【サンダンス映画祭レポート】有名な写真を撮ったカメラマンは別人だった?
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『The Stringer』 (C)Sundance Institute
アメリカ時間23日から開催されているサンダンス映画祭で上映されたドキュメンタリー映画『The Stringer』が論議を呼んでいる。
テーマは、53年前にベトナムで撮影された、ある一枚のモノクロ写真。「戦争の恐怖」(『ナパーム弾の少女』としてより知られる)と題される、9歳の少女が泣き叫びながら裸で戦禍から逃げるものだ。この写真はアメリカ人に強い衝撃を与え、反ベトナム戦争運動をさらに盛り上げることになった。撮影者はAPのカメラマン、ニック・ウト。彼はこの写真でピューリッツァー賞を受賞し、その後も賞賛を受け続けてきている。
だが、バオ・ヌエン(『ポップが最高に輝いた夜』)が監督するこのドキュメンタリー映画によれば、この写真を撮ったのは別の人物だったのだ。真の撮影者は、現地でフリーランスとして活動していたベトナム人のカメラマン。彼はいつもそうするように、ネガをすべてAPに渡し、「戦争の恐怖」の対価として20ドルをもらった。だが、なぜかAPは、その写真にウトをクレジットしたのだ。
フィルムメーカーたちは、この謎を解くために奔走し、ついにこの人物を探し出す。なぜこんなことが起きたのか。また、真実を知る人はいたのに、なぜ今まで誰も何も言わなかったのか。その裏には無意識の人種差別があったことも示唆される。
APは、このドキュメンタリーの企画を知って以来、フィルムメーカーらに証拠と情報の共有を求めてきたが、断られたと述べている。サンダンスでついに完成作を見た彼らは、オープンな気持ちで検証していくとのことだ。
「私たちは真実にしか興味がありません」と、APは声明を発表している。映画のアメリカ配給会社はまだ決まっていない。
サンダンス映画祭は2月2日(日)まで。
文=猿渡由紀