて……そこは今回の発見でしたね。僕自身も年齢を重ねて、見方が変わってきたところもあるんでしょうね。
――観客にとっても、初めて観る方にも三度目の方にもきっと新鮮な気づきをもたらしてくれる作品だと思います。それにしてもキャストの組み合わせに悩みますね!
田代 ぜひ、いろんな組み合わせで観てください。『オペラ座の怪人』を見たことのある人はもちろん見たことがない人でも、続編といっても前知識なくても楽しめる作品です。とにかく舞台美術がとんでもなく素晴らしくて、まるでディズニーランドのショーを見ているようなシーンもあります。そしてロイド=ウェバーの音楽、誰もが共感できるストーリー、また歴史的背景など難しいことを知らなくても楽しめる作品ですので。あと、グランドミュージカルなのに上演時間が比較的短めです。休憩が入って2時間半くらいだと思うので、非常に見やすいのではないかなと。
加藤 気がついたら一幕終わっちゃいますもんね。
田代 そう、だからミュージカル初心者の人にも間違いなくお勧め出来るし、ミュージカル通の人にとってはたまらなく面白い作品だと思います。日生劇場でしか観られないので、ぜひ日本中から来ていただきたいなと思います!
加藤 万里生さん、完璧です(笑)。僕は今回、ミュージカルに携わる人間として、この素晴らしい作品に参加できることをありがたく思いつつ、いち観客としてもすごく楽しみにしているんですよね。主人公とヒロインがトリプルキャストで、見応えのある内容、聴き応えのある音楽がどう繰り広げられるのか、僕にもまだ想像がつかないところがあるので。万里生さんもおっしゃいましたけど、日生劇場でしか味わえない世界がここにあります。ぜひそれを体感していただければなと思います。
取材・文:上野紀子
<公演情報>
ミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』
作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー
歌詞:グレン・スレイター
脚本:アンドリュー・ロイド=ウェバー ベン・エルトン
グレン・スレイター フレデリック・フォーサイス
演出:サイモン・フィリップス
キャスト:
ファントム:市村正親/石丸幹二/橋本さとし(トリプルキャスト)
クリスティーヌ:平原綾香/笹本玲奈/真彩希帆(トリプルキャスト)
ラウル・シャニュイ子爵:田代万里生/加藤和樹(ダブルキャスト)
メグ・ジリー:星風まどか/小南満佑子(ダブルキャスト)
マダム・ジリー:香寿たつき/春野寿美礼(ダブルキャスト)
グスタフ:植木壱太/小野桜介/後藤海喜哉(トリプルキャスト)
フレック:知念紗耶 スケルチ:辰巳智秋 ガングル:加藤潤一
青木美咲希、石川剛、尾崎豪、川島大典、神澤直也、木村つかさ、咲花莉帆、白山博基、菅原雲花、鈴木満梨奈、高瀬育海、髙田実那、長瀬可織、光由、村上すず子、安井聡、吉田玲菜(五十音順)
スウィング:熊野義貴、小峰里緒
2025年1月17日(金)~2月24日(月・休)
会場:東京・日生劇場
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/lnd2025/
公式サイト:
https://www.lnd2025.com/
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