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今春公開『Page30』堤幸彦監督&紀伊宗之氏が明かす“超異例のプロジェクト”の全貌

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堤幸彦監督の最新作『Page30』が4月11日(金)から公開になる。本作は4人の女優が30ページのみの戯曲を手に演技し、ぶつかり合う姿を描いた予測不能なエンターテインメント作品だ。

エグセクティブプロデューサーの中村正人(DREAMS COME TRUE)が堤監督に映画制作をオファーしたことから始まったプロジェクトで、劇団マカリスター・主宰の井上テテと堤監督が脚本を、劇中に登場する戯曲を劇団「□字ック」主宰の山田佳奈が担当。中村正人に加えて、ジャズピアニストの上原ひろみが音楽を手がける。

Netflixオリジナルシリーズ『極悪女王』などに出演する唐田えりか、ドラマ・舞台で活躍する林田麻里、俳優業だけでなくプロデューサーとしても活躍する広山詞葉、HIGH and MIGHTY COLORの元メンバーで現在はアーティスト活動の傍ら、今回本格的に女優業もスタートさせたMAAKIIIが女優役を演じる。

さらに驚きなのが本作の上映形式だ。本作は全国の映画館でも公開されるが、メイン上映館になるのは、東京・渋谷に新設される仮設劇場。1本の映画のためにテントシアター、その名も「渋谷 ドリカム シアター supported by Page30」を建てる“超異例”の試みだ。

豪華スタッフ、豪華キャスト、そして何が飛び出すかわからない上映劇場。この異色で異例でワクワクするプロジェクトはどのようにして生まれたのか? そしてそこに込められた想いは?

堤監督と、本作で配給協力を務めるK2 Pictures代表の紀伊宗之氏に話を聞いた。

ーー堤監督と中村正人さんの間でどのような話し合いがあって本作に至ったのでしょうか?

堤監督 長い準備期間があったわけではなく、中村正人さんと話し合う中で、本作の企画を降ってわいたように思いつき、すぐに脚本を書いて、数カ月後にはもう撮影をしていた、という滑走路の短い作品でした。中村さんと2、3回お会いした段階でこの企画を『面白いですね』と言っていただいていましたし、その段階から中村さんの頭の中ではきっと音楽のこともあったでしょうから、すでに上原さんのことも頭の中にあったのではないかと思います。

ーー長い会議や“枠組みありき”ではなく純粋に面白い作品を追求した、ということでしょうか?

堤監督 そうですね。『Page30』はとてもシンプルな作品です。ほぼひとつのステージが舞台で、主に登場する俳優は4人しかいない。その状況で何を訴えられるのか? 最もミニマムなかたちで作っていますし、中村さんとも“シンプルで強いものをつくろう”とずっと話していました。中村さんに仕立てていただいた劇中の音楽は、ピアノとベースだけのシンプルだけど強いものでした。どんな説明を尽くすよりも、この音を聴けばそれがわかる。この音楽が最も強いメッセージになっていると思います。

誰でもそれまでとは少し違うことを追求したくなる年齢ってあると思うんです。私も今年で70歳になるんですが、コロナ禍というきっかけもあって、これまでの製作委員会でつくる映画ではない、受注するだけの仕事ではない、本当の意味でのクリエイティブをいくつか仕掛けてきました。中村さんと私は年齢も近くて、経験してきたステージも近いんです。ある意味でこの世界の栄枯盛衰をすべて見てきた方ですし、現在もドリカムとしてトップランナーでもある。おそらくですが中村さんも私と同じ“少し違うことを追求したくなる年齢"なのではないか? 少し変わった活動をしてみたい時期なのではないか? と。それは年齢的にすごくよく理解できるんです。

『Page30』

本作の主人公はある劇場に集められた4人の女優たち。彼女たちは演出家不在の状態で30ページのみの終わりの決まっていない戯曲を渡され、4日後に本番を公演をすることになる。自分がここに集められた理由や説明もなく、連絡手段も没収された女優たちは、配役を変えながらひたすら稽古を続ける。俳優たちのぶつかり合い、飛び交う皮肉、批判、ダメだし……やがて稽古場には女優たちが抱える苦悩や不安、焦りがにじみ出てくる。すべてのヴェールを脱ぎ捨てて、演じることだけに向き合う女優たちの姿が容赦なく描かれ、観客の予想をくつがえす展開が最後の最後まで待ち受けるという。

ーーそして完成した映画を紀伊さんが「配給協力」というかたちでサポートすることになったわけですね。

紀伊氏 映画が完成するまで僕はまったく関与していなくて、最初は「この映画を配給してくれないか?」という依頼がありました。映画を拝見して、中村正人さん、堤監督にもそれぞれお会いして、この作品では配給協力=この作品をどうやって世に出していくのか考える、が僕の仕事だと思っています。

『Page30』を観た時にこの映画の"古くて新しい感じ”がすごく良いなと思ったんです。この映画を観た時にヌーヴェルバーグっぽいと思いましたし、80年代や90年代のカルチャーシーンのような“新しい波”の胎動のようなものを感じました。だから、この映画がそういうものになればいいなと思ったんですけど、そういう作品を現在の日本映画の配給フォーマットの中に入れてしまうと、埋もれて気づかれないうちに終わってしまうかもしれない。それは本当にもったいないので、その手前から仕掛けていくのが良いと思ったんです。

現在、1年で700本ぐらいの映画が映画館で公開されていますけど、よく考えたら映画が世の中に出ていく方法ってすべて同じなんですよね。映画はそれぞれ違うのに、出ていく方法はみんな同じ。劇場が違うだけです。でも、この映画はこれまでとは違った方法でお客さんに観てもらえないかな、と思いました。そこで私から中村さんと堤監督に「この映画のための専用の劇場をテントでつくりましょう」とご提案したところ、それはぜひやろう! ということになりまして、現在はその準備で……めっちゃ大変です(笑)。

作品には“人を呼び寄せる”力がある

「渋谷 ドリカム シアター supported by Page30」コンセプトスケッチ

ーーテント劇場といえば演劇や、古くは鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』がドーム劇場で上映されたのを連想します。

紀伊氏 堤監督の方がもっとお詳しいと思うのですが、かつては黒テントだったり紅テントだったりが街の中にあって、「やればいいじゃん」という空気が街にもあったと思うんです。(『ツィゴイネルワイゼン』のプロデューサーを務めた)荒戸(源次郎)さんもそうでしたが、映画興行は“サーカス”だと僕は思っています。世界中で“ロードショー”という言葉がこれだけ広まっているのもそこからですよね。一昨年にF1を観に行ったんですが、関係者はみんなレースのことを“サーカス”って表現するんです。そういう視点から物事を考えると、いろんなことが見えてきますし、新しい考えができる。

でも“映画館で上映する”ことだけ考えていたら、できることがすごく狭くなってしまう。いま世の中の映画上映はすごく平準化していて、技術的にはレベルが上がっているのかもしれないですけど、映画の本質からは離れていってしまっているのでは? という気がするんです。映画興行も興行なわけですから、その本質はサーカスだと思いますし、自分の中にある原風景、それは紙芝居だったり、夏休みの夜に学校の体育館でやる映画上映会だったり、そういうものを自分の感覚としてずっと持ち続けています。

ーー既存の劇場ではなく、テント劇場で上映するスタイルは本作にすごくマッチしていると感じます。

堤監督 紀伊さんがおっしゃった“古くて新しい感じ”というのは、私も最初から狙っていました。ゴダールなどを観て育ってきた人間としては、あの時に感じた“映画って自由なんだ”という想い、それはロックでも演劇でも文学でも同じですが、あの時に感じた想いを作品として出したいなと思ったんです。それから、極めて難解な戯曲が生身の俳優の思考と行動にどのような影響を与えるのかを見てみたいという想いもあって、映画も演劇もそもそも強くて自由なものなんだ、という想いと組み合わさることで面白いものができるんじゃないかと思いました。

それにコロナ禍でドラマの撮影が止まってしまったり、舞台が中止になってしまう中で『ショボくれてるんじゃないよ!』と言ってくれたのが、本作に登場する女優さんたちでした。私はそれまで海外で賞なんて獲ったこともなかったのに、広山詞葉さんと一緒に撮った『truth〜姦しき弔いの果て〜』は世界10か国ぐらいで賞を獲ったりして、そのことに本当に驚いたんです。映画には何か本質的なものが必要なんだと。

そしていま、コロナの経験からいろんなトライアルをしていて、本広克行さんや佐藤祐市さん、プロデューサーの森谷雄さんたちと“SUPER SAPIENSS”というグループをつくって、既存の仕組みに頼らずに映画をつくり、それをどうやって世界に知らしめていくのかの模索を続けています。

だから、この40年ぐらいずっと思っていたこと、自分の中のインディーズ魂、コロナ禍で考えたこと、コロナ以後に自分たちがどう作品をつくるのか考えたことが、すごくシンプルな企画としてまとまったのが『Page30』だと思います。

そこには中村さんというバックアップもあり、上映に際しては紀伊さんという映画をどう見せるのか常に革新を続けられてこられた方に助けていただくことができる。作品というのは、人を呼び寄せる力があって、いろんな方が集まってくることがあるんだと思いますね。

ーー紀伊さんもこの作品に“呼び寄せられた”ひとりですね

紀伊氏 そうなんです(笑)。それはここに“自由”があるからじゃないですかね。いまの社会に対して抑圧やフラストレーションを感じている人は、この映画とテントに“ここには自由があるぞ”と思ってもらえるだろうし、映画ってこんなこともできる、こんなこともアリなんだ、って思ってもらえると思います。テント劇場をつくることで、“テントの中には自由がある”と思ってもらえるでしょうし、過去のテントの歴史だったり、ヌーヴェルバーグだったりを知らない若い方にも、その自由がなんとなくでも伝わってくれるといいなと思っています。

堤監督 配信の時代からこそ、今回の試みはすごいトライアルだと思います。映画ってコピーされたものを観ているわけですけど、今回の試みは参加する側にも意味があり、ある意味では責任だったり緊張だったりを強制する部分もある。でも、これこそが芸能の本来のあり方だと思うんです。

『Page30』は映画の作り方、公開/配信の仕方が定番、安定化してしまった現代に出現した“ワクワクする事件”ではないだろうか。渋谷警察署裏の平地に建つテントの中には紀伊氏が語る通り“自由”がある。そして、そこでは映画、音楽など各ジャンルのクリエイターが“本当につくりたいもの”を追求して制作した映画『Page30』が上映され、会場では飲食も楽しめるという。

ここに来れば何かある、いつの日か「あの日、テントに行った」と自慢できる日が来る。そんな“ワクワクする事件”のようなプロジェクトがこの春、幕を開ける。

『Page30』
4月11日(金)渋谷 ドリカム シアター他 全国映画館にて公開
(C)DCTentertainment

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