「いくつになっても人間ってカッコ悪い」 『やなぎにツバメは』作・横山拓也インタビュー
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横山拓也
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すべて見る昨年、自らが代表を務める演劇ユニット「iaku(イアク)」で発表した『モモンバのくくり罠』で第27回鶴屋南北戯曲賞を受賞し、さらに近年では、名だたる演出家とのタッグで次々と話題作を世に送り出している横山拓也。そんな彼が初めてシス・カンパニーと組んで新作を書き下ろした『やなぎにツバメは』(演出:寺十吾)が3月から4月にかけて東京、大阪にて上演される。
キャストに大竹しのぶ、木野花、林遣都、松岡茉優、浅野和之、段田安則という強力な6名が名を連ねる本作。老いた母を見送った美栄子(大竹)と彼女の20年来の友人である洋輝(段田)と佑美(木野花)、美栄子の娘の花恋(松岡)、洋輝の息子・修斗(林)、美栄子の離婚した夫・賢吾(浅野)という6名が織りなす、何気ない日常の会話から浮かび上がってくる様々な“大人の事情”を巧みな筆致で描き出す。
ストレートにやり取りしきれない面白味
――今回、初めてシス・カンパニーの公演に新作を書き下ろすことになりましたが、その経緯は?
2020年ごろから、(シス・カンパニーの)北村明子社長がiakuの公演に何度か足を運んでくださって、いつも嬉しい感想をいただいており、今回改めて一緒に作品をとお話をいただきました。
6名の出演者が固まって、iakuでもよくやっていますが、ふたつの世代の視点から描く家庭を舞台にした話にしようと。実際に登場はしないですが、(大竹、段田、浅野、木野の)4人の親の世代のこともあれこれと出てくるので、3世代の物語と言えると思いますし、“シニア世代の恋愛”であったり、もしかしたらこれからの社会で増えてくるかもしれない“グループリビング”というものを真ん中に置いて描きたいなと思い、企画を進めていきました。

――シニア世代の恋愛という、これまであまり演劇やドラマで描かれてこなかった題材を描こうと思った理由を教えてください。
僕の感覚で言うと、シニア世代の恋愛というのは、具体的な作品という意味ではなくて、現実の生活でという意味で、実はかなり多くあるんじゃないかと思っています。
これはどんな作品を書く時にも言えるんですが、どの世代の人間であっても自分が主人公だと思っているというか、僕は48歳ですが、48歳の視点でしか世界を見ていないわけで「48よりも〇歳上の人、下の人」といった具合に自分の年齢を中心に他の世代のことも見ているんですよね。
それはどの世代の人も同じで、例えば自分が高校生の時に、中年の人が恋愛するなんて全くイメージできなかったんですけど、自分がその世代になってみると、みんな普通に恋愛してるし、いまの時点で70代の方の恋愛もなかなかイメージはできないんですけど、たぶん、みなさん普通に恋愛されているんですよね。
どの世代を描くにしても結局、人間が生きづらさを抱えて右往左往をしているさまを描くだけなので、言葉として“シニア世代の恋愛”というのは、まとまりがあるので使っていますけど、基本的に登場人物の世代を中心にした人間模様を描いているだけで、この世代の恋愛だから特段キャッチーなものだとは思っていません。ただこのテーマをこのメンバーで演じるというのがキャッチーだなと思っています。
――とはいえ登場人物たち、特にシニア4名の会話を読ませていただくと、“いい大人”であるこの年齢だからこそ、ストレートに思っていることを伝えきれなかったり、肝心な言葉や気持ちをつい笑いに変えて冗談めかしてしまったりという部分がありますね。
やはり人間、歳を重ねると、そのぶん臆病になってしまうというか、若い頃のように勢いでということにはなりにくいと思います。それも突き詰めれば、それぞれの個性による部分だと思いますが、ここに出てくる登場人物たちは、ある種の奥ゆかしさ、駆け引きみたいなものや人間臭さというものを、それぞれの性質の中で持ち合わせていて、ストレートにやり取りしきれない面白味みたいなのは描きたいなと思っていました。
ちょっとしたリアリティのなかににじむ“何か”
――洋輝が葬儀屋で、美栄子、佑美、賢吾はそれぞれ“住まい”に関わる職に就いており、花恋が看護師、修斗は料理人と人間の生死、生活に関わりの深い仕事をしていますが、これには意図が?
いま、お話を聞いてハッとしたくらいで(笑)、意識はしていなかったんですが、たしかに面白いですね。僕は弟が葬儀屋ということもあって、過去にも葬儀屋を登場人物として描いていますし、料理人というのも妻が食堂をやっていたり、いつも自分と近いところを描きがちなんですね。自分の中に温度感のある、イメージできるものを描いて、そこにいろんな要素を散りばめていくというのはいつもやっています。やはり、ちょっとしたリアリティというのが、僕の作品の中ですごく重要なことだと思っていて、そこににじむ“何か”が、物語全体の色合いを決めていくような気がしています。
――演出の寺十吾さんとは過去にもタッグを組まれていますが、演出家としてどんな特徴、魅力を持った方だと感じていますか?
僕の脚本で『目頭を押さえた』(21年)というパルコ・プロデュースの作品を演出していただき、その後、「Nana Produce」で2度(『いごっそうと夜のオシノビ』(23)、「短編3傑作」(24))、やっていただいていますが、僕はサーっと読んだら何でもない物語として読めるお話をいつも描いているんです。でも寺十さんは、人間が動いていくと、サブテキストがたくさん立ち上がってきて、自分の生活に密接して、自分事だと思えるような戯曲だと感じてくださっているようで、それはすごくありがたいです。
僕自身、昭和生まれで、寺十さんは僕が組んできた演出家の中では一番年上なんですけど、僕の戯曲をうまく昭和のフィールドと結び付けてくださるんですよね。Nana Produceでやった2本の作品も、映像で作品をつなぐんですけど、そこで「ガロ」(※白土三平の『カムイ伝』、つげ義春の『ねじ式』などが掲載された漫画雑誌)的な世界観の映像でつないでくださって、それは自分の書くセリフとすごくマッチしていたんですよね。今回の『やなぎにツバメは』というタイトルは歌の歌詞の一部なんですけど、僕と寺十さんの相性を表しているようにも感じますね。新作で寺十さんとご一緒するのは初めてなので、どんなやり取りがあるのかちょっとドキドキしています。
――いまお話に出た「やなぎにツバメは」というタイトルの元になったのは、まさに昭和の歌謡である「胸の振子」(作詞:サトウハチロー/作曲:服部良一)ですが、このモチーフはどこから?
これは僕がもともと好きだった歌です(笑)。僕が聴いたのは、アン・サリーさんがカバーしたもので、もう20年くらい前なんですけど、すごく良くて、原曲(霧島昇)や他の方がカバーされたものも何度も聴いていました。自分の中でずっと、いつか作品に登場させられたらいいなと思っていた曲なんです。今回のタイトルロゴの書体も含めて昭和っぽくて良いなと思っています。
林さんはちょっと情けない男がめちゃくちゃハマる
――キャストのみなさんの印象についてもお聞きしたいと思います。大竹さんとのお仕事は今回が初めてですね。
もう僕が大竹さんについて何か話すというのも不思議な感じがしますけど……(笑)、最初に「大竹さんが出ます」と聞いた時はすごく驚いて、緊張や驚きといったことに関しては、そこがピークでした(笑)。あの大竹さんに書けるなんてもう二度とないかもしれないと思うと、不思議とすごく楽しんで書くことができました。
――美栄子という女性は強さやしっかりした部分を持ちつつ、弱さや悩みも抱えた多面的な人物ですね。
そうなんです。人間臭さだったり、ある種のずるさだったり、真っ当なふりをして、実は姑息なこと考えているという、人間誰しも持っている部分を抱えながら、すごく正義のようなことも口にしたりします。お客さんはみんな、彼女が何を隠し、何を腹の下に抱えながらしゃべっているかをわかりながら見るという、そこに面白味があると思うし、それをどう演じてくださるのか? 絶対に面白くなると思いますし、すごく楽しみです。
――美栄子が秘かに思いを寄せる葬儀屋の洋輝を演じる段田さん、美栄子の元夫の賢吾を演じる浅野さんに関してはどのような印象を?
めちゃくちゃカッコいいですね(笑)。最近では段田さんの『リア王』も拝見しましたが素晴らしかったですし、トーク番組などでフランクに話されている姿も非常に魅力的ですよね。今回、二枚目的な立ち位置で、そこでも人間臭さを見せつつ演じてくださるんじゃないかと思います。
浅野さんもすごく素敵な方で、あんな風に歳を重ねたいなと思う方なんですけど今回、役としてはちょっと情けない男で(笑)、元妻に責められて怖がっているような雰囲気を良いバランスで演じていただけるんじゃないかと思います。僕のイメージなんですが、もともと浅野さんが持っている性質からちょっと離れたところを演じる面白味があるのかなと思っています。娘の花恋(松岡)とのやり取りも、僕自身、書いていてすごく楽しかったです。

――木野さんが演じる佑美という人物は「あぁ、いるいる! こういう人」と思わせるような、(主人公から見たら)少しだけ厄介な、でも悪気のない友人ですね。
ガサツさや強引さを持ちつつ、でも懐の深さみたいなものもあり、でも気づかないところで他人を傷つけていたりという……(笑)。ラストの展開も含め、多面的な部分や面白さを木野花さんが演じてくださるのをぜひ見たいなと楽しみです。
――松岡さん、林さんという若い世代の2人の印象や期待することも教えてください。
松岡さんとは前回のパルコの『ワタシタチはモノガタリ』でもご一緒していますが、本当にクレバーでキュートな俳優さんです。本当にセリフの奥に隠れているものを捉えるのがうまい方なので、役自体は難なく演じていただけるだろうと思います。先輩4人の中に臆さずにグイグイと入り込んでいってほしいですね。
――花恋のセリフのニュアンスによって、周りにいる人たちの人間性や個性が浮き彫りになっていく部分が大きいですね。
娘という役回りだからこそ、キツイこともはっきりと言えるし、木野花さんが演じる佑美と対立軸を形成するようなところもあって、そういう気の強い女性を松岡さんが演じるのが僕はすごく好きなんです。
――林さんとお仕事をされるのは、今回が初めてですね。
そうなんです。なので、すごくニュートラルに書かせていただきました。林さんならどういうふうにも料理してもらえるなと思っていて、僕は情けない男を描くのも大好きなんですけど(笑)、林さんはこのちょっと情けない男がめちゃくちゃハマると思います。僕が大好きなキャラクターなんですけど、構えずに入っていってくれるんじゃないかと思います。第二場のある場面なんかは、半ば痛々しくて(笑)、情けないところが面白いなと思っています。
――最後に楽しみにされている方へのメッセージ、そして横山さん自身が本作で楽しみにされていることを教えてください。
どの世代の方が見ても、楽しめると思いますし、いくつになっても人間ってカッコ悪いなという部分を楽しみにしてほしいです。若い人には特に、いくつになっても大人になんてなれないんだと安心してもらいたいです(笑)。“大人になれない”ことを悩まないで大丈夫ですので。ただ、それとずっと付き合っていかないといけないんですけど……(苦笑)。そんな人間臭さが渦巻く舞台になっていたら面白いなと思います。何でもない風景だけど、ご自分の人生に照らし合わせながら楽しんでいただけたら嬉しいです。
取材・文:黒豆直樹
<公演情報>
『やなぎにツバメは』
作:横山拓也
演出:寺十吾
出演:大竹しのぶ、木野花、林遣都、松岡茉優、浅野和之、段田安則
【東京公演】
2025年3月7日(金) ~30日(日)
会場:紀伊國屋ホール
【大阪公演】
2025年4月3日(木) ~6日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
チケット情報
https://w.pia.jp/t/yanagi/
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